医学のあゆみ
Volume 269, Issue 11, 2019
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特集 災害時の医療の最前線:オリンピック開催中のCBRNE 災害にいかに備えるか
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マスギャザリング時の化学テロへの備え
269巻11号(2019);View Description Hide Description東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下,東京オリパラ)開催まで残り500 日を切った.テロに対する準備も待ったなしである.テロの手段の傾向は,最近においては爆発物,銃が主であるが化学テロの蓋然性もゼロではない.わが国はサリンがはじめて一般市民へテロ目的で使用(1994 年松本サリン事件,1995 年東京地下鉄サリン事件)された国であり,一般人による砒素を用いた和歌山毒物カレー事件(1998年)も起こっている.また,海外ではマニラ空港でのVX ガスによる暗殺事件,ノビチョクによる化学テロが起こっており,化学テロはけっして対岸の火事ではない.テロリストにとってオリンピックを狙ったテロはインパクトが大きく,東京オリパラに向けて,化学テロに対しても準備は怠れない. -
マスギャザリングにおける感染症対策
269巻11号(2019);View Description Hide Description東京オリンピックを控えて,さまざまな方面で準備が進んでいる.感染症対策も例外ではない.大会期間中にはさまざまな感染症に対してサーベイランスがなされる.そこでキャッチされた感染症疑い患者に適切に対応することも重要である.また,そのような患者の多くは外国人であるので,医療機関は外国人対応についても十分に準備し,備えねばならない.近年のオリンピックでは,開催前後に開催都市の国際化が一気に進み,訪問する外客数が飛躍的に伸びることがわかっている.これはロンドンも,リオデジャネイロも例外ではなかった.日本でもすでに訪日外客数はこの数年で倍増し,2016 年は2,500 万人もの方が海外から日本に訪れている.このように人の動態が変化すれば,さまざまな感染症の発生リスクは高くなる.2014 年の東京でのデング熱のアウトブレイクがわかりやすい例である.2015 年には,韓国・ソウルを中心に中東呼吸器症候群のアウトブレイクが起こった.このような事例の経験からは,社会的に影響の大きい感染症の患者を早期にキャッチし,適切な感染防止対策を行い,問題を最小限の範囲で封じ込めることがいかに重要であるかがわかる.そのための準備が,従来は検疫体制の強化や感染症指定医療機関の充実という形でなされてきた.しかし,これからは感染症指定医療機関だけでなく,すべての医療機関・医療の場での対策が必要である.なぜならば,このような感染症の患者はどの医療機関にも受診しうるからである. -
マスギャザリング時の放射線被曝傷病者と原子力災害への医療対応
269巻11号(2019);View Description Hide Description放射性物質は医療,工業,農業などさまざまな分野で利用されており,放射線災害はどこでも発生するリスクはある.マスギャザリング時においては,こうして流通した放射性物質がテロリズムに使用される状況も考慮すべきである.密封線源が群衆のなかに放置されれば多数の外部被曝傷病者が発生し,爆発物に放射性物質や化学兵器を装着したdirty bomb は被曝に加えて爆傷や熱傷を合併した致命的な傷害を引き起こす.現行の原子力災害における医療体制では,各自治体が指定した原子力災害拠点病院が汚染の有無にかかわらず被曝傷病者を受け入れる拠点となる.放射性事故災害では放射線管理や汚染に対する除染といった特殊性はあるものの,外部被曝のみであれば通常の医療対応と同様である.さらに,被曝後ただちに生命に直結する身体影響はでないこと,汚染した傷病者の診療でも医療者が受ける二次被曝はほとんど無視できることから,診療の大原則は生命を脅かす病態の治療を優先することに変わりない. -
マスギャザリング時の爆傷症例の初期救護・診療のポイント
269巻11号(2019);View Description Hide Description爆傷は受傷機転により分類され,一次爆傷が衝撃波による損傷,二次爆傷が貫通創などの鋭的損傷,三次爆傷が打撲傷などによる鈍的損傷,四次爆傷が熱傷などで,五次爆傷として化学損傷,放射線傷害を含める場合もある.すなわち,爆傷は異なる受傷機転による損傷が合わさった複合的な外傷であり,近位での爆発は重症の可能性が高いので,多発外傷として初期診療していくのが望ましい.診療手順として,四肢などからの大量出血がある場合には最初に外出血をターニケットで止血し,その後通常のABCDE アプローチを行う.また,現場から近い順番に危険度から,①ホットゾーン,②ウォームゾーン,③コールドゾーン,の領域を設定し,ホットゾーンの救護では脅威の排除,すなわち爆発物の探知と排除を最初に行う.多数傷病者発生時には患者集積場をどこにおくかが重要であり,トリアージや救命処置に時間をかけることなく,コールドゾーンである安全地域へ迅速に後送することが肝要となる. -
Mass casualty event― Mass shooting にどう対応するか?
269巻11号(2019);View Description Hide DescriptionMass casualty even(t MCE)のなかでも,active shooting even(t ASE)はアメリカのみならず各国で起こっており,2020 年の東京オリンピック・パラリンピックのホスト国として,その準備をすることが急務である.本稿では,これまでの教訓1,2)から得られた知見から,わが国の実情に即した対策を模索する. -
CBRNE 災害の対応に関する医療従事者教育― CBRNE への対応は一般診療を行う医師・医療機関からはじまる可能性がある
269巻11号(2019);View Description Hide DescriptionCBRNE 災害では,それぞれに関する正しい知識をもって対応しなければ大きな混乱を簡単に招き,災害が拡大する.事故でなくテロなど意図的に行われる場合を想定しなければならないが,発生時刻が明らかである爆発を除き,CBRNE 事案が関与していることが認識されないまま傷病者が増加し,初動が遅れる可能性がある.市民は被害を受けていることに気づかずに一般診療を行う医療機関を受診することもあろう.診療の過程で“何かおかしい”と気づき,関係各機関と連携し,情報を伝達・共有することが必須となる.また,多数傷病者が発生している場合には,避難やリスクに関する不安などさまざまな対応が求められる.したがって,CBRNE に関する教育は一般診療を行う医療従事者に対しても必要である.本稿では,過去の事例を振り返り,CBRNE 教育の重要性を理解するとともに,現在行われている代表的な研修を紹介する.
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連載
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- 医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及 22
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気管支鏡シミュレータ― 医学生・レジデント教育における気管支鏡シミュレータの有用性
269巻11号(2019);View Description Hide Description◎気管支鏡検査は,気管支,肺疾患の診断や治療において必須の検査であり,呼吸器内科医にとっては基本的かつ重要なスキルのひとつである.一般的に安全性の高い検査ではあるものの,被検者に苦痛と侵襲をもたらす検査でもあり,その教育と訓練の重要性はいうまでもない.近年,気管支鏡シミュレータを利用した教育は,患者の安全を保ちながら,反復して同じ手技をトレーニングできるといった多くの点でその有用性が指摘されている.当院では医学生・レジデント教育の一環として,気管支内視鏡シミュレータを用いた実習を取り入れている.気管支鏡シミュレータは,基本的な検査手技スキルの習得や解剖学的知識の向上などの教育的意義だけでなく,気管支鏡に対する興味・関心を持つきっかけとしても有用である.その有用性に関するエビデンスが集積しつつあり,今後,医学生・レジデントに対する気管支鏡シミュレータ教育は,より一般的なものとなっていくと考えられる. - 健康寿命延伸に寄与する体力医学 10
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自然免疫・炎症に及ぼす運動の影響 ― そのメカニズム
269巻11号(2019);View Description Hide Description日常の身体活動量の低下(運動不足)はメタボリックシンドロームや老化関連疾患を引き起こすが,これらの基盤病態として慢性炎症が注目されている.慢性炎症は過食や運動不足による肥満で体内に蓄積された脂肪組織に炎症細胞が浸潤し,サイトカインなどが産生・放出され,慢性的に血管に作用すると動脈硬化が進展するほか,諸臓器にも組織変性や機能障害をきたす.老化も含め,高齢者に機能低下をもたらす加齢性筋肉減弱症,認知症や神経変性疾患,骨粗鬆症,がんなどにも関与すると指摘されており,慢性炎症は慢性疾患や健康寿命に悪影響を及ぼす.一方,運動はエネルギー消費を高め,肥満,糖尿病,脂質異常症,高血圧症を予防・改善し,虚血性心疾患や脳血管疾患などの動脈硬化性疾患やがんの予防になる.本稿では,自然免疫とその異常で生じる慢性炎症(自然炎症;homeostatic inflammation)に対する運動の影響と作用機序について解説する.
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TOPICS
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- 再生医学
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- 神経内科学
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アルツハイマー病疾患修飾薬治験の現況とGlobal Alzheimerʼs Platform Network(GAP‒Net)
269巻11号(2019);View Description Hide Description - 免疫学
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FORUM
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- 医療社会学の冒険 14
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- 書評
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