医学のあゆみ

Volume 271, Issue 10, 2019
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【12月第1土曜特集】 健康日本21(第二次)の中間評価とこれからの課題
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- 総論
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健康寿命の延伸と健康格差の縮小―健康日本21(第二次)の中間評価とこれからの取り組み
271巻10号(2019);View Description
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21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕では,健康寿命と健康格差について,以下の2 つの目標を設定している.第1 に“平均寿命の増加分を上回る健康寿命の増加”であり,第2 に“健康寿命の都道府県格差の縮小”である.また,健康日本21(第二次)における健康寿命(日常生活に制限のない期間の平均)とは,日常生活動作(ADL)だけでなく社会生活を営む機能(仕事,家事,学業,運動・スポーツ)に支障なく暮らせる期間と定義されている.2016 年の健康寿命は,2010 年と比較して男性で1.72 年,女性で1.17 年増加した.同期間における平均寿命は男性で1.43 年,女性で0.84 年増加したので,健康寿命の増加分は平均寿命のそれを上回っており,第1 の目標は“達成中”であると判定された.健康寿命の都道府県格差を最長の県と最短の県との差で見ると,男性では2010 年2.79 年から2016 年2.00 年,女性では2010 年2.95 年から2016 年2.70 年へ短縮した.また,都道府県差の標準偏差も有意に減少したので,第2 の目標も“達成中”と判定された. - 主要な生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底
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“がん”の発症予防と重症化予防の徹底
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21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕の中間評価での,生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底に関する目標の,“がん”における指標は,①75 歳未満の年齢調整死亡率の減少(10 万人当たり),②がん検診受診率の向上,の2 つであり,どちらも改善しているが現状のままでは最終評価までに目標到達が危ぶまれる「a*」の評価であった.がん分野では,がん対策基本法に基づいて作成されているがん対策推進基本計画によって推進されているが,2018 年3 月,閣議決定を受けた第3期基本計画において,科学的根拠に基づくがん予防・がん検診の充実を全体目標の第一と位置づけ,今まで以上に予防に力点が置かれている.3 期計画については,2020 年に中間評価を実施するための評価指標が策定されたが,全国がん登録など新たな統計も踏まえたものとなり,今後,科学的根拠による政策提言につながるものとして期待できる. -
循環器疾患対策の進捗状況と今後の課題
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健康増進法で定められた国民の健康の増進の総合的な推進をはかるための基本的な方針として,2013年度から21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕が推進されている.循環器疾患分野の目標は,生活習慣の歪み→危険因子→循環器疾患という三層構造を踏まえて設定されていた.そして,脳血管疾患と虚血性心疾患の年齢調整死亡率を10~15%減少させることをめざしている.2018 年度に公表された中間評価では,年齢調整死亡率についてはすでに目標を達成していることが示されたが,危険因子で明らかな改善を示したのは収縮期血圧値だけであった.ほかの危険因子はほぼ不変であり,全体としてこの死亡率の減少を危険因子の推移では説明できないことも示された.その理由として健康日本21 のような健康増進活動の評価は,死亡ではなく発症で行うべきであることなどが考えられた.今後,脳・循環器疾患対策基本法との調和を図りながら,さらなる循環器疾患予防対策の推進が必要である. -
糖尿病発症予防・重症化予防の取り組みとその成果,今後の方向性
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21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕の中間評価によると,糖尿病分野の各指標は改善の方向性がみられるものの,目標達成は厳しい状況である.予防の各段階に対応した指標を改善するために,糖尿病性腎症重症化予防プログラム,特定健診・特定保健指導制度の弾力化の活用,データヘルス計画,健康経営,地域・職域連携推進による中小企業労働者・被扶養者への健康支援の拡充,若年期の肥満対策の強化が必要である.高齢期には身体活動量の減少や骨格筋量の減少が糖尿病の悪化につながることに留意する.糖尿病は食生活,運動・身体活動などとの関連が深く,循環器疾患や健康寿命とも直結する分野であるため,他分野の指標動向も参照する必要がある.自治体・保険者・医療機関の連携や地域・職域連携など,まちぐるみの対策により,従来のサービスにアクセスしにくかった人々への対応がはかられることが期待される. - 社会生活を営むために必要な機能の維持・向上
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こころの健康
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“こころの健康なくして健康なし”といわれるように,こころの健康と身体の健康は相互に深く関わっており,身体の健康や健康寿命延伸を考えるうえでもこころの健康はきわめて重要である.21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕では,国民の健康の増進の推進に関する基本的な方向,第3 の“社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上”のために精神健康が重要であるという考えのもとに,“こころの健康”について4 つの目標が定められている.このうちとくに“気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の割合の減少”という目標については,改善の傾向が認められておらず対策の必要性が高いことや自治体が施策に反映させやすい目標であることなどから,今後もこころの健康の中心的な目標であるべきと考えられる. -
次世代の健康
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将来を担う次世代の子どもたちが自らの希望や夢を実現するための基盤である健康に目を向ける必要がある.21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕では,5 つの基本的な方向性のひとつである“社会生活を営むために必要な機能の維持および向上”に“次世代の健康”が課題として取り上げられた.子どものころから生涯を通じて自らの健康を考えるリテラシーが必要で,健全な生活習慣の獲得と適正体重を維持できる子どもを増加させることを目標に掲げた.中間評価では飲酒,喫煙関連の指標は改善し,虫歯の指標は目標を達成した.しかし,栄養,食生活,運動などの生活習慣や肥満については変わらないと評価された.家庭,地域,学校,医療機関など関連機関の連携による,さらなる推進が必要である.また,地域で子育ての視点から母子保健に関するソーシャルキャピタルの醸成が不可欠である.2018 年12 月の成育基本法の成立は,次世代の健康増進の強い推進力となることが期待される. -
高齢者の健康―ロコモティブシンドロームを中心に
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健康寿命の延伸と健康格差の縮小を大目標として,2013 年から10 年間の計画で推進されている21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕では,高齢者の健康に関して,①介護保険サービス利用者の増加の抑制,②認知機能低下ハイリスク高齢者の把握率の向上,③ロコモティブシンドローム(運動器症候群;以下,ロコモ)を認知している国民の割合の増加,④低栄養傾向の高齢者の割合の増加の抑制,⑤足腰に痛みのある高齢者の割合の減少,⑥高齢者の社会参加の促進,の6 項目をあげている.本稿ではそのうちロコモに焦点をあて,ロコモの簡易診断法であるロコモ度テストを用いて,ロコモ度1 該当の有病率は全体の69.8%,ロコモ度2 該当の有病率は全体の25.1%であることを明らかにした.さらに,ロコモの認知率の推移と認知率を上げるため,日本整形外科学会の取り組みについても紹介した. - 生活習慣及び社会環境の整備
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健康を守るための社会環境の整備とソーシャルキャピタルの醸成
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生活習慣に着目した21 世紀における国民健康づくり運動〔健康日本21(第一次)〕は期待したほど成果が上がらなかった.そこで,21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕では基本的方向として“健康格差の縮小”が掲げられ“社会環境の整備”が推し進められることとなった.社会環境の整備がどのように人々の健康によい波及効果をもたらしているのか,それが無関心層にまで及ぶことが徐々に明らかにされつつある.健康日本21(第二次)の中間評価において国や地方自治体,企業などが実施する社会環境の整備が推進していることが示されたが,今後はそれらの政策や事業を評価し,次期政策の立案・実施・評価と好循環のマネジメントサイクルが期待される.しかし,評価に必要な個人および環境両要因のデータ収集には課題が残されている.課題克服のためには健康格差縮小に向け,国,地方公共団体,地域,会社組織などが連携した取り組みを進め,介入方法と評価方法の両面でより効果的で効率的な方法の開発が期待される. -
“栄養・食生活”について
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21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕の“栄養・食生活”の目標は,健康寿命の延伸と健康格差の縮小につながるよう,個人の体格,食事,食行動と食環境の両面から設定されている.2018 年の健康日本21(第二次)中間評価の結果,改善した項目は食塩摂取量の減少と,食品中の食塩や脂肪の低減に取り組む食品企業および飲食店の登録数であった.悪化した項目は主食・主菜・副菜が揃う食事をする人の割合であった.適正体重を維持している者の増加については変化はみられなかった.食環境の改善が進み,減塩の環境整備が推進されたことが推察された.一方で,人々の行動変容,とくに若い世代の食事に課題が多いことも示されている.短期的にはこれらの若い世代へのアプローチや,改善していない地域の把握と改善が必要である.中長期的には実態把握と分析から出発し,PDCAを着実に回していく栄養政策の定着,健康格差の背景となる食生活・栄養の格差を縮小させることが求められる. -
身体活動・運動・座位行動
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21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕では,“身体活動・運動”分野に関して,①歩数の増加,②運動習慣者の割合の増加,③運動しやすいまちづくり・環境整備に取り組む自治体の増加,といった3 つの目標が掲げられた.中間評価において,歩数の増加と運動習慣者の割合の増加については目標達成が困難な見通しであることが報告された.健康日本21(第二次)を達成するための個人啓発ツールのひとつとして,“健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)”が発表されているが,そのエビデンスは“健康づくりのための身体活動基準2013”に掲載されている.アクティブガイドは,日々の生活における身体活動を増加させるためのメッセージとして“プラス・テン”を掲げている.近年,座位行動と健康アウトカムに関する疫学研究が報告されており,新たな健康リスクとして座りすぎの問題が注目されている. -
睡眠に関する健康の評価と今後の展望
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睡眠による休養を十分にとれていない人の有訴者率は20%前後で推移している.このため,国民の睡眠習慣に対して積極的に施策を講じていく必要がある.また過重労働を解消し,労働者が健康を保持しながら労働以外の生活のための時間を確保して働くことができるような労働環境を整備することが重要な課題となっている.そのため,21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕では,休養に関する目標として,“睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少”と“週労働時間60 時間以上の雇用者の割合の減少”の2 項目が設定された.中間評価の結果,睡眠による休養を十分とれていない者の割合の減少は全体として変化がみられなかったと判断され,週労働時間60 時間以上の雇用者の割合の減少は目標に向けて改善に向かっていると判断された.今後,健康づくりのための睡眠指針2014 の啓発,簡便な睡眠中の呼吸モニターの開発,交代勤務による睡眠障害の啓発が必要である. -
“飲酒”について
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2018 年に世界保健機関(WHO)が作成したレポートによると,アルコールの有害使用による死者は世界で300 万人とされ,健康被害に多大な影響を及ぼしていることが示されている.国内の推計でもアルコールによる超過死亡は30,000 人を超えると報告されており,さらにアルコールによる経済的損失は,2013 年には3 兆3,628 億円と推計されていて,国内においても問題の規模の大きさが示唆されている.このようなアルコールが健康被害に及ぼす影響の大きさが問題となり,2013 年にはアルコール健康障害対策基本法が成立し,アルコールに関連した問題は国全体が対応すべき問題として正式に認められた.2000 年から開始された21 世紀における国民健康づくり運動〔健康日本21(第一次)〕ではアルコールの問題が取り上げられ,21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔以下,健康日本21(第二次)〕においても,重点9 項目のひとつとしてアルコールが引き続き取り上げられており,3 つの数値目標が定められている.本稿では,アルコールに関連した問題の規模について概観するとともに,健康日本21(第二次)の中間評価と課題について解説する. -
“喫煙”について
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喫煙は今なお日本人が命を落とす最大の原因であり,脳卒中をはじめ認知症や骨粗鬆症のリスクを高め,要介護のリスクを高める.健康寿命の延伸において優先順位の高い重要なテーマである.21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕においては,第一次計画で設定された未成年者の喫煙率の目標に加え,成人喫煙率,妊婦の喫煙率,受動喫煙防止に関わる数値目標が設定された.中間評価の結果では,これらの4 つの目標はいずれも改善傾向にあったが,未成年者の喫煙率を除く3 つの目標については改善が十分でなく,このままでは目標値の達成は難しい状況にあった.理由として,この5 年間に喫煙率や受動喫煙防止の改善に実効性のある政策が国レベルで実施されていないことがあげられる.これらの目標達成のためには,わが国が批准しているWHO のたばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(たばこ規制枠組条約)に基づき,たばこ税・価格の引き上げ,受動喫煙防止の法規制の強化,たばこの警告表示の強化,メディアキャンペーンの実施,たばこ広告などの禁止,禁煙支援・治療の充実と普及といった政策を組み合わせて強力に進めることが必要である. -
歯と口腔の健康について
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21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)は,一定程度の時間をかけて健康増進の観点から理想とする社会に近づけることをめざす運動である.そこで,歯科からは口からはじめる健口づくりを,ライフステージに応じて健康づくりを進めるにあたり歯と口腔の健康を機能からも見直しを行い,歯科医学の恩恵をすべての国民が享受できるように啓発しながら進めていくべきである.歯と口腔の健康に関しての評価のおもな結果としては,改善しているのは歯の喪失防止,乳幼児・学童期の齲蝕のない者の増加,過去1 年に歯科検診を受診した者の割合の増加であり,変わらないのは口腔機能の維持・向上であり,悪化したのは歯周病を有する者の割合の減少の項目指標である.これらの評価結果を真摯に受け止め,今後の歯科口腔保健施策の方向性を見定め,社会環境の改善も加味し,自己管理能力の向上,専門家などによる支援と定期的口腔管理などを進め,健康格差の縮小と健康寿命の延伸に貢献することを期待する. - 健康日本21(第二次)を取り巻く諸課題
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健康政策をめぐる世界の潮流と健康日本21
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保健医療課題とそのアプローチは,社会の発展とともに変化している.それは,2000 年に決議された国連のミレニアム開発目標(MDGs)と2015 年の持続可能な開発目標(SDGs)の取り組みの変化にも反映されている.そこでは,健康が持続的な発展に必要な資源であること,健康格差の解消は社会の安定に貢献すること,また,健康は保健医療セクターだけの問題ではなく,政府全体の取り組みが必要との考えが示されている.さらに,その達成に必要な政策としてユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)が推進され,プライマリヘルスケアの重要性が再認識されている.また,世界がつながりを深めるなか,たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約などの例にみられるように,国内外の取り組みのシナジーが高まっている.世界各国は,新たなシステムの模索を続けており,課題先進国である日本の21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の経験と議論に,世界が注視している. -
WHO ヘルスプロモーションの視点からみた健康日本21―人々の健康と幸福のために,今できること
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本稿では,WHO ヘルスプロモーションの視点から21 世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の課題について,“人々の健康と幸福のために,今できること”の視点から,以下の編別構成で論述した.編別構成は,WHO ヘルスプロモーションの視点の意義,健康日本21 に対するWHO ヘルスプロモーションの視点からの批判的考察(1.ヘルスプロモーションの視点から捉えた健康日本21,2.健康日本21 の課題),健康の捉え方―健康は幸福の道標(1.主観的健康観の重要性,2.スピリチュアルヘルスへの気づき),健康の決定要因(1.健康の決定要因とは,2.健康の決定要因を意識した社会システムづくり),おわりに,である.健康日本21 の課題は,“世界の人々の健康と幸せの獲得へのアプローチは分野を超えた総力戦である”ことを意識してグローバルな視野に立ち,保健医療の世界を超えたすべての関係者とともに国民の健康づくりを推進していくことである. -
高齢社会における企業の社会的要請―働き方改革と健康経営
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わが国は急速な高齢化に直面し,その結果,労働生産人口の減少をもたらし企業リスクとなっている.働く人の心身の健康と体力は,労働生産性に直結する問題となり,経営者は経営課題として働く人の健康問題を捉え,その対策をコストではなく企業未来を創造するための投資として捉えることが必要となっている.経営戦略としての健康づくりは,従業員が健康で高い労働生産性を維持するために,そして豊かなセカンドライフを創造するために必要不可欠となっている.働き方改革関連法は経営者に対して多くの義務を課すことになった.一方,高齢社会において,働く人の健康と体力の確保は労働生産性を向上させるための基盤構築が必要不可欠となっていることから,健康経営をトップダウンで進め,結果としてボトムアップによるヘルスリテラシーの向上による効果を期待するものである.健康経営は健康づくりを経営課題として捉え,組織的かつ長期にわたってアウトカムを求めて実践することで,企業の継続価値を高めることになる. -
国民の健康増進をめざした公衆衛生領域における連携の現状と課題
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国民の健康増進をはかるために地域保健,学校保健,産業保健という公衆衛生領域における連携の重要性が指摘されている.地域保健と学校保健との連携は児童・生徒の健康課題を解決するために,学校保健委員会が中心となって地域学校保健委員会を通して行われることが期待されているが,その設置率が低いため設置の推進をはかることが必要である.地域保健と産業保健との連携は継続的かつ包括的な保健事業を展開することを目的として,設置されている地域・職域連携推進協議会を通して行われることが期待されている.しかし,協議会の活動にはさまざまな問題点が指摘されており,協議会が実質的に機能して日々の実践活動において連携の効果を上げるためには,協議会のあり方を含めて多くの課題がある.学校保健と産業保健との連携では職域側からのアプローチが主であるので,学校保健における課題を見つけ,その解決に役立つ具体的な連携プログラムの開発が期待されている. -
住環境と“健康日本21(第二次)
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国土交通省は厚生労働省との連携のもとに,2014 年度から“スマートウェルネス住宅等推進調査事業”に取り組んでいる.断熱改修などによる生活空間の温熱環境の改善が,居住者の健康状況に与える効果について検証することを目的としている.5 年間の事業によって,①室温が年間を通じて安定している住宅では居住者の血圧の季節差が顕著に小さい,②居住者の血圧は部屋間の温度差が大きく,床近傍の室温が低い住宅で有意に高い,③断熱改修後に,居住者の起床時の最高血圧が有意に低下,④室温が低い家ではコレステロール値が基準範囲を超える人,心電図の異常所見がある人が有意に多い,⑤就寝前の室温が低い住宅ほど,過活動膀胱症状を有する人が有意に多い.断熱改修後に就寝前居間室温が上昇した住宅では,過活動膀胱症状が有意に緩和する,⑥床近傍の室温が低い住宅ではさまざまな疾病・症状を有する人が有意に多い,⑦断熱改修に伴う室温上昇によって暖房習慣が変化した住宅では,住宅内身体活動時間が有意に増加する,などの知見が得られつつある. -
健康づくりにおける行動経済学とナッジの応用
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近年,健康づくりなどの施策のなかで,行動経済学とナッジが注目されている.行動経済学は,かならずしも合理的ではない人の行動を説明しようとするもので,ナッジはその考えに基づき,人々を強制することなく,望ましい行動に誘導するような仕組みと定義される.すなわち,行動経済学とナッジを応用することで,人々を知らず知らずのうちに健康的な行動に導くことが期待できる.行動経済学にはアンカリング,損失回避,フレーミング,デフォルトオプションなどの多くの理論が含まれる.先駆的に行われた国内外の研究や実践でも健康行動を促すのに有効であることが示され,国や国際機関などでも積極的に応用する動きがある.日本の健康づくりなどの施策においても応用が進んでいくものと思われる.ただし,その効果や応用範囲は未知数のところも多く,今後,知見と経験を積み重ね,かつ従来からの行動変容等の理論をもとにした取り組みと組み合わせながら進める必要がある. -
超高齢社会の課題解決に資する自然と“健幸”になるまちづくり
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超高齢社会におけるまちづくりは,自然と健康になれるまち(Smart Wellness City;健幸都市)をめざすことが重要である.多くの自治体が超高齢社会のまちづくりのイノベーションのための社会実験を繰り返し行うことにより一定数のエビデンスが蓄積され,成果を得るための政策パッケージも組み立てられる段階までになった.そこでまず,自治体が超高齢社会によって生じる健康や社会保障における課題解決のために,政策的に成果を得るための解決すべきポイントを整理する.また,現在と同水準の社会保障維持のためには自律的な健康づくりが継続する社会が求められるが,現在および将来の課題について正確に状況を理解しておらず,自ら行動しようとしない無関心層が全体の約7 割を占める現状を動かす政策の推進が必要である.健康無関心層対策としてWalkable City へ転換が必要と考えた根拠を示し,全国の自治体がその実現のために取り組んでいる対策を具体的に紹介する. -
環境改善による健康格差対策の類型とその実践―医療に求められる“社会的処方”
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21 世紀における第二次国民健康づくり運動〔健康日本21(第二次)〕では,疾病予防の取り組みが医学モデルから社会モデルにシフトした.健康リスクが高い人への個別の指導により生活習慣をあらためる,という従来からのハイリスクアプローチに加えて,集団全体のリスク分布の改善をめざすポピュレーションアプローチが推進されている.ポピュレーションアプローチは,①知識の普及啓発型と,②(社会)環境改善型に分類される.前者は健康意識の乏しい集団には訴求しないため,健康格差を拡大させる可能性がある.そこで後者の環境改善が必要になる.環境改善型のポピュレーションアプローチは,特定の社会的リスクを抱える集団にターゲットを絞ったvulnerable population approach や,社会的に不利な度合いに応じて対策を傾斜的に強化するproportionate universalism などに分類できる.地域社会において,医療機関が環境改善型のポピュレーションアプローチの取り組みに参画する枠組みとして,近年“社会的処方(social prescribing)”が注目されている.「せっかく治療した患者を,病気にした環境に戻さない」ために,健康に資する地域社会づくりに医療機関が積極的に関わっていくことが期待される. -
健康づくりと医療経済学
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医療経済学とは,人々が資源制約のもとで意思決定・行動するメカニズムを明らかにする学術領域である.その観点から,健康づくり,とくに近年の予防医療サービスなどが医療介護費に与える影響と,生活習慣行動に与える変容効果について概説する.予防医療サービスは長期的に見た場合,医療介護費の削減効果は期待できない.また,医療費については高齢化による増大効果は限定的である.ただし,介護費については高齢化・世帯構造変化による大幅増大が見込まれ,介護予防の技術開発が急務である.近年注目されている行動経済学による生活習慣行動変容,とくに“無関心層”に対する介入議論は,科学的根拠に乏しい.医療経済学は機会制約の下での意思決定のゆがみがなぜ発生するのか,メカニズムを明らかにすることで効果的な環境整備・制度政策設計に資することが期待される. -
【ayumi TOPICS】 持続可能な開発目標(SDGs)―トリプル・ウィンのグローバルヘルスの枠組み
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21 世紀に入ってから国連が定めたグローバルヘルスの開発目標は,国際保健の推進に枠組みを与え大きな成果を上げてきた.2001 年に定められたミレニアム開発目標(millennium development goals:MDGs)に続く持続可能な開発目標(sustainable developmentgoals:SDGs)は,さらに包括的な枠組みとして機能し始めている.本稿においては,まずSDGs とは何かについて述べ,次いでその形成にあたっての日本の貢献,少子高齢化する日本にとっての意義とSDGs の枠組みを使った新たな国際貢献のあり方について考察を加える. -
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【ayumi TOPICS】 身体活動の普及戦略―エビデンスが示す壁と成功の鍵
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身体活動を国・地域レベルで促進することは可能であろうか.もともと運動を行っている人ばかりが集まるイベントをいくら実施したとしても,それは運動実施率の上昇にはつながらない.効果的な施策を展開するためには,エビデンスに基づく普及戦略が必要である.運動・身体活動の意義や健康効果のメカニズムがいくら明らかになっても,ポピュレーション戦略・普及戦略の科学なしに,身体活動を通した健康長寿社会の実現はあり得ない.本稿では,こうしたポピュレーション介入研究1)の最新エビデンスをもとに,身体活動を地域全体,あるいは国全体といったポピュレーションレベルで促進するためのポイントを紹介する.
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