医学のあゆみ

Volume 271, Issue 12, 2019
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特集 肺高血圧症診療最前線― これからの肺高血圧症診療に向けて
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肺動脈性肺高血圧症の発症原因─遺伝子関連から最近の知見まで
271巻12・13号(2019);View Description
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肺動脈性肺高血圧症(PAH)は肺血管抵抗上昇により右心不全を呈する予後不良な疾患であるが,その発症には先天的および後天的な要因が複数関連している.PAH の発症原因遺伝子は2000 年に報告された2 型骨形成蛋白質受容体(BMPR2)遺伝子をはじめ,遺伝子解析技術の進歩とともに数多く報告されてきたが,大半のPAH 患者において発症原因はいまだに不明である.本稿ではPAH 発症原因遺伝子同定の変遷に加え,最近報告されたPAH 発症関連因子として,日本人特有の発症関連遺伝子であるring finger protein 213(RNF213)遺伝子や脂質代謝,血管内皮細胞の間葉転換(EndMT)などについて述べる.PAH の根治療法開発のためには病態解明が必要不可欠であり,将来の個別化医療(precision medicine)実現に向けて今後の研究の発展が期待される. -
肺高血圧症の病態制御から治療へ─炎症性サイトカインに焦点を当てて
271巻12・13号(2019);View Description
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肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,肺動脈に原因不明の機序で肥厚や狭窄が生じて肺動脈圧が上昇して右心不全をきたす指定難病である.PAH の遺伝性素因として,骨形成蛋白質2 型受容体(BMPR)とその下流シグナル分子の遺伝子変異が同定されているが,PAH はこれらの遺伝子異常の保持者の約20%にしか発症せず,疾患浸透率は低い.PAH の発症には遺伝的素因に加えて,外的刺激によるセカンドヒットが必要と考えられ,インターロイキン(IL)-6 やIL-1βのような炎症性サイトカインがPAH 病態を促進するセカンドヒットとして注目されている.IL-6 受容体に対するヒト化モノクローナル抗体トシリズマブ(TCZ)は,関節リウマチ,キャッスルマン病,若年性特発性関節炎に加えて大型血管炎(高安動脈炎と巨細胞性動脈炎)にも保険適用の拡大がなされて,血管病治療の臨床でも使用されており,PAH に対して炎症性サイトカインを標的とする治療が広がる可能性もある.本稿では,PAH 病態形成における炎症性サイトカインの役割と,炎症性サイトカインを標的とした新しい治療法の可能性を概説する. -
肺高血圧症モデル動物からわかったこと─病理病態からみた肺高血圧症
271巻12・13号(2019);View Description
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わが国における肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する治療薬の使用方法は,単剤投与よりも治療初期から複数の治療薬をほぼ時間差なく併用するupfront combination therapyが主体となっている1).このupfront combinationtherapy により,進行したPAH 患者の予後と生活の質は劇的に改善した.わが国発の肺高血圧症レジストリ研究から,高用量エポプロステノールも含めた多剤併用療法によって肺動脈圧の低下を認め,予後が劇的に改善することが示された2).現在,PAH を数多く治療しているわが国の多くの施設では,肺動脈圧を重要な治療指標として用いている.しかし,肺組織を経時的に採取することは倫理的な観点から実施困難であるため,これらの肺動脈圧の低下を達成できたPAH 患者において,リバースリモデリングが起こっているかどうか不明である.本稿では,著者らが行った血行動態ストレス軽減による肺血管病理変化に関する基礎研究の結果について解説する3,4). -
第6 回国際肺高血圧シンポジウムでアップデートされた薬物・毒物誘発性肺動脈性肺高血圧症
271巻12・13号(2019);View Description
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肺高血圧症(PH)は肺動脈圧の上昇によって定義され,肺血管抵抗の増加により右心不全を呈し,予後は不良である1).2015 年の欧州呼吸器学会/欧州心臓病学会のPH 分類(表1)では,肺動脈性肺高血圧症(PAH)は“第1 群”として定義され,類似した組織学的所見である肺動脈リモデリングを共有しており,その原因疾患として特発性PAH(IPAH),遺伝性PAH(HPAH),結合組織病,先天性心疾患,HIV 感染症,門脈圧亢進症などのさまざまな疾患が関連することが報告されている2).そのなかで本稿では毒素・薬物への曝露によるPAH に関して,第6 回国際肺高血圧症シンポジウムの内容を中心に最新のアップデートを行う. -
第2群肺高血圧症の病態を理解する
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第2群肺高血圧症(PH)は,PH のなかで最も頻度が多いことが知られているが,その病態は均一ではない.第2 群PH における肺動脈圧上昇の機序は多くの場合は上昇した左房圧の伝播が主体であるが,一部の症例では肺血管リモデリングが関与している.これらの症例はcombined post-capillary and pre-capillary PH(Cpc-PH)として,isolated post-capillary PH(Ipc-PH)と区別される.Cpc-PH はIpc-PH と比較して右心機能が低下しており,生命予後も不良であることが知られている.一部,肺動脈性肺高血圧(PAH)と病態のオーバーラップが想定されているものの,PAH 治療薬の有効性を示すエビデンスは乏しく,むしろnegativeな報告が続いている.最近になり動物モデルを用いた基礎研究も報告されはじめ,病態の理解に基づいた特異的治療法の開発が求められる. -
Ⅲ群肺高血圧症の病態と今後の展望
271巻12・13号(2019);View Description
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現在,Ⅲ群肺高血圧症(PH)の管理指針では「肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療ガイドラインに従った治療効果を裏づけるデータは得られていない」とされている.しかし実臨床において,Ⅰ群PAH の病態を背景に軽度の肺実質障害を合併した症例では,選択的肺血管拡張薬の効果が期待されている.しかし,Ⅰ群PAH の病態を背景にもつか,それを鑑別する方法はいまだ確立されていない.つまりⅠ群PAH およびⅢ群PH を鑑別する必要があるが,そのためにはまず両群の病態を知る必要がある.つまりⅠ群PAH が肺の脈管障害に誘起されたPAH であるのに対して,Ⅲ群PH は肺の実質障害によるPH である.両者ではその病態の進展過程が明らかに異なる.さらにはⅢ群PH でも,慢性閉塞性肺疾患(COPD)と特発性肺線維症(IPF)に関連するPHではその病態が異なる.両群の鑑別には低酸素性肺血管攣縮(HPV)と肺拡散能力(DLCO)の評価がキーになると考える.HPV の関与が比較的軽度である症例,さらに呼吸機能の程度に比しDLCO の低下が著しい症例は,Ⅰ群PAH により近い病態を有する可能性がある.しかし,具体的なバイオマーカーや呼吸機能検査の数値基準の設定など,今後さらに検討する必要がある. -
Japan PH Registry(JAPHR)からわかったこと
271巻12・13号(2019);View Description
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希少疾患におけるレジストリーは,疾病予後だけではなくリスク評価や新たな疾患分類など,ランダム化比較試験からは得られない貴重な情報をもたらす.わが国のレジストリーJapan PH Registry(JAPHR)によると,十分な多剤併用療法を行い肺動脈の血行動態指標の改善が得られることにより,肺動脈性肺高血圧症(PAH)の予後はきわめて良好である,としている. -
慢性血栓塞栓性肺高血圧症の治療最前線
271巻12・13号(2019);View Description
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慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は,日本では抗凝固療法をすくなくとも半年間実施した後でも器質化した血栓が肺動脈内に残存し,平均肺動脈圧(mPAP)が25 mmHg 以上の肺高血圧を合併している状態である.mPAP が30 mmHg を超える場合,肺高血圧は時間経過とともに進行し右心不全をきたす.未治療であった場合,一般的に予後不良な疾患である.CTEPH に対するバルーン肺動脈形成術(BPA)は,2001 年に米国から初のケースシリーズが報告され,日本で手技が確立した治療法である.その後,デバイスの改良・技術の向上に伴い安全性が確立された.その結果,血行動態の改善に加え,大半の症例で酸素療法が中止可能となり,患者の治療に対する満足度ならびに術後のQOL が非常に高い治療となってきている.一方で,単に血管病変を治療するのが目的ではなく肺高血圧症(PH)という特異な病態の治療を目的とする手技であること,いまだに合併症を完全に防げるようになったわけではなく,ときに致死的な合併症をきたす危険性があることから,通常のカテーテル治療と比べてインターベンション医(IVR 医)の誰でもが試みるべき手技ではない.現段階では,CTEPH に対する治療として肺動脈血栓内膜摘除術(PEA)が第一選択であるが,今後,病変の主座を考慮した治療により,BPA がPEA に並ぶ根治的治療となることが期待される.
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連載
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- 地域医療の将来展望 12
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地域連携の諸展開
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地域医療の変革が進むなかで,地域社会資源の連携は鍵のひとつとなっている.本稿では,診療体制や地域包括ケアに関する地域連携の新たな展開を取り上げる.そこには,広域化,複合化,地域づくりといったキーワードが見てとれる.同時に,多職種連携教育,情報通信技術やデータの利活用の発展が,こうした地域連携の展開を強力に推進するであろうことにも触れる. - 診療ガイドラインの作成方法と活用方法 7
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システマティックレビュー(SR)― SR の基本的なステップとメタアナリシス,さらに最新の情報
271巻12・13号(2019);View Description
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システマティックレビュー(SR)は「特定の問題に絞って,類似したしかし別々の研究知見を見つけ出し,選択し,まとめるために,明確で計画された科学的方法を用いる科学的研究.別々の研究からの結果の定量的統合(メタアナリシス)を含むことも含まないこともある」と定義されている.“特定の問題”とは,対象,介入,対照,アウトカム(PICO)の形式で作成される.包括的な文献検索から選定作業を行い,各研究のバイアスリスク,非直接性を評価し,アウトカムごとに複数の研究をまとめ,エビデンス総体をGRADE アプローチに従い,バイアスリスク,非直接性,不精確性,非一貫性,出版バイアスのドメインの面から評価し,その確実性を評価する.Cochrane が提案しているRisk of Bias Tool v.2.0,ROBINS-I やAHRQ,Minds らが提案しているバイアスドメイン,項目の評価から確実性が決められる.定量的統合と定性的統合の両面から効果の大きさと確実性が評価され,診療ガイドラインの推奨の決定に用いられる.
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 細菌学・ウイルス学
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- 癌・腫瘍学
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FORUM
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- 医療社会学の冒険 20
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- 対話―ダイアローグのはじめかた 4
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オープンダイアローグと未来語りのダイアローグ
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今回は,フィンランド発の2 つの対話,「オープンダイアローグ(Open Dialogue)」と「未来語りのダイアローグ(Anticipation Dialogues)」について紹介する.この2 つの対話は,いずれもフィンランドで誕生し,対話の原則をほとんど同じくする.ただし,オープンダイアローグが主に急性期の精神疾患に対して治療的に行われるのに対して,未来語りのダイアローグは,長期的な福祉的問題に関して子供から高齢者まで広く市民に対して行われる. 現在,日本でもそれぞれのダイアローグを普及・促進する団体が立ち上がり,ファシリテーター研修などを実施している.興味のある方は各団体のホームページをご参照いただきたい*. - 病院建築への誘い ─ 医療者と病院建築のかかわりを考える
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特別編 ─ 病院という建物の管理を考える
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本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます. -
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