医学のあゆみ

Volume 272, Issue 9, 2020
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【2月第5土曜特集】 オートファジー─分子機構・生物学的意義・疾患との関わり
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- マクロオートファジーの基礎
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オートファジー関連因子のoverview
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーは“細胞が自己成分をリソソームで分解する現象”の総称で,①マクロオートファジー,②ミクロオートファジー,③シャペロン介在性オートファジー(chaperone-mediated autophagy:CMA)の3 つに分けられる.単にオートファジーといった場合にはマクロオートファジーのことをさす場合が多く,本特集・第1 章では“マクロオートファジーの基礎”について紹介する.哺乳類細胞で(マクロ)オートファジーが誘導されると,小胞体のサブドメイン(ミトコンドリアとの接触部位)において,二重膜構造のオートファゴソームが形成される.この過程には非常に多くのオートファジー因子が関与することが知られており,脂質の供給源や供給メカニズムについても新しい知見が次々と報告されている.本稿では,オートファジー誘導シグナルから順を追って説明し,始動複合体の形成,膜供給メカニズム,オートファゴソーム膜の伸長と閉鎖,リソソームとの膜融合といった各過程において,オートファジー因子やオートファジー関連膜構造体がどのような役割を担っているか概説したい. -
オートファジーの誘導①:アミノ酸によるオートファジーの制御
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーの制御に関して特筆すべきポイントは,酵母からヒトまで広く保存された機構としてTORC1 とよばれるプロテインキナーゼ複合体が中心的な役割を担っていることである.TORC1 は細胞の栄養環境に応答して活性化し,蛋白質,脂質,核酸などの生合成を活性化し,その結果,細胞の成長が誘導される.しかし栄養が枯渇した場合,TORC1 は不活性化し,それに伴いオートファジーが誘導される.すなわち,アミノ酸をはじめとした栄養が豊富で細胞が成長する局面では,TORC1 によって積極的にオートファジーの誘導が阻止されており,TORC1 の活性阻害のみでオートファジーが誘導される.仮に,このように同一のスイッチにより合成と分解が背反的に制御する仕組みでなく,独立した2 つのスイッチが個別に制御する可能性を想定すると,その2 つのスイッチ間の調整が何らかの原因で破綻した場合,合成と分解が同時に起こるfutile cycle が発生しかねないことを考えれば,その合理性に納得いくかもしれない.本稿ではこの骨格に従い,最新の知見も含めて肉付けしながらオートファジーのアミノ酸による制御を紹介していきたい. -
オートファジーの誘導②:選択的基質による制御
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーは酵母から哺乳類までほとんどの真核生物に保存された,細胞内の自己成分を分解する機構である.オートファジーが分解する基質は細胞質の蛋白質だけでなく,ミトコンドリア,小胞体,核膜,ペルオキシソームなど多岐にわたる.さらに高等真核生物では,蛋白質凝集体や細胞内に侵入してきた細菌やウイルスの一部もオートファジーのシステムによって分解されることが明らかになってきた.オートファジー研究の黎明期には,このような基質となるオルガネラや細胞内異物はほかの細胞質蛋白質とともに,オートファジーが非選択的に分解していると考えられていた.しかし,オートファジー研究が進展するに伴い,多くの基質がそれぞれに対応した分子機構を介して選択的に分解されていることが明らかになってきた.本稿では,オートファジーによる基質選択性を概説したうえで,いくつかの例について,その誘導機構を紹介したい. -
オートファゴソーム膜の供給①:小胞体関連構造を介した隔離膜形成
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーは,複雑に混み合った細胞環境のなかで隔離膜(あるいはファゴフォア)が新生され,細胞質やオルガネラを隔離・分解する過程である.その膜構造変化は独特で,しかも約1μm 以下の世界で繰り広げられるため,高い解像力を持つ電子顕微鏡(以下,電顕)を利用することは不可欠である.その新生膜がどこからどのように形成されるのかという起源と構築の問題については,数十年にわたり論争の的となってきた.近年,特殊な膜構造やオルガネラコンタクトサイトが小胞体と隔離膜の間あるいは近傍に同定され,膜成分供給領域として機能するであろうことが明らかとなってきた.本稿では,哺乳類細胞マクロオートファジーで見出されたこれら微細構造について,電顕技術の進歩に触れながら解説する.また,最近注目されているマイトファジーにおける隔離膜構築についても紹介したい. -
オートファゴソーム膜の供給②:小胞
272巻9号(2020);View Description
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オートファゴソームは必要なときにまったく新たに形成される.隔離膜とよばれる扁平な膜小胞が細胞質成分を包み込むように球状に伸張し,閉じることで二重の膜構造を持ったオートファゴソームが完成する.“隔離膜が伸張する際,どこからどのように膜成分が供給されるのか”,これはオートファジーのメカニズムの研究における積年の疑問である.これまでのさまざまな研究により,いくつかのモデルが提唱されている.膜小胞を介した膜の供給もそのひとつである.オートファゴソーム形成に関わる膜小胞として,Atg9/ATG9A 小胞,COPⅡ小胞,ATG16L 陽性小胞が報告されており,本稿ではこれらについて概説する. -
オートファゴソーム膜の供給③:蛋白質依存的な隔離膜への脂質供給機構
272巻9号(2020);View Description
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隔離膜は膜蛋白質をほとんど含まないオルガネラである.そのため,隔離膜は新規に合成されていると考えられてきた.隔離膜が新規に合成されるのであれば,“脂質供給源”と供給源から隔離膜への“供給方法”が確立されていなければならない.これまで“脂質供給源”としてさまざまなオルガネラが候補としてあげられてきたが,“供給方法”についてはほとんど議論されないままであった.ところが最近,オートファジー必須因子Atg2 が小胞体と隔離膜を係留し,小胞体から隔離膜への脂質輸送を媒介している可能性が強く示唆されるようになった.これは,小胞体が隔離膜伸張における主要な脂質供給源であることを示唆するとともに,オルガネラを形成できるほどの脂質輸送が蛋白質依存的に起こりうることを意味している.そのため,細胞生物学的観点からも非常に興味深い.本稿では,最近のAtg2 に関する構造生物学的研究を振り返りながら,Atg2 の構造とそのユニークなオルガネラ間脂質輸送メカニズムについて概説する. -
オートファジー関連因子の非オートファジー機能
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーは多数のオートファジー関連(ATG)因子によって駆動されるが,多くのATG 因子はオートファジー以外の機能も有することが近年明らかになってきた.これまでに報告されているATG 因子の非オートファジー機能の代表例としては,エンドサイトーシス,エキソサイトーシス,非典型的分泌,リポ蛋白質分泌,各種オルガネラ(脂肪滴,液胞,アピコプラスト,ウイルス複製複合体など)の形成や形態維持,自然免疫,細胞増殖,細胞死などの制御があげられる.本稿では,これらのATG 因子の非オートファジー機能について最新の知見を交えながら概説する. -
隔離膜分裂による二重膜小胞“オートファゴソーム”の完成
272巻9号(2020);View Description
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二重膜からなるオートファゴソームの形成は大きく湾曲した隔離膜の先端が近接し閉鎖することにより完結する.閉鎖の過程はしばしば膜の先端同士の融合(fusion)として記述されているが,厳密にいえばひとつの膜構造体(隔離膜)が2 つ(オートファゴソーム外膜と内膜)に分離するscission を伴う現象である.そのメカニズムは長らく不明であったが,近年の研究により,膜間の繫留活性を持つautophagyrelated(Atg)8 ファミリー蛋白質や,膜の開口部を寄せ切る機能により膜の分裂を担うendosomal sortingcomplexes required for transpor(t ESCRT)蛋白質群の関与が明らかになってきた.本稿ではこれらの蛋白質による隔離膜の閉鎖メカニズムについて,これまでの知見をもとに概説する. -
オートファジーの最後期過程─オートリソソームからリソソームの再生
272巻9号(2020);View Description
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近年のオートファジー研究の発展は著しく,オートファゴソームの形成やリソソームとの融合のメカニズムの理解は飛躍的に進んでいる.一方で,基質を分解した後のオートリソソームの動態については理解が立ち遅れていた.最近の研究から,オートファジーが終息するときに,オートリソソームからリソソームが出芽し再生される現象が報告されている.哺乳類細胞では1 つのオートファゴソームに複数のリソソームが融合するため,定常状態に戻るためには1 つのオートリソソームから複数のリソソームが再生される必要があると考えられる.本稿では,出芽酵母の液胞と哺乳類細胞のリソソームの相違点を踏まえつつ,オートファジーの最後期過程にみられるリソソーム再生のメカニズムを概説する. -
オートファゴソーム形成の物理モデル
272巻9号(2020);View Description
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オートファゴソーム形成は,隔離膜が膜面積の成長に伴いその形態を大規模に変形することで細胞質成分の一部を取り囲み隔離する.多くのオートファジー関連蛋白質はこのオートファゴソーム形成に関与しており,隔離膜の形態変化はこれらの因子により時空間制御されていると考えられる.しかし,それがどのような機構により制御されているのかは謎のままである.そこで著者らは,物理モデル,すなわち膜の形に基づくエネルギーを考慮する数理解析から,オートファゴソームの形態変化を理解することを試みた.本稿では,オートファジー分野における理論研究の可能性と,実験と理論の融合により見えてきた新たな知見について説明したい. -
オートファジーと液‒液相分離
272巻9号(2020);View Description
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さまざまな生命現象が液-液相分離(LLPS)という熱力学的現象によって説明されるようになり,生命科学研究のパラダイムシフトが起こっている.オートファジーの領域では,選択的オートファジーによって分解される基質蛋白質が液-液相分離により形成された液滴であるという報告が相次いだ.p62-ポリユビキチン化蛋白質凝集体,ストレス顆粒,PGL 顆粒はどれも液-液相分離により形成され,その性状がオートファジーによる分解に重要である.さらに液-液相分離は分解基質側だけでなくオートファジーのマシナリー自体を制御しており,オートファジーの始動において重要な働きをしていることが明らかになりつつある.オートファジーの開始点であるPAS はAtg1 複合体が液-液相分離することで形成された液滴であり,オートファジー関連蛋白質中唯一の蛋白質リン酸化酵素Atg1 の反応槽であった. -
選択的オートファジーの構造生物学的基盤
272巻9号(2020);View Description
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選択的オートファジーは,さまざまなオルガネラやメンブレンレスオルガネラ,細胞内に侵入した細菌などの分解を通して生体の恒常性維持に貢献している.その選択性は,それぞれの分解基質を特異的に認識(あるいは標識)する選択的オートファジー受容体に依存しており,受容体は隔離膜形成を担うコアAtg蛋白質の分解基質へのリクルートと,脂質化Atg8(ATg8‒PE)との結合を介した分解基質と隔離膜の繫留の2 つの役割を担っていると考えられる.本稿では,これまでの詳細な構造生物学的研究により明らかとなったAtg8 ファミリー蛋白質による受容体認識の構造基盤をまとめるとともに,受容体側の構造的特徴とコアAtg 蛋白質のリクルート基盤について,これまでに得られている知見をまとめる. -
ユビキチン介在性選択的オートファジー
272巻9号(2020);View Description
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ユビキチン・プロテアソームシステムは標的蛋白質のユビキチン鎖付加を目印に,プロテアソームにおいて標的蛋白質を分解するシステムである.一方,マクロオートファジーでは二重膜のオートファゴソームが細胞質の一部をランダムに,あるいは選択的に取り囲み,リソソームとの融合によりその内包物を分解するシステムである.両者の分解様式はまったく異なるが,マクロオートファジーによる選択性はユビキチン化やユビキチンシグナルにより制御されている. - オートファジーの生物学的意義
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オートファジーの生理機能のoverview
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーは飢餓応答,細胞内品質管理,初期発生,細胞分化,抗原提示,自然免疫,老化などの,さまざまな生命現象に関わることが明らかになっている.その本質は,細胞質成分を“分解”することであり,さらにその分解産物を細胞に“供給”することである.どちらが目的かによって果たす役割が変わってくる.オートファジーによる“分解”作用は,とくに細胞内品質管理において重要である.一方,オートファジーによる“供給”作用は飢餓応答や初期発生などの過程で重要となる.本稿では,オートファジーの生理機能・細胞機能について概説する. -
オートファジーと脂肪滴の関わり
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーはユビキチン・プロテアソーム系とならぶ蛋白質分解系であるとともに,細胞質リパーゼと並立する脂質エステルの分解系でもあり,細胞の脂質代謝に深く関わる.とくに脂質代謝のハブである脂肪滴とオートファジーはさまざまな形で関係する.脂肪滴はオートファジーによって分解される基質となるだけでなく,オートファジーによるオルガネラの分解で生じた脂肪酸から合成される脂質エステルを蓄える場であり,オートファゴソーム膜形成に必要な脂質の供給源ともなる.脂肪滴と隔離膜・オートファゴソームは近接して存在することが多く,両者に関係する複数の蛋白質も存在する.細胞の状態に応じて,これらの多様な脂肪滴とオートファゴソームの関係性のいずれが前面にでてくると考えられる.本稿では両者の関係をできるかぎり整理して示し,未解明のまま残されている問題について考察した. -
オートファジーと核酸・イオン代謝
272巻9号(2020);View Description
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オートファジーの分解基質は蛋白質に限らず核酸(主にRNA)や膜脂質,多糖など多岐にわたる.近年の研究の進展により,オートファジーによる核酸分解機構や,オートファジーとイオン代謝との関係性などが次々に明らかになってきた.オートファジーが破綻した結果生じる表現型を考えるうえで,蛋白質分解不全以外の原因も考慮しなおす時期にきている.本稿では,最初にオートファジーによるRNA 分解およびゲノム制御機構,さらに選択的なリボソーム分解(リボファジー)について概説する.次にオートファジーと鉄や亜鉛などのイオン代謝との接点に関して,著者らの研究も一部交えながら,オートファジーの生理機能に関してここ数年でアップデートされてきた新たな概念や潮流を概説する. -
マイトファジーの分子機構と生理的意義
272巻9号(2020);View Description
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マイトファジーは,細胞内大規模分解系“オートファジー”を利用してミトコンドリアを選択的に分解するシステムである.この仕組みは酵母からヒトまで高度に保存されており,その破綻は神経変性疾患や心・肝不全,老化,がんといった多くの病態につながる.過去の研究により,マイトファジー誘導時にミトコンドリア分解の目印として機能する鍵分子が多数明らかにされてきた.しかし,マイトファジーの詳細な分子機構や生理的意義は,いまだ多くの謎に包まれている.本稿では,マイトファジー駆動因子とその分子機構,これまでに示唆されているマイトファジーと生理・病態との関連について解説するとともに,今後の展開と新たな可能性について述べる. -
オートファジーによる父性ミトコンドリアの選択的分解
272巻9号(2020);View Description
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ミトコンドリアは独自のDNA を持つオルガネラであり,そのミトコンドリアDNA(mtDNA)は多くの生物で母性遺伝によって受け継がれる.母性遺伝の分子メカニズムは長い間解明されていなかったが,モデル生物である線虫C. elegans の解析から,受精後に父性ミトコンドリアと内部のmtDNA が選択的オートファジーで分解されることが母性遺伝に必要な仕組みであることが明らかとなった.さらに,この分解を制御するオートファジーレセプターALLO-1 が同定されるなど,選択性を生み出すメカニズムも解明されつつある.また,父性ミトコンドリアのオートファジーによる分解はハエやマウスでも観察され,動物に共通する現象であることが示唆されている.本稿では,発生にプログラムされたオートファジーである父性ミトコンドリア分解の分子機構について紹介する. -
小胞体分解 いつ? どこで? どうやって?
272巻9号(2020);View Description
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小胞体(ER)は細胞内の最大のオルガネラで,蛋白質のフォールディングや修飾,輸送,脂質合成,カルシウム代謝などの役割を担う.オルガネラの品質管理には,恒常的な代謝回転や不要物の適切な除去が重要である.このような恒常性の維持は,小胞体蛋白質のプロテアソームによる分解と小胞体のオートファジーによるリソソーム分解(ER-phagy)によって行われる.近年,小胞体をオートファゴソーム上に誘導するER-phagy レセプターの同定により,ER-phagy の分子機構や生理的意義が解明されつつある.本稿では,ER-phagy がどのようなときに,小胞体のどの部位を,どのようにして分解するかについて概説する. -
ゼノファジーの分子機構
272巻9号(2020);View Description
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細胞質に侵入したウイルスや細菌などの病原体は,細胞側の選択的オートファジーの標的となる.この機構は“ゼノ(異物)ファジー(xenophagy)”とよばれ,病原体増殖に深く関与することが明らかにされつつある.ゼノファジーの標的認識機構は,①病原体が細胞質内に侵入する際に生じる膜損傷に依存するものと,②病原体そのものが認識される場合と,大きく2 つに分けることができる.本稿では,これら分子機構を中心に,病原体の細胞内増殖を制御するオートファジーについて解説する. -
リソファジーの分子機構と意義
272巻9号(2020);View Description
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リソソームは,蛋白質や脂質,糖質を分解できる約50 もの加水分解酵素が存在する分解を担うオルガネラである.劣性遺伝が原因で引き起こされる数多くのリソソーム病のほかに,最近,リソソーム膜の障害が,生活習慣病や神経変性疾患を引き起こすのではないかと考えられ,その修復機構が多くの関心を集めている.リソソーム膜の損傷が起きたときに,細胞はどのような反応を起こすのか.著者らが見つけた損傷リソソームを選択的に隔離するオートファジー“リソファジー”を中心に,現在知られていることを概説する. -
寄生性原虫のオートファジー
272巻9号(2020);View Description
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原虫は病原性の真核単細胞生物を意味する.初期に分化した真核生物であり,系統的位置をはじめ代謝,遺伝子発現制御,小胞輸送,生活環など非常に多様な生き物である.さらに日本で生活していると実感しにくいが,原虫感染症の代表といえるマラリアは現在も後天性免疫不全症候群(AIDS),結核とともに三大感染症のひとつであり,顧みられない熱帯病(NTD)にあげられるキネトプラスチダ原虫感染によるシャーガス病,アフリカ睡眠病,リーシュマニア症ともに世界の公衆衛生上重要な感染症であり続けている.オートファジーはすべての真核生物の系統で保存しており,真核細胞の共通祖先で確立していた分子メカニズムであると考えられる.よって,多くの寄生性原虫でオートファジー関連遺伝子群が保存されているだけでなく,マクロオートファジー様の現象も観察される.さらに,寄生生活に適応して進化し獲得した独特な生物過程や生活様式に適応し,モデル生物では見出せないユニークなオートファジー関連蛋白質の機能が明らかになっている.ここでは寄生性原虫で見出されたオートファジー関連蛋白質の機能,新規薬剤標的の可能性など,高度に保存された生物過程の寄生性原虫における普遍性と多様性について紹介したい. -
オートファジーと細胞死
272巻9号(2020);View Description
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オートファジー細胞死とは,オートファジーを介して実行される細胞死として定義づけられる.オートファジーが細胞死に併発しているものの細胞死の原因となっていないものに関しては,オートファジー細胞死の範疇からは除外されている.オートファジー細胞死はアポトーシス経路が機能しない場合に誘導されることが多く,アポトーシスの代償機構として個体発生などに関わっている.オートファジーと細胞死はオートファジー細胞死以外にも,さまざまな分子を介したクロストークが存在する. - その他のオートファジー
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ミクロオートファジー研究の課題
272巻9号(2020);View Description
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リソソーム膜が変形して,細胞質の小さな(micro)部分を取り囲み,最終的にはリソソーム内部に運び分解するミクロオートファジーは,1960 年代から電子顕微鏡により複数の哺乳類細胞において観察されていた.一方で,その分子機構の解明は1990 年代に酵母における同様の現象の発見と,それに続く必要遺伝子の解明を経てようやくはじまったが,現在においてもとくに哺乳類細胞においては分子機構および生理学的意義は不明なままである.新規合成された隔離膜が細胞質の大きな(macro)部分を取り囲んでリソソームに輸送し分解する,マクロオートファジーの研究がその機能蛋白質(ATG 分子)群の同定を経て急速に進展したことと比較すると,ミクロオートファジー研究状況は大きく後れをとっている.そこで本稿では,酵母と植物細胞の研究から見えてきたミクロオートファジーの分子機構を概説し,それに立脚して,哺乳類細胞における研究の進展のためにどのような点を考慮すべきか,提案したい. -
RNautophagy とDNautophagy
272巻9号(2020);View Description
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細胞内小器官リソソームは,内部にさまざまな種類の加水分解酵素を含んでおり,蛋白質,核酸,脂質,糖鎖といった生体高分子を分解することができる.リソソームによる細胞内分解機構であるオートファジーには,マクロオートファジー以外にも,ミクロオートファジーや膜透過型オートファジー,直接融合型オートファジーなど,いくつかの経路が存在する.RNautophagy/DNautophagy(RDA)は近年,著者らが発見した膜透過型オートファジーであり,これらの経路ではそれぞれRNA とDNA が直接的にリソソームに取り込まれ分解される.これまでの著者らの研究結果から,RDA を仲介する蛋白質としてリソソーム膜蛋白質LAMP2C とSIDT2 が明らかとなった.LAMP2C とSIDT2 は,それぞれ核酸の受容体とトランスポーターとして機能するというモデルが考えられている. -
クリノファジー ─分泌顆粒とリソソーム膜の膜融合
272巻9号(2020);View Description
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細胞内で合成されたペプチドホルモンや神経伝達物質は一時的に分泌顆粒内に貯蔵され,必要時に放出される.そのため,不必要になった分泌顆粒は細胞内分解する必要がある.クリノファジーは分泌顆粒膜とリソソーム膜を直接膜融合することでホルモンや神経伝達物質を分解するオートファジーである.オートファゴソームを介さないため,マクロオートファジーとまったく異なる膜動態を示す.クリノファジーはあまり知れ渡っていないが,50 年ほど前に電子顕微鏡観察から発見されている.しかし遺伝学的な解析が進んでおらず,その関連遺伝子が長らくわかっていなかった.最近の研究から,クリノファジーに関わる分子機構が明らかになりはじめてきた.本稿では,分泌顆粒分解系であるクリノファジーの最新の知見について概説する. -
LAP(LC3‒associated phagocytosis)─オートファジー因子が関与する特殊なファゴサイトーシス
272巻9号(2020);View Description
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LC3 を含む一部のオートファジー因子が関わる特殊なファゴサイトーシスをLC3-associated phagocytosis(LAP)とよぶ.LAP は細菌や死細胞などにより誘導され,オートファジー因子は完成したファゴソームに局在することでファゴソームの成熟に寄与すると考えられている.LAP とオートファジーは膜の起源,電子顕微鏡像および分子メカニズムにより区別される.一方,LAP ではない“通常の”ファゴサイトーシスとの違いは,オートファジー因子の関与以外はっきりしていない.LAP は細胞外物質の効率的な分解,抗原提示,免疫反応の調節などに重要であると考えられており,さらにLAP 不全マウスが全身性エリテマトーデス様の病態を示すことから自己免疫疾患との関連が示唆され,にわかに注目が集まっている.本稿では,LAP の分子メカニズムと生理学的意義を概説する. - オートファジーと疾患
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オートファジーと神経変性疾患─パーキンソン病・SENDA を中心に
272巻9号(2020);View Description
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中枢神経の進行性神経細胞死を特徴とする疾患群は神経変性疾患と総称される.そのなかでパーキンソン病(PD)では,家族性PD 原因遺伝子の同定・機能解析によりマクロオートファジー,選択的オートファジーがその分子病態に関与することが明らかになっている.また,static encephalopathy of childhoodwith neurodegeneration in adulthood(SENDA)のようにオートファジー関連遺伝子変異によって直接的に神経変性を呈する疾患群の存在が,2013 年以降明らかになっていることから,オートファジーの機能異常がヒト神経細胞死に深く関与することは疑いない.本稿では,多くの知見を有する孤発性疾患の代表としてパーキンソン病,遺伝性疾患としてSENDA を中心に,分子病態メカニズムとオートファジーとの関連の最新の知見をreview する. -
オートファジーと神経変性疾患─筋萎縮性側索硬化症(ALS)と前頭側頭型認知症(FTD)を中心として
272巻9号(2020);View Description
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現在,ヒトゲノム研究の急速な進歩により,多くの神経難病の責任遺伝子や関連遺伝子が次々と同定されている.神経変性疾患のひとつである筋萎縮性側索硬化症(ALS)もその例外ではなく,現在までに50種類以上のALS 責任・関連遺伝子や,それら遺伝子における数多くの変異が見出されている.近年,このような分子遺伝学的研究に加え,遺伝子産物の分子機能解析により2 つの重要な点が明らかとなってきた.ひとつは,これまで別の疾患と考えられていた前頭側頭型認知症(FTD)がALS と共通した遺伝子変異により発症するということである.もうひとつは,ALS とFTD の責任・関連遺伝子群の分子機能はいくつかの特定の生理的機能を制御するグループに分類されるが,その中心的なものが“オートファジー・エンドリソソーム系”に関わっているということである. -
オートファジーとがん
272巻9号(2020);View Description
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マクロオートファジー(これ以降は単にオートファジーとする)は細胞成分をオートファゴソームにより隔離,リソソームへ輸送,そして分解するシステムである.オートファジーの生理機能は大きく分けて2 つ,“細胞内品質管理”と“細胞への栄養供給”であり,前者の障害は細胞の腫瘍化を引き起こし,後者の異常活性化はがん細胞の代謝要求性を満たす.さらに,宿主のオートファジーが腫瘍の増殖を支えることが明らかになってきた. -
オートファジーと代謝性疾患・腎疾患
272巻9号(2020);View Description
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わが国では食の欧米化や高齢化を背景に,糖尿病や腎臓病の有病率が増加の一途をたどっており,新規治療標的の探索を目的とした基礎研究が精力的に進められている.種々の病態におけるオートファジー活性の評価や,オートファジー欠損マウスを用いた病態モデルの解析から,オートファジーは糖尿病をはじめとする代謝性疾患や種々の腎疾患の病態の発症・進展機構と関連することが強く示唆されている.腎障害モデルを用いた検討では,腎におけるオートファジーが細胞保護的に働いていることが報告されており,糖尿病では,オートファジーの活性や調節機構は組織によって多彩であることがわかってきている.本稿では,糖尿病や各種腎疾患の病態進展におけるオートファジーの役割について,これまでの知見をもとに概説する. -
オートファジーと膵β細胞
272巻9号(2020);View Description
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インスリンを分泌する膵β細胞の機能不全は糖尿病の発症・進展と密接に関係しており,オートファジーが膵β細胞の恒常性維持に関して重要な役割を持つことが明らかとなっている.膵β細胞はインスリン合成を終生にわたって行う細胞であり,さらに時々刻々と変動する血糖に対する速やかな応答を実現する必要がある.こういった要求に応えるべく,膵β細胞にはコンベンショナルなマクロオートファジーのみならず,ATG5/7 非依存的オートファジーや,リソソームとの直接融合によるインスリン分泌顆粒の分解など,基質特異性や分子メカニズムの観点から多様性に富む分解機構が備えられている.膵β細胞は,さまざまな生理的意義を有する多彩なオートファジー機構が併存する興味深い存在であり,その全体像を解明することは哺乳類のオートファジーの全貌を理解することにつながると考えている. -
オートファジーと心疾患
272巻9号(2020);View Description
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心臓は安静時でもストレス下でも,たゆまぬ拍動によって全身の臓器の需要に応じて血液を送り出す重要な臓器である.心筋細胞にはミトコンドリアが豊富で,定常状態では拍動のためのATP のおよそ90%がミトコンドリアの酸化的リン酸化によって産生される.ミトコンドリアの機能はさまざまなメカニズムで維持されているが,選択的オートファジーであるマイトファジーは,酸化ストレスなどで障害を受けたミトコンドリアの除去に重要な役割を果たす.本稿では,心疾患におけるマイトファジーの役割と,マイトファジーの分子メカニズム,さらにはマイトファジーを標的とした治療の可能性について,最近の研究成果を紹介する. -
肝疾患の病態形成に関与するオートファジー
272巻9号(2020);View Description
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細胞の恒常性の維持においてオートファジーは必須の機構であるが,各種肝疾患の病態形成においても,オートファジーとの関連が見出されている.近年増加している非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は,肝細胞におけるオートファジー不全が肝障害や肝脂肪滴蓄積を引き起こす.アルコール性肝障害でも肝細胞オートファジー不全が認められ,肝障害増悪,脂肪滴増加などに寄与している.B 型慢性肝炎では肝細胞オートファジーが促進しており,亢進したオートファジー機構を利用してウイルスのエンベロープ化・放出が行われる.一方,C 型慢性肝炎では肝細胞のオートファジーが促進しているのか抑制されているのか,諸説が存在する.肝癌では,オートファジーによって癌細胞にかかる種々のストレスを回避して,癌細胞の生存を維持している.肝硬変は肝線維化が進行した状態であるが,線維化の中心的役割を果たす肝星細胞は,活性化刺激を受けるとオートファジーが促進して,肝線維化を進展させる.NAFLD などでは肝内のマクロファージのオートファジーは抑制され,炎症性サイトカイン分泌が増加し,肝障害や線維化増悪に寄与する.このように肝内のさまざまな細胞においてオートファジー機構は肝疾患の病態形成に寄与している. -
オートファジーと炎症性腸疾患
272巻9号(2020);View Description
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クローン病と潰瘍性大腸炎は原因不明の難病で,根治療法はいまだにない.遺伝因子や腸内細菌叢とともに環境因子が関与して発症すると考えられているが,詳細は不明である.ゲノムワイド関連解析(GWAS)において疾患と関連する遺伝子多型が200 種類以上同定され,そのなかにATG16L1 などオートファジーに関係する遺伝子が含まれていたことから,オートファジーが着目されるようになった.欧米のクローン病ATG16L1T300A 変異患者では,パネート細胞における抗菌ペプチド産生変化とともに予後に関係していることが示され,オートファジーが病態に深く関わっていると考えられている.しかし,日本人ではATG16L1T300A 変異に疾患特異性を認めておらず,他経路や環境因子などとの複合的な検討が必要である. -
オートファジーと寿命延長
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近年のモデル生物を用いた解析により,動物の老化や寿命は明確に制御されたプロセスであることがわかり,寿命延長に寄与するいくつかの独立した分子経路が明らかになっている.最近,これら多くの寿命延長経路で,細胞内の大規模分解システムであるオートファジーが共通して活性化しており,このことが寿命延長に必須なことがわかってきた.また,オートファジーの活性化が寿命延長,老化抑制に十分であるという報告もあり,これらの間に正の相関が認められる.一方,多くの動物でオートファジーの働きは加齢とともに低下することが知られているが,その要因はよくわかっていない.この要因を特定し取り除くことができれば最も自然な形で寿命の延長や健康寿命の延長が可能となるかもしれない.最近著者らは,この要因の一端がオートファジーの負の制御因子,Rubicon 蛋白質の増加にあることを見出した.事実,Rubicon を抑制するといくつかのモデル生物において寿命の延長や加齢性の表現形改善がみられた.ここでは,著者らの最新の成果も交え,さまざまな寿命延長経路でのオートファジーの関与とその制御機構や役割について,現在までの知見を紹介したい. - オートファジーの先端技術
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三次元電子顕微鏡法
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オートファゴソームの電子顕微鏡観察は今日においても有用な解析法であるが,通常の二次元レベルの1 枚の電子顕微鏡観察では,オートファゴソームではない構造物をオートファゴソームと見誤る場合もありうる.さらに,隔離膜とオートファゴソームの区別,さらにはオートファゴソーム膜の由来の検討も困難である.電子顕微鏡レベルの三次元構造の可視化はオートファゴソームの同定およびその膜の由来の解明にきわめて有用であり,実際に連続切片観察や電子線トモグラフィ法が利用されてきた.近年では,走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて透過型電子顕微鏡(TEM)観察に近い像の取得が可能となり,三次元電子顕微鏡法は大きな広がりをみせており,利用頻度は高まっている.本稿では,オートファゴソームの観察における三次元電子顕微鏡法の重要性と,さまざまな三次元電子顕微鏡法の原理と用途について概説するとともに,オートファゴソームを観察するにあたっての今後の課題についても触れたい. -
オートファジー研究におけるプロテオミクス
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近年,LC-MS/MS などの質量分析計を用いたプロテオミクス技術の発達が著しい.オートファジーの領域においてもオートファジー関連因子の同定やその修飾の分析,網羅的な定量など,さまざまな手法を駆使して研究が展開されている.ほとんどのオートファジー関連因子が同定された現在,それら蛋白質の詳細な機能解析やオートファジーの生理的意義の解明において,飛躍的な技術革新を伴い,ますますプロテオミクスの重要性が増してくる可能性が高い.本稿では,オートファジー研究におけるプロテオミクス技術の使用例および,最新のプロテオミクス技術について概説する. -
飢餓代謝におけるオートファジーの役割の解明へむけて─メタボローム解析によるアプローチ
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顕微鏡観察によるオートファゴソームの発見と,それを捉えた美しい画像は,見る者にこの細胞内小器官が飢餓時の細胞のエネルギー代謝に必須であると印象づける.しかし,栄養欠乏に対して細胞は迅速な応答システムをいくつも有しており,オートファジーの時間的,質的,量的な飢餓代謝に果たす役割には解明の余地がある.すなわち,典型的なマクロオートファジーからはどれくらいのアミノ酸,核酸,脂質が供給されているのであろうか.栄養飢餓に応答した転写/翻訳調節,ユビキチン-プロテアソーム系を介した代謝調節とどのように協働しているのであろうか.さらに異なる代謝要求性を示す細胞種間では,オートファジーからの栄養供給依存性に,どれほどの差異があるのであろうか.発展著しい先端的なメタボローム解析系を用いて,飢餓代謝におけるオートファジーの役割を,経路横断的に,かつ定量的に評価することが喫緊の課題であると考え,本稿ではその可能性を論じたい. -
マクロオートファジーの化合物による制御─創薬をめざして
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オートファジーは細胞内分解を通じて恒常性維持に貢献し,その機能不全は老化や疾患につながる.ラパマイシンをはじめ多くのオートファジー誘導剤が知られているにもかかわらず,オートファジーに基づく医薬開発は進んでいない.本稿では創薬における問題点を概説し,新しいアプローチも紹介する.
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