医学のあゆみ
Volume 273, Issue 3, 2020
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特集 消化器疾患に対する内視鏡治療の最前線─機能性疾患から悪性腫瘍まで
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食道良性疾患に対する最新の内視鏡的治療と新展開
273巻3号(2020);View Description Hide Description食道良性疾患の治療にあたり,従来の外科手術を非外科治療(内視鏡治療)で行うことには,患者側の高いニーズがある.治療効果を損ねることなく,低侵襲性を追求することが強く望まれる.その方向性から生まれてきた手技に,食道アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開(POEM)と,難治性胃食道逆流症(GERD)に対する内視鏡的噴門唇形成術(ARMS)ある.それから派生した内視鏡治療法として,経口内視鏡的筋腫核出術(POET),ARMA(anti-reflux mucosal ablation)がある.本稿では,これらを概説する.また,内視鏡技術として最も高度なpure NOTES(natural orifice transluminal endoscopic surgery)の臨床であるPOEM+F(POEM+fundoplication)がある.将来展望を交えて報告したい. -
胃癌内視鏡治療の最前線
273巻3号(2020);View Description Hide Description内視鏡治療の適応となる胃腫瘍は主として上皮性腫瘍(腺腫,早期胃癌)である.これらに対する内視鏡治療を総称し,内視鏡的粘膜切除とよばれる.内視鏡的粘膜切除は粘膜および粘膜下層を切除・回収する手技であり,外科的切除に比べて低侵襲で臓器機能の温存が可能であり,術後QOL 向上の観点からも有益な治療法である.現在,胃上皮性病変に対する内視鏡治療はポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)のいずれかによって行われることが多い.そして,早期胃癌においては多くがESDによって治療される.胃ESD が臨床応用されてから現在に至るまでにさまざまな工夫が試みられ,開発当初と比べると飛躍的な進歩を遂げている. -
十二指腸腫瘍の内視鏡切除
273巻3号(2020);View Description Hide Description上部内視鏡スクリーニング時に非乳頭部十二指腸上皮性腫瘍(SNADET)を発見する機会は増加している.一方で,十二指腸壁は薄く,スコープの操作性も不良であり,胆汁・膵液の曝露もあるため,術中,術後の偶発症のリスクが高いことが報告されている.最近,新しい内視鏡治療の方法として,underwater endoscopicmucosal resection(UEMR)とcold polypectomy(CSP)が報告され,とくに比較的小型のSNADET は安全,確実な治療法として注目されている.また,SNADET に対する内視鏡的粘膜下層剝離術(ESD)はいまだに高い偶発症が問題となるが,粘膜下層の剝離の際にスコープからのウォータージェットを用いて視認性を向上させるwater pressure method や,切除後の粘膜欠損部を完全に縫縮することにより,その成績は改善傾向にある. -
胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)と内視鏡的全層切除(EFTR)
273巻3号(2020);View Description Hide Description胃粘膜下腫瘍(SMT)に対する低侵襲な機能温存手術法として開発された腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)は,2014 年の保険収載以降,SMT の標準的な術式のひとつとしてその地位をほぼ不動のものとしている.経口内視鏡にて病変を正確に視認しながら必要最小限の範囲で切除範囲を策定し,内視鏡と腹腔鏡の協調作業で病変を全層で切除,欠損部を腹腔鏡で確実に閉鎖することで,過不足のない局所切除を安全・確実に行うことが可能となる.現在では,上記の手技(classical LECS)のほかCLEAN-NET やNEWS などの非開放性術式も考案され,占居部位や大きさ,潰瘍の有無など病変の特徴に応じて適切な術式が選択されている.一方で,病変切除部を内視鏡的に確実に閉鎖することができればすべての行程を内視鏡のみで完遂できることから,海外の先進施設では内視鏡的全層切除(EFTR)が積極的に試みられている.わが国でも内視鏡的閉鎖法の開発とともに安全なEFTR の確立へ向けた動きがみられており,“さらなる低侵襲内視鏡治療開発”の課題のひとつとして注目されている. -
超音波内視鏡を用いたドレナージ術の種類と手技の実際
273巻3号(2020);View Description Hide Description超音波内視鏡(EUS)を用いたドレナージ術は,1992 年に膵仮性囊胞に対してはじめて行われて以降,手技やデバイスの研究,開発が進められてきており,わが国においては,2012 年に超音波内視鏡下瘻孔形成術として保険適用となり,広く行われるようになった.EUS 下ドレナージ術の主なものとしては,①腹腔内膿瘍や膵仮性囊胞に対する超音波内視鏡下囊胞ドレナージ術(EUS-CD),②閉塞性黄疸などに対する超音波内視鏡下胆道ドレナージ術(EUS-BD),③膵管閉塞に対する超音波内視鏡下膵管ドレナージ術(EUS-PD),の3 つがあげられ,各手技の実際と注意すべき偶発症に関しては本文に詳述する.本手技は永続的な経皮的ドレナージや侵襲性の高い外科手術を回避しうるすばらしい手技である一方,偶発症の発症率が高く,ほかの内視鏡手技に比べ危険性が高い.そのため,初回実施前には安全施行への診療ガイドラインを参考とし,経験豊富な施設で見学,研修を行うことが望ましい. -
超音波内視鏡ガイド下胃空腸吻合術 ─ 最近の動向とEPASS
273巻3号(2020);View Description Hide DescriptionGastric outlet obstruction(GOO)に対する超音波内視鏡ガイド下胃空腸吻合術(EUS-GJ)は,従来行われてきた外科的治療や十二指腸ステント留置術の欠点を補う新しい低侵襲性の治療法として期待されている.とくに,EUS-GJ はAXIOSTMステントの登場により課題であった実行可能性が飛躍的に向上し,現在,治療の確立に向けた研究が活発に行われている.著者らが開発した,EUS ガイド下ダブルバルーン閉塞下胃空腸吻合術(EPASS)は穿刺目的腸管の安定した描出能により確実な穿刺が可能で,高い手技成功率,短い処置時間,安全性の確保と,良好な成績が得られている. -
Cold polypectomy─小さいポリープ切除における大きな革命
273巻3号(2020);View Description Hide Description大腸ポリープの切除が大腸癌を抑制することは周知の事実であり,通電せずに大腸ポリープを切除するcold polypectomy は出血,穿孔などの有害事象の危険性がきわめて低い安全な治療として,近年急速に普及した.Cold polypectomy には,①鉗子を用いるcold forceps polypectomy(CFP)と,②スネアを用いるcoldsnare polypectomy(CSP),がある.いずれも従来の通電するhot snare polypectomy と比べて出血のリスクが低く,抗凝固療法を継続しての治療も可能である.CFP は適応を3 mm 程度までとし,カップ径の大きいジャンボコールドポリペクトミー鉗子を用いれば有用である.CSP は10 mm 未満の非有茎性病変が適応だが,浸潤の可能性が否定できない癌を疑う病変は適応とするべきではない.安全なcold polypectomy には,注意深い術前診断による適切な病変の選択が肝要である. -
大腸ポリープ切除後サーベイランスの現状と展望─Japan Polyp Studyを踏まえて
273巻3号(2020);View Description Hide Description内視鏡的大腸ポリープ切除後のサーベイランス大腸内視鏡検査(TCS)間隔については,米国や欧州からリスク層別を組み込んだガイドラインが提唱されている.日本では,“ポリープ切除後3 年以内のサーベイランスTCS を提案する”という記載にとどまっており,切除ポリープの結果に基づいて検査間隔を変えるといったリスク層別は導入されていない.現在作成中の“大腸内視鏡スクリーニングとサーベイランスガイドライン(日本消化器内視鏡学会)”により,今後日本でもリスク層別を組み込んだサーベイランス法の意識が高まり,将来的にはJapan Polyp Study(JPS)コホートから創出されるエビデンスに基づいた独自性のあるポリープ切除後サーベイランスプログラムの確立が期待される.
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連載
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- 診療ガイドラインの作成方法と活用方法 18(最終回)
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英国NICE診療ガイドラインの特徴と作成方法─経済評価との統合を中心として
273巻3号(2020);View Description Hide DescriptionNICE 診療ガイドラインでは,経済学的研究の系統的レビューが必須とされ,十分なエビデンスが得られない場合に重要なクリニカルクエスチョンについては新規の経済学的判断分析モデリングを行うこととなっている.また,NICE ガイドラインは扱うトピックが幅広い分野をカバーし,個々のガイドラインが扱う内容も,幅広い,透明性が高いなどの特徴を持つ.1 ガイドラインあたりの予算は48 万ポンドで,常勤のシステマティックレビューワー,医療経済学者,アシスタントなどによりエビデンスが収集・評価され,記述される.わが国においてもガイドライン作成の基盤への公的な投資が必要と思われる. - 老化研究の進歩 7
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老化とエピジェネティックドリフト
273巻3号(2020);View Description Hide Description1 年ずつ年を重ねていく加齢は誰にも等しい時間経過であるが,性成熟後に生理機能が低下(老化)していく速度は,個体によって違っている.ゲノム素因に加え,成長の間の生活習慣(栄養,ストレス,飲酒,喫煙など)によっても老化のプロセスは左右され,したがって,誕生から死ぬまでの寿命が異なってくる.また,生物種によって寿命に多様性があることが知られているが,種を超えて,カロリー制限が老化速度に影響を与えることも興味深い.生命活動の根幹は遺伝情報(ゲノムとエピゲノム)の調節と密接に連関しているため,一塩基置換(SNPs)を含むDNA の変化などのゲノム情報に加え,DNA メチル化やヒストン修飾から構成されるエピゲノム情報の重要性と老化の関係が注目されている.そこで本稿では,エピゲノム情報のなかでもエピジェネティックドリフトに着目し,老化との関わりについて,最近の研究動向と今後の展開について概説したい.
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TOPICS
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- 細胞生物学
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- 薬理学・毒性学
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- 癌・腫瘍学
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FORUM
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- 病院建築への誘い ─ 医療者と病院建築のかかわりを考える
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特別編 ─ 国のかかわる病院建築
273巻3号(2020);View Description Hide Description本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます. - 医療社会学の冒険 24
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