Volume 273,
Issue 5,
2020
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【5月第1土曜特集】 治療標的としてのがん幹細胞
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医学のあゆみ 273巻5号, 353-353 (2020);
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がん幹細胞維持機構:総論
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医学のあゆみ 273巻5号, 356-361 (2020);
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がんの薬剤耐性は病巣の進展・再発を導き,根治を阻む障壁となっている.薬剤耐性には,①治療初期から観察される自然耐性と,②はじめは奏効していたがやがて不応となる獲得耐性がある.多くのがん種において,不均一な腫瘍組織内には高い自己複製能と腫瘍源性を有する“がん幹細胞”が存在することが示されている.がん幹細胞は薬剤や放射線への抵抗性が強く,たとえ治療が奏効したとしても,がん幹細胞を駆逐することができなければ再発を招くと理解されている.殺細胞性制がん剤や分子標的薬に対するがん幹細胞の耐性機序としては増殖の休止性,薬剤排出トランスポーターの発現亢進,DNA 修復系・酸化ストレス防御因子の活性化,アポトーシス耐性に寄与する細胞生存因子の発現などがあげられる.がん幹細胞は免疫チェックポイント阻害薬にも抵抗性を示すことが示唆されている.がん幹細胞を標的とする薬剤としては,治験中のSTAT3 阻害薬やMELK 阻害薬などさまざまなものがあり,開発の成否が注目されている.
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医学のあゆみ 273巻5号, 362-367 (2020);
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がん幹細胞は,それを取り巻く腫瘍内の微小環境を巧みに利用してがん幹細胞らしさを保ち,生存している.造血幹細胞が骨髄内の狭い間隙(ニッチ)で維持されることから,がん幹細胞を取り巻く微小環境においても“ニッチ”という言葉が使われている.乳腺などの固形がんにおいては,形態学的ニッチは存在しないが,機能的ニッチは存在する.がん幹細胞ニッチを構成するニッチ細胞は,がん幹細胞の子孫である分化したがん細胞,がん間質細胞,免疫細胞,血管内皮細胞などである.がん幹細胞およびニッチ細胞は,さまざまなサイトカインなどを産生し,相互作用を行うことによって,がん幹細胞が維持されている.ニッチを標的とした治療をめざして,世界中で研究が活発に行われている.
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医学のあゆみ 273巻5号, 368-374 (2020);
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生物の遺伝情報はゲノムDNA に刻まれているが,それだけではさまざまな生命現象を理解することはできない.多様な生命現象を説明するためには,DNA の設計図をもとに遺伝子の働きを決める仕組みである“エピジェネティクス”を理解する必要がある.これまでのさまざまな研究により,がん幹細胞の生成,維持,増殖にもエピジェネティクスが密接に関わっていることが明らかとなってきた.エピゲノム制御因子の変異はがん発症過程の早期に入ることが多く,それによるエピゲノムのわずかな変化が,がん幹細胞の出現につながる.完成したがん幹細胞は多くの場合,正常幹細胞を支えるエピゲノム制御機構をハイジャックして,自らの幹細胞性を維持している.がん幹細胞の維持,増殖はエピジェネティクスの微妙なバランスの上に成り立っており,これを標的とするエピジェネティック治療には大きな可能性がある.本稿では,エピジェネティクスの基本的な分子基盤とがん幹細胞を支えるエピゲノム制御機構について,最新の知見も交えて解説する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 375-379 (2020);
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遺伝子解析における技術革新により,発がんに関与するがん遺伝子,がん抑制遺伝子の発現量の多寡,コーディング領域の遺伝子変異についての知見が蓄積されてきた.加えて,遺伝情報がpre-mRNA からメッセンジャーRNA(mRNA)へと精製される過程においては,5′ 末端におけるキャッピング,イントロンを取り除くスプライシング,3′ 末端におけるpoly(A)tail の付加などのRNA プロセッシングとよばれる転写後調節が重要な役割を果たしている.ほかにもRNA 編集やmRNA の安定性の調節が制御され,細胞内の恒常性が維持されている.このようなRNA レベルでの遺伝子制御機構はあらゆる腫瘍において脱制御が認められ,DNA 配列に異常を認めない遺伝子であっても発がんに寄与しうることが報告されるようになった.このような制御機構は現在,新たな治療標的として新規薬剤の開発が臨床応用の段階に進んでおり,今後の発展が期待されている.
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がん幹細胞を支える多様なシグナル/メカニズム
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医学のあゆみ 273巻5号, 382-388 (2020);
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造血幹細胞は一生にわたって血液の恒常性を維持しているが,造血幹細胞制御の破綻は造血不全や腫瘍化を引き起こす.造血幹細胞制御に影響を及ぼすさまざまなストレスが報告されてきたが,食餌が造血幹細胞の制御機構にどのような影響を及ぼすのかについては,これまで知られていなかった.最近著者らは,RAS-RAF-MAPK シグナルおよびRhoA-ROCK シグナルを抑制的に制御しているSpred1 が,高脂肪食を摂取したマウスにおいて,造血幹細胞の恒常性を維持し白血病化を抑制するために必須であることを明らかにした.さらに,高脂肪食による白血病化には腸内細菌叢の変化が関与していることが示唆された.これらのことから,高脂肪食摂取によって引き起こされるストレスは,Spred1 による造血幹細胞制御シグナルに作用し,造血システムの恒常性維持と白血病化に影響を与えることが示された.
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医学のあゆみ 273巻5号, 389-396 (2020);
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乳がん幹細胞は周囲の乳がん細胞(非がん幹細胞)と比べてストレス抵抗性を示し,高い造腫瘍能を持つ.ホルモン受容体やERBB2 過剰発現がみられないbasal-like 乳がんにおいて非古典的NF-κB(nuclearfactor κB)経路の恒常的な活性化がJAG1-Notch シグナルによる細胞間相互作用を介して乳がん幹細胞を維持する.一方で,乳がんの起源である正常乳腺上皮細胞においては受容体RANK(receptor activatorof NF-κB)によって活性化された古典的NF-κB は抗アポトーシス因子を,非古典的NF-κB はサイクリンD1 の発現を誘導して細胞の生存と増殖を担う.本稿では,転写因子NF-κB による乳がん幹細胞維持機構について,正常な乳腺組織に含まれる未分化な乳腺上皮細胞の維持機構との相違点に注目して概説する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 397-403 (2020);
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これまでのがん治療では,がん細胞の高い増殖活性を標的とした治療法によって患者の生命予後を改善してきた.しかし,がん細胞中には増殖活性の低いがん幹細胞が存在して再発や転移の原因となる可能性が示され,このがん幹細胞を根絶する治療法の開発が求められている.幹細胞の階層性に基づくがん幹細胞説では,正常組織幹細胞と類似の未分化性を有するがん幹細胞が多くのがん細胞の起源になると考えられてきた.また近年,がん微小環境シグナルががん幹細胞の可塑性を引き起こすとするコンセプトも提唱されている.フォークヘッドO 型転写因子FOXO はがん幹細胞の自己複製能の維持に重要な役割を担っており,がん微小環境由来のTGF-β-Smad3 やWnt-β-カテニン経路との相互作用を介してがん幹細胞の未分化性を制御している.そのため,FOXO はがん幹細胞自身のみならず,がん微小環境シグナルを標的とするがん幹細胞の治療法を開発するうえで,重要なターゲットに位置づけられる.
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医学のあゆみ 273巻5号, 404-409 (2020);
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骨髄性造血器腫瘍は,遺伝子異常に伴ってがん幹細胞化した造血幹細胞(HSC)や造血前駆細胞(HPCs)が原因となって発症する悪性腫瘍である.さまざまな因子がHSC および骨髄性造血器腫瘍のがん幹細胞制御に関わるが,低酸素環境の骨髄に存在するこれらの細胞において低酸素誘導性因子(HIF)の果たす役割は大きい.また炎症や老化,代謝異常,遺伝子異常など,低酸素によらないHIF シグナルの活性化機構(pseudohypoxia)は,腫瘍クローンにおけるHIF のさらなる活性化を招く.骨髄異形成症候群(MDS)などさまざまな骨髄性造血器腫瘍において,HIF シグナル経路の活性化が病態形成や進展,治療抵抗性に及ぼす影響が明らかになりつつある.高齢化に伴い患者数が増加している骨髄性造血器腫瘍に対して新たな治療戦略の構築が切望されているなか,HIF シグナル経路が治療標的となりうるかについて,今後さらに検証していく必要がある.
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医学のあゆみ 273巻5号, 410-414 (2020);
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RB1 変異が発がんの最初の一歩となるがん種は意外なほど限られていて,多くのがん腫においてはその悪性進展とRB1 の不活性化が相関する.がん悪性進展のコンテクストにおいてRB1 機能を探索したところ,細胞周期や最終分化の制御に加え,細胞未分化性制御,薬剤耐性制御,代謝制御,がん微小環境制御などの働きが判明した.さらに,さまざまな研究によって,RB1 が胚性・体性幹細胞の恒常性の維持に大きく寄与することも判明した.本稿では,これらの発見を踏まえ,RB1 の機能喪失ががん幹細胞の生成・維持にどのように貢献するかを論じる.
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医学のあゆみ 273巻5号, 415-419 (2020);
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がん細胞は正常細胞とは異なった代謝経路を積極的に活用し,エネルギー産生や脂質・核酸・アミノ酸合成を行うことでがん組織の維持・増殖を行うことが知られている.Otto Warburg による発見以降,がん細胞は一律に好気的解糖を好むと理解されていたが,質量分析による網羅的メタボローム解析法や酸素消費を指標とした細胞・組織レベルでの代謝解析法などの技術的進歩により,がん種,遺伝子変異の違いや病期の進展の過程においても,代謝特性が異なることが明らかになってきた.著者らは,分岐鎖アミノ酸(BCAA)のアミノ基転移酵素BCAT1 が,BCAA の産生促進を介して慢性骨髄性白血病(CML)の悪性化に働くことを発見した.BCAT1 の遺伝子発現は病期進行に伴って上昇し,その機能を阻害するとがん幹細胞画分が減少して白血病による死亡率が低下した.この発見は,がん幹細胞性がBCAA 産生亢進をもたらす代謝リプログラミングによって直接制御されることを示している.近年,BCAT1 のみならず,BCAA を取り込むトランスポーターやBCAA 分解酵素が腫瘍維持に重要であることが報告されており,BCAA 代謝リプログラミングは,さまざまながん種において保存された経路であることが考えられる.すなわち,BCAA は単にタンパク質合成の材料としてだけでなく,幹細胞の機能や性質を制御する生理活性物質であるといえる.
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医学のあゆみ 273巻5号, 420-423 (2020);
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マイクロRNA(miRNA)は22 塩基程度の非コード一本鎖RNA であり,標的とするメッセンジャーRNA(mRNA)に結合することで,そのmRNA の翻訳を抑制する機能を持つ.したがってmiRNA は翻訳調節因子として細胞の性質維持に重要な因子である.がん組織のなかにはがん幹細胞とよばれる浸潤転移や治療抵抗性,造腫瘍能などのがんの悪性形質を担うがんの親玉的存在の細胞が存在すると考えられている.近年,miRNA はがん幹細胞の悪性化に関わることが明らかになっている.すなわち,浸潤転移や治療抵抗性,造腫瘍能といったがん幹細胞の性質の維持にmiRNA が重要な役割を果たすことが多数報告されている.本稿では,このmiRNA を用いたがん幹細胞の形質転換によるがん幹細胞治療技術の開発や,miRNA の塩基修飾に着目したがんの新規診断法の開発について紹介する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 424-429 (2020);
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がんの転移・再発を防ぐ治療法の開発は重要な課題であり,そのためにはがんの本質を理解することがきわめて有効な手段となる.がん幹細胞は無限増殖能,自己複製能および多分化能といった成体幹細胞と類似する特性を持ち,がんの進行・再発の主な要因であると考えられている.さらに,がん幹細胞は細胞増殖期をターゲットとした薬剤に耐性を示し,化学療法による治療を困難にしている.注目すべきことに,がん進行の要因として鉄の過剰蓄積があげられており,厳密に調節されるべき細胞内の鉄の恒常性ががん細胞では破綻している証拠が多数報告されている.これは,細胞内鉄代謝経路に関わる遺伝子が,がんの治療標的となり,新たな治療戦略につながる可能性を示している.また近年,がん幹細胞性の維持と鉄代謝との関連も示唆されており,本稿では細胞内の鉄代謝とがんの成長・進行,がん幹細胞性の維持との関係を概説する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 430-435 (2020);
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遺伝子発現調節機構において,DNA メチル化やヒストンのアセチル化のような変化は,DNA 配列の変化を介さないエピジェネティックな遺伝子制御機構として,がん幹細胞との関連性も示されてきた.一方,アセチル化に加え,よりかさ高い構造を有するアシル化によるヒストン修飾も存在することが近年多数報告されている.これらのヒストンアシル化は,アセチル化よりも大きくクロマチン構造の変化をもたらすことが示されており,ヒストンコードにさらなる複雑性を付与している.これらのヒストンアシル化制御に関与するタンパク質にはがん幹細胞に必須の因子も含まれており,今後も注目すべき研究対象であると考えられる.さらに,ヒストンアシル化は細胞内代謝環境によって直接的に影響を受けうる制御機構を持っており,近年研究が進んでいるがん幹細胞と代謝についての主要なアウトプットのひとつであることが示唆されている.本稿では,ヒストンアシル化についてのこれまでの研究進展状況を解説する.
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がん幹細胞の理解に向けた新技術開発とその応用
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医学のあゆみ 273巻5号, 438-442 (2020);
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がん幹細胞はがん細胞集団のなかでもとくに自己複製能力が高く,分化刺激,抗がん剤への曝露を経ても腫瘍形成能力を失わない細胞集団であると捉えられる.自己複製能力が高いとは,幾多の細胞分裂を経ても,幹細胞性を規定する遺伝子群の発現を活性化しつづける能力が高いということを示唆する.近年,遺伝子の発現はヒストンアセチル化酵素に代表される“エピジェネティック因子”によってコントロールされていることが明らかにされつつある.ヒストンのアセチル化は遺伝子発現の活性化に必須であり,がん細胞が幹細胞性を維持するために重要な役割を果たしていると予想され,事実,ヒストンアセチル化酵素の遺伝子異常が発がんに関与することが明らかになりつつある.本稿では,ヒストンアセチル化酵素の遺伝子異常が,がん幹細胞を生み出すメカニズムについて,最近の知見を交えて紹介する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 443-449 (2020);
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ゲノム編集が現在のように広く普及する前の哺乳類遺伝学は,マウスを使った遺伝学か培養細胞におけるRNA interference(RNAi)が主な方法であった.RNAi 技術は細胞種を選ばないことからヒト細胞においても広く適用されたが,ときに表現型の解析に問題があった.ZFN,TALEN そしてCRISPR と進化してきたゲノム編集技術を用いることで,さまざまな細胞種のゲノムを正確に改変することができるようになり,遺伝学的研究手法に革新が起こっている.著者のグループは,全遺伝子のノックアウト細胞を作製し,そこから着目する表現型を示す変異体を分離,遺伝子を同定する順遺伝学的手法の開発に取り組んできた.CRIPSR を適用することで網羅的遺伝子破壊が簡便かつ高効率に行えるようになり,遺伝子スクリーニングにも革新がもたらされた.幹細胞のさまざまな表現型に着目したスクリーニングをデザインすることで関与する遺伝子を網羅的に同定し,効率的な遺伝子機能解析が可能である.本稿では,これまでに行った幹細胞を用いたスクリーニングに関して,その方法を紹介する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 450-459 (2020);
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がん免疫療法の領域では,患者由来のT 細胞を体外で遺伝子改変して患者に投与する養子免疫療法の有効性が示されている.しかし,体外でT 細胞を培養すると疲弊しやすいという問題がつきまとっている.さらに,養子免疫療法は主に自家移植の系で行われているために,コストや時間がかかるなどの問題も残されている.これらの障壁を乗り越えるために,iPS 細胞技術を用いてT 細胞を再生する戦略が,複数のグループによって進められている.著者らは,特定のT 細胞レセプター(TCR)遺伝子をiPS 細胞に導入する方法(TCR-iPS 細胞法)を用いて,がん遺伝子として知られるWT1 抗原を標的に研究を進めてきた.固形がんへの応用をめざした研究では,WT1 抗原陽性腎がんの患者組織移植モデルで,再生T 細胞による治療効果を確認した.本稿では,他のグループによるさまざまな種類のT 細胞をiPS 細胞から再生する試みや,樹状細胞あるいはマクロファージなどを用いた戦略も紹介する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 460-464 (2020);
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多発性骨髄腫(MM)は,形質細胞の腫瘍性増殖を主徴とする難治性血液がんである.Myeloma-initiatingcell は形質細胞中に存在することが示された.一方,CD19+骨髄腫前駆細胞の臨床的意義はいまだに不明だが,再発の一因となっている可能性はある.したがって,骨髄腫の根治をめざすには上記の両方の分画を排除しうる標的が望ましいと考えられる.キメラ抗原受容体(CAR)T 細胞は,がん特異的抗原を認識して活性化し,がん細胞を傷害する.CD19 を標的としたCAR T 細胞はB 細胞性白血病・リンパ腫に対して高い効果を示し,2020 年,わが国でも承認された骨髄腫細胞にはCD19 は発現していないため,他の抗原に対するCAR T 細胞が試みられており,すでにB 細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR T細胞の有効性が報告されている.しかし根治は困難であり,さらによい標的を求めた探索が続いている.そのようななかで著者らは,活性化インテグリンβ7 に特異的なCAR T 細胞が有効である可能性を示し,その臨床開発を進めている.
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医学のあゆみ 273巻5号, 465-468 (2020);
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従来の二次元平面培養に替わる培養法として,臨床検体由来のがん細胞を対象としたオルガノイド培養やスフェロイド培養などの三次元培養法の重要性が認識されてきている.これらの三次元培養法は,オリジナル腫瘍の有する分化能やがん幹細胞特性を保つと考えられ,従来型の二次元平面培養よりもがんの生物学的特性をより忠実に反映すると考えられる.がん三次元培養法のなかでも,オルガノイド培養法は最近さまざまな固形がんの培養に応用されているが,細胞間質を模倣する培地中で生体内のがん組織に近い特徴を再現できると考えられ,最適な抗がん剤の選択などへの臨床応用が期待される.一方,スフェロイド培養は正常組織,またはがん組織中の幹細胞特性を有する細胞を選択的に増殖しうる培養法として発展してきた.がん組織中に存在するがん幹細胞は治療抵抗性,転移能などとの関連が強く示唆されており,がんスフェロイドの解析を通じて,これらのがん難治性の解明に貢献することが期待される.これらの培養法を通じた臨床応用への展開について概説する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 469-473 (2020);
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最近のメタボローム解析を含めたオミクス技術の革新に伴い,がん幹細胞の代謝研究も進んできた.その結果,がん幹細胞が代謝可塑性を有しており,放射線や化学療法などの酸化ストレスに対して代謝を柔軟に切り替えて対応しているのではないか,という仮説が提唱されるようになってきた.本稿ではメタボローム解析を用いて,がん幹細胞の代謝研究に取り組んだ例を紹介するとともに,がん幹細胞の代謝可塑性についても議論する.
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医学のあゆみ 273巻5号, 474-479 (2020);
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がん幹細胞は浸潤・転移,術中診断・放射線治療・化学療法への抵抗性など,あらゆるがんの悪性形質に深く関与することが知られ,きわめて重要ながんの治療標的として,その臨床的重要性が確立されている.一方,その制御によるアウトカム,すなわち,がんの根治はいまだ達成されていない.とりわけ,微小環境(ニッチ)はがん幹細胞の制御に重要な手がかりと考えられているが,その構成要素はきわめて多岐にわたることから,新たな着想に基づくアプローチ法の開発が必要と考えられる.近年,再生医療分野においてヒトES/iPS 細胞やマウス造血幹細胞の長期維持など,幹細胞に直接作用する機能性高分子化合物(合成ポリマー)の存在が報告されている.著者らは,エジンバラ大学材料化学分野との国際共同研究により,がん幹細胞ニッチを擬態するポリマー(人工ニッチ)を探索し,その作用機序からがん幹細胞の維持機構を明らかにする新たな研究手法を確立した.このような異分野融合の研究開発を進めることが,がん研究・がん医療の今後の発展において重要と考える.