医学のあゆみ
Volume 273, Issue 10, 2020
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【6月第1土曜特集】 マクロファージの功罪─疾患病態誘導と制御におけるマクロファージの役割
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- 臓器不全
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疾患特異的マクロファージの機能的多様性
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionマクロファージは100 年以上前に発見された細胞であるが,他の免疫細胞とは異なり,サブタイプ(亜種)はないと考えられてきた.しかし近年のさまざまな研究の進歩により,マクロファージは疾患の発症に関与するさまざまなサブタイプが存在することがわかりはじめてきた.今回,著者らは,線維化の発症時期に患部に遊走するマクロファージのサブタイプに着目し,線維症の発症に関わるマクロファージの新しいサブタイプを同定した.また,そのサブタイプが線維化期に非免疫系から受ける影響,また非免疫系で起こっている現象との関係性を明らかにしたので,これまでのマクロファージサブタイプの研究も含めて報告する. -
腎不全とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Description腎臓は体液量や電解質の調節などを介して全身の恒常性をつかさどる臓器である一方で,血液濾過装置として機能しており,たえずさまざまな抗原に曝露される.この組織学的特性を生かし腎間質に存在する組織常在性マクロファージは血液中を循環する小分子を監視し,有害物質を除去する役割を担う.一方,障害にて腎臓に炎症が起こると血中から遊走した単球が腎臓でマクロファージへと分化し,微小環境に応じて多様な形質を獲得し,腎臓病の病態形成に重要な役割を果たす.また近年の研究成果より,組織常在性マクロファージも障害時には発生時の組織形成プログラムを再獲得して組織修復を促進することも報告されており,マクロファージの細胞学的起源と機能による多様性が徐々に明らかにされてきている.本稿では腎臓におけるマクロファージについて,その生理的な役割と病態における多様な役割について最新の知見を踏まえ概説する. -
心不全とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Description心臓には恒常的に組織マクロファージが存在する.組織マクロファージは心臓の正常機能を支えている.心筋梗塞などのストレスに対しては,単球由来マクロファージも集積し,炎症による傷害組織の処理と,それに続く組織修復を実行する.一方で,マクロファージは炎症,線維化やリモデリングを進めて心機能を障害する側面も持ちうる.このような一見相反するマクロファージの作用は,環境に応じた幅広い機能変化によるものであり,心臓マクロファージの生理的・病理的機能を理解するためにはマクロファージの機能多様性が鍵となる. -
肝疾患・肝線維化とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Description肝臓には定常状態から多数の組織常在性マクロファージであるクッパー細胞が存在するが,肝障害時には骨髄由来の浸潤性マクロファージが増加し,組織内の細胞構成やサイトカイン産生状況はダイナミックに変化する.さまざまなストレスによる肝細胞障害・細胞死がマクロファージを活性化し,ストレスの持続に応じて急性・慢性炎症を基盤とする病態を形成する.急性肝障害においては急性期に炎症促進性マクロファージが増加し,肝細胞へのストレスが除去されると組織修復性マクロファージへと変化する.慢性肝障害では成因に応じて死細胞の特性が異なり,肝細胞にストレスが持続的に加わることでマクロファージをはじめとする間質細胞との複雑な細胞間相互作用から肝線維化に至る.近年,マクロファージの多様性に関する理解が急速に深まりつつあり,病態形成に重要なマクロファージの同定や機能解析が進むことで,新規治療・診断ターゲットの探索につながることが期待される. -
皮膚疾患とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Description皮膚は生体を外界と隔てる最大の臓器であり,病原微生物や抗原などに常に曝されている.そのため,皮膚にはさまざまな免疫細胞が存在しており,それぞれの細胞が相互作用することで,外来抗原に対応する.マクロファージは死細胞やその破片,体内に生じた変性物質や侵入した細菌などの異物を捕食して消化し,清掃屋の役割を果たす.また,捕食した抗原を主要組織適合遺伝子複合体(MHC)上に提示する抗原提示細胞でもある.皮膚疾患においては各種皮膚感染症,異物の侵入による肉芽腫形成において重要な役割を担うが,近年,炎症性皮膚疾患の病態形成においても重要な役割を果たすことが明らかになった.本稿では,皮膚マクロファージの分類と皮膚疾患における役割を中心に述べる. -
動脈硬化とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionマクロファージはあらゆる炎症性疾患において中心的な役割を担う細胞である.とくに動脈硬化では,泡沫化したマクロファージの蓄積とそれらを中心とした炎症が,プラーク形成の直接的な原因であることが明らかになっている.本来,外来病原体に対する生体防御に欠かせない免疫細胞であるマクロファージがなぜこのように疾患の原因になってしまうのか.また,一口に“マクロファージ”といっても,組織常在性と単球由来マクロファージの違いがあり,さらにM1,M2 マクロファージなど,さまざまなタイプに分類できることが近年の研究により明らかになっているが,動脈硬化巣のマクロファージはどのような構成になっているのであろうか.本稿では,改めて動脈硬化発症の機序および病態進行におけるマクロファージの役割について考察を行う. -
脂肪組織のM2 マクロファージ─見直されつつあるM2 マクロファージ抗炎症作用説
273巻10号(2020);View Description Hide Description脂肪組織に在住するマクロファージには脂肪細胞の機能を調節し,全身の代謝の制御作用があることが注目されている.マクロファージはその役割の違いから,M1 型マクロファージとM2 型マクロファージに分類される.肥満で増加するM1 マクロファージは骨髄由来で,炎症性サイトカインを分泌しインスリン抵抗性を誘導する.一方,非肥満で優位に存在するM2 マクロファージから分泌されるIL-10 などのサイトカインは,その抗炎症作用によりインスリン感受性の維持に関与すると考えられてきた.すなわち,肥満に伴いマクロファージが抗炎症型のM2 から炎症型のM1 型への変換が起こるという“表現型スイッチ理論(phenotypic switch theory)”が長い間,主流であった1,2).しかし,“M2 マクロファージがTGF-βを介して前駆脂肪細胞の増殖と脂肪細胞への分化を抑制し不要な分裂を防ぎ,前駆脂肪細胞の質を維持するとともに全身の肥満度とインスリン感受性を調節している”という著者らの報告3)と“M2 マクロファージ由来のIL-10 が脂肪細胞のIL-10 受容体αを介して成熟脂肪細胞での脂肪燃焼関連遺伝子を抑制し,肥満や耐糖能を悪化させている”という報告4)により,上述の“phenotypic switch theory”は見直されることとなった. - 脳・神経
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ミクログリアと神経障害性疼痛
273巻10号(2020);View Description Hide Description体性感覚神経系の損傷や機能不全により,慢性的な痛みである“神経障害性疼痛”が発症する.この慢性疼痛は,急性の痛覚信号が持続的に発生するためという単純なものではなく,神経障害後に脳や脊髄で起こる多種多様な構造・機能的変化と,その結果もたらされる神経活動の異常が原因と考えられている.神経障害によって変化する細胞としてグリア細胞があげられる.とくに,ミクログリアは神経障害後に活性化し,周囲の神経活動の異常と神経障害性疼痛の発症に重要な役割を担っていることが数多くの基礎研究より示されている.したがって,慢性疼痛のメカニズムの解明と治療薬の開発にミクログリアが重要な手がかりとなる可能性がある. -
神経変性疾患におけるミクログリア─特徴と治療標的としての展望
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionマクロファージ様細胞として知られるミクログリアはグリア細胞のひとつで中枢神経系の環境を監視し,正常脳では神経回路の調節などに重要な役割を担っている.正常時でのミクログリアは小型の細胞体を有し,多くの細長い突起を伸ばした形態をしているが,病変時では細胞体が肥大し突起を短縮した形態に変わり,細胞外タンパク質や異物の貪食,サイトカインなどの液性因子の産生・放出を引き起こす.これまで,活性化ミクログリアは神経傷害型(M1)と神経保護型(M2)などに分類されてきたが,アルツハイマー病(AD)などの病態におけるミクログリアはM1/2 の概念だけでは説明がつかないほど多様な機能を示しており,現在では,疾患に共通した活性化ミクログリア(DAM あるいはMGnD)という概念が主流になりつつある.DAM/MGnD は,神経疾患の病態進行に深く関与することが報告されていることから,ミクログリアの活性調節は,治療薬開発における有望な標的として注目されている. -
脳梗塞後の神経症状回復を促す脳特異的制御性T 細胞
273巻10号(2020);View Description Hide Description脳梗塞発症後にはマクロファージを中心とした自然免疫細胞の集積,その後,T 細胞やB 細胞を中心とした獲得免疫細胞の集積が起こる.T 細胞のなかでも制御性T 細胞(Treg)は免疫寛容の中枢ともいうべき細胞であり,一般的に通常のT 細胞と同様に胸腺で生まれ,リンパ節などの二次リンパ組織で活性化されて感染部位などに集積する.一方で,組織に常在するTreg,あるいは損傷を受けた組織に集積するTregが存在することが報告されている.これらは組織Treg とよばれ,免疫調節の他,組織の細胞と相互作用して恒常性の維持や組織修復に寄与する.著者らは脳梗塞慢性期にTreg が脳内に集積し,脳Treg とよぶべき性質を獲得して,アストログリオーシスを制御することで神経症状の回復を促すことを見出した. - がん・腫瘍
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がん・悪性腫瘍におけるマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionがん・悪性腫瘍の組織間質内には多数の免疫細胞や線維芽細胞,血管内皮細胞などの正常細胞が存在する.それぞれの間質細胞の浸潤の程度や重要性は臓器あるいは組織型により異なるが,多くの場合,マクロファージはがん組織に浸潤する免疫細胞のなかでも主体を占める細胞で,がんの増殖に及ぼす影響も大きい.しかし,マクロファージは免疫細胞としてがんと闘うのではなく,むしろ逆にがんを助ける細胞であることが示唆されている.本稿では,がん微小環境におけるマクロファージの役割や治療抵抗性との関わり,さらには治療標的としての可能性について概説したい. -
IL-34 とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionインターロイキン-34(IL-34)は,マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)に続いて単球およびマクロファージに発現するコロニー刺激因子1 受容体(CSF-1R)と結合する第2 のリガンドとして近年発見されたサイトカインである.IL-34 は皮膚や神経系,赤脾髄に発現し,骨髄系細胞の生存,分化に関与し,また炎症性腸疾患や関節リウマチなどの疾患,および多数のがん種においては局所で発現が上昇することが知られている.興味深いことに,がん患者の腫瘍微小環境で産生されるIL-34 はがん細胞の生存,増殖などに関与し,免疫抑制型マクロファージを誘導しがんに有利な腫瘍微小環境を構築するなど,腫瘍の悪性度に強く関わる可能性が示唆されている.その機能から,IL-34 は新規治療標的,およびがん患者の予後を予測するためのバイオマーカーとして有効であると考えられ,研究が行われている. - 感染症
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HIV-1 とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Description作用機序の異なる薬剤の併用によりヒト免疫不全ウイルス(HIV)-1 の増殖自体はコントロールできるようになったが,完全には体内から排除されていないのが現状である.そのため,ウイルス産生が低レベルの持続感染細胞あるいは潜伏感染細胞(リザーバー)の同定と克服が臨床上の重要な課題となっている.このような細胞として,静止期にあるCD4 陽性細胞が知られている.一方,マクロファージについては組織からのサンプリングが容易ではないため研究は遅れてきたが,近年,潜伏感染を示唆する報告がなされている.単球・マクロファージは治療後も遷延する全身性の慢性炎症とも密接に関連し,特徴的な経路でウイルスを伝播させることも明らかとなってきた.さらには従来の概念とは異なり,組織マクロファージは複数の起源を持つ集団から構成されており,そのなかには増殖を繰り返す集団が存在することも最近,明らかにされてきた.このパラダイムシフトも含め,さまざまな観点からHIV-1 感染症における単球・マクロファージ系の細胞の役割を捉えることが重要となっている. -
結核におけるマクロファージの役割
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionマクロファージは生体内に侵入した病原体を貪食し,殺菌する機構を持ち,病原体を排除する役割を担う細胞である.その一方で結核においては,マクロファージは結核菌が増殖に利用するための“住処”となることも知られている.マクロファージは結核菌を感知し貪食することで菌の排除を促進するが,結核菌はマクロファージ内で生存するためのさまざまな戦略を有しており,排除を免れた菌によって結核の発症へとつながる.近年,マクロファージに発現している結核菌認識受容体や,結核の病態に関わるマクロファージならびに結核菌の宿主における生存戦略が明らかになってきた. -
マクロファージ/単球とトキソプラズマ間の寄生虫免疫学的相互作用
273巻10号(2020);View Description Hide Descriptionトキソプラズマは,免疫不全患者で致死的な後天性トキソプラズマ症や母子感染を通じて先天性トキソプラズマ症を引き起こす病原体である.トキソプラズマは細胞内でのみ増殖可能な偏性寄生性原虫であり,感染細胞内では寄生胞とよばれる膜構造体に包まれ,そのなかで宿主からさまざまな栄養分を奪って増殖する.マクロファージや単球がトキソプラズマ生体感染時にまず標的とされる宿主免疫細胞であることから,これらの細胞が宿主免疫系とトキソプラズマのせめぎ合う場となる.この総説では,宿主免疫系がトキソプラズマをどのようにして排除しようとするのか,そして,逆にトキソプラズマは宿主免疫系を逃れ,あるいは利用してトキソプラズマ症を引き起こすのか,その免疫学的な相互作用について著者らの最新の知見をもとに概説する. - 自己免疫・炎症
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炎症性腸疾患とマクロファージ
273巻10号(2020);View Description Hide Description単球・マクロファージは,腸管免疫の制御に重要な役割を担う.マクロファージはインターロイキン(IL)-10 の働きによって腸管免疫を負に制御し,食物や腸内細菌に対する過剰な免疫応答を抑制する.これに対し,炎症時に集積する単球は,炎症性サイトカインを高産生する組織傷害の実行細胞と捉えられてきた.著者らは最近,腸炎回復期の骨髄で増産される,炎症制御型の単球亜集団を発見した.そして,この単球が骨髄から腸管に移動し,腸炎で傷ついた組織の修復を促進することを明らかにした.本稿では,Ym1 陽性単球発見の背景となった知見を紹介しつつ,その分化経路と組織修復における応用可能性について考察する. -
関節組織とマクロファージ─関節を破壊する悪玉破骨前駆細胞の同定と可視化
273巻10号(2020);View Description Hide Description関節腔を形成する膜である滑膜組織に局在するマクロファージは,定常状態において関節組織の恒常性維持に関与する一方,関節リウマチ(RA)では破骨細胞へ分化し,病的な骨破壊を惹起する.これまで滑膜組織のマクロファージに関する研究は,組織切片を用いる評価が中心的に行われてきたが,近年,シングルセルRNA-seq 解析をはじめとする先端技術の進歩に伴い,定常状態や関節炎における滑膜組織のマクロファージに関する新たな発見が相次いでいる.本稿では,著者らが同定した滑膜組織の破骨前駆細胞の解析や“二光子励起顕微鏡”を駆使したin vivo イメージング法について紹介しつつ,関節におけるマクロファージの多様性や由来,その功罪について近年の報告を概説したい. -
自己炎症性疾患とマクロファージ─自己炎症性病態におけるマクロファージの役割
273巻10号(2020);View Description Hide Description自然免疫系は,病原体成分や組織ダメージにより産生される物質を認識して“適切な炎症”を惹起する役割を担うが,この機構の異常により引き起こされる過剰な炎症病態を自己炎症(auto-inflammation)とよぶ.マクロファージは自然免疫系の中心を担う細胞であり,自己炎症性疾患においても病態形成に重要であるが,それぞれの疾患により役割が異なることが明らかになってきた.本稿では,とくに血球貪食性リンパ組織球症(HLH)とインフラマソーム関連自己炎症性疾患に焦点を当て,各疾患におけるマクロファージの役割の違いと,これを利用した適切な診断法の開発について当科での取り組みを中心に解説する. -
好塩基球とマクロファージによるアレルギー炎症・寄生虫感染の制御
273巻10号(2020);View Description Hide Description好塩基球は末梢血白血球の1%にも満たない顆粒球の一種である.その存在意義は長い間謎のままであったが,近年,研究ツールの飛躍的発展により好塩基球の生体内におけるユニークな役割が次々と明らかになった.興味深いことに,好塩基球はアレルギー炎症の惹起のみならず終息にも重要であることが示され,その分子・細胞メカニズムとして好塩基球由来インターロイキン(IL)-4 が,炎症抑制型M2 マクロファージの分化を誘導して炎症を制御する機構が提唱された.一方,寄生虫感染においては,好塩基球由来IL-4 はM2 マクロファージの分化を誘導することで,寄生虫に対する生体防御にも寄与することが示された.本稿では,最近明らかになった好塩基球とマクロファージによるアレルギー炎症と寄生虫感染の制御メカニズムを概説し,両細胞の連関が担う生体内での重要な役割に迫りたい.
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