医学のあゆみ
Volume 273, Issue 12, 2020
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特集 レトロトランスポゾンと内在性ウイルス ─ 機能と疾患
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LTRレトロトランスポゾンに由来する哺乳類特異的獲得遺伝子と哺乳類の進化
273巻12号(2020);View Description Hide Descriptionヒトおよびマウスには11 種類のSIRH/RTL 遺伝子が存在する.これらは哺乳類特異的に存在し,LTR レトロトランスポゾンの一種であるsushi-ichi レトロトランスポゾンのGag とPol に相同性を示すタンパク質をコードする.著者らは一連のノックアウトマウスの解析から,これらが胎盤または脳で重要な機能を持つことを明らかにした.これらは哺乳類の祖先のゲノムに挿入されたLTR レトロトランスポゾンまたはレトロウイルスが変化して内在性遺伝子となったものであり,哺乳類の特徴である胎生という生殖機構の成立や,ヒト,マウスを含む真獣類の成立に重要な機能を果たしたと考えられる.このような“哺乳類特異的獲得遺伝子”の機能を紹介するとともに,進化の推進力としての“外来DNA からの遺伝子獲得”の重要性を考察する. -
レトロトランスポゾンが引き起こすヒト疾患
273巻12号(2020);View Description Hide Descriptionヒトゲノムの約半分ほどを占めるトランスポゾンは,そのほとんどが転移活性を失っていることもあり,比較的近年まで,特別な機能を持たない“ジャンク配列”のように考えられてきた.しかし,転移活性を残したレトロトランスポゾン配列が一部存在し,それらの新規転移がゲノムの多様性の創出や進化の原動力として機能する可能性が示されるようになった.その一方,新規挿入が起きたゲノム領域によっては,疾患の原因となる報告も多くなされるようになった.また近年では,レトロトランスポゾン由来の核酸が炎症反応に関わり,疾患の原因となるという報告もある.本稿では,こうしたレトロトランスポゾンが関与すると考えられる疾患について概説したい. -
レトロトランスポゾン視点で見るウイルス感染症
273巻12号(2020);View Description Hide Descriptionわれわれのゲノムのうち,タンパク質をコードする遺伝子領域は数%にすぎない.一方で,ゲノムの約半分は,レトロトランスポゾンとよばれるウイルス様配列に占められている.ヒトゲノムの60%以上が転写されていることを考えると,これらレトロトランスポゾンのもたらすさまざまな影響を無視することはできない.しかし,従来の生命科学では,これらのレトロトランスポゾンの存在にそれほど大きな注意を払ってこなかった.近年,次世代シークエンス解析技術の向上により,さまざまな生命現象におけるレトロトランスポゾン動態についての知見が蓄積されてきた.また,いくつかのウイルス関連病態においてレトロトランスポゾンがその病態に関与する可能性が報告されはじめている.本稿では,レトロトランスポゾンの医学的意義を概説し,そのうちとくにウイルス感染症に関連したレトロトランスポゾン(主にLINE-1)挙動について,最近の知見をもとにその意義を解説する. -
ヒト内在性レトロウイルスと疾患
273巻12号(2020);View Description Hide Descriptionヒト内在性レトロウイルス(HERV)は,ヒトゲノムの約8%を占めているが,そのほとんどは欠失や変異の蓄積により機能を失っている.機能を持つ塩基配列を保持しているものの一部は,胎盤組織で活性化しヒトの生命にとって必須の働きをするが,体細胞では通常不活性化されている.ところが,体細胞においてHERVが何らかの刺激によって活性化され,がんや神経変性疾患の病態に寄与する場合があることが,近年示唆されてきている.本稿では,HERV と疾患との関連について述べるとともに,HERV 研究における問題点と最新のシークエンサー技術を用いた今後の研究の展開への期待について述べる. -
内在性レトロウイルスの外適応
273巻12号(2020);View Description Hide Description2000年に,内在性レトロウイルス(ERV)に由来する遺伝子がヒト胎盤の栄養膜細胞の融合を担うシンシチン遺伝子として機能していることが報告された.ウイルス遺伝子が宿主遺伝子へと機能転換(外適応)していることを示した画期的な発見である.その後,さまざまな動物においてERV の外適応例の探索がはじまり,現在では,多くの哺乳類で異なるERV 遺伝子が胎盤形成時の細胞融合に寄与していることが明らかとなってきた.しかし,ERV 遺伝子の外適応例が増える一方,それぞれのERV と胎盤の形態多様性との関係や,ERV 遺伝子からシンシチンへの機能転換を支える分子メカニズムについてはいまだ不明な点が多い.本稿では,ウシ亜科に固有のERV 遺伝子fematrin-1 と胎盤進化との関連を示した研究や,近年,著者らが発見したERV 遺伝子発現におけるRNA シス配列についての発見を手がかりにERV 遺伝子の外適応研究の今後を探っていきたい. -
内在性ウイルス配列のデータベースを活用したバイオインフォマティクス解析
273巻12号(2020);View Description Hide Descriptionウイルスが宿主のゲノム配列に内在化した配列の情報・分類に関するデータベースとして,Repbase が中心的な役割を担ってきた.しかし,Repbase はレトロウイルス以外のウイルスに対応していない.また,宿主で機能を獲得したウイルス由来の遺伝子を探索するなどの目的では,別のデータベースを活用したほうがよい場合もある.本稿では,①ウイルス由来の配列が機能獲得した場合の遺伝子の進化モデル“バトンパス仮説”,②哺乳類ゲノムに内在化したウイルスに由来するORF(タンパク質をコードする可能性のある配列)を収集したgEVE データベース,③幅広い真核生物に対してレトロウイルス以外の全ウイルスを対象に類似配列を総当りで探索した結果をまとめたpEVE データベース,以上の3 点を中心に内在性ウイルス配列のデータベースを活用したバイオインフォマティクス解析について概説する. -
内在性RNAウイルスとCRISPR様免疫
273巻12号(2020);View Description Hide Description真核生物のゲノムには,内在性ウイルス様エレメント(EVE)とよばれるウイルス由来の配列が存在し,ヒトではゲノムの約8%を占めている.EVE の多くは自己の複製に宿主ゲノムへの組み込みを必要とするレトロウイルス由来であり,その一部はタンパク質をコードして,類似の外来性レトロウイルスに対する抵抗性因子としての機能を持つ.一方,近年相次いで報告されている非レトロウイルス由来EVE はタンパク質を発現しないものも多く,その進化学的役割は明らかでない.しかし最近の研究により,これらのEVE が近縁ウイルスに相補的なPIWI-interacting RNA(piRNA)を産生することが示されており,RNA 干渉によって配列特異的にウイルス感染を制御している可能性が示唆されている.本稿では,piRNA を介した新たなウイルス防御機構の仮説を概説するとともに,原核生物の適応免疫機構であるCRISPR-Cas システムとの類似性についても考察する. -
哺乳動物ゲノムにおけるRNAウイルスの内在化とその進化的役割
273巻12号(2020);View Description Hide Description近年,さまざまなRNA ウイルスに由来する遺伝子配列が,ヒトを含む多様な生物のゲノムに存在することが明らかとなった.このようなRNA ウイルスの遺伝子配列が生物ゲノムの一部となる“内在化”には,生物ゲノムに存在する転移性因子のひとつであるレトロトランスポゾンがコードする逆転写酵素が関与することが強く示唆されている.これはつまり,進化の過程において生物が,利己的遺伝子ともよばれるレトロトランスポゾンの作用によって,RNA ウイルスという外来の遺伝子を獲得してきたということを意味する.興味深いことに,生物ゲノムに存在するRNA ウイルス由来の遺伝子配列の一部は,種々の生物において抗ウイルス機能などの生理機能を担っていることが明らかとなりつつある.本稿では,RNA ウイルスの内在化による生物の進化について概説するとともに,RNA ウイルスの一種であるボルナウイルスに由来する遺伝子配列が持つ生理機能について紹介したい.
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連載
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- 老化研究の進歩 13
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老化制御
273巻12号(2020);View Description Hide Description老化は時間軸に沿って進む一方向性の避けられない現象である.しかし,老化の速度はすべてのヒトで同じではない.老化に対する遺伝子の寄与率は25~30%程度であり,残りの70~75%は生活・環境要因であると推測されている.そのため,生活・環境要因を最善の状態に保つことは,個体の老化速度を最大限に遅くして,個体の最長寿命にまで近づけると考えられる.また,同時に老年期疾患の発症も予防できる.その最善の方法を見つけることが,老化制御,つまりアンチエイジング(抗老化)研究である.そして,その方法論を見出すことが老化メカニズムの解明につながる. - 再生医療はどこまで進んだか 5
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同種iPS細胞由来軟骨を用いた関節軟骨損傷に対する再生医療
273巻12号(2020);View Description Hide Description軟骨は軟骨細胞と細胞外マトリックスからなる組織である.関節軟骨損傷を正常の硝子軟骨で修復するためには損傷部に細胞とマトリックスの両方を供給する必要がある.人工多能性幹細胞(iPS 細胞)から,軟骨細胞と細胞外マトリックスからなる軟骨組織を作りだす方法が開発された.iPS 細胞由来軟骨を損傷部に移植することで,直接的に修復組織を構成することが期待できる.軟骨は細胞がマトリックスに囲まれているため,移植したときに軟骨細胞がホストの免疫担当細胞と接触する状況になく,免疫原性が低いとされている.限局した関節軟骨損傷に対して,同種iPS 細胞由来軟骨を移植する治療方法の開発が行われている.
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