医学のあゆみ
Volume 273, Issue 13, 2020
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特集 肝細胞癌治療のパラダイムシフト─分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬の登場を受けて
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進行肝細胞癌に対する一次治療薬─どの薬剤をまず選択するか
273巻13号(2020);View Description Hide Description肝細胞癌の一次治療として,現在,ソラフェニブとレンバチニブが選択可能である.全身化学療法を施行するうえで,まず一次治療をどのように選択するかが重要となる.安全性が同等であれば,客観的奏効割合(ORR)や無増悪生存期間(PFS)が良好な薬剤を選択することが一般的と思われるが,肝細胞癌の全身化学療法においては一次治療増悪後の生存期間(PPS)が長く,全生存期間(OS)はPFS よりもPPS との相関性が強いとされ,真のエンドポイントであるOS の改善には,一次治療のみならず,後治療をも見据えた治療戦略が重要と考えられる.本稿では,肝細胞癌における全身化学療法の一次治療を選択するうえで重要と考えられるポイントにつき考察する. -
進行肝細胞癌に対する二次治療薬─どのような治療シークエンスを選択するか?
273巻13号(2020);View Description Hide Description肝細胞癌に対する薬物療法の進歩により,現在ソラフェニブ,レンバチニブ,レゴラフェニブ,ラムシルマブの4 剤がわが国では使用可能であり,今後さらにカボザンチニブ,アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法が登場してくる.一次治療ソラフェニブ後のエビデンスはあるが,レンバチニブ後のエビデンスはない.これらの薬剤の組み合わせを用いた二次治療シークエンスが考えられるが実臨床ではperformance status(PS)や肝予備能低下のために適格となる症例は多くない.将来,アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法が一次治療の標準治療となる.いずれの一次治療においても肝予備能やPS の低下に注意しつつ治療を行い,二次治療の選択は薬剤作用機序と副作用,肝予備能に対する影響を考え治療シークエンスを選択していくことになると思われる.今後は二次治療の実臨床での情報を積み重ね,最もよい治療シークエンスを検討していく必要がある. -
TACE不適の概念と中等度進行肝細胞癌の治療戦略のパラダイムシフト
273巻13号(2020);View Description Hide Description中等度進行肝細胞癌治療の主流である肝動脈化学塞栓療法について,近年その功罪がクローズアップされている.すなわち局所制御に優れる一方で,肝予備能を低下させるという側面を持っているため,適応を誤るとかえって予後を短縮する結果を招きかねない.両葉多発あるいはALBI Grade 2 などの状態は,最近は肝動脈化学塞栓療法(TACE)不適とされ,このような状態でTACE を行うと治療効果が乏しいだけではなく,肝予備能を著しく低下させる結果となる.レンバチニブはTACE 不適とされる病態に対して肝機能低下を最小限に,良好な治療効果を有することが示され,中等度進行肝細胞癌でTACE 不適の場合にはTACE ではなく,レンバチニブをファーストチョイスとするようになってきている. -
奏効性の高い薬剤の登場により中等度進行肝細胞癌の治療戦略はどう変わるか ─ IVR医の立場から
273巻13号(2020);View Description Hide Description中等度進行肝細胞癌(肝癌)に対しては肝動脈化学塞栓療法(TACE)が唯一の治療法であったが,近年ではTACE に匹敵する奏効率を有する分子標的薬も登場し,中等度進行肝癌に対しても積極的に使用されるようになり,なかでもTACE 治療で予後の延長が期待できないTACE 不適症例に対しては分子標的治療が第一選択として推奨されている.しかし,TACE 不適症例の多くを占めるup-to-7 out 症例には多様な腫瘍が包括され,TACE の技術的工夫で根治可能な症例も混在するため,どちらの治療を先行するかは施設のTACE の実力に応じて症例ごとに判断する必要がある.TACE はできるかぎり選択的かつ根治的に行い,肝予備能への影響を最小限に抑える必要があり,TACE 抵抗性の再発が疑われる場合には,2 回目のTACE にこだわらず速やかに全身薬物療法に切り替え,逆に薬物療法が無効あるいは継続困難な場合はTACE に切り替える.また,より進行した腫瘍では,分子標的薬先行TACE も新たな治療戦略となりうる. -
PD-1/PD-L1抗体と抗VEGF抗体の組み合わせ治療のscientific rationale
273巻13号(2020);View Description Hide Descriptionアテゾリズマブとベバシズマブの組み合わせによる免疫療法のphase Ⅲ IMbrave150 が最近成功したことが報告された.このことは,これまでPD-1 抗体であるニボルマブやペムブロリズマブがそれぞれ一次治療薬,二次治療薬としての臨床試験に失敗した後であるだけに画期的である.とくに,この10 年間ではじめてソラフェニブよりも生存延長効果を示すことができたという点で画期的である.このPD-1/PD-L1 抗体と抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体の組み合わせがなぜ効果的かということに関しては,抗PD-1/PD-L1 抗体にベバシズマブの抗腫瘍効果が単に上乗せされた相加的効果を出しただけでなく,ベバシズマブによる免疫抑制的微小環境を免疫応答性の微小環境に変えるという3 つ目の作用も加わることによって相乗効果が得られたと考えられる.これはphase Ⅰb 試験のArm A の結果できわめて良好な結果が示されていることと,ArmF でPD-L1 抗体であるアテゾリズマブ単剤に対してアテゾリズマブにベバシズマブを上乗せした群のほうが,無増悪生存期間(PFS)が有意に良好な結果を示したことによって検証されている.すなわち,PD-1/PD-L1 抗体と抗VEGF 抗体による治療は理論通りに癌細胞と癌微小環境が変化し,効果をもたらしたということであり,きわめて画期的な結果である.逆にいうと,この結果によりscientific rationale が正しいことが証明されたことになる. -
アテゾリズマブとベバシズマブの併用療法の肝細胞癌治療に与えるインパクト
273巻13号(2020);View Description Hide Description切除不能肝細胞癌の一次治療例を対象として,アテゾリズマブとベバシズマブ併用療法においてソラフェニブと比較した第Ⅲ相試験(IMbrave150)が行われ,全生存期間と無増悪生存期間の有意な延長,高い奏効割合,QOL が悪化するまでの期間の延長,高い忍容性が報告された.一次治療としてはじめてソラフェニブを凌駕する治療成績が示され,近い将来,日本でも日常診療で使用できるようになる見込みである.このアテゾリズマブとベバシズマブ併用療法が保険適用となれば,肝細胞癌の薬物療法の一次治療はソラフェニブやレンバチニブから置き換わり,日本の肝細胞癌の薬物療法が一変することが予測される.また,有効な薬物療法の登場で薬物療法の導入が早まることが予測される.さらには,肝動脈化学塞栓療法(TACE)と併用や切除後やラジオは焼灼術後の補助療法としての開発も開始され,薬物療法を中心とした治療開発が加速している. -
現在進行中の免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験
273巻13号(2020);View Description Hide Description2019年,ESMO-ASIA(11 月,シンガポール)にてアテゾリズマブ(抗PD-L1 抗体)とベバシズマブ(抗VEGF 抗体)の併用療法が,10 年近くにわたり進行肝細胞癌治療の一次治療であったソラフェニブに対して全生存期間を有意に延長することが示された.近い将来,免疫チェックポイント阻害薬が肝細胞癌に対する薬物治療のメジャープレイヤーになることが確実なものとなった.一方,他癌腫に目を向けると,薬物治療は進行癌のみならず術後補助化学療にも有効であることが示され幅広く用いられている.肝細胞癌においては,複数のチロシンキナーゼ阻害薬が,術後および局所治療の補助化学療法として開発されたが,その多くが不成功に終わり,現時点で確立されたエビデンスレベルの高い治療はない.肝細胞癌に対して免疫チェックポイント阻害薬が有効であることが示されたことから,術後および局所治療後の補助化学療法としての薬物治療の早期開発が今まで以上に求められている.
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連載
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- 老化研究の進歩 14
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抗加齢ドック
273巻13号(2020);View Description Hide Description抗加齢医学は,健康寿命を延ばし“サクセスフル・エイジング”を実現することを目的とする,一次予防的な学問分野である.抗加齢ドックの検査項目は,現在の“老化の度合い”を知る項目と,“老化に影響を与える因子”に大別され,老化度は動脈硬化,ホルモン,骨密度・体組成,筋力,肺機能,感覚機能,神経など,また老化危険因子は血清脂質,酸化・抗酸化力,心身ストレス,その他の一般項目などの観点から評価されている.東海大学医学部付属東京病院の抗加齢ドックは2006 年6 月の開設以後,2019 年9 月までに延べ2,305 名が受診している.抗加齢ドックは,その先進性ゆえ意義や目的が明確に伝わらないこともあるため,この方面を正しく成長発展させるためには,科学的根拠に基づく抗加齢医学を実践することが重要である.本稿では抗加齢医学の考え方と,東海大学医学部付属東京病院における抗加齢ドックの実践的な取り組みについて紹介する.
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再生医療はどこまで進んだか 6
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マイクロ生体機能模倣システム(MPS)を用いた創薬研究の現状と展望
273巻13号(2020);View Description Hide Description微小流体デバイス(いわゆるチップ)は,半導体微細加工技術に基づくナノ・マイクロ加工技術により製作される.このチップ内に対象の細胞を培養することで生体組織を構築し,in vivo における細胞ニッチを再定義して生理学的な機能を獲得させようという試みがマイクロ生体機能模倣システム(MPS)である.最初のMPS として知られるlung-on-a-chip が2010 年に報告されてから10 年あまり,各種臓器への展開や複数の臓器間連携の再現により,分子生物学や発生生物学など生命科学分野における学術的な実用に加え,MPS は製薬企業との連携により創薬研究におけるツールとして産業界へ展開されはじめている.さらに,近年ではヒトiPS 細胞を用いることによる,よりヒトの生体内機能に近い高機能MPS の開発が注目されている.本稿では,MPS を支えるナノ・マイクロ加工技術から,それを活用した最新の研究動向と今後の展望について述べる.
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TOPICS
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- 神経精神医学
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- 遺伝・ゲノム学
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- 消化器内科学
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FORUM
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- 日本型セルフケアへのあゆみ 6
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新型コロナウイルス感染症:②抗体検査
273巻13号(2020);View Description Hide Description● 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して,免疫の有無を調べる抗体検査に注目が集まっている.ウイルスが体内に侵入すると,血液中のIgM 抗体とIgG 抗体が増大する.これを測定することで感染歴を調べることができる.● PCR 検査とは異なり,いま感染しているかどうかの判断には使えない.しかし,感染の2 週間後に抗体検査を行うと,PCR で陽性だった人のうち97%がIgG 抗体が陽性であり,過去の感染を検出するには有用と考えられる.今後の疫学調査,患者の病態の把握,ワクチン評価などに活用するため,抗体検査体制の拡充が望まれる.● 抗体検査法の拡充が喫緊の課題となるなか,わが国で化学発光ビーズを用いた多数自動検査測定器が開発され,臨床研究が進んでいる.この抗体検査器は化学発光免疫測定法(CLIA 法)を用いて,IgGおよびIgM の定量的測定が可能である. -
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