医学のあゆみ
Volume 274, Issue 1, 2020
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【7月第1土曜特集】 アルコール医学・医療の最前線2 0 2 0 U P D A T E
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- 座談会
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アルコール健康障害対策基本法施行から6 年─アルコール医療はどのように変わったか
274巻1号(2020);View Description Hide Description2014 年6 月の「アルコール健康障害対策基本法」(以下,アル法)の施行から6 年が経過しました.この間,患者の心身の治療,社会復帰支援,政策がどのように変化してきたか,それぞれの立場から現況を整理し,今後改善や工夫が必要とされる点についてご討議いただきました.樋口先生を司会に,消化器内科医の立場から池嶋先生,精神科医の立場から堀井先生,そして自助グループの立場から大槻先生にご参加いただきました. - 総論:アルコール医学・医療の最新の展開を知る
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アルコール関連問題におけるわが国の状況と世界の動向
274巻1号(2020);View Description Hide Description日本における全体のアルコール消費量と習慣飲酒者の割合は減少している一方で,生活習慣病のリスクを高める飲酒パターンをしている者の割合は,男性では同等かつ女性で増加傾向にある.つまり,アルコールを飲む習慣がない人は増加しているが,健康リスクを生じるほど飲酒量が多い人は減っていないのが日本の現状である.世界規模でも,アルコールの有害使用は世界人口の健康にとって大きなリスクファクターであるといわれている.世界人口のうち300 万人がアルコール消費によって死亡しており,すべての要因における障害調整生命年(DALY)のうち5.1%がアルコールによって引き起こされている.ここ最近の傾向を見ると,2010 年ごろよりアルコール関連死は減少している一方でアルコール消費量は減少しておらず,DALY にみるようなアルコール関連障害による負担はいまだ大きい.この流れを受け,アルコールの有害使用を減らすための世界的戦略が国連やWHO の主導のもとで展開されている. -
アルコール健康障害対策基本法─制定から6 年,新たな動きの数々
274巻1号(2020);View Description Hide Description2013 年に“アルコール健康障害対策基本法”が成立,2014 年6 月より施行し,その推進基本計画が2016 年5 月31 日に閣議決定され,各都道府県においてその具体的な実践がはじまりつつある.全国の都道府県地域に専門医療機関,相談拠点が指定され,2020 年度には47 都道府県すべてが出そろう予定となっている.今後は,各自治体が掲げる,健診・医療・研究,相談支援・社会復帰,教育・不適切な飲酒の誘引防止・飲酒運転などのテーマで具体的な対策や目標数値達成に向けた具体的な取り組みに対する,モニタリングと成果の検証が重要と思われる.第1 期推進基本計画では,予防,相談から治療,回復支援に至る切れ目のない支援体制の整備が掲げられ,全国拠点機関の指定とともに,全国5 カ所のモデル地区での実践が行われたが,第2 期ではそれをさらに充実,有意義な事業にと,地域連携による依存症発見・早期対応,継続支援モデル事業(案)が計画されている.また,アルコール関連問題啓発週間での全国の取り組みに,その他の活動おいてもさらに有意義な活動が期待される. -
アルコール生命医科学:現状と今後の展望
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionアルコール使用障害(AUD)はさまざまな臓器障害を惹起するが,その代表格はアルコール関連肝疾患(ALD)である.エタノールはその細胞内代謝プロセスでストレス応答と細胞死を惹起し,さらに自然免疫系の関与も相まって臓器障害が進展する.近年,細胞死メカニズムの解明や腸内マイクロバイオームの解析を通して,ALD の病態メカニズムに立脚した斬新な治療戦略が提唱されつつある.AUD の治療アプローチとしてはハームリダクションの概念が注目されており,臓器障害軽減効果の検証が期待される.一方,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに見舞われている現在,AUD/ALD に対する診療体系の刷新や,アカデミックな研究交流のあり方の見直しなど,勃興した重要課題も多い. - アルコールの基礎医学
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アルコールの疫学─わが国の飲酒行動の実態とアルコール関連問題による社会的損失のインパクト
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionわが国のアルコール関連障害の頻度は,人口動態調査や患者調査ではその一部しか把握できないため,2003 年,2008 年,2013 年,2018 年に成人の飲酒行動に関する全国調査を実施した.2018 年調査では,アルコール依存症の生涯経験率と現在率(合計:0.5%,0.2%,男:0.8%,0.4%,女:0.2%,0.1%)は前回調査より減少した.該当者の推計数は,アルコール依存症生涯経験者が54 万人,現在者が26 万人となる.一方,AUSIT スコア12 点以上および15 点以上の者の割合やリスク飲酒,大量飲酒やビンジ飲酒をする者の割合は減少していないため,わが国の問題ある飲酒行動の実態が改善しているとはいえない結果である.このうち,治療に結びついている者は少数であった一方で,多くの者が医療機関や健康診断を受診しており,これらの場での介入も重要であろう.2013 年の,アルコールの社会的損失の合計は約3 兆3628 億円であった.関連疾病の医療費,早世による労働損失,問題飲酒者の労働効率の低下による労働損失が主な内訳であった. -
アルコールの法医学─事故・犯罪・異状死
274巻1号(2020);View Description Hide Description法医学領域において取り扱う事例の検査において,生体であっても死体であっても,その酩酊度の鑑定が求められることが多い.それだけ飲酒という行動が社会生活に密着したものであり,血液中アルコール濃度の測定が基本となる.本稿では,血液中アルコール濃度の測定の注意事項として,可能なかぎり末梢血(大腿静脈あるいは鎖骨下静脈など)中のアルコール濃度測定が望ましい.得られたアルコール濃度の評価には,代謝の個人差を考慮に入れ,アルコールおよびアルデヒド脱水素酵素などの代謝酵素の遺伝的多型の判定が重要になる事例がある.異状死のなかで,飲酒の関連する事故・犯罪に遭遇することが多い.とくに傷害・殺人事件は,犯罪死体として司法解剖の対象となる.転倒・転落,交通事故,浴槽内の死亡については,監察医解剖や承諾解剖,あるいは死因・身元調査法(「サイドメモ1」参照)の対象となることが多い.いずれの解剖検査の場合にも薬毒物検査は必須のものであり,とくにアルコールの関与について考察を行う必要がある. - アルコール性身体疾患
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アルコールと身体疾患─総論
274巻1号(2020);View Description Hide Description経口摂取されたアルコールは,胃または空腸から吸収され,主に肝臓で代謝される.すなわち,アルコール脱水素酵素(ADH),チトクロームP450(CYP),カタラーゼ,アルデヒド脱水素酵素2(ALDH2)などの関与によって,毒性を有するアセトアルデヒドを経て,酢酸に酸化される.代謝の過程で生じたアセトアルデヒドや活性酸素種(ROS)などにより,さまざまな身体症状,臓器障害が引き起こされる.飲酒によって生じる身体疾患は癌,肝障害,膵炎,心血管障害,糖・脂質代謝異常,神経障害などさまざまであるが,そのメカニズムの全容が明らかにされているわけではない.対応としては不可逆的障害に至る前に診断し,節酒,断酒を指導することに尽きる. -
アルコール関連脳神経障害
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionアルコールの多量飲酒は神経系に影響を与え多彩な疾患群を形成する.なかでもウェルニッケ脳症(WE)はアルコール依存症に併存する代表的な急性神経中枢疾患であり,意識障害,小脳性失調,眼症状を三徴とする.発症早期のビタミンB1大量投与が必要であるが,慢性期にはコルサコフ症候群(KS)へ移行し認知機能低下が持続する.また,アルコール依存症者に限らず,健常高齢者においても習慣飲酒は脳血管障害のリスク因子であり,脳萎縮に関係し,アルコールによる続発性骨粗鬆症,サルコペニアとあいまって高齢者フレイルを促進,将来のアルコール関連認知症の素地となる.治療は,断酒に加え健全で安定したライフスタイルをめざすべく,本人の社会的活動や仕事の継続など社会基盤の整備,また高齢者の心理的・身体的また生活環境のサポートなど多職種が参加した包括的なアプローチが必要である. -
アルコール性肝障害の診断と治療の進歩
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionウイルス性慢性肝疾患の治療法の進歩に伴い,アルコール性肝硬変(AL-LC)の成因に占める割合は増加し続けており,その臨床的重要性が増している.欧米で飲酒マーカーとして幅広く使用されている糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)が2016年に,アルコール性肝障害(ALD)マーカーとして国内ではじめて体外診断用医薬品として承認され,国内でも広く使用されることが期待されている.断酒はアルコール性臓器障害治療の根幹であり,その代表格であるAL-LC の病態や長期予後改善には必須である.しかし,依存的な要素が大きく,断酒が困難である場合も多い.薬物治療では2019 年1 月に,飲酒量低減薬としてナルメフェンが認可され,断酒を必要とする患者の中間目標として減酒を設定することでハームリダクションへの新たな選択肢が示されている.ALD を含めたアルコール性臓器障害に対するナルメフェンによる減酒治療の有効性を検討することが喫緊の課題である. -
アルコールと膵臓疾患
274巻1号(2020);View Description Hide Description統計学的には,飲酒は急性および慢性膵炎や膵癌の発症に深く関連している.近年,飲酒量別のリスク評価が行われており,またアルコール性膵炎と関連する遺伝子異常が報告されている.具体的にはクローディン2(CLDN2)に加えてPRSS1-PRSS2,SPINK1,CTRC といった膵消化酵素など,トリプシンの活性化や不活性化に関わる遺伝子異常が明らかにされている.これらの知見は,膵臓に関わる遺伝的背景を有する人が飲酒をすると膵炎を発症するという考えを示唆するものであり,新しい慢性膵炎臨床診断基準2019 においても診断項目の改訂が行われている. -
アルコールと循環器疾患
274巻1号(2020);View Description Hide Description心筋細胞は複雑なシグナル伝達や収縮機能を有する興奮性細胞であり,アルコールの毒性作用を受けやすい.短時間での大量飲酒,あるいは長期間にわたる大量のアルコール摂取は不整脈,心不全,冠動脈疾患,末梢動脈疾患,脳卒中,高血圧などのさまざまな循環器疾患を引き起こし1),総死亡および心臓死を増加させる.とくに,アルコール性心筋症(ACM)は拡張型心筋症(DCM)類似の疾患といわれ,アルコールの累積量依存的に発症し,早期には左室拡張障害がみられ,その後,左室収縮障害を引き起こす.少量のアルコール摂取が心血管イベントおよび死亡率を減少させることが疫学研究やメタ解析から示されているが,アルコール摂収の推奨はまだ結論には至っていない.近年,アルコールによる心筋障害に遺伝的感受性が影響する可能性が報告されている2).本稿では,アルコール関連性の循環器障害の現況と最新の知見について述べる. -
アルコール飲酒とがん─エビデンスの現状
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionアルコール飲酒により口腔,咽頭,喉頭,食道扁平上皮,大腸,肝臓,乳房(閉経後)のがんのリスクが高くなることは確実と評価されている.日本人においても食道,大腸,肝臓のがんについては十分なエビデンスが揃っており,食道と大腸がんはアルコール摂取量に比例したリスク増加が観察されるが,肝臓がんは低~中程度摂取ではリスク増加が認められない.また,日本の6 コホート研究のプール解析では,男性飲酒者においては,アルコール摂取量に比例した総死亡・がん死亡リスクなどの明らかな増加が観察されている.過去飲酒者を除いた非飲酒者に対する総死亡リスクは,男性で1 日当たりアルコール摂取量46 g 未満(がん死亡リスクは23 g 未満),女性で23 g 未満までは統計学的有意に低かった.アルコール飲酒によるがんリスクへの影響は,喫煙者や毎日飲酒者でより大きい.また,顔が赤くなるタイプでは頭頸部や食道がんリスクは高くなるが,すべてのがんに対するアルコール飲酒の寄与割合は同程度と推計された.すなわち,がん予防のためには飲酒をするなら喫煙をしない,休肝日を設ける,そして,遺伝的素因にかかわらず節酒することが基本である. - アルコール依存症
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脳はいかにしてアルコール依存に陥るか?
274巻1号(2020);View Description Hide Description本稿ではアルコール依存の進行に関わる神経生化学的なメカニズムについて解説した.薬物依存と関連の深い脳内の神経システムとして,薬物の急性効果発現に関わるシステム,離脱による不快情動に関わるシステム,思考のとらわれに関するシステムがある.急性効果発現には脳内の報酬系,離脱による不快情動には扁桃体を中心とした神経系,思考のとらわれには前頭葉が主に関与している.アルコールはGABA,グルタミン酸,内因性オピオイド,ドパミンなど多様な作用標的を持つ.とりわけGABA 受容体作動薬およびグルタミン酸のNMDA 受容体拮抗薬としての作用が重要である.長期にわたってアルコールが作用する結果,前者のダウンレギュレーションと後者のアップレギュレーションが起こる.この不均衡の是正が治療の重要な鍵である.アルコールの分子レベルでの作用解明と相まってさまざまな新規治療薬候補の研究が進んでいる. -
アルコールの精神作用と依存症の臨床
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionアルコール依存症の成因には,遺伝因子の他,養育環境を含めた環境要因,併存疾患などさまざまな要因が関与する.症例によって複数の因子がさまざまに関与するため,疾患異質性が高く,遺伝因子もアルコール代謝酵素関連遺伝子を除いて特定されていない.そこで,依存症の生物学的なマーカー,すなわち中間表現型が注目されている.そのひとつに,アルコールに対する反応が提唱されている.これは定量化できて,長期に安定で,遺伝性があって,生物学的に関連性がみられるという点で依存症の遺伝的特徴と考えられる.また,アルコール代謝酵素遺伝子もアルコールに対する反応には強く影響することが知られている.アルコールに対する反応の違いで将来の依存症リスクを推定することができれば,遺伝因子の解明や予防にも応用可能であろう.本稿では,アルコールの精神作用,アルコール代謝酵素遺伝子多型と依存症との関連について,現在までの研究を紹介する. -
依存症とハームリダクション
274巻1号(2020);View Description Hide Description1970 年代のヨーロッパでは,物質依存症者が不潔な注射器を使い回すことでヒト免疫不全ウイルス(HIV)などの感染症が大きな社会問題となった.このときに,清潔な注射器と交換するプログラムを導入して感染症の防止に大きな成果を上げた施策がハームリダクションとして知られている.このように,ハームリダクションでは物質使用を減らすことを目標とするのではなく,そのときに問題となっているハーム(この場合は,HIV 感染症の拡大)にターゲットを絞り,ハームを起こすリスク(汚染された注射器の使い回し)に対処しようとする戦略をとる.ハームの設定の仕方によっては依存性物質そのものや,使用する場所を提供することもある(汚染された物質の使用や,危険な使用を避けるために).ハームリダクションは現在,世界で100 近い国で採用されているが,断薬や減薬を求めない,すなわち物質使用を容認する点で,世界各国で賛否両論を巻き起こしてきた.日本は,違法物質の使用には厳格な法制度で対応し,ハームリダクションのニーズは低いとされてきた.しかし近年,依存症の治療者のなかからハームリダクションが評価されるようになった.本稿では,ハームリダクションのコンセプトや戦略を紹介するとともに,日本においてどのようなハームリダクションが可能であるのかを考えてみたい. - 女性・未成年者・高齢者と飲酒問題
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女性とアルコール関連問題
274巻1号(2020);View Description Hide Description女性のアルコール依存症は増加傾向で,大きく分けて2 つの特徴がある,ひとつは男性より若年で発症することである.一因として女性がアルコールに対して弱くできていることがあげられる.もうひとつは男性に比べ重複障害が多いことである.なかでも情緒不安定性パーソナリティ障害や処方薬の乱用/依存,摂食障害が多い.重複障害に対する自己治療としてアルコールに耽溺している可能性もある.依存症ではないが,妊娠中の飲酒により胎児性アルコール・スペクトラム障害(FASD)が引き起こされる.米国に於いてFASD は,先天性の知能障害の原因としてダウン症候群に次いで多いとされているが,妊婦が飲酒さえしなければ防げる障害でもある.近年は若い女性の飲酒が増えているが,挙児を希望する男女への啓発や知識の普及が不可欠となる. -
未成年者の飲酒問題─ 20 歳未満の飲酒の弊害
274巻1号(2020);View Description Hide Description未成年飲酒は急性アルコール中毒や事故などによる若年者の主な死因にあげられ,脳機能や臓器の発達に悪影響を及ぼす.脳の発達ではとくに海馬の容量が有意に減少し,前頭前野皮質の発達の遅れも示唆されている.また,急性アルコール中毒による救急搬送は2014 年から増加傾向にあり,今後も予防策を検討する必要がある.未成年飲酒は臓器障害やアルコール使用障害,飲酒運転事故,自殺などのリスクを高めるため,飲酒開始年齢を20 歳以上にとどめておくメリットは大きい.今後,いかに個別の飲酒リスクの認識を個人や社会が高め,未成年飲酒の予防に結びつけられるか,その方法をさらに検討することが課題になると考えられる. -
高齢者と飲酒問題─アルコール関連認知症を合併したアルコール依存症
274巻1号(2020);View Description Hide Description近年,高齢者におけるアルコール問題は増加してきている.高齢者のアルコール関連問題のひとつとして,認知症の合併がある.多くの研究では,少量の飲酒は認知症発症のリスクを減らすが,多量飲酒は認知症発症のリスクを高めることが示されている.アルコール関連認知症の多くはウェルニッケ・コルサコフ症候群の基盤を有していると考えられるが,アルコールそのものの神経毒性による一次性アルコール性認知症が存在するかどうかについては意見がわかれる.アルコール関連認知症は禁酒によって認知機能の改善を得られる可能性がある.また,アルツハイマー型認知症においても,飲酒問題は行動上の問題を悪化させることがある.アルコール専門治療機関への調査では,認知症を合併したアルコール依存症患者では専門治療のプログラムに乗ることが難しいという問題が指摘されているため,認知症合併患者に特化した高齢者の飲酒問題への介入プログラムの開発が望まれる. -
アルコール使用障害とDV・子ども虐待
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionアルコール使用障害(AUD)とドメスティックバイオレンス(DV)や子ども虐待(CA)などの近しい関係における暴力が重複する事例は少なくない.本稿では,両問題の重複状況や重複する理由についてまとめたうえで,両問題に対する予防,介入・治療,再発防止について統合的な支援について述べた.とくに物質使用障害(SUD)とDV・CA の加害や被害を反復しないための再発防止プログラムについて詳しく述べた.また,暴力とアルコール依存症の共通する部分が多い一方で,社会的には異なる部分があることを指摘して,これらの問題が重複している場合の対応における優先順位や注意すべき点を示した. - アルコール関連問題への取り組み
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行政の取り組み
274巻1号(2020);View Description Hide Description酒類(アルコール)は,国民の生活に豊かさと潤いを与えるものであるとともに,酒類に関する伝統や文化が国民の生活に深く浸透している.一方,不適切な飲酒はアルコール健康障害の原因となり,本人の健康問題のみならず,その家族への深刻な影響や飲酒運転,暴力,虐待,自殺などのさまざまな社会問題にも密接に関連している.これに鑑み,2013 年11 月,アルコール健康障害対策を推進するためのアルコール健康障害対策基本法案が国会に提出され,同年12 月にアルコール健康障害対策基本法(平成25 年法律第109 号.以下,基本法)として公布され,2014 年6 月に施行された.また,基本法に基づき,2016年5 月に“アルコール健康障害対策推進基本計画”(以下,基本計画)が策定,閣議決定された.アルコール健康障害対策は,健康問題以外にもさまざまな分野にまたがる総合的な取り組みが重要であることから,基本法および基本計画に基づき,関係省庁や関係団体,事業者などが総合的に対策を講じることとしている. -
アルコール使用障害への早期介入プログラム
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionわが国のアルコール対策は,これまで長くアルコール依存症患者を対象に,断酒を唯一の治療目標としてきた.しかし治療に結びつく患者は少なく,治療成績もかんばしくなかった.そして1980 年代以降,欧米を中心に,アルコール使用障害も早期に飲酒量低減を目標に介入することにより,健康被害も少なく,効率的に行動変容が起こることが確認され,その介入技法としてブリーフインターベンション(BI)が開発されてきた.わが国ではBI に情報提供の要素も加え,集団にも適応可能にしたHAPPY が減酒支援のツールとして,生活習慣病や飲酒運転対策などに,職域や地域,医療機関など,さまざまな場で使用されている.本稿では,まずBI について概説し,HAPPY をはじめとする,わが国で開発されたアルコール使用障害への早期介入プログラムについて紹介する. -
アルコール関連問題における多職種・多機関連携とSBIRT
274巻1号(2020);View Description Hide Description多量飲酒に起因するさまざまな有害事象には,身体障害や精神障害のみならず,家庭内暴力や生活困難などの社会的な問題を抱えている場合が多く,その対応には多職種,多機関連携による総合的な対応が求められる.三重県では1996 年より,内科医,精神科医,看護師,保健師,医療ソーシャルワーカー,行政,断酒会などのスタッフが連携し,研究会を立ち上げ,各スタッフのアルコール依存症に対する知識を高めるとともに,連携による同症の対応に取り組んできた.また三重県下,最大の商工業市である四日市市においても多職種で構成する組織を立ち上げ,研究会などを開催するとともに,同症の診療に役立つパンフレットやアルコール救急に役立つマニュアルを作成するとともに,SBIRT の活用方法などを多職種と共有し,アルコール依存症の対応に役立ててきた.今後も同症に対応する多機関,多職種のスタッフの知識と理解を高め,連携が非常に有用であることを,さまざま活動を通じて,社会に伝えていきたい. -
職域におけるアルコール関連問題とその対策
274巻1号(2020);View Description Hide Descriptionアルコール関連問題は,職場の欠勤(absenteeism)およびプレゼンティーズム(presenteeism)と強く関連しており,産業保健としても,取り組む意義の大きい課題である.近年では,AUDIT をはじめとするスクリーニングとその結果を用いたブリーフインターベンションが一部の事業場で試みられてはいるものの,大企業でさえ浸透しているとはいえないのが現状であろう.他方で,アルコール関連問題対策が動き出す契機もみることができる.従業員の健康と生産性の向上を結びつける“健康経営”は,一時的に注目を集めたにとどまらなかった.今後も,多くの企業がそれに向けた取り組みを進めるものと推測される.また,“病気の治療と仕事の両立支援”の推進が求められており,医療と産業保健の連携はますます重要視されると考えられる.これらは,アルコール関連問題対策にも影響をもたらすと考えられる.今後,アルコール依存症の治療ガイドラインの刷新によって,アルコール使用障害の医療に変化がみられれば,職域におけるアルコール関連問題への対応も,これまでのものとは異なったアプローチが追加される可能性がある. -
飲酒が関連する交通事故と飲酒運転への対策
274巻1号(2020);View Description Hide Description酒気を帯びて自動車などを運転すると,そして,体内のアルコール濃度が高くなるほど,運転操作や判断力が阻害されて交通事故リスクが高くなる.われわれは飲酒運転が許容されない社会規範のなかで生活しているにもかかわらず,飲酒運転をする人はこの高リスク行動をとってしまう.最大の原因は不適切な飲酒行動にあるが,飲酒運転をする人は飲酒後に自身の運転パフォーマンスが低下していることを自覚できず,不適切な行動をとる.飲酒運転の再犯防止対策のうち,治療的・教育的対策については,飲酒運転で被検挙歴がある人にみられる認知(ものの見方)と行動の特性を理解し,彼らが自ら行動変容しようと思えるような対策が重要であると考えられる.また,飲酒は歩行者や自転車利用者の交通外傷の原因にもなっているとみられる.飲酒が関係する交通事故と飲酒運転対策のうち,本稿はこうした話題について最近の研究知見を概説する. - アルコール医学・医療の理解に必要な最新基礎知識
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