医学のあゆみ

Volume 275, Issue 12, 2020
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特集 ブレイン・マシン・インターフェース(BMI ) ─ 臨床応用の展望
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ブレイン・マシン・インターフェースとニューロリハビリテーション
275巻12・13号(2020);View Description
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脳活動を読み出し,その分析結果に応じて外部機器を駆動するシステムであるブレイン・マシン・インターフェース(BMI)の医療応用が進んでいる.とくに,脳卒中後の上肢片麻痺患者を対象として実施されるBMIニューロリハビリテーションでは,患者が麻痺手の運動を企図しているときに生じる機能代償野の興奮性をBMI で読み出し,興奮性が十分認められたタイミングで電動装具を駆動することで,機能回復を誘導する.BMI ニューロリハビリテーションでは,非侵襲的な脳活動計測方法である頭皮脳波がよく用いられるが,特徴量を適切に選択すれば標的脳領域の興奮性を医学・生理学グレードで適切に読み出せることがわかっている.また,BMI の反復的な利用によって脳内に誘導される可塑性に関しても,臨床的に意義のある脳機能修飾量が得られると報告されている.本稿では,治療概念を下支えするこれらの基礎的な神経生理学研究を中心に,国内外の研究事例を紹介する. -
非侵襲型BMIによるコミュニケーションと運動の補助
275巻12・13号(2020);View Description
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筆者らは,脳波を用いた非侵襲型ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)研究を行い,特定の視覚刺激を注視した際に生じる脳由来信号を利用し,コミュニケーションおよび運動の補助を可能とするシステムを開発し,その臨床評価も進めた.筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者は,開発したBMI 型環境制御装置の使用が可能であり,さらに長期評価時に完全閉じ込め状態へと移行した患者においても,機器が継続して使用可能であることが示された.こうしたBMI 技術をさらに研究開発していくことで,麻痺を伴う患者・障害者への科学的支援につなげることが期待できる. -
Decoded Neurofeedbackによる疼痛緩和
275巻12・13号(2020);View Description
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ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)とdecoding の発達に伴い,詳細で多様な脳情報がオンラインで得られるようになった.この情報に基づいてフィードバックを行うことで,脳活動状態を修飾し,脳活動と脳機能との関係を調べる方法としてDecoded Neurofeedback(DecNef)が注目されている.筆者らは,病的な疼痛を制御するために,DecNef を医療応用することをめざしている.疼痛は侵害刺激をきっかけとして脳内で生じる知覚であるが,とくに慢性疼痛のように,脳内での情報処理システムの異常として生じる場合がある.このような異常な脳活動を修飾し,その病態を解明し,治療法の開発をめざしている.筆者らは,幻肢痛を対象として脳磁図を用いたDecNef を開発した.これにより,幻肢痛と幻肢運動表象との関係を明らかにし,DecNef により痛みを持続的に抑制できることを明らかにした.本稿では,DecNef を用いた慢性疼痛治療について議論する. -
視覚脳情報解読の今とこれから
275巻12・13号(2020);View Description
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われわれの日常はさまざまな情報に溢れている.日々の生活のなかでわれわれは,見る・聞く,意味内容を理解する,思考する,情動を誘起させるなど,多様な知覚体験をする.このような知覚体験が起こる際,脳内ではこれらの多様で複雑な情報は,どのように表現されているのであろうか.近年,多様な情報を含む映像などの一般的刺激下における脳活動を計測し,刺激が含むさまざまな特徴の定量的記述を用いてその脳活動を解析することで,脳活動を包括的・定量的に理解する試みが進んでいる.また,これによって得られる脳活動の定量的知見を活用することで,逆に脳活動から知覚体験を解読・推定する研究も進んでいる.本稿では,このような定量的脳研究について,とくに映像・意味・情動の知覚体験をつかさどる脳内情報表現の解明や脳活動の解読を例にあげて概説する.また,これら定量的脳研究の臨床応用の可能性について考察する. -
侵襲型BMI
275巻12・13号(2020);View Description
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脳とコンピュータを接続し,カーソルやロボットアームなどの制御を行うブレイン・マシン・インターフェース(BMI)のなかでも,センサー(神経電極)や信号処理デバイスを外科手術などによって体内に留置するものを“侵襲型BMI”と総称する.侵襲型BMI では,非侵襲型BMI に比べて高品質な脳活動計測を行うことができるため,動物モデルによる検証を含む先端的な成果は侵襲型BMI によって示されてきた.加えて,近年では基礎研究の範疇を超え,デバイスを長期間安全に使用するための完全植込み化,より高精度な脳活動読み取りを可能にするためのセンサーの超多点化,分散配置などを通じてヒト臨床や実生活における安全性・有効性を検証していくための準備が進みつつある. -
網膜電気刺激による視覚再建
275巻12・13号(2020);View Description
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視細胞が変性して視野が狭くなり,進行すると視力が失われる網膜色素変性症に対しては,これまで有効な治療法がなかった.近年,人工網膜,遺伝子治療,再生医療などの先進医療の進歩により,失われた視覚を再建できることが,動物実験で示され,臨床試験も進められている.人工網膜は小型カメラで外界の像を撮影し,コンピュータで信号を処理した後,無線で体内装置に信号を伝送し,微小電極が配列された電極アレイを走査して,網膜内層の神経を電気刺激することにより,擬似的な光(phosphene)を得るシステムである.人工網膜にはさまざまなアプローチがあるが,それぞれの方法で実用化が進みつつある.人工網膜を埋植した患者は,到達運動や線に沿って歩くことなどが可能になる.患者の生活の質の改善には,外科的手技およびデバイスの進歩だけでなく,効果的なリハビリテーション法の開発が必要である. -
人工神経接続の臨床応用
275巻12・13号(2020);View Description
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脊髄損傷や脳卒中による運動機能の消失は,大脳皮質と脊髄間を結ぶ神経経路が切断されているために起こる.しかし,損傷の上位に位置する脳や下位に位置する脊髄や筋の神経・筋構造は,その機能を失っているわけではない.したがって,損傷上位に位置する脳から神経活動を直接読み取り,コンピュータを介して損傷した下位の脊髄・筋へ新たに伝達する“人工神経接続”によって,失った運動機能を再建することが可能である.本稿では,この人工神経接続を用いた運動機能の再建例を紹介し,人工神経接続の臨床応用における今後の課題と展望について述べる. -
ALS患者に対する体内埋込型BMIによる機能再建
275巻12・13号(2020);View Description
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筋萎縮性側索硬化症(ALS)では病状が進行すると,閉じ込め状態あるいはそれに近い状態になるため,生活の質の低下が著しく,介護者への負担も大きいため,侵襲的な人工呼吸管理による延命を希望する患者は少ない.ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)により意思伝達を補助し,さらには四肢の運動機能を補助できれば,このような状況を改善できると期待されている.体内埋込型BMI では頭蓋内電極から正確な脳信号を記録できるため,これを人工知能(AI)により解読すれば性能の高い機能再建が達成でき,意思伝達装置やロボットアームの操作が可能となる.現在,重症ALS 患者を対象として,ワイヤレス体内埋込BMI 装置を用いた意思伝達の治験に向けて開発,そしてPMDA 薬機戦略が進められており,医療応用が期待される.
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臨床医が知っておくべき最新の基礎免疫学 15
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サイトカインと抗サイトカイン療法
275巻12・13号(2020);View Description
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サイトカインは細胞同士や周辺細胞のシグナル伝達,相互作用を担う可溶性低タンパク物質の総称であり,感染に対する生体防御をはじめとして細胞分化や増殖,生体の恒常性維持,悪性腫瘍に対する防御などさまざまな機能を担っている.一方でその制御機構に異常を生じることでサイトカインの過剰産生,あるいは産生低下となり,関節リウマチ,炎症性腸疾患などの自己免疫性疾患や気管支喘息,アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患などさまざまな疾患の原因となり得る.近年サイトカインを標的とした抗体製剤が自己免疫性疾患,アレルギー性疾患などさまざまな疾患に対して開発されており,治療成績は各段に向上している.本稿では主に現在治療標的となっているサイトカインに焦点を当てて解説する.
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バイオミメティクス(生体模倣技術)の医療への応用 11
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金ナノ粒子自己組織化カプセルを用いたドラッグデリバリーシステムの開発
275巻12・13号(2020);View Description
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体内の薬剤分布を量的・空間的・時間的に制御することで,高い薬効と低い副作用,投与回数の低減などを可能にするドラッグデリバリーシステムの開発が進められている.とくに,副作用が強い抗がん剤を用いたがん治療に有効であると期待されている.がん治療に向けたDDS キャリアとしては,20~100 nmの大きさが望ましく,自己組織化を利用したリポソーム型キャリアや高分子ミセル型キャリアが開発されてきた.薬剤徐放の観点から,環境あるいは刺激応答性の賦与も進められてきた.一方で,外部からの人為的な物理刺激による薬剤徐放によって,時間・空間的な制御性の向上がはかられている.筆者らのグループは,光エネルギーを効率良く熱エネルギーに変換可能な金ナノ粒子を自己組織化させることで中空ナノカプセルを作りだすことに成功した.金ナノ粒子自己組織化カプセルは,化学的に安定で生体不活性であるとされる金ナノ粒子を主成分とした安全性の高い光応答性ナノカプセルとして今後の応用展開が期待されるものである.
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TOPICS
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- 輸血学
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- 薬剤学
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- 脳神経外科学
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速報
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ウィズコロナ時代でも消化器がん検診は必要である
275巻12・13号(2020);View Description
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2019 年12 月に中国で集団発生した新型コロナウイルス(severe acute respiratory syndrome coronavirus2:SARS-CoV-2)による感染症(coronavirus disease2019:COVID-19)は,2020 年1 月16 日に日本に上陸し1),以後,全国に拡大した.このようななか,消化器がん検診を積極的に勧奨すべきかどうか悩んでいる医療関係者も多いと思われる.また,一般人の検診受診控えもあるようである.とくに,検査中の咳やくしゃみによる飛沫感染が問題となる胃内視鏡検診ではなおさらである.そこで今回,筆者らはCOVID-19 と検診対象消化器がんの死亡率を比較し,ウィズコロナ時代における消化器がん検診の必要性を検討した.なお,今回死亡率を用いたのは,SARS-CoV-2 検査数の問題や無症候感染者の問題などにより,SARSCoV-2 感染率やCOVID-19 罹患率の正確な値がわからないので,これらの値が不明でも信頼性の高い確定値が得られる死亡者数を用いたからである.また,死亡率の比較には性別に年齢調整をして比較するのが原則であるが,現時点ではCOVID-19 の性別・年齢別死亡者数が公表されていないので,おおまかでも迅速な判断を下すほうが重要と考え,男女合計で年齢調整し比較検討した.
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FORUM
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- 病院建築への誘い ─ 医療者と病院建築のかかわりを考える
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特別編―感染症対策と建築③
275巻12・13号(2020);View Description
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◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます.
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天才の精神分析 ─ 病跡学(パトグラフィ)への誘い 9
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病跡学は実践に使えないのか?─ 病跡学を“精神科医の趣味”とお考えの先生方に
275巻12・13号(2020);View Description
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本誌は精神科医向けではないので,おそらく精神科というだけでも,他科の先生方はさまざまなお気持ちや,いろいろなご経験がご記憶のなかを去来されるのではないだろうか.筆者は一人医長歴が長く,総合病院の隅っこで臨床をしてきたので,おおよそ想像がつく. そこに「病跡学」となると,「なるほど,精神科は歴史上の人物をあれこれ考えている時間があるのか」「ずいぶん前に死んだ人物のことを考えるくらいだったら,自分の患者のことを考えるべきでないか」といったお気持ちを抱かれるのが正直なところではないだろうか. そもそも精神科医同士でも,「病跡学をやっています」と発言すると,相手の反応は大変微妙になる.同じ科なのでむしろ遠慮がなくなり,ずばり「先生,暇なの?」と言われることもある. あまり愚痴を書いても仕方ないので,本稿では筆者が誤解されていると考えている点を述べさせていただきたい.それは病跡学と臨床との関係である.病跡学とは何かについては,本連載で筆者の大先輩にあたる方々が,多くの論考を執筆なさっているので,おおよそご理解いただいているものとして論を進めたい.
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