医学のあゆみ
Volume 278, Issue 3, 2021
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特集 フットケア・足病医学─ 歩行・生活を守るチーム医療の確立
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循環器内科医による足病管理
278巻3号(2021);View Description Hide Description内科疾患のなかで足病変を伴う代表的なものは,糖尿病と末梢動脈疾患である.糖尿病性足病変は神経障害性と虚血性およびその両者に大別され,神経障害性では足趾の変形を伴っていることが多い.末梢動脈疾患は下肢の動脈硬化により慢性的な虚血が生じ,それにより歩行障害や足趾の潰瘍/壊死に至る病態である.背景に,脳や心臓における動脈硬化性疾患を伴っていることが多く,とくに重症虚血肢になると,生命予後はきわめて不良である.根治的治療は血行再建による循環動態の改善が必須であるが,組織欠損(創傷)を伴う場合は形成外科との連携が必要となってくる.内科医,とくに循環器内科医は全身管理と血流評価を専門とするなかで,足病変に関するゲートパーソン的存在になるべきであるが,学会主導でわが国においても足病専門医の育成が急がれるところである. -
腎臓内科医(透析医)の視点から
278巻3号(2021);View Description Hide Description腎機能低下それ自体が末梢動脈疾患(PAD)の危険因子であり,慢性腎臓病(CKD)患者ではPAD 合併頻度が高い.CKD 患者ではサルコペニアも多く合併し,予後が不良となる.また,透析患者で動脈硬化は進展しやすい.その機序として,①糖尿病や高血圧症の合併,②尿毒症性物質の蓄積やカルシウム・リン代謝異常による血管石灰化,③透析独特の危険因子として,異物との接触で生じる血小板・単球の活性化などの微細炎症,血液粘稠度の上昇,透析患者独特の血圧変化,また血管内皮前駆細胞(EPC)数の減少などさまざまな因子の存在が考えられる.動脈硬化の進行は下肢動脈だけでなく,脳心血管系でも起こり,生命予後悪化につながる.PAD をできるだけ早期に診断し,禁煙,フットケア,抗血小板薬内服などの基本的治療を行うとともに,栄養や運動などにもチームで介入することが望ましい.透析患者に対しては透析時間や透析のモダリティー,透析膜の選定など,どのような透析を行っているのか,十分な溶質の除去(尿毒症性物質など)が行われているかの評価が重要である. -
血管外科の立場から
278巻3号(2021);View Description Hide Description“歩行や生活を守る”血行再建を提供するためには,長期にわたって良好な血流と機能を提供・維持する必要があり,治療効果のdurability が求められる.血管外科医は血管内治療(EVT)やバイパス術,血管形成術を使いこなすことができ,durable な血行再建の提供が可能である.患者の全身状態をよく評価し,かつ血行再建後の歩行可能性を検討して,患者ごとに最適な血行再建を選択し,血行再建後は多診療科多職種で歩行能の回復・維持に努めること,さらに再建した血行の維持のために術後のフォローアップを綿密に行うことなど,歩行や生活を守るためには,病院や地域の総合力が必要となる. -
大学病院初の「足の疾患センター」における足病診療の取り組みと形成外科の役割
278巻3号(2021);View Description Hide Description日本に存在しない欧米の足病医療(膝を含まない下腿~足部の医療)を日本においても充実させるため,足病学に精通する各診療科と業種の専門家を集結し,順天堂医院において日本初の大学病院における「足の疾患センター」を設立した.本センターは足に生じる症状に対して総合的にアセスメントを行い,フットケアから最先端医療まで集学的治療を行うことを目的としている.本センターにおける形成外科の役割は,足部に生じる潰瘍に対して適切な創傷管理と外科的治療を実施することである.足潰瘍が生じる原因はさまざまであり,循環器内科,糖尿病内科,膠原病内科,腎臓内科,整形外科,リハビリテーション科,義肢装具士など,多くの診療科と他業種と連携し,診断と治療を実施する必要がある.本センターが存在するメリットは迅速に同じ知識,目標を共有する専門家と連携したチーム医療を実現することができる点である. -
看護師の立場から
278巻3号(2021);View Description Hide Description2025 年に向けて超高齢少子化社会は進み,2040 年には高齢化は続くとともに生産年齢人口の減少により,世代間の不均衡が進むといわれている.医療ニーズが高い高齢者を医療現場だけで受け入れることは困難で,下肢救済の視点で見ると,足病患者は血行再建や手術を要する場合,短期間医療施設に入院するが,それ以外は在宅や介護福祉施設で診ていくことが通常になるであろう.そうした背景のもと看護師の役割は多様化すると考える.医療現場においては医師のタスクシフトやタスクシェアの推進に伴い,看護師の特定行為研修制度の活用がすすみ,治療の一端を担う看護師が増加するであろう.たとえば,壊死組織のデブリードマンや陰圧閉鎖療法などの創傷管理,糖尿病患者の血糖コントロールなどを担い,病院から在宅へと活躍の場を拡げていくであろう.一方で,足病を予防するには質の高いフットケア技術の普及を推進しながら,その活躍の場を医療から広く福祉の場にも広げていく役割も求められる.今後の歩行・生活を守るチーム医療のなかで看護師の役割はあらゆる場であらゆる人を対象に多様性を求められていくと考える. -
足病チーム医療における理学療法士の視点
278巻3号(2021);View Description Hide Description歩行機能は,包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の予後予測因子となることが報告されている.これまで足部の潰瘍治療過程においては,患部の上皮化を阻害する可能性があるため,活動を制限されることが多かった.しかし,活動制限による歩行能力低下は予後に悪影響を及ぼすことが示され,潰瘍が完治するまでの期間“いかに歩行を守るか”が課題となっている.歩行・生活を守るチーム医療の確立に向け,理学療法士に期待される役割は歩行能力を安全に高めることであるが,CLTI においては容易ではない.病態や治療過程の問題を無視した歩行練習やADL 拡大は転帰の悪化につながることもある.CLTI の病態は複雑であるが,病期を分けて理学療法の役割と課題を把握し,チーム医療の確立に貢献していきたい. -
作業療法の立場から
278巻3号(2021);View Description Hide Description下肢慢性創傷患者は高齢かつ糖尿病などの併存疾患を有し,認知機能,上肢機能の低下などを呈していることが多く,自宅退院に向けた心身機能への介入はもちろんのこと,日常生活活動(ADL)への支援が欠かせない.下肢創傷ケアチームのなかで作業療法は,創傷治療中には認知・心理機能の評価や,心身の廃用予防のために精神機能賦活への活動や荷重計画に応じた身辺動作能力への介入を行う.また安静度が拡大できる創傷治癒後には,再発予防に向けたADL 訓練,手段的ADL(IADL)訓練,在宅生活に向けて関連職種との環境調整などを行う.加えて,個々の患者の必要性に応じて,自動車運転の再開などに向けた判断材料となる各種検査を実施し,退院後の生活を見据えた支援を行っている.以上のように,作業療法では心身機能を考慮しながら,包括的な視点から活動,参加を支援する役割を担っている. -
義肢装具士の立場から
278巻3号(2021);View Description Hide Description高齢者や糖尿罹患者の増加,健康増進法の制定などに伴い,足に対する注目度が年々増していると感じる.また,ウォーキングやジョギングなど健康志向もあり,足の疾患を訴える人が増加しているようにも見受けられる.これら状況のなかで,包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)の足病変(以下,足病変)に対するフットウェアデバイス(インソールや足底装具,靴や靴型装具,短下肢装具やその他下肢装具など,足に装着する履物の総称.以下,フットウェア)の役割は,プライマリケアからセカンダリーケアまで多岐にニーズがあり,それぞれに重要な役割を担っている.義肢装具士は専門職として,適切なフットウェアを提供するために,チーム医療の一員としての役割を果たしていかなければならない.また,今後より多くの義肢装具士が足病変の専門知識を有し,創傷治療に参画できるよう,後進の育成にも注力する必要がある. -
“地域”の視点から
278巻3号(2021);View Description Hide Description足と歩行を守ることは個人の生活を守るばかりでなく,社会保障や経済活動の維持にとっても重要である.そのため,多職種・多診療科によるさまざまな治療・ケアが行われているが,こうした“リソースフル”な施設との関わりは時間的にも空間的にも限られているのが現状である.生涯にわたって足と歩行を守っていくためには,生活に関わり続ける必要があるため,医療・介護を含めた,いわゆる“地域”の果たす役割は今後ますます重要となってくると考えられる.しかし,現時点ではさまざまな課題を抱えているといわざるを得ない.本稿では,筆者の経験や各地域における活動報告などをもとに,“地域”の視点からみたフットケア・足病医学の現状と課題,さらに今後に向けて必要と考えられることについて述べていく.とくに専門外の読者諸氏に,この問題について考えていただくきっかけになれば幸いである.
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連載
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- この病気,何でしょう? 知っておくべき感染症 13
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腸アニサキス症(腸閉塞を診たら食歴も尋ねよう)
278巻3号(2021);View Description Hide Description小腸閉塞の多くは術後の腸管癒着が原因である.腹部手術歴がない場合にはアニサキス症を鑑別にあげ,感染源となる海産魚介類の食歴を聴取してほしい.アニサキスの小腸寄生は4~5%,大腸寄生は0.25%との報告がある.小腸アニサキス症の腹部造影CT 所見(造影効果を伴う小腸の限局性粘膜下浮腫,同部位を閉塞起点とし口側の腸管拡張と液体貯留,腹水貯留)は特徴的である.発症すぐには末梢血好酸球増多がみられないことが多い.発症時と回復期のペア血清で抗アニサキス特異的IgG 抗体価を測定し,その有意な上昇をもって診断する.保存的治療で自然軽快することが多いが,穿孔あるいは腹膜炎,出血,腸重積を合併し,開腹術が必要となる症例もあるため慎重な経過観察が必要である. - いま知っておきたい最新の臨床検査 ─ 身近な疾患を先端技術で診断 12
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長時間ビデオ脳波モニタリング
278巻3号(2021);View Description Hide Description◎長時間ビデオ脳波モニタリング(VEEG)は昼夜持続で脳波とビデオを同時記録する検査である.最も重要な目的は「いつもの発作(habitual seizure)」を記録することであり,発作のビデオ記録(発作症候)と脳波記録(発作時脳波所見)を同時に解析することである.限界はあるものの,VEEG により①てんかん発作と非てんかん発作の鑑別,②てんかん発作の場合には,全般発作と焦点発作の鑑別,③焦点発作の場合,発作焦点の局在診断を行うことができる.これら主な目的以外にも,脳波を長時間記録することにより,通常の脳波検査に比し有意にてんかん性異常波の検出率が高くなる.VEEG は難治性てんかんの診療において根幹となる検査だが,てんかんの診断が悩ましい場合や,てんかんの治療が上手くいかない場合などにも積極的に行うことが勧められる.
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TOPICS
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- 脳神経外科学
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- 細胞生物学
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- 免疫学
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FORUM
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- 子育て中の学会参加 5
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産婦人科領域―キャリアアップのための支援とは?
278巻3号(2021);View Description Hide Description2000 年より,日本の医師国家試験合格者に占める女性の割合は30%を超えており,近い将来,医師全体に占める女性の割合が30%以上となることは明らかである1).一方,女性医師は男性医師と比較して,多様な人生のイベントがあり,キャリア継続やキャリアアップをはかるためにも多方面からの支援が必要である.ここでは,女性医師の割合が短期間に急激に増加した産婦人科における女性医師のキャリア継続,キャリアアップのための数々の調査や取り組みについて,学会参加への支援も含めて概説する. - 特別寄稿
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新型コロナワクチンの公平な供給―COVAX ファシリティの取組み
278巻3号(2021);View Description Hide DescriptionCOVAX ファシリティは,Gavi ワクチンアライアンス(以下,Gavi)a,CEPIb,WHOcが主導し,安全性,有効性および品質が保証されたワクチンへの公平なアクセスを国家の経済力にかかわらず,途上国を含め確保することを目的として発足した国際的な枠組みである1). 日本は,Gavi 理事会メンバーとして,COVAXファシリティの設立当初より,その制度設計の議論に参加するとともに,COVAX ファシリティによるワクチン確保のための資金を早期に拠出したことに加え,2021 年6 月2 日に菅総理大臣がGaviとの共催で,COVAX ワクチン・サミットを開催dするなど,積極的に関与してきた. 本稿では,COVAX ファシリティを通じて供給されるワクチンがどのように選ばれ,分配され,供給されるのかについて解説する.COVAX ファシリティでは,①高所得国,高中所得国が自ら資金を拠出し,自国民のためのワクチンを購入する枠組みと,②各国政府や機関,民間等のドナーによる拠出金により,低所得国等へのワクチン供給を行う枠組みの2 つが組み合わされている.ここでは便宜上,①を「先進国等向け枠組み」,②を「途上国向け枠組み」とよぶ.