医学のあゆみ
Volume 278, Issue 6, 2021
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【8月第1土曜特集】 構造生命科学による創薬への挑戦
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- 構造解析から創薬へ
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タンパク質立体構造に基づいた抗ウイルス薬の創製戦略
278巻6号(2021);View Description Hide DescriptionStructure-based drug design(SBDD)は強力な標的阻害活性を示すリード化合物を,より迅速かつ費用対効果の高い方法で発見することを目的とした新規治療薬創製のアプローチのひとつである.X 線結晶構造解析や核磁気共鳴法(NMR),クライオ電子顕微鏡解析といった手法で得られたタンパク質の立体構造は薬剤が結合可能なポケットを可視化し,薬剤開発への重要な知見を与える.SBDD によって開発された薬剤の代表例として,ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対抗するプロテアーゼ阻害薬があげられる.後天性免疫不全症候群(AIDS)関連死亡者数を大きく減少させることに成功したプロテアーゼ阻害薬は,以後の創薬戦略に大きな影響を与えた.2019 年末に出現したSARS コロナウイルス2(SARS-CoV-2)では驚異的な速さで創薬標的分子の立体構造が決定され,抗ウイルス薬の開発が進められている.本稿では抗HIV 薬の開発を例にあげてSBDD について概説し,さらにSARS-CoV-2 に対する取り組みについて触れていきたい. -
グルコース-6-リン酸脱水素酵素異常症の構造基盤
278巻6号(2021);View Description Hide Descriptionグルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)はNADP+/NADPH のレドックス制御を介した細胞内の酸化ストレス調節に重要なタンパク質である.ミトコンドリアなどの細胞小器官を有さない赤血球においては,G6PD がNADPH 産生の主要な酵素となるため,G6PD の活性低下は赤血球の崩壊に伴う溶血性貧血の原因となる.興味深いことに,世界でおよそ4 億人がG6PD 遺伝子に変異を有すると推定されており,変異によってはG6PD の活性が野生型の10%以下まで低下することが報告されている.世界保健機関(WHO)によるクラス分類において最も重篤なクラス1 変異を有するG6PD 異常症患者は,G6PD の活性低下に加えて慢性非球状溶血性貧血(CNSHA)の症状を呈する.G6PD 異常症に対する効果的な治療法はいまだ確立されていないが,G6PD 異常症の原因となるG6PD 変異体に対する薬剤スクリーニングや立体構造解析から,今後のG6PD 異常症に対する創薬化学研究が期待されている. -
構造から捉えた,エンドセリンB型受容体標的薬の動作原理
278巻6号(2021);View Description Hide Descriptionエンドセリン受容体はG タンパク質共役型受容体(GPCR)の一種であり,ペプチドホルモンであるエンドセリン-1(ET-1)を受容することで血圧調整などの体内の恒常性維持を担う.ET-1 の異常な産生はがん,高血圧,心臓病など疾患の原因となるため,その作用を拮抗的に阻害する拮抗薬が臨床研究されている.実際に,肺動脈性肺高血圧症(PAH)に対する治療薬として,拮抗薬であるボセンタンやその誘導体が実用化されている.筆者らは,X 線結晶構造解析を用いることで,ヒト由来エンドセリンB 型受容体の計8 つの構造解析に成功した.構造情報から,ET-1 による受容体活性化機構や,臨床に使われている拮抗薬の結合様式および受容体活性阻害機構が明らかになった.エンドセリン受容体を標的とした臨床試験は,がんをはじめとしてフェイズ3 で失敗しているものも多い.構造情報に基づいて,エンドセリン受容体を標的とした新規薬剤を開発できれば,こうした状況を打開できる可能性がある. -
Toll様受容体をターゲットとする創薬
278巻6号(2021);View Description Hide DescriptionToll 様受容体(TLR)がエンドトキシンをはじめとするさまざまな病原体由来構造を認識し,自然免疫を始動する受容体であることが報告されて以来,TLR の研究は精力的に研究され,インターフェロンや炎症性サイトカインの産生を誘導することで感染防御に重要な役割を果たすことが明らかになっている.その一方で,TLR シグナルが関与する過剰な炎症反応は,アレルギー疾患や自己免疫疾患などの病態を引き起こすことが知られている.このため,TLR は重要な創薬ターゲットである.さらに,ワクチンの効果を増強するアジュバントの開発においても大きな注目を集める.近年の構造生物学研究はTLR の実体を視覚化し,原子レベルでリガンド認識機構,活性化機構を明らかにした.得られたTLR の構造科学情報が有望な医薬品開発につながることが大きく期待される. -
フラグメント創薬(FBDD)のための溶液NMR実験法
278巻6号(2021);View Description Hide Description溶液核磁気共鳴(NMR)法は,創薬においてタンパク質と低分子化合物との相互作用の研究によく利用される手法のひとつである.溶液NMR 法は弱い相互作用の検出に優れているため,とくにフラグメント創薬(FBDD)において重要な役割を果たす.溶液NMR による相互作用実験はリガンドベースの方法とタンパク質ベースの方法に大別される.リガンドベースの方法は,結合が検出できる親和性に制限があることや結合が特異的かどうかを見分けるためには競合実験が必要といった欠点があるが,タンパク質を安定同位体標識する必要がなく,必要なタンパク質の量も少ないため,頻繁に利用される.一方,タンパク質ベースの方法は,タンパク質の試料調製上の困難はあるが,結合の有無のほか,分子認識についての情報が得られるという強力な利点がある.本稿では両者の代表的な実験方法について概説する. -
複合体構造に基づく薬物設計による新規抗菌薬リード開発への取り組み
278巻6号(2021);View Description Hide Description近年,既存の抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が蔓延し,公衆衛生上深刻な問題となりつつある.細菌細胞壁であるペプチドグリカンの生合成は,古くから抗菌薬の標的となってきたが,既存の抗菌薬にはほとんどすべて耐性菌が出現している.したがって,既存の耐性機構とは交差せず,新たな作用機序を有する新規抗菌薬の開発が急務である.MraY はペプチドグリカン生合成酵素のひとつであり,MraY 阻害は細菌にとって致死的であるとともに,既存の標的とは異なることから,新規抗菌薬のターゲットとして期待される.ツニカマイシンは,MraY を阻害することで抗菌活性を示すことから,新規抗菌薬リード候補のひとつとなりうる.しかし,ヒトのGPT を阻害することで細胞毒性を示すことから,そのままでは抗菌薬として開発することはできなかった.近年,標的酵素との複合体構造が解かれ,これらをもとにGPT を阻害しない誘導体が開発されている.これらの誘導体は,新規抗菌薬リード候補となることが期待される. -
GPCRの構造解析研究
278巻6号(2021);View Description Hide Descriptionシグナル伝達に関与するG タンパク質共役型受容体(GPCR)は重要な創薬標的であることから,GPCR の構造解析研究は盛んに行われている.アレルギーに関わるヒスタミンH1受容体の構造解析とドッキング計算からは,高い選択性を持ち副作用の少ない抗ヒスタミン薬の開発に利用可能な知見が得られた.さらにinsilico スクリーニングにより,親和性が高くヒスタミンH1受容体の活性化を抑制する新規化合物を効率よく選別することにも成功している.統合失調症やパーキンソン病の治療薬の標的であるドパミンD2受容体の構造解析研究では,副作用の軽減に必須な高い受容体選択性を持つ薬の開発につながる受容体固有の薬剤結合部位が同定されている.統合失調症の治療薬の標的であるセロトニン2A 受容体の構造解析研究でも,受容体固有の空洞が同定されており,実際に選択性の高い薬がこの部位に結合しうることがドッキング計算で示されている. - タンパク質工学から創薬へ
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タンパク質工学から創薬へ―スマートドラッグの実現に向けて
278巻6号(2021);View Description Hide Description抗体医薬品をはじめとするタンパク質を利用した治療薬は増加の一途をたどっている.近年のタンパク質工学の進歩に伴い,標的に対する結合特異性・親和性,熱安定性,血中半減期の向上や免疫原性の低下のための設計や化学修飾法の開発にとどまらず,薬物代謝や薬物作用の両方を制御できるような新しいタンパク質治療薬が提案されている.本稿では,生化学的知見に基づき設定された条件において機能する刺激応答性のスマートなタンパク質治療薬や,ドラッグデリバリーシステム(DDS)の創製におけるタンパク質工学の果たす役割に焦点を当て,紹介する. -
指向性進化法による高親和性ACE2創出とCOVID-19創薬展開
278巻6号(2021);View Description Hide Description全世界に広がり人類を脅かすパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は変異株の出現により新たな局面を迎えている.筆者らは,治療薬の開発として新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体であるACE2 に着目し,指向性進化法とよばれるタンパク質工学的手法によりウイルスへの親和性を高めるアミノ酸変異を導入することで,その結合力を約100 倍まで高めることに成功した.この高親和性ACE2 に抗体のFc を結合し製剤化したものは,高いウイルス中和活性とハムスターのCOVID-19 モデルで顕著な治療効果が認められた.ウイルス治療薬ではエスケープ変異とよばれる治療薬に対して耐性を持つ変異株の出現が問題となるが,本製剤に結合せずに“エスケープ”する変異株は細胞表面のACE2 にも結合できず感染力を失うこととなり,実質的な耐性株が出現しにくいと考えられる.実際のウイルス培養実験においても長期間の本製剤曝露でエスケープ変異は発生せず,現在脅威となっている変異株にも中和活性は低下しないため,高親和性ACE2 製剤は一度開発すれば長期間使用が可能な治療薬となる. -
タンパク質の化学修飾―基礎研究と抗体医薬品開発への展開
278巻6号(2021);View Description Hide Description抗体薬物複合体(ADCs)は,抗体医薬品単独投与に比べより抗がん効果を発揮する医薬品であり,次世代医薬品の一角を占めるようになっている.ADCs は,生理活性な抗体(親抗体)にリンカーを介して抗がん剤などを連結したものである.初期に市販されたADCs は親抗体の複数部位に抗がん剤(一般に疎水性が高い)を導入しており,親抗体よりは薬理作用は高いが,薬物動態など改善の余地があった.現在まで次々に新しいADCs が開発されている.球状タンパク質(抗体も含む)の化学修飾は,タンパク質の構造と機能の研究において古くから用いられていた手法である.そこでまず,球状タンパク質の化学修飾の基礎研究を紹介しながら,タンパク質化学修飾において留意すべき基礎的な事項に触れる.その後,初期のADCs の開発から,多様なアプローチにより開発されているADCs 創製の実際について記述する. -
機能性サイトカインの医薬への展開とDDSへの応用
278巻6号(2021);View Description Hide Description近年,生体内の生理活性タンパク質をタンパク質性医薬の開発へとつなげるプロテオーム創薬が注目されている.しかし,生理活性タンパク質の予測不能な受容体への結合や,特異性,生体内安定性の低下などの観点からタンパク質性医薬の臨床応用には障壁が多い.その点,筆者らはファージ表面提示法の活用による医薬品価値を高めた機能性タンパク質の創製基盤や,バイオ高分子コンジュゲーション法による有効性および安定性の向上技術を開発してきた.本稿では,自己免疫疾患の発症・悪化に関与することが知られている腫瘍壊死因子(TNF)-αに着目した受容体への親和性・特異性を向上させた機能性タンパク質の創製プラットフォームを概説する.さらに,生体内安定性による優れた有効性を達成可能な高分子バイオコンジュゲーション法をはじめとする,機能性タンパク医薬の創製に向けた研究について紹介させていただく. -
立体構造から眺めるSARS-CoV-2中和抗体
278巻6号(2021);View Description Hide Description昨今の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によるパンデミックは,人々の社会・経済活動を変動させるような甚大な影響を与えている.WHO によるパンデミックの宣言も,2020 年3 月に行われている.その後,わずか1 年の間に膨大な数の関連論文が発表されており,世界中の研究者がワクチン,治療薬,診断薬の開発に挑んでいる.新興感染症に対する迅速かつ効果的な薬剤の創出や,そのための技術開発が強く望まれている.創薬研究の対象には,低分子化合物からペプチド,抗体,細胞療法に至るまで,さまざまな薬剤設計手段が存在し,こうした創薬分類はモダリティとよばれている.なかでも抗体は,その高い親和性と特異性から中核的な位置づけにある.本稿では,SARS-CoV-2 に対する中和抗体と,生体分子の立体構造を起点としたタンパク質工学に基づく創薬戦略の可能性について概説する. -
二重特異性がん治療抗体の機能的な構造の理解に向けたあゆみ
278巻6号(2021);View Description Hide Descriptionがん治療を目指した二重特異性抗体のなかで,T 細胞とがん細胞間の架橋を目指した分子のみ,医薬品として国外で2 件の承認実績があるが,その開発を加速させるためには二重特異性抗体の機能的な構造を理解する必要がある.筆者らは,抗原結合ドメインのみで構成される低分子二重特異性抗体を中心に開発を行ってきた.その過程で,構成するドメインは同一であるものの連結順を入れ替えて配向性を改変することで,がん細胞傷害活性が大きく向上することを見出した.それぞれの標的抗原への親和性は変わらないものの,原子間力顕微鏡を用いた2 細胞間架橋度評価の結果,活性が高い配向性を有する分子はより強い架橋度を示した.近年,クライオ電子顕微鏡単粒子解析が構造生物学分野において席巻しつつある.筆者らも電子顕微鏡を用いた解析を進めており,二重特異性抗体の機能的な構造の理解が一層進むことを期待している. -
高機能化抗体医薬品の開発に向けたIgG抗体部位特異的修飾法
278巻6号(2021);View Description Hide Description近年の抗体医薬品は,癌や自己免疫疾患を中心とした治療薬として,その地位を確固たるものとしてきた.しかし,さらなる高い治療効果やほかの疾患への適用を拡大するためには抗体医薬品のさらなる高機能化が必要である.その手法として有効なのは,抗体と治療効果を生む薬剤との連結(コンジュゲーション)であり,その例としては,すでに癌の治療薬として使用されている抗体薬物複合体(ADC)がある.本稿では,筆者らが開発した新たな抗体の部位特異的修飾法(コンジュゲーション法)であるCCAP(Chemical Conjugation by Affinity Peptide)法と,その医薬品開発に向けた応用として,ADC,PET イメージング抗体プローブについて述べる. - 計算機から創薬へ
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計算機から創薬へ
278巻6号(2021);View Description Hide DescriptionIn silico 創薬,計算創薬,AI 創薬などで表現される計算機を用いた創薬の分野は,急激な期待の高まりを受け大きなビジネス市場を形成しつつある.背景に計算機,ソフトウエアの劇的な進化やデータ急増があげられる.深層学習技術の活用はまだまだこれからという状況にもかかわらず,本分野がすでに進展著しい点は重要である.さまざまな分野で破壊的革新を与えつつある深層学習は,本分野の進展をさらに加速すると期待されるからである.一方で,計算にさきだって構造情報の泥臭い整理・分析(curation)が必要なのは昔から変わっていない.また,いくらソフトウエアが進展しても立体構造の多様性,分子認識の複雑さなどの本質が変わるわけではなく,確固たる基礎研究や社会インフラの整備が引き続き肝要である.そこで本稿ではin silico 創薬の現状,問題点,展望を把握することを目的とする.幸いなことに,本分野の牽引役である5 名の先生方に執筆いただくことができた.多忙ななかお時間を割いていただいたことに心から感謝申し上げたい.本稿では,露払いとして創薬現場の視点での記載を行う. -
ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)
278巻6号(2021);View Description Hide Descriptionディープラーニングが牽引する第三次人工知能(AI)ブームを受けて,筆者らは2016 年11 月,製薬・化学・食品・医療・ヘルスケア関連のライフサイエンス分野におけるAI ならびにビッグデータ技術を開発することを目指し,“ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)”を設立した.LINC では,ターゲット探索から臨床試験に至る医薬品開発の全プロセスに加え,実臨床・予防・先制医療をも包含する広範囲をカバーする30 種類以上のAI の開発を進めてきた.本稿では,創薬におけるAI の一例として,化学構造やパスウェイなどのネットワーク構造を処理するAI について,筆者らの適用事例を中心に紹介する. -
TargetMineによる生物学的知識の発見
278巻6号(2021);View Description Hide Description遺伝子配列をはじめとする生物学的データの解析は,疾患の研究や創薬における新たな発見の鍵となる.ハイスループットなオミックス解析が急速に普及し,膨大かつ多様な生物学的データが生成されるなか,研究者がそれらを関連付けて生物学的な知識を得るための優れた解析システムが求められている.TargetMineは,種々のオミックスデータをはじめ多様な生物学的データを,統一的で均質な表現に基づき統合的に取り扱うことができる多目的データ解析プラットフォームである.ユーザーは格納されているデータを照会・ナビゲートして,単一のインターフェースで解析することができる.複雑な検索もウェブインターフェース経由で行われ,ユーザー側がスクリプトやプログラムを別途用意する必要はない.さらに,解析結果をわかりやすい出力形式で提供することで,対話を通じて新しい仮説の創出を後押しする.本稿では,TargetMine の基本と創薬研究およびオミックスデータ解析の応用例を紹介する. -
分子シミュレーションと創薬
278巻6号(2021);View Description Hide Description分子シミュレーションとは,コンピュータのなかに創薬標的タンパク質などの分子を仮想的に置き,その働き方を研究する方法である.構造生物学の発展に伴って,たくさんのタンパク質などの生体分子の立体構造が決定されており,その立体構造に基づいた分子シミュレーション研究も盛んに行われている.本稿では,DNA 維持メチル化というエピジェネティクスに関わる現象で働くタンパク質についての分子シミュレーションの適用例を紹介するとともに,“発動分子”とよばれる人工イオンチャネルやトランスポーターの分子シミュレーション研究例も紹介する.さらに,分子シミュレーションについての新たな展開として,スーパーコンピュータ「富岳」,バーチャルリアリティ,人工知能(AI)などの進展についても解説する. -
天然変性タンパク質と創薬
278巻6号(2021);View Description Hide Description天然変性タンパク質(IDP)を積極的に創薬標的とした,いわゆるIDP 創薬という創薬上の概念を耳にする機会が増えた.これは,世界的に画期的な新薬を創出するためのコストが上がり,ハイスループットスクリーニングなどの古典的創薬手法が有効な新薬の標的が枯渇しつつあることが背景にある.生理的条件下でコンパクトな立体構造を持たないIDP は,低分子薬剤が強固に結合するポケットを持たないため,長らく創薬標的として適さないと考えられてきた.しかし,IDP の細胞内機能を理解することで,徐々に新しい医薬品探索の成功例がでてきた. -
協調的2アミノ酸残基同時変異体の相互作用解析による新規抗体のStructure-Based Design
278巻6号(2021);View Description Hide Description抗体創薬では医薬品に必要な諸性質をすべて満たす必要があり,そのためには多様な配列の抗体を数多く用意することが重要となる.そこで,抗原・抗体複合体立体構造から2 アミノ酸を同時変異させたモデルを網羅的に構築し,その相互作用解析により,協調的2 アミノ酸残基同時(DP)変異を同定し,多様な変異体を創製するという新in silico 戦略に挑戦した.結合親和性45 pM の高度最適化された抗体に本法を適用し,親和性が向上した2 つの新規協調的DP 変異体の創製に成功した.これらDP 変異体を個別の1 残基変異に分割すると,活性低下あるいは発現しなかったことから,1 残基変異でよいものを組み合わせる方法では協調的DP 変異体を得ることは難しいと考えられた.また,DP 変異とDP 変異の際に副次的に得た1 残基変異を組み合わせた3 残基変異体を設計し,さらに活性の向上した新規抗体の創製にも成功した.今後は本方法を自動化・人工知能化し,3 アミノ酸変異など同時多変異体に拡張・発展させていきたいと考えている.網羅的に構築し,その相互作用解析により,協調的2 アミノ酸残基同時(DP)変異を同定し,多様な変異体を創製するという新in silico 戦略に挑戦した.結合親和性45 pM の高度最適化された抗体に本法を適用し,親和性が向上した2 つの新規協調的DP 変異体の創製に成功した.これらDP 変異体を個別の1 残基変異に分割すると,活性低下あるいは発現しなかったことから,1 残基変異でよいものを組み合わせる方法では協調的DP 変異体を得ることは難しいと考えられた.また,DP 変異とDP 変異の際に副次的に得た1 残基変異を組み合わせた3 残基変異体を設計し,さらに活性の向上した新規抗体の創製にも成功した.今後は本方法を自動化・人工知能化し,3 アミノ酸変異など同時多変異体に拡張・発展させていきたいと考えている.
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