Volume 278,
Issue 7,
2021
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特集 不妊治療の現状と課題
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 671-671 (2021);
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 673-677 (2021);
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PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)は着床前遺伝学的検査(PGT)のひとつであり,胚の染色体の異数性の有無を調べる検査である.近年では胚盤胞期胚の5~10 個程度の栄養外胚葉を生検し,全ゲノム増幅の後に次世代シークエンサーを用いて全染色体のコピー数を解析する方法が主流となっている.これまで移植胚の選別には胚の発育スピードと形態評価が用いられてきたが,PGT-A により異数性を示す胚を移植候補から除外することによって,生殖補助医療(ART)の成績が改善することが期待されている.しかし,生検に伴う胚盤胞への侵襲やモザイク胚の出現など未解決の問題もあり,PGT-A のメリットとデメリットをクライアントが理解できるように,十分な説明と適切な遺伝カウンセリングを提供する必要がある.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 679-683 (2021);
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近年,身体のさまざまな部位での常在細菌叢の働きが注目されている.子宮においても細菌叢の存在が長らく議論されてきたが,次世代シーケンサー(NGS 解析)などの技術から子宮内常在細菌叢(子宮内フローラ)の存在が明らかになってきた.これまでの多くの報告から,腟内などの下部の女性生殖器はLactobacillus が常在細菌叢として成立していると考えられている.子宮内フローラに関してはまだ報告例は多くないが,海外と日本のいくつかの報告からはLactobacillus 属が優位な状態となることが着床・妊娠維持に有益であると考えられる.しかし,以前としてどのような菌種の子宮内フローラが良好であり,どのような子宮内フローラが病的であるかなどの子宮内フローラの定義や治療介入の方法などは確立しておらず,研究課題は多い.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 684-687 (2021);
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着床,すなわち妊娠の成立には半分非自己(セミアログラフト)である胚を受け入れるため免疫寛容が起こるが,免疫寛容のメカニズムはさまざまな因子が複雑に絡み合い,妊娠の成立・維持が行われている.そのメカニズムは完全には解明されていないが,着床不全や不育症においてヘルパーT 細胞(Th 細胞)やナチュラルキラー細胞(NK 細胞)などの免疫異常が関与していると報告されている.しかし,それらは報告によって一定しておらず,いまだ研究段階である.着床不全と免疫異常の関連性の解明は,着床不全に対する新たな治療法を提示する糸口となる可能性が高い.今回は,現在提唱されている検査法や異常であった場合の治療法について他国のガイドラインやレビュー,自験例も含めて報告する.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 688-693 (2021);
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子宮内膜の最も重要な機能は着床の場を提供することであるが,その菲薄化は機能障害をきたし,難治性不妊の原因となる.多血小板血漿(PRP)は再生医療のひとつで,近年,菲薄化子宮内膜に対して使用経験が報告されつつある.筆者らは,再生医療等安全性確保法を順守しつつ,反復着床不全を繰り返す菲薄子宮内膜症例(7 mm 以下)に投与し,子宮内膜の有意な増殖肥厚と着床率改善を確認した.厚生局の認可のもと,当院と同一のプロトコールで国内26 施設が実施し,良好な成績を上げている.菲薄化子宮内膜症例の解析から流産手術や子宮鏡手術がリスク因子として抽出され,予防の重要性が認識された.作用機序についてはPRPの増殖因子や抗炎症作用があげられるが,未解明な部分が多い.子宮内膜菲薄を伴わない反復着床不全例においてもPRP は有効で,難治性不妊症の治療手段のひとつとしてPRP は有力と考える.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 694-699 (2021);
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従来,体外受精胚の評価は主としてその形態学的評価により行われており,現在でも移植胚の選択には,これらの形態学的評価法が用いられている.しかし,精度や客観性の観点からこれだけの情報で十分な評価ができているとは言い難い.2010 年ごろよりtime-lapse imaging system(タイムラプス)が臨床現場に普及し,低侵襲かつ定時的な胚形態観察や発育挙動の連続解析が可能となった.得られる種々のパラメータに関する報告は数多くあるものの一般的な結論を出すには至っていないのが現状である.近年では人工知能(AI)を用いた画像解析も行われており,非常に高い精度での予測が可能であったという報告がある.また,タイムラプスとPGT-A(preimplantation genetic testing for aneuploidy)との関連性も示されている.胚発育モニタリング,胚選択においてはタイムラプスやPGT-A を中心に新しい知見が発表されている.今後もその有用性をさらに明らかにしていく必要があり,中心的役割を担うことが期待される.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 700-704 (2021);
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男性不妊症のうち全体の8 割以上が造精機能障害,これに性機能障害,精路通過障害が続いており,近年は射精障害の頻度が増加傾向である.診断にあたっては造精機能に影響する内服や生活習慣を聴取し,男性不妊症と関連するものがあればできるかぎり中止あるいは改善することが重要である.精液検査はこれまでの一般的な項目に加え,精液酸化還元電位(ORP)や精子DNA 断片化(SDF)測定が行われることが多くなってきた.外科的アプローチとしては精索静脈瘤手術と精巣精子採取術(TESE)はよく行われる手技であるが,とくに非閉塞性無精子症に対する顕微鏡下精巣精子採取術(microTESE)の精子回収率は依然不良で,今後の課題である.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 705-710 (2021);
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がん・生殖医療において妊孕性温存を希望する女性患者にはさまざまな治療が提供されうるが,ガイドラインなどに基づき,①確立された治療,②議論の余地のある治療,③研究段階の治療,の3 種類に分類される.確立された治療では胚凍結,卵子凍結,卵巣組織凍結・自家移植があるが,本稿では胚や卵子を得るための卵巣刺激法の最新技術をとり上げた.ランダムスタート法やDuoStim 法では性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)アンタゴニストを併用し,短期間の卵巣刺激で良好な採卵成績が得られるようになった.さらに,安価な黄体ホルモンを併用した卵巣刺激法(PPOS)も近年普及しつつある.議論の余地のある治療では,GnRH アゴニスト製剤による卵巣保護や卵巣移動術・卵巣遮蔽に関して,欧州臨床腫瘍学会(ESMO)や欧州生殖医学会(ESHRE)のガイドラインを引用し,最新の推奨を紹介した.研究段階の治療としては,原始卵胞の体外培養や体外成熟,人工卵巣,生殖幹細胞,化学療法に対する細胞保護製剤について概説した.
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 711-714 (2021);
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不妊治療期間が長くなってくると,多くの患者は親になれるかどうか不確かであることにうまく対処していくことが難しいと感じているとされている.初回の体外受精・胚移植で妊娠不成立女性におけるその後5年間の累積出生率は49%であり,51%は子どもを授からなかったとされる.治療前,治療中,治療後それぞれの段階での異なった心理社会的なニーズがあり,これを速やかに察知して対処していく必要がある.質の高い不妊のヘルスケアを提供するために,患者と医療者が不妊とその治療によるこれら,およびその他の影響に向き合ううえでの支援が大切である.すべての施設に生殖心理カウンセラーが配置されていることが理想ではあるが,日本における不妊治療は一次施設が主流となっており現実的には困難であり,高次施設と一次施設が連携できる形が望ましい.これまでそのあり方が明確にされていなかった心理社会的ケアについて十分に議論され,十分な支援ができる体制整備がなされることが期待される.
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連載
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この病気,何でしょう? 知っておくべき感染症 15
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 720-725 (2021);
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肺吸虫は,サワガニやモクズガニなど淡水産のカニに寄生するメタセルカリアを経口摂取することで感染する.世界中に広く分布し,日本の国内発生もみられる.近年では,イノシシ肉やシカ肉からの感染例も報告されている.胸部X 線で結節影や胸水貯留を呈し,肺結核や肺癌との鑑別を要する.気道検体や便検体から虫卵が検出できれば確定診断となるが,感度は高くないため,血清学的検査も併用し総合的に診断する必要がある.本症を疑い診断ができれば,内服薬で保存的に治療することのできる疾患である.肺結節や胸水貯留の鑑別として本症を想起し,渡航歴や出身地,淡水産のカニやイノシシ肉などの生食歴を聴取することが重要である.
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いま知っておきたい最新の臨床検査 ─ 身近な疾患を先端技術で診断 14
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 726-733 (2021);
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◎ウイルス感染の診断の日常検査には,ウイルスは培養が困難なため,主に抗体を測定する血清学的診断が主に利用されてきた.現在,免疫学的手法を利用したイムノクロマト法が導入され,インフルエンザウイルス抗原など可能なものについては,臨床現場において短時間で検出可能となった.ウイルスゲノム核酸の検出のために,ハイブリダイゼーションとPCR が導入された.とくにPCR により特異度高く,かつ高感度にウイルスの存在を証明することが可能となった.最近,検体中に含まれる可能性のある複数種のウイルスゲノムを同時に検出するための条件を整えたシステムが利用可能となった.本法は,核酸抽出,RT-PCR,1stPCR,nested PCR,融解曲線分析による判定を一パックで自動的に行うシステムであり,呼吸器感染原因となる複数のウイルスの存在を定性的に判定する.
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オンラインによる医療者教育 1
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 734-734 (2021);
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 735-740 (2021);
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◎COVID-19 の影響により,2020 年度,多くの大学等では対面型授業の中止・削減が行われ,ICT を活用したオンライン教育の導入がなされた.本稿ではオンライン教育のなかでも,LMS(learning management system)を利用した教育について着目する.運用に際しては学習者の環境調査などの準備やLMS の特徴を加味した教育設計の必要性,今後の改善につなぐ評価など,10 のポイントを整理した.また,オンライン教育には対面教育とは異なる特徴があり,今後も何らかの形では利用が継続されると考えられる.本稿の最後では,とくに医療教育の分野における課題や展望として,モデル・コア・カリキュラムに準じた共通教材作成の必要性,卒前・卒後をシームレスにつなぐ教育への活用可能性などを述べた.
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TOPICS
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麻酔科学
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 715-716 (2021);
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血液内科学
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 716-717 (2021);
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脳神経外科学
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 718-719 (2021);
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FORUM
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病院建築への誘い─医療者と病院建築のかかわりを考える
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 741-744 (2021);
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◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築家へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます.
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子育て中の学会参加 7
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医学のあゆみ 278巻7・8号, 745-747 (2021);
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医師としてキャリアを考えるにあたり,初期臨床研修終了後には専門医や認定医の取得,そして学位の取得を意識することになる.学会参加は,専門医取得の要となるのはもちろん,最新の知見を得るためになくてはならない存在である. 筆者は東京女子医科大学を卒業し,同大学の腎臓外科に入局,泌尿器科に移籍し,昨年(2020)から小岩駅北口クリニックに勤務している.その間,2 人の子どもの出産を経験し,産休・育休を取得した. さまざまなライフプランのなかで迷いながらも,仕事と家庭をなんとか両立させていくためには多くのサポートが必要不可欠であったが,日常業務としての病棟業務,外来業務に加え,ありがたいことに手術と術前術後管理も参加したうえで,学会発表・参加の機会もいただけている. 学会参加は最先端の研究や最新の知見を得るために必要であるが,研究と発表準備のほか,子育て中には出席そのものを実現するためにその間の子どもの保育・安全確保,開催地やスケジュールの確認,移動手段や宿泊の要否の判断など,事前準備が欠かせない.