医学のあゆみ
Volume 278, Issue 12, 2021
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特集 若年性認知症―臨床・基礎・社会的支援のstate of arts
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若年性認知症の疫学と社会政策
278巻12号(2021);View Description Hide Descriptionわが国の若年性認知症有病率は18~64 歳人口10 万対50.9 人,有病者数は3.57 万人,診断名別ではアルツハイマー型認知症が最も多く,血管性認知症がそれに次ぐことが明らかになった.また,認知症疾患医療センター実績報告書に基づく年間発生率は18~64 歳人口10 万対2.5 人と推定された.今後の若年性認知症施策については,従来の施策に加えて,①若年性認知症の診断を行える医療機関の周知,②全国の認知症疾患医療センターにおける質の高い診断および診断後支援の実現,③職域と保健医療福祉分野との連携による就労継続支援,④診断直後からの経済状況のアセスメントと社会保障制度の利用支援,⑤認知症疾患医療センター,地域包括支援センター,居宅介護支援事業所,障害福祉相談窓口職員などの人材育成,⑥若年性認知症者のニーズにあったサービスの開発,⑦家族会などのインフォーマルサポートの普及,⑧ピアサポートの普及,にフォーカスをあてる必要がある. -
若年性認知症の診断と診断後支援─アルツハイマー型認知症を中心に
278巻12号(2021);View Description Hide Description65歳前に発症する若年性認知症の診断は,しばしば見逃されたり誤診されたりすることが少なくない.的確に診断することは,介護保険制度や障害福祉制度の利用を可能にしたり,今後の人生を認知障害を抱えながらもどのように主体的に生きていくかの自己決定にも寄与する.しかし,ときには診断告知が絶望につながってしまうこともあり,本人や家族に寄り添った診断後支援が重要になってくる.若年性認知症のなかで最も多いのはアルツハイマー型認知症で約半数を占める.本稿ではアルツハイマー型認知症の臨床診断の手順と症例を提示した.老年期認知症と異なり若年性認知症では経済的問題など特有な課題があり,診断後支援は多岐にわたる.2015 年に策定された“認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)”では,若年性認知症支援コーディネーターが配置されることになり,ワンストップでの相談支援,そして本人のニーズに合った関係機関やサービス担当者との“調整役”を担うことになった. -
行動症状が優勢な若年性認知症の治療と社会的支援─自立支援医療制度の問題点を含めて
278巻12号(2021);View Description Hide Description行動症状が優勢な若年性認知症の代表的疾患は前頭側頭型認知症(FTD)であり,若年性認知症ではアルツハイマー病,血管性認知症に次いで3 番目に多い疾患である.FTD の中核となる行動障害は,前頭葉および側頭葉の病変に起因する症状として説明される.治療としては有効な薬物療法はなく,ルーティン化療法などの非薬物療法が一般的である.アルツハイマー病においても過活動-衝動性-易刺激性-脱抑制-攻撃性-興奮(HIDA)を主体とする,病変を特定しにくい行動症状が介護負担として問題になる.この治療も非薬物療法が第一選択であるが,メマンチンは認知症治療薬として,これらの症状改善に有効とされている.無効な場合に非定型抗精神病薬などによる薬物療法が選択される.社会的支援の制度としては自立支援医療制度があるが,実際の使用に関してはいくつかの問題点があることを指摘した. -
失語を主症状とする若年性認知症の症候学
278巻12号(2021);View Description Hide Description若年性認知症では,失語が主症状となることがある.失語症が前景に立つ変性性認知症は原発性進行性失語症(PPA)とよばれ,失語のためスクリーニング検査の得点は低いが,初期には言語以外の認知機能は保たれる.臨床的特徴から,①非流暢性/失文法型(nfvPPA),②意味型(svPPA),③ロゴペニック(発話減少)型(lvPPA)の3 型に分けられ,脳の萎縮/血流低下部位の分布も異なる.中核症状としては,nfvPPA は発話における発語失行または失文法,svPPA は単語の理解・表出障害,lvPPA は語想起困難と句・文の復唱障害があげられる.PPA の3 型と背景疾患に1 対1 対応はないものの,nfvPPA はタウが蓄積する前頭側頭葉変性症(FTLD-Tau),svPPA はTDP-43 の蓄積する前頭側頭葉変性症(FTLD-TDP),lvPPA はアルツハイマー病が多い.経過とともに背景疾患を反映した他の認知機能障害や神経症状が出現してくる.したがって,若年性認知症で失語を呈する場合には,その臨床型を明らかにして背景疾患を推測し,経過を考慮して治療方針を立てることが重要である. -
若年性認知症の体液バイオマーカー研究
278巻12号(2021);View Description Hide Description若年性認知症の早期発見・鑑別・病状評価のためにも,病態に即したバイオマーカーが求められている.本稿では,わが国の若年性認知症の原因のなかでも最多を占め研究が進んでいるアルツハイマー病(AD)を中心に,脳脊髄液・血液バイオマーカー研究の現状をまとめる.AD の脳内で起こっている変化としては,アミロイドβ(Aβ)・tau の蓄積および神経変性が重要な要素だが,脳脊髄液ではそれぞれAβ42 濃度の低下,リン酸化tau 濃度の上昇,および総tau・ニューロフィラメント軽鎖(NfL)濃度の上昇がみられ,前向きコホート研究の結果からその時間経過も明らかとなっている.また最近は測定系の改良により,血液中に微量に存在するこれらのタンパクを測定することで,精度よく脳内のAD 病態を評価できることが相次いで報告され,より低侵襲で簡便に測定できることから,今後,臨床での実用化が期待されている. -
若年性認知症の人の就労と社会参加権利
278巻12号(2021);View Description Hide Description認知症と診断されると社会から切り離される人が少なくない.とくに若年性認知症の人であると,なおさらその傾向がみられる.現在,認知症と診断されると多くの場合は介護保険サービスを利用することになるが,果たして本人はそのことを望んでいるのであろうか.自分の役割を果たしたい,能力を発揮したい,働きたいと望んでいたとしても,それらの権利は一切無視され,どこか周りの人の権利ばかりが主張されている節がみられる.筆者らは,本人の権利を尊重し,アイデンティティを持ち続けられるよう,地域や社会とのつながりを構築していくハブ機能を持った事業所をつくっている.そして本人が望んでいた想いをカタチにしていく過程で,自己選択と決定という当たり前の権利を保障しつつ,仲間というメンバーとともに活動していくことで自信の回復と弱さの開示ができる場へと変貌してきている.つまり,権利と安全や安心が保障され,ふたたび社会へとつながれることで生きがいをもちながら生活し続けることができるのである.
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連載
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- この病気,何でしょう? 知っておくべき感染症 18
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“古くて新しい”住血吸虫症
278巻12号(2021);View Description Hide Description◎かつて日本の一部の地域(山梨県甲府盆地,広島県旧神辺町周辺,筑後川流域など)で流行した日本住血吸虫症は,中間宿主ミヤイリガイの撲滅施策(殺貝剤散布や用水路のコンクリート化)や経皮感染防止策などを講じて克服することができた.しかし,アジア,アフリカ,中南米などを中心として,日本住血吸虫症,マンソン住血吸虫症,メコン住血吸虫症,ビルハルツ住血吸虫症などの感染者は今なお,多数存在している.人獣共通感染症である住血吸虫症は,劣悪な衛生環境,貧困といったさまざまな要因で撲滅を困難としているため,WHO は「顧みられない熱帯病(NTDs)」のひとつに掲げている.本稿では,ヒトに感染する住血吸虫症に焦点を当て,症状,治療,わが国および世界での状況や課題などについて概説する. - いま知っておきたい最新の臨床検査 ─ 身近な疾患を先端技術で診断 17(最終回)
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超音波エラストグラフィによる肝線維化診断
278巻12号(2021);View Description Hide Description◎超音波エラストグラフィが2017 年に保険適用され容易に利用可能になったことで,非侵襲的な方法で肝線維化の診断と病期判定が可能になり,肝臓学の臨床診療が変わりつつある.肝線維化の評価だけでなく,合併症の診断や発癌予測など経過観察にも使用できる.超音波エラストグラフィの種類には,strain(ひずみ)イメージングとshear wave イメージングがあるが,どの方法においても肝線維化診断は同等に可能である.それぞれの方法,臨床的有用性などについて概説する. - オンラインによる医療者教育 4
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同期オンラインによるTBL(team-based learning)
278巻12号(2021);View Description Hide Description◎医学教育で広く実践されるようになったアクティブ・ラーニングの手法であるチーム基盤型学修(TBL)は,これまでもオンライン環境による実践が検討され,さまざまな支援ツールが提案されてきた.2020 年はCOVID-19 による教育環境の激変により,医学部でもオンライン環境への強制的なシフトが求められた.TBLについても本来のメリットをできるだけ損ねないよう,同期オンライン環境へのシフトを行った.基本プラットフォームとしてMicrosoft Teams を用い,これにMicrosoft Forms やMoodle を組合せることで,対面TBLと同等の仕組みを構築した.事後の評価では,おおむね対面TBL に匹敵する成果を得られた一方で,コミュニケーション環境の違いによる問題点も指摘された.ツールの設定とともに,評価結果も紹介し,今後のTBL 進化のきっかけとなることを期待したい. - ユニークな実験動物を用いた医学研究 2
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ウーパールーパー─ “蛇足”つけます!? 驚異のわがままボディ
278巻12号(2021);View Description Hide Description尻尾のある両生類(有尾両生類)であるウーパールーパーは非常に高い器官再生能力を持ち,四肢をはじめ脳や尻尾,エラ,心臓に至るまでさまざまな器官の再生能力を持つ.このような高い再生能力はヒトにはもちろん観察されないことから,長年彼らの持つ再生能力は注目されてきた.とくに手足の再生は,ウーパールーパーの持つ再生能力の典型例として長く研究されてきた.200 年以上もある四肢の再生研究のなかにおいて四肢に存在する神経が再生を支配することが明らかであったが,その具体的な因子はごく近年まで示されなかった.最近になって,ウーパールーパーならではの驚くべき実験系の構築によって,神経因子の同定が達成された.同定された因子は再生誘導因子として“器官普遍性”“種普遍性”を一定範囲内で備えていることも実証された.長年の謎の解明とともに,近年の研究技術革新によってウーパールーパーの再生研究は大きな研究上の転換点を迎えている.
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TOPICS
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- 小児科学
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- 癌・腫瘍学
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FORUM
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- 子育て中の学会参加 10
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脳神経外科医の視点から―学会とんぼ返りからWeb参加へ
278巻12号(2021);View Description Hide Description出産~子育て期間で一番大変な時期は,専門医取得前後から医師として独り立ちしていく時期と重なる.学会への参加は自己研鑽として,また同じサブスペシャリティを目指す他施設の医療者たちとの出会いや意見交換の場でもある.そして,なんと言っても,医療現場への還元(患者へ役立つこと)ではないかと考える. 自らの周囲を見渡してみると,女性医師たちだけが,学会日程や開催場所により参加を断念したり,参加できる場合でも数カ月前から綿密な準備を行ったりしているのが現状である.学会開催時の子供の状況や,家庭環境に大きく左右されるため,一定の方法が見出せているわけではなく,対処法は毎回個々に考える必要がある. 本稿では,育休復帰から現在までの筆者の学会参加の経験や,所属している脳神経外科学会男女共同参画委員会の取り組みを紹介する.