医学のあゆみ

Volume 280, Issue 11, 2022
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特集 褐色・ベージュ・白色脂肪細胞研究UPDATE
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褐色・ベージュ脂肪細胞の分化・発生の多様性と全身代謝
280巻11号(2022);View Description
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褐色脂肪細胞とベージュ脂肪細胞はミトコンドリアを豊富に含み,エネルギーを熱として消費する.これらの熱産生脂肪細胞の機能は当初,脱共役タンパク質(UCP1)を介した熱産生機構のみと考えられていた.しかし近年,熱産生脂肪細胞の発生,生理的機能についての解析と理解は飛躍的な発展を遂げており,これらの熱産生脂肪細胞のなかで,発生学的な違いや新たなサブタイプが同定されている.さらに熱産生脂肪細胞において,UCP1 を介さない熱産生機構や,組織リモデリングへの関与,メタボリックシンクとしての機能などが明らかとなり,全身のエネルギー代謝における役割は一層の広がりを見せている1,2).本稿では,筆者らが取り組んできた研究成果を交えながら,褐色・ベージュ脂肪細胞について,とくに分化・発生の多様性と全身代謝の観点から概説したい. -
ヒト褐色脂肪組織の全身代謝改善作用とそのメカニズム
280巻11号(2022);View Description
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褐色脂肪組織(以下,褐色脂肪)は,非震え熱産生の特異的部位として寒冷曝露や食事摂取に伴うエネルギー消費亢進に寄与しており,その機能低下は肥満の一因になる.さらに近年,褐色脂肪が全身レベルでのインスリン感受性や糖・脂肪・アミノ酸代謝の調節・改善や,心血管疾患の発症にも関わることが明らかになりつつある.これらの全身効果は,褐色脂肪自身の代謝活性に加えて,そこで合成・分泌される液性因子(BATkine)の全身臓器に対する作用にも起因する.したがって,褐色脂肪とBATkine は肥満・メタボリックシンドロームの予防・改善のターゲットのひとつである.しかし,ヒト褐色脂肪の活性や量を規定している遺伝および環境要因については不明な点が多いのが現状である. -
心理ストレスによる褐色脂肪熱産生と体温上昇の中枢神経回路
280巻11号(2022);View Description
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心理ストレスを受けた哺乳類は多くの場合,体温が上昇する.このストレス反応には,交感神経系の活動亢進の結果生じる褐色脂肪の熱産生や皮膚血管収縮(熱放散の抑制)が寄与する.同時に,脈拍や血圧も上昇することで,熱産生器官や中枢神経系などへの血液循環(エネルギー源や酸素の供給)を促進する.こうしたストレス反応を駆動するのは,視床下部背内側部から延髄の交感神経プレモーターニューロンへ至る興奮性神経路である.また,視床下部背内側部から視床下部室傍核への神経路はストレスホルモン分泌を駆動すると考えられる.最近の研究から,視床下部背内側部は,大脳皮質の内側前頭前野の最深部から心理ストレス信号の入力を受けることが発見された.この神経路は,情動やストレスなどを処理する“心”の神経回路と“体”の調節を担う視床下部とをつなぐ,心身相関の鍵となる仕組みであると考えられ,ストレス関連疾患の身体症状の治療標的として期待される. -
熱産生性脂肪のエピジェネティクス
280巻11号(2022);View Description
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褐色脂肪やベージュ脂肪といった熱産生性脂肪の機能やそれらを構成する細胞の分化には,温度環境やエネルギー代謝環境といった外部環境が関与する.エピゲノムはこのような環境依存性の制御に適した機構である.最近,単一細胞を用いた次世代シーケンス解析技術などを用いて熱産生性脂肪を構成する細胞の起源や機構の多様性が明らかにされてきており,今後エピゲノム,エピトランスクリプトーム解析分野での一細胞解析が広く行われていくことが予想されるものの,現状では異なる性質をもつ脂肪細胞種の分化や性質の制御基盤となる詳細な分子機構についてはいまだに不明な点も多い.本稿では,分化や環境応答に重要な役割を果たすと考えられるエピゲノム制御機構に関するこれまでの知見について,ノンコーディングRNA からRNA メチル化修飾,DNA メチル化修飾,ヒストンの各種修飾までを整理し考察する. -
M2マクロファージ/前駆脂肪細胞相互作用からみた皮下脂肪組織と内臓脂肪組織の違い
280巻11号(2022);View Description
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肥満ではインスリン抵抗性が誘導されるが,脂肪組織におけるマクロファージが重要な働きをしている.最近,筆者らはM2 マクロファージが前駆脂肪細胞のニッチ(保管庫)として働き,前駆脂肪細胞の増殖や分化を調節していることを明らかにした.皮下脂肪組織には,M2 マクロファージが多く存在することから前駆脂肪細胞も内臓脂肪組織よりも多く存在する可能性を考えて,前駆脂肪細胞の細胞系譜実験を行った.その結果,皮下脂肪組織の前駆脂肪細胞は数も多く,増殖能も高く,また分化能も高いことが判明した.このことから,皮下脂肪組織は前駆脂肪細胞からの分化が脂肪組織増大の主な要因であり(過形成),分化にエネルギーが必要なため小型にとどまる.一方,内臓脂肪組織では分化が少ないため過剰なエネルギーが個々の脂肪細胞の大型化(肥大)を招き,このことが内臓脂肪組織に炎症が起こりやすい原因と考えられた. -
褐色脂肪組織の機能制御における分岐鎖アミノ酸代謝の役割
280巻11号(2022);View Description
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肥満や関連代謝性疾患には,糖や脂質に加えて分岐鎖アミノ酸(BCAA)の代謝異常が密接に関与している.最近,褐色脂肪組織は寒冷刺激に応じてBCAA を選択的に分解して熱産生を行うことが明らかになった.このBCAA 利用は,効率的な褐色脂肪組織の熱産生や全身性耐糖能制御に不可欠であった.さらに,長年みつかっていなかったミトコンドリアBCAA トランスポーターとしてSLC25A44(MBC)が同定された.ミトコンドリアにおけるMBC を介したBCAA 分解は,寒冷誘導熱産生だけでなく,視床下部-プロスタグランジンE2(PGE2)-交感神経を介した褐色脂肪組織の発熱応答にも寄与することが判明した.本稿では,褐色脂肪組織におけるBCAA 代謝分解の生理的意義とMBC の役割を概説する.
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連載
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- オンラインによる医療者教育 20
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コロナ禍における医学生の実態と考察─ Withコロナの時代に必要な学生支援とは
280巻11号(2022);View Description
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◎コロナ禍の影響で医学生生活は大きく変化した.授業はオンライン化が進み,オンデマンド授業を望む学生が増えてきた.臨床実習は従来の対面型の割合が増加してきているが,手技の機会や回れなかった診療科の穴埋めをどうするかが課題である.アルバイトや部活動では2021 年6 月現在も制限のある大学が多く,学生にとって強いストレッサーとなっている.感染対策を十分行いながら規制緩和できる妥協点を探る必要がある.就職活動は県外移動の制限の影響を大きく受けており,不自由な状況のなかでなんとかやりくりしてきた状況が明らかになった.精神面では約半数の学生がコロナ前より悪化したと回答したが,大学の方針に学生の意見が反映されていると感じる学生は精神状況が比較的良いという結果が出た.今後必要な支援としては,「同学年との交流の機会」,「自宅以外の勉強場所」,「帰省の機会の保障」などがあげられた.学生の実態を丁寧に把握し,さまざまな立場の人がともに議論し,解決策を模索することが重要である. - COVID-19診療の最前線から ─ 現場の医師による報告 12
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クルーズ船と災害時感染制御支援チーム
280巻11号(2022);View Description
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●COVID-19 の国内流行初期に発生したクルーズ船における大規模クラスター事例では感染の連鎖を抑止するために外部からの技術的支援が必要とされた.●大規模クラスターの制御には,医療提供とは別に感染制御に明るい感染対策チーム(ICT)の存在が不可欠である.●感染制御の基本は医療機関における感染対策と共通する部分が多く,施設内の感染対策ラウンドによるリスク評価や職員に対する現場での技術指導(OJT)が必要であった.●日本には感染制御に特化した緊急派遣チームの国家的備えはなく,緊急時迅速に展開できる派遣チームの整備が待たれる. - バイオインフォマティクスの世界 1
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ゲノム解析におけるバイオインフォマティクスの役割
280巻11号(2022);View Description
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1995 年に世界ではじめて特定生物種の全ゲノム配列が決定された.これを皮切りにゲノム解析が世界中で展開され,数千種の生物種の全ゲノム解析が報告されるまでに至っている.DNA 配列を決める技術の発展に伴い,そのDNA 配列データを解析するための情報科学技術が必要とされるようになっている.大量のDNA の塩基配列のデータから元のゲノム配列を復元し,そのゲノムにコードされる遺伝子領域の特定とその遺伝子機能の推定等,ゲノム解析を実施するうえでは,単にDNA 配列を決めるだけでなくその後のさまざまな解析がコンピュータを駆使して実施されている.本章ではバイオインフォマティクスという分野がこのゲノムデータの解析にとってどのような役割を担ってきたかについて紹介する.
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- 遺伝・ゲノム学
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- 解剖学
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- 腎臓内科学
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