医学のあゆみ

Volume 281, Issue 5, 2022
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【4月第5土曜特集】 腫瘍免疫―免疫ネットワークから考える基礎と臨床
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腫瘍免疫総論―正と負のネットワークの理解から個のバイオロジーへ―
281巻5号(2022);View Description
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腫瘍免疫学の内容は膨大である.おびただしい情報があふれている.本特集の主題となっているネットワークに関わる細胞と分子もきわめて多数であり,反応は複雑に組み立てられ,腫瘍に対する反応の正負に関わってくる.反応は流動的であり,反応の場は腫瘍局所を中心に拡がっている.また,反応の環境そのものを変化させている.関連する要素・因子は本特集の各稿の記述にお任せし,本稿では腫瘍免疫反応をかけ足で概観した. - ネットワークの各因子と,その因子を応用or 標的とした基礎研究の現在と可能性
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【がん免疫ネットワークに影響を与える因子】腫瘍細胞からネットワークへ─遺伝子変異とサイトカインネットワークによる腫瘍微小環境の形成と制御
281巻5号(2022);View Description
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腫瘍細胞は特異的な遺伝子変異の蓄積により出現する.Wnt/β-カテニン経路・MYC 遺伝子の活性化やPTEN・P53 遺伝子の不活化などのドライバー遺伝子変異は,腫瘍細胞自体の悪性化形質に直接影響するほかに,免疫抑制因子(PD-L1 など)・免疫抑制細胞を誘導したりエフェクター細胞の活性化・浸潤を抑制することで,腫瘍増殖に有利な腫瘍微小環境(TME)を形成する.TME は,腫瘍細胞と周囲の非腫瘍細胞(免疫細胞,間質細胞,上皮細胞,内皮細胞など)との相互作用や,それに伴い分泌されるさまざまなサイトカインなどによって制御される.サイトカインには,IL-1・IL-6 などの慢性炎症を誘発し腫瘍促進免疫(pro-tumorimmunity)に関与するものと,IL-2・IL-15 などのエフェクター細胞の活性化を誘導し抗腫瘍免疫(anti-tumorimmunity)に関与するものとが存在する.また,ケモカインおよびその受容体も各種免疫細胞の浸潤を制御することでTME 形成に中心的な役割を果たす.今後は,TME 形成・制御に関与する遺伝子変異やサイトカインネットワークなど各種因子を総合的に理解することで,腫瘍のサブタイプ分類や個別化がん免疫治療への展開が期待される. -
【がん免疫ネットワークに影響を与える因子】ネットワークにおけるT 細胞の役割─CTL,活性疲弊,チェックポイント
281巻5号(2022);View Description
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免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を応用したがん免疫療法の開発により,現代のがん治療は飛躍的に進歩した.一方,免疫チェックポイントを代表するPD-1 分子の阻害,つまり抗PD-1 抗体治療の反応性には強い個人差があり,半数以上が治療に対して不応答性を示す.ICI を用いたがん免疫療法の治療反応性を,事前に予測するためのバイオマーカーの特定は焦眉の課題であり,その探索は世界的に行われている.しかし,治療反応性を左右すると考えられている細胞傷害性T リンパ球(CTL)の疲弊(exhaustion)機序は,いまだ完全には解明されていない.がん免疫治療のみならず,免疫チェックポイント分子は自己免疫疾患の治療法にも根幹的に関与している.これらの課題を克服するため,さらなる詳細な研究が目下必要とされている. -
【がん免疫ネットワークに影響を与える因子】ネットワークにおける自然免疫の役割─NK,ILCs
281巻5号(2022);View Description
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獲得免疫が抗原・抗体特異的な認識機構を介したクローナルな免疫応答であるのに対し,自然免疫はパターン認識を基本としたポリクローナルな免疫応答である.がん細胞を取り巻く微小環境における複雑な免疫ネットワークの形成に,自然免疫に関わる自然リンパ球(ILC)も加わることが近年明らかになりつつある.これまでの研究からILC はキラーT 細胞のような細胞傷害活性を持つILC であるナチュラルキラー(NK)細胞と,ヘルパーT 細胞のようなヘルパー機能を持つILC であるヘルパー様ILC(ILC1,ILC2,IL3)に大別でき,これらILC と機能の類似性があるT 細胞サブセットでは,それらの分化を制御する転写因子やサイトカイン,さらにはそれら分化制御転写因子により調節されるエフェクター分子の産生が対応していることが知られている.また,腫瘍微小環境を含めた炎症状態下では,これらILC サブセットの表現型や機能が変化する可能性も指摘されている.腫瘍免疫ネットワークの理解,さらには治療標的としての可能性を明らかにするためには,これらILC の特徴や機能,免疫応答における役割について理解することが重要となる. -
【がん免疫ネットワークに影響を与える因子】がん免疫ネットワークへの制御性T 細胞の影響およびその治療応用
281巻5号(2022);View Description
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制御性T 細胞(Tregs)は自己および非自己に対する免疫応答を制御する抑制性のT 細胞であり,近年,その免疫恒常性維持に対してだけでなく,がん免疫抑制環境成立に対する寄与も明らかになってきた.がん微小環境においてTregs はさまざまな免疫担当細胞と相互作用しており,複数の機構を用いて直接的および間接的にがん免疫応答を抑制する.Tregs によるこの広範な抑制作用を解除すると,抗原提示細胞およびT 細胞が活性化して抗腫瘍効果が得られるが,全身性のTregs 機能抑制には自己免疫炎症発症の危険性もはらんでいるため,がん免疫応答抑制に関与するTregs のみを狙うことが望ましい.腫瘍局所でTregs を除去する技術の開発,腫瘍浸潤Tregs 選択的なシグナリング経路や発現分子の同定によって,副作用を回避してTregsを標的とするがん免疫療法の臨床応用が現実的なものになってきた. -
【がん免疫ネットワークに影響を与える因子】腸内細菌とがん免疫微小環境
281巻5号(2022);View Description
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免疫チェックポイント分子の発見は,がん免疫療法という新たながん治療法の確立につながり,その発見者にノーベル賞が贈られたことは記憶に新しい.その翌年の同賞はがん微小環境と虚血の研究に対しての貢献者に贈られた.この免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の奏効およびがん微小環境に,腸内細菌が大きく関与していることが近年明らかになった.最近の腸内細菌の研究の発展は,次世代シークエンサー(NGS)による技術革新の恩恵を受け爆発的に進み,腸内細菌は個人を同定できるほど特異的であり,生涯を通じて穏やかな変化をすることがわかってきた.さらに,種々の疾患との関連についても精力的に解析が進んでいる.そこで本稿では腸内細菌のがん微小環境への影響,ICI の抗腫瘍効果や有害事象を予測するバイオマーカー,さらに便移植法(FMT)としての治療応用に関して考察した. -
【がん免疫ネットワークに影響を与える因子】腫瘍微小環境の“3 低”の改善による腫瘍免疫の向上
281巻5号(2022);View Description
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腫瘍微小環境は低栄養,低酸素,低pH といった特殊な環境を構築しており,このような免疫療法に対する代謝障壁を打ち崩すことが腫瘍微小環境下で免疫賦活機構を駆動させるためには重要である.したがって,いかにして腫瘍微小環境全体を改変するか,また過酷な環境下でエフェクター細胞の機能を維持するにはどのようにすればよいのか,その方法を考える必要がある.それらの問題を解決するためには腫瘍血管の正常化,腫瘍とT 細胞の代謝競合の改善,さらにはT 細胞のミトコンドリア機能と抗酸化能力の向上が不可欠であると考えられる.これまでの筆者らの研究から,腫瘍浸潤CD8 T 細胞より分泌されるIFN-γによって腫瘍細胞の代謝が制御されることがわかってきており,腫瘍細胞と腫瘍微小環境を構築する細胞間で代謝制御を相互的に行っていることも明確になってきた.これまでは個々の細胞の代謝制御に目を向けていたが,今後は腫瘍微小環境全体に視野を広げて代謝研究を進めていく必要があるといえる. -
【がん微小環境TME 内の免疫ネットワーク解明の研究手段】免疫組織化学技術の勘どころとマルチプレックス免疫組織化学の特性
281巻5号(2022);View Description
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免疫組織化学(IHC)は,診断や治療に直結するバイオマーカーを探索し,同定するための技術として非常に有用である.市販キットが普及して気軽に使用できるようになった反面,観察者のバイアスが加わった,恣意的な解釈がなされがちでもある.IHC では,適切な材料を目的にかなった技術で標識し,妥当な手法で解析する必要があり,そのとくに留意すべきポイントについて再確認しておく.近年普及しているマルチプレックスIHC(mIHC)は,組織形態や標的の発現を再現性よく定量化する革新的な技術である.とくに多種多様な細胞や細胞外基質の相互作用が生じる場である腫瘍微小環境(TME)の解析に,mIHC はきわめて強大な威力を発揮するものと期待される.多様なmIHC 技術が開発されており,各研究計画に応じた手法を選択する必要があるが,安定した標識法はほぼ確立されている.一方,mIHC では出力されたデータの解析法の開発は残された課題であり,今後の展望も含めて概説する. -
【がん微小環境TME 内の免疫ネットワーク解明の研究手段】フローサイトメトリー,マスサイトメトリーを用いた腫瘍微小環境の病態解明
281巻5号(2022);View Description
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腫瘍微小環境でがん細胞は複雑なネットワークを介して自己に有利な環境を形成している.がん免疫療法はがん細胞に有利な腫瘍微小環境をがん細胞にとって不利な環境に変化させて免疫細胞による抗腫瘍効果を発揮させるが,これらのメカニズムを詳細に解明することは耐性化の克服や新規治療法の開発につながる.安価で簡便に使用できるフローサイトメトリーはシングルセルレベルで解析するツールとして従来から広く使用されており,さらに40 分子程度のタンパク質を同時に解析できるマスサイトメトリーが登場したことで,より詳細な分析が可能になり,これらは腫瘍微小環境の解析でも使用されている.近年は腫瘍微小環境で抗腫瘍免疫応答の中心的役割を果たすexhausted T 細胞の詳細や,CD4 陽性T 細胞を含む他の細胞とCD8陽性T 細胞の関連性が徐々に解明されてきている.シングルセルレベルでの解析手法が発展することで,より詳細な腫瘍微小環境の解明が期待される. -
【がん微小環境TME 内の免疫ネットワーク解明の研究手段】網羅的ゲノム解析によるTME 評価─全ゲノム/全エクソーム/RNA シークエンス解析
281巻5号(2022);View Description
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がんの免疫ゲノム解析では,通常の網羅的ゲノム解析〔全ゲノムシークエンス(WGS),全エクソームシーケンス(WES),RNA シークエンス)〕からの情報を利用して,がんの免疫的解釈および免疫腫瘍微小環境(TME)の理解が,さまざまな切り口で行われてきている.Bulk(かたまり)がん組織からのRNA を用いて発現解析を行うと,さまざまな種類の免疫細胞の発現データも含まれているため,数学的アルゴリズムを駆使して,この情報を抽出することができる.この解析結果をもって,腫瘍の炎症状態(HOT/COLD)を判定し,腫瘍浸潤性リンパ球(TIL)分画の推定や免疫状態の背景にあるシグナルパスウェイ解析も行うことができる.これらの情報を総合して解釈し,TME の状態を推定する.また,ゲノム変異データからは,HLA やPD-L1/L2を含む免疫関連遺伝子の腫瘍ゲノムの変異やTME と関連する変異が抽出され,変異から生じるネオアンチゲンの推定も行われており,TME-腫瘍の相互作用を明らかにすることができる. -
【がん微小環境TME 内の免疫ネットワーク解明の研究手段】シングルセル解析による抗腫瘍免疫応答の解析
281巻5号(2022);View Description
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腫瘍微小環境(TME)には,がん細胞以外にも免疫細胞,線維芽細胞,内皮細胞などさまざまな細胞が存在する.免疫細胞といっても,腫瘍内にはリンパ球もあればミエロイド系の細胞も存在する.T 細胞には未熟なものから活性化したもの,メモリー細胞や疲弊細胞など,さまざまな分化状態の異なる細胞が同時に存在しており,同一の免疫細胞集団においても多様な不均一性が認められる.しかし,従来の解析技術では蛍光シグナルの重なりによるパラメータ数の限界,ホモジナイズによるヘテロな構成成分が混合されてしまうため,個々の構成成分やその状態を正確に把握することが困難であり,複雑で不均一なTME の解明には取得されるデータの質・量ともに不十分であった.これらの課題を解決するのが,シングルセル解析法などによる高次元解析である. -
【ICI 臨床的バイオマーカーの理解への基礎知識】腫瘍におけるPD-L1 発現とそのバイオマーカーとしての意義
281巻5号(2022);View Description
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近年,免疫チェックポイント療法の発展により,一部の進行期悪性腫瘍の予後の改善が期待できるようになっている.しかし,免疫チェックポイント療法は副作用も強いため,その有効性を事前に予測し,治療によって恩恵を受けられる患者を選択的に治療することが重要と考えられている.本稿では,免疫チェックポイント療法のバイオマーカーとして使用されている因子についてPD-L1(programmed death-ligand 1)発現を中心に解説する. -
【ICI 臨床的バイオマーカーの理解への基礎知識】腫瘍免疫におけるがん抗原の役割─ネオアンチゲン,TMB,MSI の基礎知識
281巻5号(2022);View Description
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腫瘍遺伝子変異量(TMB)や変異由来のネオアンチゲンは免疫原性に関わる重要な概念である.ネオアンチゲンは,がん細胞の体細胞変異に由来する変異タンパク質であることから,腫瘍特異的な標的分子であり,TMB やマイクロサテライト不安定性(MSI)が多くなるほど数が増えると考えられている.TMB やMSI は免疫チェックポイント阻害薬の適応を決定する重要なバイオマーカーであり,実臨床でもPD-L1 と相互補完的に活用されている.一方で,TMB はがん種ごとに有用性が異なっており,すべてのがん種に一律に適用してよいのか疑問が呈されており,がん種ごとにマーカーの意義が異なる.さらにネオアンチゲン,TMB,MSIなどが単なるバイオマーカーとしての役割だけでなく,がんの免疫編集に深く関与しており,免疫チェックポイント阻害薬の耐性化を解明する因子となる可能性があることから,今後ますます重要性が高まっていくであろう. - 免疫チェックポイント阻害薬の成功から続く展望
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【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】進行期悪性黒色腫への免疫療法
281巻5号(2022);View Description
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免疫チェックポイント阻害薬(ICI)である抗programmed death-1(PD-1)抗体と抗cytotoxic T-lymphocyte-associated antigen-4(CTLA-4)抗体の開発は,悪性黒色腫の進行期の治療を大きく変化させた.それから10 年近くが経つが,蓄積された長期観察データやリアルワールドデータを読み解くと,臨床病型による治療反応性の違いやBRAF 遺伝子野生型の治療開発の遅れなど,解決すべき課題も多い.トランスレーショナルリサーチ,あるいはリバーストランスレーショナルリサーチに基づいたバイオマーカーの探索や治療抵抗性メカニズムの研究を経て,ICI とその他のがん治療との併用による複合的な免疫療法や,さまざまなICI同士の併用療法の開発が進んでいる.本稿では,これまでの治療開発の変遷と注目すべき新規併用療法について概説する. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】非小細胞肺がんの免疫療法─開発中の免疫療法を中心に
281巻5号(2022);View Description
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非小細胞肺がん(NSCLC)は,世界中で最も死亡数の多いがん種のうちのひとつであるが,その高い免疫抗原性が免疫療法の標的となり,開発が進んできた.抗PD-(L)1 抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療が,この致死的な疾患の治療にはなくてはならない強力な手札として加わり,Ⅳ期のNSCLC の生存期間中央値は2 年に迫ってきている.一方で,ICI の奏効率はPD-L1 などのバイオマーカーで患者選択をしても50%未満にとどまり,製薬企業各社は耐性機序の解明・克服,さらなる免疫療法の併用療法の開発を進めていくなかで,自社製の抗PD-(L)1 抗体の開発にも乗り出している.現在開発中/承認済み抗PD-(L)1 抗体の数は20 を超え,それに無数の併用療法の開発が進められている.実際にランダム化比較試験を乗り越えた併用療法もでてきており,臨床家としては今後どのような治療選択をしていくべきなのか,頭を悩ませるところでもある.本稿では,NSCLC 領域で開発中の免疫療法を中心に解説する. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】泌尿器科がん(腎細胞がん・尿路上皮がん)への免疫療法─特殊性と類似性
281巻5号(2022);View Description
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免疫療法の登場に伴い,がん治療は新たな変革期を迎えている.泌尿器科がんは腎細胞がん,尿路上皮がん(いわゆる膀胱がん,腎盂尿管がん),前立腺がんが主であるが,このうち腎細胞がん,尿路上皮がんが,抗PD-1/PD-L1 抗体への反応が強い免疫感受性腫瘍である.両者は固形がんにおけるがん免疫療法の先がけであるが,同じ泌尿器科臓器でも生物学的特徴に真逆の要素が多い.腎細胞がんは古典的には抗がん剤や放射線治療に抵抗性であるが,尿路上皮がんは両治療に感受性を有する.そのため尿路上皮がんの全身治療は,がん免疫療法時代においても化学療法が重要である.また,腎細胞がんの遺伝子変異には挿入/欠失(インデル)が多く,尿路上皮がんを含めた多くのがん種と遺伝学的な立ち位置も異質である.本稿では,腎細胞がん,尿路上皮がんへの免疫療法の現状や展望に加えて,バイオマーカー開発や泌尿器科がんの腫瘍免疫環境における特殊性について述べる. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】血液腫瘍に対する免疫療法─ホジキンリンパ腫,成人T 細胞白血病リンパ腫
281巻5号(2022);View Description
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近年の造血器腫瘍の診断・治療の進歩は目指しい.診断については古典的な形態学的診断から,CD 抗原などの細胞表面形質,染色体,遺伝子解析など多面的,客観的な手法が日常臨床に導入されている.治療についてはここ20 年間で分子標的療法が急速に発展・拡大し,そして現在,他の悪性腫瘍と同様に免疫の力を利用した免疫療法が導入され,大きな変革期を迎えつつある.免疫療法として現在,造血器腫瘍の臨床の現場で応用されているのは,免疫チェックポイント阻害薬とCAR-T 細胞療法である1).また広義の免疫療法としては,その他の抗体療法もあげられる.本稿では造血器腫瘍における免疫療法に焦点をあて,とくにホジキンリンパ腫(HL),成人T 細胞白血病リンパ腫(ATL)に対する有望な免疫療法について解説する. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】頭頸部がんへの免疫療法─現状と展望
281巻5号(2022);View Description
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頭頸部がん治療は,手術療法,放射線療法,化学療法の3 つが主な治療法であったが,近年登場した免疫チェックポイント阻害薬(ICI)によるがん免疫療法は,第4 の治療法として脚光を浴びている.ICI の例として抗CTLA-4 抗体(イピリムマブ)は,2011 年に悪性黒色腫に対する米国で薬事承認された.頭頸部がんに対しては,2016 年に米国で抗PD-1 抗体(ニボルマブ,ペムブロリズマブ)が承認され,わが国では2017 年よりプラチナ使用歴のある再発・遠隔転移頭頸部がんに対してニボルマブが保険適用となり,2019 年より再発・遠隔転移頭頸部がんに対してペムブロリズマブが保険適用になった.本稿では,ニボルマブ,ペムブロリズマブの臨床試験や特徴,治療薬の選択方法,ICI による有害事象,ICI 後の化学療法の効果,その他の原発部位や組織型に対するICI の効果,頭頸部がん治療における免疫療法の今後の展開について述べる. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】リンチ症候群を中心とした大腸がんへの免疫療法
281巻5号(2022);View Description
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現在の免疫療法の主軸である免疫チェックポイント阻害薬は,マイクロサテライト不安定性(MSI)を有しない大多数の大腸がんでは効果が期待できない.そのため,大腸がんの免疫療法はDNA ミスマッチ修復機構欠損(dMMR)/高頻度MS(I MSI-high)を中心として治療開発が進んでいる.dMMR/MSI-highの大腸がんは,MMR 遺伝子の機能低下により,変異タンパク質が蓄積しやすいため,がん抗原を産生しやすく,免疫細胞から認識されやすいと考えられている.実際に,KEYNOTE(KN)-016 試験ではdMMR/MSI-high の大腸がん患者でペムブロリズマブによる治療で良好な結果がみられ,その後,KN-164,KN-177 によりペムブロリズマブは未治療の切除不能進行・再発MSI-high 大腸がんに対する標準治療として確立されるに至った.またCheckMate(CM)-142 試験の結果,既治療例ではニボルマブまたはニボルマブ+イピリムマブも治療選択肢として加わっている.しかし,リンチ症候群はdMMR/MSI-high 大腸がんというサブセットが確立する100年ほど前にすでに発見されており,さまざまな臨床病理学的研究が行われていた.当時は,遺伝子とがんの関連が重要視されておらず,研究は日の目をみていなかったが,遺伝性腫瘍の患者と家族に悲嘆に寄り添い,研究を続けた偉大な医学者の功績があったことは特筆すべき点である.本稿では,リンチ症候群発見の物語まで遡り,現在の大腸がんに対する免疫療法へと至る“医学のあゆみ”を概説しながら,今後の日常診療において臨床医がリンチ症候群とどのように向き合っていくのかについて考察する. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】消化器がん(胃がん・食道がん)への免疫治療
281巻5号(2022);View Description
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2017 年9 月に胃がんに対する後方ラインの治療としてニボルマブが保険承認されてから,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の早い段階への適応拡大,併用療法の開発が急速に進められてきた.2021 年11 月には一次治療として食道がんでペムブロリズマブと化学療法の併用療法,胃がんでニボルマブと化学療法の併用療法が,食道がんで術後補助療法としてニボルマブ単剤療法が保険承認された.臨床試験ではICI と化学療法との併用療法に高い治療効果が確認されるが,基礎研究においては併用による相乗効果の機序は明らかになっていない.胃がんのサブタイプ分類によりICI の治療効果が高い群があることも推測され,腫瘍内PDL1発現を中心としたバイオマーカーの探索も精力的に取り組まれている.今後も周術期治療へのICI の導入や,分子標的薬をはじめとした併用薬の開発が積極的に行われることが予想される. -
【腫瘍別の免疫作動薬の現状と展望(単剤→併用・新規)】婦人科がんへの免疫療法
281巻5号(2022);View Description
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免疫チェックポイント阻害薬は,さまざまな悪性腫瘍に対する標準治療の一躍を担いつつある.婦人科がんにおいては,子宮体がんを中心に単剤や他剤との併用療法も国内で保険診療が可能となった.また子宮頸がんにおいても標準化学療法との併用療法が承認間近となっており,卵巣がんについては,PARP 阻害薬や血管新生阻害薬との併用療法の有用性が示されつつあり,さらにiPS 細胞(人工多能性幹細胞)を利用した次世代型の免疫療法への挑戦がはじまっている.そこで本稿では,婦人科がんに対する個々の免疫療法の現状と今後の展望と課題を概説する. -
【新規治療法】腫瘍融解ウイルス療法とがん免疫
281巻5号(2022);View Description
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ウイルスは本来その生活環として,ヒトの細胞に感染・増殖し,その細胞をさまざまな機序により破壊する.最近の遺伝子工学の進歩により,この増殖能にがん選択性を付加することで,ウイルスをがん細胞のみを殺傷する治療用医薬品として用いることが可能となってきた.効率的な細胞死誘導を目指して,多種多様なウイルスの臨床応用が検討されてきているが,最近,免疫学的観点からもウイルス療法が注目されている.外来性に標的細胞にウイルスが感染することで,生体内ではさまざまな免疫反応が惹起される.ウイルス感染細胞からのインターフェロン(IFN)の分泌はよく知られているが,その他にも宿主の免疫を活性化する分子機構が明らかとなってきている.本稿ではウイルスそのものを用いた腫瘍融解免疫ウイルス療法(oncolyticimmunovirotherapy)や適応が広がる免疫チェックポイント阻害薬との併用など,基礎的および臨床的に開発が進む治療戦略について概説する. -
【新規治療法】補助に終わらない免疫アジュバント
281巻5号(2022);View Description
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アジュバントはラテン語で助けるという意味を持つ“adjuvare”を語源としており,ワクチン効果の増強や持続のために重要な役割を果たしている.これまでに承認されている多くのワクチンに内因性または外因性アジュバントが含まれている.一方で,アジュバントは単なるワクチンの補助剤として働くだけではないことが示されてきた.自然免疫応答の活性化を本質とするアジュバントは単剤で感染症予防薬やがん免疫療法剤としても働くことが近年明らかとされている.本稿では,アジュバントが担っているさまざまな役割に関して解説する. -
【新規治療法】iPS 細胞から再生したT 細胞を用いたがん免疫療法─即納型汎用性T 細胞製剤の開発
281巻5号(2022);View Description
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がん免疫療法の領域では,患者由来のT 細胞を体外で遺伝子改変して患者に投与する方法の有効性が示されている.しかし,この方法ではコストや時間がかかる,品質が不安定などの問題も残されている.これらの障壁を乗り越えるために,iPS 細胞(人工多能性幹細胞)技術を用いてT 細胞を再生する戦略が複数のグループによって進められている.筆者らは,特定のT 細胞レセプター(TCR)遺伝子をiPS 細胞に導入し,そのiPS 細胞からT 細胞を作製する方法(TCR-iPS 細胞法)の開発を進めてきた.iPS 細胞としては,汎用性が高いHLA 型を有する株を用いる.固形がんへの応用を目指した研究では,WT1 抗原陽性腎がんの患者腫瘍組織異種移植モデル(PDX)で,再生T 細胞による治療効果を確認した.本稿では,他のグループによるさまざまな種類のT 細胞をiPS 細胞から再生する戦略も紹介する. -
【新規治療法】遺伝子導入T 細胞による養子免疫療法
281巻5号(2022);View Description
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免疫チェックポイント阻害薬に続くきわめて有効ながん免疫療法として,遺伝子導入T 細胞による養子免疫療法が大きく注目されている.CD19 分子を標的としたキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子を導入したT 細胞(CAR-T 細胞)療法が急性リンパ性白血病(ALL),びまん性大細胞性B 細胞リンパ腫(DLBCL)の治療法として2019 年にわが国で承認され,BCMA 分子を標的としたCAR-T 細胞療法が多発性骨髄腫(MM)の治療法として,2022 年にわが国で承認された.T 細胞レセプター(TCR)遺伝子導入T 細胞(TCR-T 細胞)療法もいくつかの固形がんを対象とした臨床試験で有効性を示しつつある.本稿では,これら遺伝子導入T 細胞による養子免疫療法を概観し,今後の課題のなかでとくに固形がんを標的とした治療法の開発と非自己細胞を用いた開発について考察する. -
【新規治療法】近赤外光線免疫療法(光免疫療法)によるがん免疫の誘導と活性化
281巻5号(2022);View Description
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がん治療における一番の目的は,体内にあるがん細胞をできるだけ減らすことである.がん細胞を完全に取りきるか殺しきることができなければ,がんを完治させるためにはがんに対する免疫をしっかり起動する必要がある.既存のがん治療でがん細胞を減らすことと,がん免疫を増強することを両立できる治療法は今のところない.そのような治療を開発するために,筆者らは近赤外光線免疫療法(NIR-PIT)を開発した.NIR-PIT はがん細胞を抗体と光吸収物質を用いて選択的,かつ短時間で破壊することができる治療法で,がん細胞は免疫原性細胞死を起こして破壊される.本稿ではNIR-PIT における免疫の誘導と活性化について解説したい. -
【新規がん免疫治療薬の開発】基礎研究と臨床応用への谷間をつなぐ橋渡し研究の重要性
281巻5号(2022);View Description
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社会の急速な高齢化に伴い,現在2 人に1 人ががんを発症し,3 人に1 人ががんで死亡する時代であり,新しいがん治療法の開発はきわめて重要な課題である.がんとは,がん細胞に加えて免疫細胞,線維芽細胞,血管構成細胞,間葉系幹細胞などさまざまな間質細胞が関与する多様な病態であり,それががん治療の反応性にも関係する.がん病態の多様性は,遺伝子異常に基づくがん細胞の性質,患者の体質,環境因子にも規定され,新規標的分子・標的細胞を同定するために広い視点で多様な新手法を用いることが必要である.そのような新規標的分子の探索により,がんに対する新しい治療薬が多方面から開発されており,がんの治療成績は年々向上しつつあるが,新規薬剤の開発と市場への投入は,海外企業または日本企業による海外での成果によるものが多い.日本では優れた基礎研究の成果として新規標的分子の候補を見出してきたが,海外と比較するとアカデミア発のシーズが新規薬剤開発に結びつくことが少なく,日本の新規医薬品の開発力の向上における重要な課題といえる.本稿では,基礎研究から臨床応用への橋渡し研究において成功を収め,近年急速に臨床応用が拡大しているがん免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)の事例について考察し,橋渡し研究の重要性について論述する. -
【新規がん免疫治療薬の開発】がん免疫療法のバイオマーカー・コンパニオン診断法の探索
281巻5号(2022);View Description
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抗PD-1/PD-L1/CTLA-4 抗体に代表される免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は,さまざまながんに対して治療適応が拡大され1),進行期のがん治療において,殺細胞性抗がん剤,キナーゼ阻害薬,血管新生阻害薬と並んで治療のひとつの柱として位置づけられている.がん免疫療法は奏効が得られれば長期に治療効果が期待できるという利点がある反面,患者集団全体としての奏効率は限定的であり,奏効する可能性の高い患者をあらかじめ層別化するためのバイオマーカーの重要性が当初から指摘され,多くのトランスレーショナル研究が実施されている.本稿では,これまでがん種横断的に評価されてきたバイオマーカーとコンパニオン診断の実例,当研究室で腫瘍浸潤リンパ球の解析から見出したバイオマーカーについて紹介する.さらに,ICI 単剤治療における治療抵抗性機序をバイオマーカーとした治療戦略について概説する. -
【新規がん免疫治療薬の開発】がん免疫療法に起こる,そして起こりうる副作用と対策
281巻5号(2022);View Description
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がん免疫療法は,原則的にわれわれの免疫系を介して抗腫瘍効果を発揮するものであるため,従来の抗がん剤や分子標的薬とは異なる機序で副作用を生じる.なかでも免疫チェックポイント阻害薬特有の有害事象として,免疫関連有害事象(irAE)があり,特徴として,①それぞれの有害事象の頻度は低いことが多いが,全身に多岐にわたって出現すること,②発現時期を予測することが難しいこと,があげられる.ときに適切な対応や対処の遅れが致命的となることもありうるため,そのマネージメントにあたっては注意が必要である.本稿では,irAE を中心にがん免疫療法によって生じうる副作用について概説し,その対策について概説する. -
【新規がん免疫治療薬の開発】がんゲノム医療と免疫治療の現状と展望
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がんにおいては遺伝子の突然変異(置換,再配列,欠損,挿入)や核酸修飾の付加・除去の蓄積によって細胞挙動が変化し,制御不能な増殖や悪性化が誘導されることが知られている.これらの遺伝子変化により本来の働きとは異なる異常なタンパク質の生成や,本来の量とは異なる異常な量を生成することがあり,結果としてがんを促進することもまた報告されている.このような遺伝子変異が両親からの受け継ぎや環境的な要因によって引き起こされるのはもちろんのこと,細胞分裂などの生命現象における自然なプロセスにおいてさえも生じることがわかってきたことから,がんゲノム研究が広くなされてきた.近年,わが国でもがん遺伝子パネル検査を用いたがんゲノム医療が取り組まれ,有効な薬剤を用いた個別化医療への道筋が立てられてきた.現状では有効な薬剤がみつかる可能性は臨床試験を合わせても10~20%と非常に低く,今後の進展をもたらすには,従来の抗がん剤だけではなく免疫治療薬の発展が強く期待されている. -
【新規がん免疫治療薬の開発】人工知能(AI)を用いたがんの不均一性,多様性への挑戦
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2010 年以降の第三次人工知能(AI)ブームにおいて現実世界の複雑さ,多様性に対応できるようになったAI は,さまざまな分野において人間の専門家をも上回る精度を達成している.がん研究においても,膨大な画像を学習させることで専門医を上回る精度で診断や予後予測ができるようになってきている.画像や免疫学的パラメータに基づく治療選択にAI が活用されているのに加えて,ハイコスト,ハイリスクな創薬においてAI を用いた開発の効率化とコスト削減が模索されている.がんの多様性,不均一性を理解し,個人ごとに最適な治療をデザインするうえでAI は必須のツールになりつつあるといえる.一方,深層学習をはじめとするAI は非常に構造が複雑で,判断の根拠が人間に理解できなくなることも多い.AI アルゴリズムの説明性を高めながら,持続的に検証とアップデートを行う仕組みを構築することが,精密医療の実現に向けてがん研究を大きく発展させる重要な基盤となるであろう. - 結語
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がん免疫療法の展望─免疫制御機構に関する最近の知見をもとに
281巻5号(2022);View Description
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最近のがん免疫療法の発展,とくに免疫チェックポイント抗体療法の開発により,がん免疫療法はがんの外科的摘除,化学療法,放射線療法に続く第4 のがん治療法としての位置を占めつつある.しかし,現時点の免疫チェックポイント抗体療法の奏効率は,感受性の高いがん腫でも30%程度であり,また随伴する自己免疫病などの有害事象も無視できない.より強力で,より安全ながん免疫療法の確立が望まれる.そのために解決すべき根本的課題のひとつは,免疫自己寛容機構によるがん免疫応答の抑制である.すなわち,がん細胞に対する免疫応答は微生物免疫とは異なり,正常自己細胞由来の自己抗原,あるいは変異自己抗原に対するものであり,当然のことながら,生体に備わった免疫自己寛容維持機構は自己免疫病の発症のみならず有効ながん免疫応答を阻害する方向に働く.微生物ワクチンと比べて,治療的がんワクチンの有効性が低い原因のひとつと考えられる.逆に,免疫チェックポイント抗体療法,たとえば抗CTLA-4 抗体(イピリムマブ)や抗PD-1 抗体(ニボルマブ)によるがん免疫応答の惹起・強化は,同時に免疫自己寛容を障害し,有害事象として自己免疫病を誘導する.本稿では,免疫自己寛容とがん免疫に関する最近の知見をもとに,がん免疫応答の制御機構を解説し,現行のがん免疫療法の問題点とその解決に向けた展望を述べたい.
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