Volume 287,
Issue 4,
2023
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特集 適応障害(適応反応症)の予防と対策
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医学のあゆみ 287巻4号, 243-243 (2023);
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【総論】
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医学のあゆみ 287巻4号, 245-248 (2023);
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適応障害と診断するためには「はっきりと確認できるストレス因に反応して速やかに発症し,ストレス因がなくなったら速やかに症状が消失する」というストレス因と症状発現・消失との時間的因果関係が必要である.すなわち,適応障害(適応反応症)は単なる適応不全や,いわゆる“心因反応”全般を意味するような疾病ではない.しかし,その診断基準には特異的な症状が記載されていないため,過剰診断を招く恐れがある.また,適応障害(適応反応症)の診断基準には“他の精神疾患の基準を満たしていない”という但し書きがあるため,軽症であるという誤解を招きやすい.これらの診断上の問題点を認識して診断の精度を少しでも上げることが,その治療や対策に有効である.
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医学のあゆみ 287巻4号, 249-252 (2023);
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自殺と精神障害の関係,特にうつ病との関係はよく知られている.自殺者の90%以上が自殺時に精神科診断がつく状態であった.WHO によるシステマティックレビューでは,適応障害は全体の3.6%であった.一方,日本の重症自殺未遂者の調査では,適応障害が19%も占めていた.日本では適応障害レベルのうつ状態で自殺の一線を越える人が諸外国より多いと考えられる.それが,社会に激震が走った時に自殺が急増する要因であると筆者は考えている.コロナ禍以降,自殺が増加した背景には,適応障害の増加があると思われる.臨床現場では適応障害の発見と対応,そして希死念慮への対応がこれまで以上に重要な課題となる.
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医学のあゆみ 287巻4号, 253-258 (2023);
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日本の精神医療現場では,若年層を中心として状況依存的な抑うつと回避傾向を特徴とする抑うつ症候群が2000 年以降増加しており,こうした患者はマスコミ用語で新型うつ,現代型うつと称され,しばしば“適応障害”と診断されている.本稿では,適応障害と安易に診断されがちな“新型/現代型うつ”の特徴を紹介し,いわゆる適応障害や新型/現代型うつと称される患者に対する治療と対応のコツを呈示する.筆者らは,新型/現代型うつの特性を簡便に評価可能な自記式質問票であるTACS-22 を開発しており,①社会的役割の回避,②不平不満に加えて,③低い自尊心という3 つの下位因子を見出している.調和を重んじ“逃げない”人たちを美徳としがちな日本社会において,こうした患者は“すぐ逃げる人”として偏見の対象になりやすい.予防・支援の要は,低い自尊心のため他人を責める,逃げざるを得ないことへの周囲の共感,自尊心を高めるエンパワーメント,そして“逃げたいこころ”の意識化とその上手な取り扱いを促す精神力動的支援であろう.
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【予防と対策】
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医学のあゆみ 287巻4号, 259-262 (2023);
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本稿では,適応障害の文脈におけるマインドフルネス認知療法が機能しうるかについて考察するため,最初にマインドフルネス認知療法についてその概要を説明し,それが8 回の構造化された集団精神療法であること,集中瞑想からはじまり観察瞑想へと移行しながら,自分の思考や感情を客観的に捉える脱中心化を習得していくプロセスであることを説明した.次にマインドフルネス認知療法の効果機序として,現実を冷静に優しい好奇心をもって,ありのままに捉える脱中心化が大きな役割を果たしていることを確認した.さらに適応障害の文脈では,外的および内的体験への持続的な嫌悪が,思考の反芻を引き起こし症状の悪化や遷延化につながりうること,こうした嫌悪に対して脱中心化的なアプローチで関わることが,状況に対してより柔軟な対応を促しうることを考察した.
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医学のあゆみ 287巻4号, 263-266 (2023);
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子どもは生まれて育つ間,その環境に依存しなくては生きていくことができない.特に幼少期には,親や主たる養育者の態度,行動,文化的背景を受け入れて育つ.その養育者も,生活する家庭環境や社会情勢や気候風土から,さまざまな影響を受けて生活し,育児をする.子どもが育つ養育環境は,重なり合って子どもに作用する. また,子ども自身にとっては,精神発達に必要な課題に応じて依存する環境への重要度が変化する.乳幼児期には親や主たる養育者への依存度が高いが,学童期になれば学校生活などにおける体験の重要度が高まり,青年期には仲間関係やアイデンティティに関わるテーマの重要性が増す.つまり,発達段階によって,子どもが影響を受ける環境の意味合いが変わるので,子どものストレス因を評価する際には,発達段階によるストレッサーの重みの違いを考慮する必要がある. さらに,子どもは経験の乏しさから,大人ではストレス因になりにくい出来事がストレスになったり,子ども自身の能力や発達特性によってその子特有のストレスを抱えていたりする場合もある.特に,知的障害や自閉スペクトラム症では,出来事に対する理解や認知が独特なために,状況によってはより大きなストレスを感じやすいことがある.
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医学のあゆみ 287巻4号, 267-271 (2023);
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がん患者はその治療過程において多くのストレスに曝される.サイコオンコロジーの分野では,がん患者のがんと“こころ”の関係を学際的に取り扱い,日々患者の診療にあたっている.がん患者は“悪い知らせ”を伴う情報共有を避けられず,その際に多大な衝撃を受ける.その衝撃に伴う心理的負担によって生じる抑うつ症状は,通常2 週間程度で適応的な水準に回復するが,ストレス対処に失敗すると,適応障害やうつ病と診断される水準で遷延し,療養生活やがん治療への悪影響をきたす.特に進行がん患者は,自らの生命を脅かされる脅威との直面や治療の不確実性に対する不安の増大に加え,人生の意味の喪失や周囲の人間関係の移り変わりなど,実存的苦痛が絡んだストレスを抱え,適応障害やうつ病,demoralization などの不適応状態に至りやすい.日々の支持的な対話は,そういった不適応状態への予防と対策として,全医療者が取り組める介入である.加えて,緩和ケア領域における実存的苦痛に焦点を当てた精神療法についても紹介する.
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医学のあゆみ 287巻4号, 273-276 (2023);
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適応障害には環境要因が大きな場合と個体要因が大きな場合がある.産業現場における予防と対策において,前者であれば環境調整が必要である.働き方改革の視点で労働時間のチェック,人間関係では種々のハラスメントをなくすことは特に重要である.また後者では,背景に発達障害が存在するときにはその個人の特性を把握し,特性に応じた合理的な配慮を行い,能力を発揮できるようにする必要がある.職場での適応障害に,精神医学は貢献できるであろう.
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医学のあゆみ 287巻4号, 277-281 (2023);
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“職場のうつ”を個人の病理に帰して,診察室の中で弥縫策を講じるのではなく,発生の現場たる職場に返して,ストレス因自体を根本から除去する方策を考える.具体的には,事業者宛て診断書を駆使して,精神科主治医の立場から,安全配慮義務への注意喚起を行う.長時間労働があれば,働き方改革関連法,労働基準法および「精神障害の労災認定」に言及する.ハラスメントがあれば,「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」に則った対応を求める.職場のうつに対する休職は,法律上は“私傷病”に対する解雇猶予であり,根本的な解決にならないのみならず,期間満了となれば労働者を“自己都合退職”に追い込みかねない.“職場のうつ”の本質は,使用者の安全配慮義務にある.したがって,医師が果たすべきは治療のみならず,専門知識に基づく意見申述も含まれる.
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連載
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医療システムの質・効率・公正 ─ 医療経済学の新たな展開 14
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医学のあゆみ 287巻4号, 287-291 (2023);
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医師数の地域差を捉えるうえで,どのような測定スケール,測定指標を用いるかによって結果が大きく異なるため,目的や状況に合わせた測定が求められる.近年では,都道府県単位よりも二次医療圏単位を用いることが一般的になっている.測定指標では,これまでの「人口対医師数」から,性・年代ごとに異なる医療需要や医師供給を調整した「医師偏在指標」が作成され,施策の前提として用いられるようになった.そもそも,日本における医師数の地域差の問題は1990 年代ごろから指摘され続けているが,是正の方向にはなかなか進まず,むしろ拡大する傾向がみられていた.さらに,医師数の将来予測に基づくと,2035 年にかけて医師数の地域差は,より広がることが指摘されている.加えて,医師の高齢化の問題も深刻化し,医師が少ない地域の方が,より早く医師の高齢化が進展する.限られた資源のなかで適切な配分を行い,医療の地域差を是正するためには,実効性のある施策を模索し,適切なスケールや指標を用いて評価,改善していくことが求められる.
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遺伝カウンセリング ─ その価値と今後 4
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医学のあゆみ 287巻4号, 293-298 (2023);
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◎遺伝医学の進歩はめざましく,遺伝学的検査の技術の向上により新たな原因遺伝子の発見や病態解明が進み,治療法開発が行われている.遺伝学的検査およびその結果に基づいて,治療方針や予防医療につながるなど,臨床的および遺伝医学的に有用な情報となりうる大きな利点がある一方で,遺伝情報が持つ不変性,共有性,予測性,あいまい性という特性によって生じるさまざまな倫理的・法的・社会的問題も存在する.社会全体で遺伝医療における倫理的課題について理解し,より一層議論を深めていくこと,一般社会への遺伝教育の重要性と多様性の理解が進むことが望まれる.また,今後,日本においても早急な法整備や遺伝・ゲノムについての正しい意識の啓発活動を推進していくことは,多様性の理解促進において重要である.
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TOPICS
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眼科学
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医学のあゆみ 287巻4号, 283-284 (2023);
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小児科学
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医学のあゆみ 287巻4号, 285-286 (2023);
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FORUM
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日本型セルフケアへのあゆみ 22
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医学のあゆみ 287巻4号, 299-302 (2023);
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人生において,元気でいることは誰にとっても大事なことである.自分の健康と病気に関わることは正確に知りたい.さまざまな薬や治療法があるなら,自分の希望で決めたい.そうした願いをもとに,大きな転換がはじまろうとしている.インターネットの普及により,医薬品・健康食品・病院に関する情報に誰でも容易にアクセスできるようになったが,正確性に欠けた情報も溢れかえっている.本シリーズでは,地に足をつけた“日本型セルフケア” へのあゆみを提唱していく.