Volume 288,
Issue 1,
2024
-
【1月第1土曜特集】 自然リンパ球の生理と病理
-
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 1-1 (2024);
View Description
Hide Description
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 3-9 (2024);
View Description
Hide Description
自然リンパ球(ILCs)は,T 細胞やB 細胞と同様にリンパ球共通前駆細胞(CLP)から分化する.近年,さまざまなILC 前駆細胞や分化に必要な転写因子が同定され,その分化メカニズムの全容が明らかになりつつある.当初,ILCs は前駆細胞が同定された胎児肝臓および成体骨髄で主に分化すると考えられていた.その後,肺,腸管などの末梢組織や末梢血においてILC 前駆細胞の存在が明らかになり,末梢組織環境がILC 分化の場として機能する可能性が示唆されている.最近,血液中を循環する前駆細胞が組織局所から産生されるシグナルに随時応答することで,組織特異的ILCs が“オンデマンド”に供給される“ILC-poiesis”という概念も提唱されている.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 11-15 (2024);
View Description
Hide Description
これまで遺伝子改変マウスや疾患モデルマウスを用いた研究によって,自然リンパ球(ILC)が組織の恒常性,修復,リモデリングを制御するうえで中心的な役割を果たすことが明らかにされてきた.組織を構成する上皮や線維芽細胞とILC の関係性を理解しようとする研究はILC 研究領域の発展にとどまらず,免疫細胞が組織の細胞と恒常的にコミュニケーションを取り,互いを支え合うことがいかに大切であるかをわれわれに改めて気づかせた.ILC は局在する組織に合わせて表現型や機能を柔軟に変化させることで組織の求めるニーズに的確に答え,組織の恒常性維持にとって欠かすことのできない細胞へと進化してきたと考えられる.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 17-21 (2024);
View Description
Hide Description
1 型自然リンパ球(ILC1)およびナチュラルキラー(NK)細胞は,インターフェロンγ(IFN-γ)を産生することで抗腫瘍・抗ウイルス免疫応答に重要な役割を果たす自然リンパ球(ILC)である.血流を介して全身を循環するNK 細胞に対し,ILC1 は腸管,肝臓,子宮などの特定の組織に常在しており,免疫応答における早期のエフェクターとして機能する.ILC1 の特徴のひとつは,その性質が組織間,種間で大きく異なる多様性(diversity)を持つことであり,研究間の統合的な解釈を難しいものにしている.一方で最近の研究から,組織横断的に認められるいくつかのILC1 サブセットと,その誘導に関わる環境因子が同定されており,個体レベルでのILC1 の多様性を整理することが可能となりつつある.本稿では,まずILC1 の生理的な特徴と機能を概観した後,ILC1 の多様性と組織内環境との関わりについて,最新の知見を交えて紹介する.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 23-27 (2024);
View Description
Hide Description
2 型自然リンパ球(ILC2)が発見され,アレルギーの発症機序や寄生虫感染防御における理解が飛躍的に深まってきた.感染防御や組織修復を担うILC2 は,粘膜関連組織や皮膚に機能的に配備されているが,想像以上に幅広く生体に分布していることが明らかとなってきた.各組織での役割の探索がはじまり,肥満やがん,心血管疾患などでの関与も報告されており,ILC2 の重要性はますます高まっている.ILC2 の制御にはサイトカインが肝心であるが,特にインターロイキン-33(IL-33)はその制御の中軸を担う.このIL-33-ILC2 システムは,循環器疾患において,抗炎症作用や治癒に貢献する一方で,血管病態の増悪にも関わる.ここでは特に,アテローム性動脈硬化症と心筋梗塞,そして肺動脈肥厚および肺動脈性肺高血圧症(PAH)との関わりについて紹介したい.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 29-34 (2024);
View Description
Hide Description
抗原受容体を持たない2 型自然リンパ球(ILC2)は,サイトカイン受容体以外にもさまざまな生理活性物質に対する受容体を発現しており,周囲の微小環境変化に敏感に反応して自身の活性を調節する.たとえば,アラキドン酸(AA)の代謝物であるロイコトリエン(LT)は,ILC2 からの2 型サイトカインの産生を亢進し,アレルギー反応を増強する.また,雄性ホルモンであるアンドロゲンはILC2 の分化を強力に抑制し,アレルギー感受性の性差を生み出す.副交感神経由来のニューロメジンU(NMU)はILC2 の機能を亢進する一方で,交感神経由来のカテコールアミンは抑制することで,寄生虫感染時の生体防御反応や恒常性維持に寄与する.ILC2 自体もカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やアセチルコリンといった神経伝達物質を合成することが可能で,これらはオートクラインに作用する.こうした発見は,生理的な反応における文脈に即したILC2 の制御メカニズムについての理解を深め,アレルギー治療に新たな方策をもたらすことにつながる.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 35-41 (2024);
View Description
Hide Description
2 型自然リンパ球(ILC2)は多面的な働きを有しているが,特にアレルギー病態においては2 型炎症を誘導することにより病態の重症化に寄与しているため,ILC2 の活性化を抑制することが治療につながると考えられている.ILC2 の活性化を制御する戦略として,①ILC2 の活性化因子の抑制,②ILC2 の抑制因子,③ILC2の形質転換による2 型炎症制御,④生体内における自然免疫細胞のネットワークによる間接的なILC2 の制限,などが考えられる.さらに最近,筆者らはアネキシンA1 や亜鉛を介したILC2 の内因性の活性化制御機構を明らかにしており,ILC2 の活性化を抑制する新しい戦略として注目している.ILC2 をうまく制御することは,アレルギー分野のみならず全身のさまざまな疾患病態においても重要であり,新規治療ターゲットの創出につながることが期待される.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 43-47 (2024);
View Description
Hide Description
2 型自然リンパ球(ILC2)は,IL-33 などのアラーミンにより活性化し,高い2 型サイトカイン(IL-5 やIL-13 など)産生能を維持したまま,非常によく増殖する.たとえば,試験管培養では活性化状態を維持したままセルライン化する.生体内の応答でも,慢性アレルギー炎症によりILC2 は炎症に伴い増加する.生体内では空間的制限があるため,活性化しすぎたILC2 を除去するシステムが想定されるが,今までそのような現象は見つかっていなかった.筆者らは,過剰に活性化したILC2 は抑制性分子のTIGIT(T cell immunoreceptor with Ig and ITIM domains)を発現し,“疲弊様”機能低下を呈すること,TIGIT を発現したILC2 はマクロファージとの相互作用により生体内から除去されることを明らかにした.そして,この現象をILC2 のAICD (activation-induced cell death)と名づけた.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 48-53 (2024);
View Description
Hide Description
これまで獲得免疫を中心に考えられてきたアレルギー性疾患の概念が,ここ10 年で大きく変わってきた.その変革の火付け役となったのが2 型自然リンパ球(ILC2)の発見である.花粉やダニなどに含まれる抗原によるT 細胞の活性化が引き金となり,アレルギー性疾患の発症を惹起する.定説となっているこの概念に対し,ILC2 は傷害を受けた上皮細胞から産生されるサイトカインIL-25,IL-33 に応答し,IL-5 やIL-13 などの2 型サイトカインを産生することでアレルギー炎症を誘導することが明らかとなった.たとえアレルゲンが存在しなくても,アレルギー性疾患の発症に至るというこれまでの固定概念を覆す知見である.最近の研究から,アレルギー症状の増悪に関わる皮膚の掻破や寒冷曝露などの環境からの刺激がIL-33 発現を誘導しうることが明らかとなった.したがって,さまざまな環境因子によってIL-33 を介したILC2 活性化がアレルギー反応を惹起するという,アレルゲンに依存しない機序によるアレルギー性疾患の発症機序が明らかとなった.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 55-59 (2024);
View Description
Hide Description
われわれが生きる世界は依然として“虫だらけの世界(Wormy World)”である.生体防御システムは,これら寄生虫を含む微生物との相互作用のなかで形成されてきた.2 型免疫(type 2)応答は蠕虫感染に比較的共通した反応であり,高IgE 血症や好酸球増多は蠕虫感染を示す臨床所見のひとつである.腸管寄生線虫が粘膜上皮を傷害すると,IL-25 やIL-33 などのアラーミンが放出され,2 型自然リンパ球(ILC2)を活性化し,IL-13,IL-9,IL-5 などの2 型サイトカインの産生・分泌を促す.Type 2 応答は,杯細胞や粘膜肥満細胞の過形成,平滑筋の収縮亢進,粘液やグリコサミノグリカンの産生亢進などを介して虫体と上皮細胞の結合を阻害し,虫体周囲に集積する好酸球と協働して,最終的には排虫を促す.腸管寄生線虫の効率的な排除には,ILC2 およびTh2 細胞由来の2 型サイトカインが不可欠である.本稿では,寄生虫感染に果たすILC2 の役割に関して概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 61-65 (2024);
View Description
Hide Description
肥満に起因した脂肪組織炎症は,代謝性疾患発症の引き金となる.2010 年,脂肪組織の中から後に“2 型自然リンパ球(ILC2)”とよばれる新しいタイプの免疫細胞が発見された.サイトカインや神経伝達物質に反応して活性化したILC2 は,抗炎症性の2 型免疫応答を誘導し,脂肪組織の恒常性維持に寄与する.ILC2 は脂肪組織だけでなく肺や腸管などにも存在しているが,ILC2 が脂質代謝に及ぼす影響は臓器によって大きく異なる.本稿では,“肥満”や“脂肪組織炎症”といったキーワードを軸に,ILC2 が担う多彩な機能について概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 67-71 (2024);
View Description
Hide Description
気管支喘息は咳嗽,喘鳴,呼吸困難,喀痰などの症状を認め,可逆性を示す気道狭窄と気道過敏性の亢進などの生理学的特徴を有する疾患である.現在では,気管支喘息の病態の根底には慢性の気道炎症が存在すると考えられている.以前は,その病態の本態は主にマスト細胞やTh2 細胞の抗原特異的な活性化を介した獲得免疫であると考えられ,抗原非特異的な自然免疫の働きについては未解明な部分が多かった.抗原非特異的に活性化し,強力な2 型サイトカインの産生源となる2 型自然リンパ球(ILC2)の存在が明らかになったことによって,自然免疫の応答による2 型炎症誘導のメカニズムが解明されてきた.さらに,気管支喘息治療において重要な課題として残る,ステロイド抵抗性の形成にもILC2 が関わっていることが明らかとなってきており,ILC2 の活性化の上流にある分子を抑制する治療薬も開発されている.今後,ILC2 の制御によって気管支喘息治療のさらなる発展が望まれる.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 72-77 (2024);
View Description
Hide Description
2 型自然リンパ球(ILC2)は,インターロイキン-5(IL-5)やIL-13 などの2 型サイトカインを産生することで寄生虫の駆除,アレルギー反応,組織修復,代謝などに重要な役割を果たしている.ILC2 の活性化はIL-33,IL-25,TSLP(thymic stromal lymphopoietin)などの上皮細胞由来サイトカインや脂質メディエーター,ホルモン,神経ペプチドなどの周囲微小環境に存在する内因性因子によって制御されている.近年の研究により,ILC2 は気管支喘息,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の病態形成に関与することが示唆されており,治療標的として注目されている.一方で,ILC2 が炎症後の組織修復や恒常性の維持に関与するとの報告も増加しており,ILC2 を標的とした治療法開発には注意を要する.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 78-84 (2024);
View Description
Hide Description
外来と常に接触している粘膜表面は,外来抗原による免疫応答の過剰反応を回避するため,末梢とは異なる独自の免疫応答により正と負の応答バランスを保ち,恒常性が維持されている.消化管などの粘膜組織におけるユニークな免疫反応について,近年,活発に研究が行われており,さまざまな疾患や感染時における免疫応答が明らかになってきた.これまで獲得免疫を担うT 細胞やB 細胞による細菌感染時の免疫応答について,ある程度メカニズムが明らかになってきたなかで,近年は自然免疫に分類される自然リンパ球(ILC)のさまざまな機能についても着目されている.ILC は主に呼吸器官や消化管などの粘膜組織,またはその近縁に多く存在することが知られている.粘膜組織に存在するILC は,共生細菌や病原性細菌に加え,食餌/食事由来抗原などさまざまな外来抗原に曝されており,感染防御だけではなく疾患制御などの恒常性維持を担っている.ILC が病原性細菌やこれら外来抗原に迅速に応答するだけでなく,他の免疫細胞をも調整することで粘膜防御に寄与していることも明らかになってきた.本稿では,主に細菌感染や疾患への関与における3 型自然リンパ球(ILC3)の機能に特に焦点を当て,他のILC による免疫応答も踏まえながら最近の知見を概説する.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 85-89 (2024);
View Description
Hide Description
腸管は細菌やウイルスなどの異物に恒常的に曝露されているという特徴があり,生体防御システムの最先端を担う.ヒトの腸管にはおよそ1.0×1014の細菌が存在し,有害な病原性細菌と無害な常在菌が混在している.そのため,宿主には病原性細菌を排除し,常在菌とは共生するシステムが内在している.腸管では上皮細胞と免疫細胞の協調的な免疫システムと腸内細菌のクロストークが存在し,その破綻は炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)やアレルギー疾患など,さまざまな疾患の誘導に関わる.たとえば,腸管上皮細胞の一種であるパネート細胞は,上皮幹細胞のニッチを形成することで腸管恒常性を維持するだけでなく,αディフェンシンなどの抗菌ペプチドを管腔内に分泌することで感染防御も担っている.また腸管上皮細胞と免疫細胞は,炎症性サイトカインを介して協調的に病原体の排除を担うことが示されてきた1).さらに腸管上皮細胞の管腔面には糖鎖が付加されており,糖鎖の一種であるα1,2 フコースは,腸内細菌との共生因子として機能することが報告されている2).本稿では,このような腸内細菌と腸管上皮細胞,免疫細胞の相互作用を示す具体例として,腸内細菌による3 型自然リンパ球(Group 3 innate lymphoid cell:ILC3)を介した腸管上皮細胞の糖鎖修飾,とりわけα1,2-フコースの誘導(フコシル化)と制御機構について概説する.さらに近年報告されている腸管神経系(Enteric Nervous System:ENS)とILC3 およびフコシル化の関係性についても概説し,その広範囲に及ぶ相互作用を紹介したい.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 90-93 (2024);
View Description
Hide Description
3 型自然リンパ球(ILC3)は,腸管粘膜,肺粘膜,皮膚などの粘膜組織の粘膜免疫において重要な役割を果たしている.消化・吸収と粘膜免疫は密接に関連しており,体外から栄養素を消化・吸収することと,体外からの病原体や異物に対する免疫応答は同時に行われている.このため,ILC3 は栄養素の消化・吸収においても欠かせない.消化・吸収の主要な臓器である小腸,大腸に存在するILC3 は,腸内細菌叢の調整,慢性炎症の抑制,およびインスリン抵抗性の調整において重要な役割を果たしている.さらに,ILC3 は肝臓において脂肪肝からの脂肪肝炎の発症を制御し,栄養素の代謝・貯蔵にも重要な働きをしている.
-
Source:
医学のあゆみ 288巻1号, 94-101 (2024);
View Description
Hide Description
自然リンパ球(ILC)は,腸管の粘膜免疫系において,外界と接する他の粘膜臓器と同様に重要な役割を果たすことが明らかとなってきている.ILC は腸管上皮や神経細胞などの多様な細胞間の相互作用により制御され,食物抗原,腸内細菌やその代謝産物に常時曝露されている消化管特有の環境に適合し,恒常性の維持に寄与していると考えられている.さらに,消化管の寄生虫感染防御や炎症性腸疾患(IBD)をはじめとしたさまざまな疾患におけるILC の機能が近年明らかにされている.本稿では,ILC の定常状態および病態における免疫学的機能および活性化調節機構について概説する.