Volume 289,
Issue 4,
2024
-
特集 活性酸素と酸化ストレス
-
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 237-237 (2024);
View Description
Hide Description
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 238-241 (2024);
View Description
Hide Description
酸化ストレスは“酸化物質と抗酸化物質とのバランスが崩れ,酸化還元シグナル伝達とその制御の破綻によって分子損傷が起こる現象”とされ,パーキンソン病(PD)の神経細胞死に関与する初期病態のひとつである.酸化ストレスはミトコンドリアDNA(mtDNA)の損傷によるミトコンドリア機能障害,αシヌクレイン(αS)オリゴマーの凝集促進,ドパミンの自動酸化の亢進を誘導することが示され,近年,それぞれの病態が相補的に関連することで酸化ストレスおよびドパミン神経細胞の機能障害を誘導し,PD の発症または進行につながることが判明している.今後,PD 治療において対症療法のみならずドパミン神経細胞死を予防・抑制できる治療が求められており,酸化ストレスの抑制は有効な治療戦略のひとつと考えられる.本稿では,PD の病因における酸化ストレスの役割について整理することを目的とする.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 242-245 (2024);
View Description
Hide Description
酸化ストレスはさまざまな心疾患の病態形成において重要な役割を演じている.そのためこれまで長年にわたり,その詳細な機序の解明と酸化ストレスの制御による治療法の開発を目指して数多くの基礎および臨床研究が実施されてきた.特に急性心筋梗塞で生じる心筋虚血/再灌流(I/R)障害では酸化ストレスがその病態形成に大きく寄与していることが知られている.そのため,酸化ストレスを標的とした心筋I/R 障害の治療法が模索され続けているが,これまでに臨床応用に至ったものは存在していない.心筋I/R 障害時における酸化ストレスの発生機序は多岐にわたるが,現在,その引き金の主体となっているのは,ミトコンドリアを発生源とする過剰な活性酸素(ROS)であると考えられている.そのため,ミトコンドリアROS を標的とした治療法の開発が新たに模索されている.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 246-249 (2024);
View Description
Hide Description
潰瘍性大腸炎(UC)やクローン病(CD)などの非特異的炎症性腸疾患(IBD)の病態の進展・修飾に,酸化ストレスが重要な役割を果たしていることが明らかになっている.この酸化ストレスの増大には活性酸素(ROS)などの産生亢進に加えて,種々の内因性抗酸化酵素の機能破綻が関与している.IBD 治療では顆粒球除去療法や抗酸化作用を有する薬剤などが用いられ,酸化ストレス制御は重要な治療戦略のひとつとなっており,今後も酸化ストレス制御を標的とした新規治療の開発が望まれる.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 250-252 (2024);
View Description
Hide Description
生体内ではたえず低濃度の活性酸素(ROS)が産生されているが,特に肝臓は脂肪酸代謝の際などにより多量のROS が産生されやすい臓器である.肝臓における酸化ストレスは炎症反応および細胞障害の促進につながる.酸化ストレスはB 型・C 型慢性肝炎,アルコール性肝障害(ALD),代謝関連脂肪性肝疾患(MASH),ヘモクロマトーシスなどの慢性肝疾患において,肝線維化進展あるいは肝発がんに重要な役割を果たす.肝発がんの一因としての酸化ストレスの影響が非常に大きいことは議論の余地がないが,一概に酸化ストレスといってもその根底にある病態機序は非常に複雑である.そのため,酸化ストレスを標的とした肝発がん対策を講じるうえで,それぞれの背景肝疾患や酸化ストレス増強因子の存在を把握しておくことが重要であると考える.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 253-256 (2024);
View Description
Hide Description
細胞の呼吸・代謝の過程でミトコンドリア,NADPH オキシダーゼ(NOX),一酸化窒素合成酵素(NOS)などから発生する活性酸素種(ROS)は,生理的な濃度では転写調節などを介して細胞の恒常性維持を担うが,過剰なROS が細胞障害的に作用する“酸化ストレス”は,腎臓では血管内皮,糸球体上皮,尿細管などの細胞障害や間質線維化を惹起して糖尿病性腎臓病(DKD)や糸球体硬化症,薬剤性腎症などの原因となり,急性腎障害(AKI)と慢性腎臓病(CKD)の病態進行を促進する.筆者らの開発した新規のミトコンドリア病治療薬MA-5(mitochonic acid-5)は,ミトコンドリア由来ROS(mtROS)を増加することなくミトコンドリアでのATP 産生を促進してAKI を改善する効果を示した.本稿では,腎臓病での酸化ストレス制御における最近の知見を概括する.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 257-259 (2024);
View Description
Hide Description
糖尿病は,主にインスリンによる血糖調節作用が破綻し,高血糖が持続する病態である.糖尿病は脳梗塞や心筋梗塞の強力なリスクファクターであると同時に,細小血管を傷害し,失明,透析,壊疽などの主要な原因疾患である.また,世界的にみても患者数は増加の一途をたどっており,その克服は重要な医学的課題である.高血糖はミトコンドリアにおける電子伝達系を活性化し,活性酸素を産生させることによりさまざまな組織において酸化ストレスを惹起する.膵β細胞においてはインスリン分泌を障害し,脂肪組織や骨格筋などの糖取り込み臓器においてはインスリン抵抗性を誘導する.また,血管内皮細胞や網膜細胞では糖尿病細小血管障害や大血管障害に寄与する.一方,抗酸化物質を全身投与する臨床試験は有効性が示されておらず,細胞内酸化ストレスを効率的に除去する新たな手法の開発が望まれている.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 260-262 (2024);
View Description
Hide Description
自閉スペクトラム症(ASD)は,社会的コミュニケーションの障害,限局された興味と行動,知覚過敏・鈍麻を臨床的特徴とする神経発達症のひとつである.近年のASD 研究では,酸化ストレスあるいはその変化を示唆するエネルギー代謝の所見が提示され,臨床応用が検討されてきた.これまでの研究成果によれば,ASD における酸化ストレスの予防と治療は,ASD の発症と児の健康リスクの予防に有効な可能性がある.しかし,ASD の神経基盤は大部分が未解明であり,ASD と酸化ストレスの関連を問うアプローチによるメカニズムの解明は,まだ緒に就いたばかりである.ASD における酸化ストレスを標的とした介入研究は,ASD の生物学的メカニズムの解明や診療手段の開発において,今後も重要な位置を占めるものと推測される.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 263-266 (2024);
View Description
Hide Description
がんと酸化ストレスの領域ではフェロトーシス(ferroptosis)が大きな話題となっている.がん医療はこの10 年で大幅に進展し,ゲノム解析の結果が臨床に反映されるようになった.しかし,これでがんを完全に制圧できるかというとそうはなっておらず,1981 年以来,日本のがん死亡率は今も増え続けている.科学に基づいたがん予防を真剣に考えるべき時期にきている.筆者は,がんは長年にわたり鉄と酸素を使用した副作用の要素が強いと考えている.地球上に鉄なしで生存できる独立した生命体は存在しない.鉄欠乏は貧血をきたすが,逆に鉄過剰はゲノムに変異を起こす土壌となり,発がんのリスクとなる.フェロトーシスは2012年に考案された用語で,“鉄依存性の制御性壊死で脂質過酸化を伴うもの”と定義されている.鉄はDNA の複製に必須であるため,がん細胞は多量の鉄を必要とする.発がんは,ゲノムの変異を通じてフェロトーシス抵抗性を獲得する過程と理解されるようになってきた.このことは逆に,鍵となる分子を薬剤で攻撃できれば,がん細胞特異的にフェロトーシスを起こすことができることを意味する.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 267-270 (2024);
View Description
Hide Description
細胞内のシグナル伝達や代謝に関わる分子はレドックス感受性が高く,酸化修飾を受けやすい.そのため,微量の活性酸素種(ROS)はこうした細胞機能の制御に利用されるが,過剰となった場合には細胞の機能障害をもたらす.トリカルボン酸回路を構成するアコニターゼの鉄-イオウ[Fe-S]クラスターはROS 感受性が高く,容易に不活性化されて代謝リモデリングが起こり,増加したクエン酸による脂肪酸合成が亢進する.この時,エネルギー代謝系は糖質からアミノ酸の利用にシフトする.分泌タンパク質の酸化的折り畳みを行う小胞体が酸化ストレスに曝されると,異常タンパク質が蓄積し,小胞体ストレス状態となる.その結果,脂質合成関連遺伝子の発現誘導を担うステロール調節領域結合タンパク(SREBP)が活性化し,脂質合成を亢進させる.酸化ストレス状態の肝臓では,脂肪合成の亢進とvery low density lipoprotein(VLDL)の分泌障害が起こり,脂肪性肝疾患の原因となる可能性がある.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 271-274 (2024);
View Description
Hide Description
放射線は分子から電子を弾きだす(電離する)ことができる.電離された分子は電子を失うので強制的に酸化された状態になる.放射線は水分子を電離あるいは励起し,水分子を分解して活性酸素(ROS)あるいはフリーラジカルとして知られるいくつかの活性種を生成し,これらの活性種が他の分子を酸化する.放射線が生体に作用する際,放射線が細胞内の機能分子を直接電離することにより分子機能が障害されることを直接作用,水の放射線分解を介して生じた活性種が機能分子と反応して障害することを間接作用という.放射線が水を分解して生じる活性種の局所分布は均一ではなく,放射線の軌跡上にmM~M という比較的高い局所濃度で生じる.生体内の比較的低酸素の環境で生じた高濃度過酸化水素(H2O2)は高い酸化力を持ち,放射線が生体に与える酸化ストレスに深く関わっている可能性が憂慮される.放射線障害は,放射線がトリガーとなって引き起こされる酸化ストレスの結果ということができる.
-
TOPICS
-
-
免疫学
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 275-276 (2024);
View Description
Hide Description
-
疫学
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 277-278 (2024);
View Description
Hide Description
-
連載
-
-
臨床医のための微生物学講座 10
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 279-283 (2024);
View Description
Hide Description
◎糸状真菌であるアスペルギルス属は,植物,土,および塵埃などに生息している.空気中に胞子が浮遊する環境真菌であり,ヒトは胞子を日々吸入している.Aspergillus fumigatus,A. niger,A. terreus,A. flavus,A. nidulans,A. versicolor などの特定の種がヒトに病原性を示す.一般的な方法では同定できない隠蔽種には,低い薬剤感受性を示す菌種が存在する.隠蔽種には,A. fumigatus complex(A. lentulus,A. udagawae,A. viridinutans,A. felis,A. fischeri,A. thermomutatus)や,A. niger complex(A. welwitschiae,A. tubingensis)が報告されている.アゾール系抗真菌薬に耐性を示すA. fumigatus も懸念されている.アゾール系抗真菌薬で長期治療中の慢性肺アスペルギルス症患者が培養陽性の場合は,薬剤感受性試験の実施が望ましい.さらに輸入農産物を介して耐性株が日本に流入しており,今後のアゾール耐性株の増加も懸念されている.薬剤感受性試験は一般的な微生物検査室では行われておらず,臨床的に薬剤耐性を疑う場合は,遺伝子学的同定や薬剤感受性試験が可能な研究施設に相談する.
-
緩和医療のアップデート 5
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 284-289 (2024);
View Description
Hide Description
◎皮膚トラブルによる苦痛は患者にとって時に大きな問題となる.特に終末期では皮膚においても恒常性の維持が難しく問題が発生しやすい.今回は皮膚の諸問題のなかから発汗,かゆみ,褥瘡・潰瘍性腫瘍(腫瘤)について取り上げる.発汗については,環境調整によるケアが重要である.発汗が精神的な苦痛になっていることもあり,その場合は抗不安薬などで対応することもある.かゆみについては皮膚の乾燥に対するアセスメントとケアを最初に行う.対症療法としては薬剤による局所療法と全身療法がある.褥瘡については,全身状態によっては改善が難しい場合もあり総合的な判断と患者家族のQOL を重視した対応が望まれる.ケアを含めた介入がかえってがん患者の苦痛につながる可能性についても考慮する.潰瘍性腫瘍(腫瘤)については滲出液や出血,臭気などの問題に対応することのほかに,アピアランスケアも重要である.がん患者においては皮膚の問題を根本的に解決することが難しい場合もあり,対症療法が中心となることも多い.また薬物療法だけでなくケアの比重も大きい.同時に治療やケアに際し負担がないことも重要である.いずれにしても全人的で総合的な判断が求められる点に留意して対応する.
-
FORUM
-
-
日本型セルフケアへのあゆみ 23
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 290-295 (2024);
View Description
Hide Description
人生において,元気でいることは誰にとっても大事なことである.自分の健康と病気に関わることは正確に知りたい.さまざまな薬や治療法があるなら,自分の希望で決めたい.そうした願いをもとに,大きな転換がはじまろうとしている.インターネットの普及により,医薬品・健康食品・病院に関する情報に誰でも容易にアクセスできるようになったが,正確性に欠けた情報も溢れかえっている.本シリーズでは,地に足をつけた“日本型セルフケア” へのあゆみを提唱していく.
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 296-300 (2024);
View Description
Hide Description
◎本シリーズでは,医療者であり,建築学を経て病院建築のしくみつくりを研究する著者が,病院建築に携わる建築設計者へのインタビューを通じて,医療者と病院建築のかかわりについて考察していきます.
-
死を看取る ─ 死因究明の場にて 11
-
Source:
医学のあゆみ 289巻4号, 301-304 (2024);
View Description
Hide Description
死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する.