医学のあゆみ

Volume 290, Issue 1, 2024
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【7月第1土曜特集】 “かたちづくり”を制御する分子メカニズム
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- 形態形成の分子メカニズム
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多能性幹細胞を用いた初期ヒト胚モデルの構築
290巻1号(2024);View Description
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ヒトの胚発生は受精卵という1 つの細胞からはじまり,細胞分裂や分化を繰り返しながら数十兆個もの細胞で構成された個体を形作る.その間,細胞同士は互いにコミュニケーションを取りながら協調的に発生し,体の向きや複合的な組織および臓器を形成していく.この複雑なメカニズムを解き明かすことは,ヒトの胚発生の理解を深めるだけでなく,胚発生を部分的に再現し,目的の細胞や臓器の作出を目指す再生医療の発展にも役立つ.しかし,ヒト胚は生命の萌芽であることから生命倫理的な制約があり,ヒト胚を用いた研究は困難である.特に着床直後の子宮内胚を観察することはほぼ不可能であり,この時期のヒト胚発生はブラックボックスである.近年,ヒト多能性幹細胞から初期胚様の構造を再現する三次元ヒト胚モデルが報告され,初期ヒト胚発生を研究するためのツールとして注目を集めている.本稿では,ヒト胚モデルに関連した最新の知見を概説するとともに,筆者らの研究内容について紹介したい. -
内臓の左右軸を決定する左側特異的カルシウムシグナル創成のメカニズム
290巻1号(2024);View Description
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医学部で人体解剖をはじめてやる学生がまず驚くことは,腹部内臓と胸部内臓はこれほど左右非対称に腹腔ならびに胸腔に収まっているのに,なぜ体表はほぼ対称にできあがるのかということである.この疑問に確たる答えはまだ出ていないが,なぜ左右軸が決定するかについてはこの25 年でかなり知見が深まってきた.本稿ではそれについて,最新の細胞外小胞生物学の観点から概説する.これまでに筆者らは,初期体節期のマウス胚腹側正中部のくぼみである腹側ノードにおいて,細胞表面の一次線毛が後傾しつつ時計回りに回転することで左向きのノード流を生じ,左右対称性を破るという“ノード流仮説”を提唱した.今回,その読み出し機構について,ノックインマウスを用いた研究から明らかとした.ノード流がカルシウムチャネルであるポリシスチンを含むサイトネームや細胞外マトリックス(ECM)を左に吹き流し,これが腹側ノード左縁でNodal に反応して左側特異的なカルシウム上昇をもたらすという“ポリシスチン移送仮説”を提唱したので,ここに紹介する. -
アクトミオシンによる形態恒常性の維持機構
290巻1号(2024);View Description
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われわれの体の中の組織や器官は複雑な形態を持ち,各器官の機能に最適な形が見事に作られている.それらの形は発生過程で細胞集団が作り出しているが,細胞たちはまるで誰かに指示されているかのように自らの形を変えながら決まった方向に動き,組織や器官の最終形を組み上げていく.どのような指令で,何が細胞を動かすのか.なぜその形態は崩されることなく最終形へたどり着き,また維持されるのか.発生生物学分野ではこのような疑問を解くべく,さまざまなモデル動物を用いた研究が行われてきた.本稿では,発生過程で細胞骨格とモータータンパク質の複合体であるアクトミオシンの細胞駆動力が関わる形態形成,形態恒常性,形態修復についてモデル動物を用いた研究を紹介する.成体では器官の機能を制御するシステムが,発生過程では形を制御することに使われている例もあげ,胚と成体の不思議なつながりについても述べる. -
モルフォゲン研究からみえてきた発生ロバストネスの分子基盤
290巻1号(2024);View Description
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20 世紀後半からの分子生物学・モデル生物解析の爆発的な発展によって,多細胞生物の発生・再生プログラムの大要が明らかにされた.発生・再生における細胞の増殖,分化,移動の全体像,それらを制御する細胞内・細胞間シグナル,遺伝子発現制御の詳細の多くの部分がすでに明らかにされている.しかし一方で,発生・再生システムの高度な再現性や頑強性(ロバストネス)を支える仕組みについてはあまり理解が進んでいない.温度変化や放射線などの環境ストレスや発生・再生中の組織で起こる活発な細胞分裂や細胞運動は,複製エラー,突然変異,シグナル・遺伝子発現の乱れなど,さまざまなエラーを引き起こすと推測されるが,これらのエラーをどのように乗り越えて再現性の高い発生・再生が実現されるのかはよくわかっていない.筆者らは最近,モルフォゲンに注目した研究から,細胞競合や遺伝的補償を介した発生ロバストネスのメカニズムを見出すことに成功した.本稿では,これら最新の成果を紹介させていただきたい. -
形態形成におけるメカニカルな力の役割
290巻1号(2024);View Description
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多細胞生物の形態形成において,メカニカルな力が密接に関わっていると考えられている.細胞や組織の変形に加えて,細胞の分化状態にも力が関わることが明らかになってきた.本稿では,いくつかの例をあげながら形態形成における力の役割について紹介する.また,直接目に見ることができない力がどのように発揮され,作用するかについて考えてみる.さらに組織の詳細な観察に加え,力の働き方を理解するためのアプローチとしてメカノセンサーの機能からのアプローチや数理シミュレーションを使った手法を紹介し,それぞれの課題や将来性について議論する. - 形態形成と多細胞動態
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流体可視化解析から読み解く両側性ボディプラン
290巻1号(2024);View Description
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レオナルド・ダ・ヴィンチの描いた「ウィトルウィウス的人体図」1)が示すように,ヒトをはじめとした羊膜類(主に鳥類,哺乳類)の身体は,正中線に沿った左右対称的外見を示す.この形態的両側性は,正中線に沿って伸長する胚性構造物(例:脊索,原始線条)が,胚子域を左右に区画化することによってはじまる.原腸形成期,原始線条の形態形成とともに,胚体内でダイナミックな細胞流動が起こる.近年,筆者らは鳥類胚(「サイドメモ1」参照)をモデルに,分子操作による原始線条形成パターンの操作と高解像度ライブイメージング,さらに流体可視化・解析技術である粒子画像流速測定法(PIV,「サイドメモ2」参照)を用いることによって,原始線条の形態形成と細胞流動との新たな関係性を見出した2).本稿では,細胞流動を可視化定量解析するためのツールとしてのPIV の紹介と,解析の一例として,このデータについて紹介したい. -
血管新生における血流による物理的力の役割
290巻1号(2024);View Description
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体のかたちと物理的な力の関わりは,古くて新しいテーマである.血管は血流に曝されている.血流に起因する力が血管の生理機能および病態と密接に関連していることは,古くから生理学者が着目していたことであり,現代ではいわば常識である.しかし,血管が力をどのように感知し,それに反応して,血管の機能変化につなげるかは,未知な部分が多い.本稿では,血管網を新たに形成する現象である血管新生に着目し,この古くからの問題を,現在の新しい視点・技術を通してどのように解決しうるか,筆者の関わった研究の一例を紹介しながら考察する. -
筋腱相互作用による骨格筋形態形成
290巻1号(2024);View Description
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脊椎動物の全身には数百にも及ぶ筋-腱-骨の機能ユニットが存在し,複雑な身体運動を実現している.多様な身体運動を実現するには,さまざまなサイズ・形の筋-腱-骨が正確な位置で結合していることが不可欠であるが,これらの異なる組織が再現よく結合・形態形成するメカニズムの理解は不十分である.特に四肢の形成において,骨格筋は体節,腱は側板中胚葉というまったく異なる発生起源を持つため,発生過程でそれぞれが機能する位置に移動したうえで正しいパートナーと結合する必要がある.数多くの骨格筋と腱が正しい組み合わせで結合するためには相互の誘導が必要であると考えられるが,腱から骨格筋への誘導的な作用の存在は明らかではなかった.筆者らは,発生中の胚で腱細胞に細胞死を誘導するマウスモデルを作製し,このマウスで骨格筋の形態が異常となることを見出した.この発見から,哺乳類において骨格筋の形態形成に腱細胞からの作用が存在することが示唆される.本稿では,近年の骨格筋・腱分野の新たな知見に触れつつ,骨格筋の形態形成における腱および関連する肢芽間葉細胞群の役割について紹介したい. -
血管による臓器の形態形成メカニズム
290巻1号(2024);View Description
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全身を張りめぐらす血管は,単に血液を運搬する“管”ではなく,多様な機能を有し,さまざまな生命現象を積極的に制御している.血管を構成する血管内皮細胞は,アンジオクラインファクターとよばれるシグナル伝達分子を産生し,臓器の形成・維持,組織修復など多様な機能を制御する一方で,がんや線維症などの疾患の病態にも関与することが明らかになりつつある.筆者らは最近,血管内皮細胞は自らが持つ細胞機能を活用し,肺胞や糸球体の形態形成を制御していることを明らかにした.肺胞を構成する血管内皮細胞は,Rap1 低分子量G タンパク質を介してインテグリンを活性化し,Ⅳ型コラーゲンを集積することで,基底膜を形成すること,そして,この基底膜が筋線維芽細胞の足場となり,筋線維芽細胞による肺胞形成を促進していることを明らかにした.また,ゼブラフィッシュの前腎糸球体の形成プロセスを解析し,血管内皮細胞は血液濾過機能を介して,糸球体原基のリモデリングを誘導し,糸球体形成を積極的に制御していることを発見した. - 形態形成の理論と進化
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データ駆動型アプローチによる器官形態形成研究─組織変形動態の定量解析を起点に形態形成則の解明を目指して
290巻1号(2024);View Description
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器官形態形成過程の仕組みを理解するための研究アプローチには,研究者の興味や専門に依存して複数存在する.ここでは,筆者らが行っているデータ駆動型研究を紹介する.特に形態形成過程の物理的記述である組織変形動態を,ライブイメージングデータから定量し,その情報を起点に形態形成則の解明に迫る.組織変形やその定量について簡単に触れた後,具体的な研究例として,脊椎動物の前脳初期発生がソニック・ヘッジホッグ(SHH)シグナル依存的な細胞力覚を通じた細胞極性動態によって駆動されること,また,細胞力覚の喪失が先天性奇形のひとつである単眼症の物理的発症機構となることを紹介する.さらに,脊椎動物の四肢発生過程を例に,組織変形動態を定量的に種間比較する数理的解析手法を提案・応用し,四肢の基本的な構造ができるまでの発生ステージにおいて,組織動態が種を超えて高度に保存されていることをみる. -
細胞集団運動・組織形成とトポロジー
290巻1号(2024);View Description
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多細胞生物の組織や器官は,細胞集団が織りなす複雑な相互作用によって形成される.細胞の配列や運動は,組織の構造と機能を決定づける重要な要素であるが,近年,その構造と運動の関係に注目する物理学の分野として,アクティブマター物理とよばれる領域が発展してきている.特に哺乳類細胞ではネマチック秩序とよばれるパターンがよくみられ,さらにその中にあるトポロジカル欠陥という幾何学的構造が,細胞集団運動にも影響を及ぼすことが明らかになってきた.本稿では,神経幹細胞の培養系における細胞配列パターンとダイナミクスを紹介し,さらに組織形成におけるトポロジーの役割について,これまでに調べられている例を概観する. -
血管構造構築の数理モデリング
290巻1号(2024);View Description
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血管新生は,発芽と分岐により既存の血管から新しい血管を伸長する形態形成過程である.血管新生において,新しく生じた血管の伸長方向ではその先端付近に位置する内皮細胞が次々と入れ替わり,非常に複雑な運動(セルミキシング)を行うことが知られている.しかし,その背後にある原理はまだ明らかになっていない.近年,二次元系におけるin vitro とin silico による手法を用いて,細胞接触により亢進される協調的な直線運動および回転運動が血管伸長に寄与する要因であることが特定された.特に,接着分子であるvascular endothelia(l VE)-カドヘリンが内皮細胞の運動および血管の発芽・伸長に影響を与えることが示された.さらに,内皮細胞を平面上の楕円で近似したモデルにVE-カドヘリンの効果を取り入れた数理モデルが提案され,VE-カドヘリンの影響を伴う血管形態形成およびセルミキシングが再現された. -
生命のかたちを捉えるデータ解析─トポロジカルデータ解析
290巻1号(2024);View Description
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医学・生命科学データ解析分野では,新たな技術の開発により目的に応じたデータ解析を可能にする.特にデータから“かたち”の情報を得るというテーマについて,近年のトポロジカルデータ解析(TDA)の発展に伴い,可能な解析が広がってきている.本稿では,異なるスケールで生成・消滅するデータの位相的性質を統合して記録する,パーシステントホモロジー(PH)とよばれる手法に焦点をあてて解説し,さらにPH が実際の医学・生命科学データにうまく適用された具体例を基礎・臨床の多様な対象を取り上げて説明する.また,利用可能な計算ツールについてもいくつか紹介する. -
口唇口蓋裂に表れる進化の足跡
290巻1号(2024);View Description
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脊椎動物の顎顔面は,頭部神経堤細胞を含む複数の顔面隆起の伸長と結合によって形作られる.こうした顔面隆起同士の結合不全によって生じる先天性疾患が口唇口蓋裂である.さまざまな動物で口唇口蓋裂は現れるが,ヒトにおいては裂目の正中に切歯骨とよばれる成分が現れるのに対して,マウスでは裂目の外側にもっぱら切歯骨が現れることが知られているなど,顔面隆起と解剖学的構造との対応関係が曖昧なまま放置されてきた.近年の進化発生学研究は,哺乳類の切歯骨が一次口蓋部と側方部の2 つの骨要素に由来し,それぞれ異なる顔面隆起に由来することを示している.また同時に,哺乳類以外の動物では内側鼻隆起と上顎隆起とで複合的に構成される上顎が,哺乳類では一次口蓋を除きもっぱら上顎隆起のみから生じることがわかってきた.こうした進化研究は上記の矛盾を合理的に説明するほか,口唇口蓋裂の臨床研究におけるモデル動物選択の幅も広げるであろう. -
フェレットを用いた大脳の形態形成と進化の研究
290巻1号(2024);View Description
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ヒトに至る進化の歴史のなかで大脳は著しく発達してきた.大脳は巨大化するとともに多様な脳構築を獲得しており,これらの変化は高次脳機能の基盤となったと考えられている.しかし,発達した大脳の形成や進化,およびそれに関する疾患病態の分子メカニズムにはいまだに不明な点が多い.その理由として,分子生物学的研究に多く用いられているマウスの大脳は比較的小さく,マウスだけではこのような研究が困難である点があげられる.そこで筆者らは,ヒト大脳に類似した特徴のある食肉類哺乳動物フェレットの大脳に着目し,フェレット大脳での遺伝子操作技術を確立し,フェレットを用いて大脳の形成や進化の分子メカニズムを報告してきた.本稿では,フェレットを用いて明らかになってきた大脳の形成と進化に関する最近の研究成果を紹介したい. - 形態形成と病態・疾患
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顎顔面形成の分子機構とヒト先天性疾患─神経堤の発生分化を中心に
290巻1号(2024);View Description
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頭部顔面の構造は,多様な起源を持つさまざまな細胞群が相互作用し,体軸に沿って個々の領域性を獲得しながら増殖,分化,細胞死などを経て形成される.この極めて複雑な過程において,中心的な役割を果たすのが神経堤細胞とよばれる特徴的な細胞集団である.その発生分化の異常は,それぞれは希少ながら極めて多くの先天性疾患の原因となり,これまで多くの原因あるいはその候補遺伝子が同定されている.本稿では神経堤細胞を中心に顎顔面の形態形成について概説した後,膨大な疾患のごく一部ではあるが,その分子機構が比較的明らかにされてきた疾患を中心に解説する.個々の疾患と関連遺伝子からそのつながりをイメージすることで,顎顔面形成の全体像を思い描いていただけると幸いである. -
心室と大血管の連絡関係を支える分子機構
290巻1号(2024);View Description
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先天性心疾患は,最も頻度の高い先天性の形態異常である.そのなかでも,左右の心室から大動脈と肺動脈(大血管)への連絡関係に異常をきたした複雑先天性心疾患は,医療の進歩により現在では95%以上の患者が成人に達することができるようになった.しかし,加齢に伴い多くの患者が心不全を引き起こすことが近年明らかとなっている.さらなる予後改善を目指すうえで,心室と大血管の連絡関係を規定する発生生物学的な分子病態の理解は重要である.この連絡関係の構築には,心臓の発生における以下の2 つの過程が鍵となっている:①流出路が両心室双方へと連絡するために必要な,流出路への入口である流出路円錐部の筋性部心室中隔への騎乗,および,②心臓流出路を肺動脈幹と大動脈幹へと分離する流出路中隔の螺旋状の形成.これらの過程には,第2 心臓領域(SHF)とよばれる心臓前駆細胞(CPCs)集団と心臓神経堤細胞(cNCCs)の双方の機能的正常性が必要であり,これを攪乱する分子異常は両大血管右室起始症(DORV),大血管転位症(TGA),総動脈幹遺残症(PTA)などを引き起こす可能性がある. -
造血系と形態形成
290巻1号(2024);View Description
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哺乳類の胚発生において,造血は卵黄囊における全身性なものとAGM(aorta-gonad-mesonephros)領域や心内膜における局所なものが知られている.大動脈や心臓における造血性内皮細胞は,内皮造血転換(EHT)により血球に分化する.造血性心内膜細胞は他の造血器官よりもマクロファージに分化する傾向が強く,転写因子Nkx2-5 とその下流のNotch シグナルの活性化,およびDhrs3 発現によるレチノイン酸シグナルの抑制による制御を受ける.似たようなマクロファージ優位性と分子制御は,ショウジョウバエ胚の造血でも知られている.さらに遺伝子欠損マウスの解析から,心内膜由来のマクロファージは心内膜床から弁への組織リモデリングに必須の役割を持つことが明らかとなった.このことから,胎生期の局所造血は臓器形成に寄与すること,そして臓器形成における造血の役割は,種間で保存された起源の古い胚発生プログラムであることが示唆される. -
臓器形成と代謝─シグナル分子として代謝産物
290巻1号(2024);View Description
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代謝は,エネルギー基質の異化作用,細胞構築に必要な中間代謝産物を供給する同化作用があるが,近年,生体分子シグナルの修飾という第3 の役割に注目が集まっている.代謝産物の形態形成への関与は古くから指摘され,ビタミンB 群の葉酸は神経管閉鎖への関与,ビタミンA の活性型であるレチノイン酸(RA)はその欠乏・過剰の双方が個体発生に影響を与えることはよく知られている.RA シグナルは心臓発生において流出路形成,心室壁形成,冠動脈形成などさまざまな時期・部位で影響を与える.糖代謝異常についても,心奇形発症のメカニズムに関する新たな知見が増えた.高血糖下の胎仔心臓では,特に前方の心臓前駆細胞群でRA 経路の亢進による後方化が生じることがわかった.また,母体糖尿病環境下での胎児臓器の網羅的代謝解析も報告された.本稿では代謝と臓器形成,主に心臓の発生に関わる古今の報告を紹介する. -
上皮幹細胞-細胞外マトリックス相互作用
290巻1号(2024);View Description
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上皮細胞の基底膜への結合は上皮細胞が生存するための必須条件である.培養細胞株を用いた研究により,上皮細胞と基底膜を含む細胞外マトリックスとの相互作用(上皮細胞-細胞外マトリックス相互作用)が上皮細胞の生存,増殖,遊走などの機能創出を制御していることが明らかになってきた.近年,上皮幹細胞を永続的に培養する上皮オルガノイド培養技術が開発された.この技術によって,上皮幹細胞に主眼を置いた研究が可能になり,上皮幹細胞-細胞外マトリックス相互作用による上皮幹細胞の機能創出制御機構がみえてきた.本稿では,上皮オルガノイド研究により明らかになった上皮幹細胞-細胞外マトリックス相互作用による幹細胞の性質維持制御機構を紹介する.また,この上皮幹細胞の機能制御機構を利用した上皮オルガノイド移植による再生医療応用への可能性について考えたい.さらに,上皮がん幹細胞-細胞外マトリックス相互作用による増殖制御機構を紹介し,がん治療への応用についても考えたい. -
神経オルガノイドによってみえてくるヒト脳組織の形態形成および病態再現
290巻1号(2024);View Description
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近年の幹細胞研究の著しい進歩によって,臓器のような組織を三次元で作製することが実験レベルで可能となってきており,そのような組織をオルガノイドとよぶ.筆者らはこれまでに無血清凝集浮遊培養法(SFEBq)という分化誘導法を用いて,世界に先駆けてヒト胚性幹細胞(ES 細胞)由来の大脳皮質,海馬,脈絡叢,脊髄オルガノイドの分化誘導を達成してきた.これは生体と同じような構造を有した三次元組織として,ヒト由来の神経組織を提供できる画期的な技術であり,将来的にはヒト生物学の基礎研究だけでなく,疾患モデリング,創薬スクリーニング,再生医療などの応用研究にも寄与するものと考えられる.本稿では神経オルガノイドで観察可能となる,神経領域での“かたちづくり”の現象を中心に紹介し,そこから実現可能となる疾患研究もあわせて紹介する.
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