Volume 290,
Issue 3,
2024
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特集 気候変動と医療
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医学のあゆみ 290巻3号, 209-209 (2024);
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医学のあゆみ 290巻3号, 211-216 (2024);
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夏期(6~8 月)平均気温をみると,わが国では100 年あたり1.25℃の割合で上昇している.なかでも2023年は世界で最も暑い年として記録され,わが国も例外ではなかった.このような夏期の気温上昇に伴い,わが国では健康被害が深刻となっており,そのひとつに熱中症をあげることができる.具体的には,熱中症救急搬送数が毎年65,000 件以上,また死亡者数が1,000 人以上発生している.年齢構成をみると,熱中症救急搬送数の約55%を,死亡者の約85%を高齢者が占める.わが国では超高齢社会を迎えており,今後,高齢者の熱中症による健康被害の増大が懸念されるとともに,気候変動による気温上昇がその増大に拍車を掛けることが危惧される.熱中症リスクの低減に向けて,熱中症特別警戒アラートの導入や指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)の整備,地域気候変動適応計画の策定など,さまざまな適応策に関する取り組みが政府や地方公共団体により実施されている.また,熱中症リスク低減に向けた研究も精力的に実施されており,熱中症に対するレジリエンス向上に貢献することが期待される.
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医学のあゆみ 290巻3号, 217-222 (2024);
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近年,世界各地の熱帯地域で蚊媒介感染症であるデング熱が流行傾向にある.気候変動による媒介蚊の分布域拡大はいくつか挙げられる重要なファクターのうちのひとつと考えられる.国土の大半が温帯に属する日本においてもデング熱の問題は対岸の火事ではない.コロナ禍後の国際交流の活発化とともにデングウイルスをはじめとして蚊媒介感染症の病原ウイルスが国内に持ち込まれるリスクは高まっている.それに加えて温暖化により媒介蚊ヒトスジシマカの活動期間は長くなり,分布可能なエリアも拡大している.一方,日本に分布しないネッタイシマカが航空機に紛れて持ち込まれ,頻繁に空港内で捕獲されるようになっている.ネッタイシマカが越冬可能なエリアも温暖化とともに北上し,侵入後に次世代を残し,定着するリスクが高まっている.デング熱に限らず,気候変動により蚊やその他の節足動物によって媒介される感染症の発生リスクは年々高まっている.
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医学のあゆみ 290巻3号, 223-227 (2024);
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2022 年に開催された第50 回日本救急医学会総会・学術集会にヒントを得て,その手法をまねて気候変動によって予想される将来を描き(forecast),そこから振り返って今できることを洞察し(foresight),対応策を練ることは有用である.救急医の基本的な能力である現場からの病院前救急の充実,応急処置による緊急度の低減,重症例への初期治療による蘇生に加え,気候変動によって起こる5 つのトレンド(飢餓,貧困,激甚化する風水害,新規感染症の発生,気温の上昇)に対し,的確に外傷初期診療,災害医療,感染症予防と拡大防止,熱中症対策などを推進できる救急医を増やし,育てることが喫緊の課題である.さらに病院前救急との協力,他専門科・他医療職との連携強化,救急医療施策における行政との対話,そして救急医の働き方改革を並行して推進することが今の救急医療に求められている.
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医学のあゆみ 290巻3号, 228-231 (2024);
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気候変動は大気汚染と密接に関わっており,複数の経路から相互に影響を与え,結果的に大気汚染曝露に関連する疾患を増加させる可能性がある.まず,気候変動に伴う降雨パターンの変化,気温の上昇によりもたらされる森林火災の増加や砂漠化は,火災由来の煙に含まれる大気汚染物質や砂漠粒子などの広域型大気汚染を増やし,呼吸器疾患,循環器疾患を増やす可能性がある.また,気温の上昇は大気汚染の健康影響を増強させることが近年報告されている.一方,気候変動の緩和策のひとつとして,黒色炭素粒子(ブラックカーボン)やオゾンを含む短寿命気候強制因子(SLCFs)を削減することにより,大気汚染による健康影響も減らす共便益(Co-benefit)をもたらすことが期待されている.日本では気候変動の緩和策とともに,大気汚染と暑熱との複合影響を考慮した対策が必要になる.
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医学のあゆみ 290巻3号, 232-236 (2024);
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医療界でも“気候危機は健康危機である”という認識が広まりつつあるなか,具体的な行動に移せている医療従事者は少ない.医療従事者ができる気候変動対策として,①ヘルスケアからの温室効果ガス(GHG)の排出量を削減していく緩和策と,②気候変動で引き起こされるあらゆる健康影響に備える適応策の2 つに大別される.これらは普段行っている日常診療の延長線上で実施できるものも多く,将来の世代のためにも明日から行動に移していく必要がある.
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医学のあゆみ 290巻3号, 237-242 (2024);
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日本の医療,保健,介護を含むヘルスケアセクターは温室効果ガス(GHG)排出量の主要な排出要因である.カーボンニュートラル社会に向けたヘルスケアの脱炭素化は国際的な政策課題となり,ATACH(Alliance for Transformative Action on Climate and Health)に加盟した日本のリーダーシップが期待される.気候変動に影響を与えない医療サービスへの転換には,再生可能エネルギー起源の電力使用,電気自動車の利用,麻酔ガスの代替,空調・調理器具の電化による化石燃料の削減に加え,医薬品と施設建設の脱炭素化を必要とする.脱炭素医薬品などの需要を生み出すことが鍵となるが,“特効薬”があるわけではない.各医療機関のカーボンフットプリントを開示し,医療従事者や施設の“気候変動に与える影響”の見える化によって,脱炭素製品や技術のニーズを顕在化することが第一歩となる.
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TOPICS
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疫学
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医学のあゆみ 290巻3号, 243-244 (2024);
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医用工学・医療情報学
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医学のあゆみ 290巻3号, 245-246 (2024);
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連載
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臨床医のための微生物学講座 18
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医学のあゆみ 290巻3号, 247-252 (2024);
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◎ウイルス性出血熱(VHF)は特定のRNA ウイルス(フィロウイルス科,アレナウイルス科,フェヌイウイルス科,ハンタウイルス科,フラビウイルス科に分類されるウイルスの一部)を病原体とする急性の発熱性疾患群である.デング出血熱を除き動物由来感染症であり,病原体の宿主の生息地により疾患の地理的分布がおおよそ規定されている.致命率が高く,ヒトからヒトに直接伝播する疾患が含まれ,なかでもラッサ熱,南米出血熱,エボラ出血熱,マールブルグ病,クリミア・コンゴ出血熱は,感染症法により1 類感染症に指定されている.◎共通した病態生理学的特徴として,血管障害と凝固障害をあげることができる.血管障害の一部である血漿漏出はショックや肺水腫,胸腹水の原因となる.また,播種性血管内凝固による出血傾向は出血熱という名称の由来ともなっているが,死因となるような大量出血はまれである.治療は臓器不全期における輸液などの全身管理が中心となる.近年ではエボラ出血熱に対して有効な中和抗体薬やワクチンが欧米で承認され,これ以外の疾患に対しても医薬品の開発が進められている.
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緩和医療のアップデート 13
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医学のあゆみ 290巻3号, 253-258 (2024);
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◎進行がん患者ではがん悪液質の影響で食欲が低下し食事摂取が減少することはめずらしくない.その原因として全身性炎症から発生するさまざまな食に影響する症状(NIS)があり,また,その結果として患者のみならず家族にも食に関する苦悩(ERD)が生じる.がん医療の一環である緩和ケアでは,常に食事摂取とNIS とERD に目を光らせ,看過することなく察知し,適切な時期に的確なケアを患者とともに家族にも提供することが求められ,がん悪液質で苦しむ患者と家族と同じ目線でそれぞれの生活の安定を追求する必要がある.本稿では,進行がん患者の食事摂取とNIS と患者と家族のERD のアセスメントとマネジメントについて最新の知見をまとめて報告する.
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自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪 5
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医学のあゆみ 290巻3号, 259-264 (2024);
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Toll 受容体はショウジョウバエを用いた発生のパターン形成に関わる遺伝子として同定された.その後,Toll 活性化経路が自然免疫の主要な応答を担うことがわかり,さらにToll と分子全体にわたって相同性のある分子として哺乳類TLR(Toll-like receptor)が同定された.TLR は病原体関連分子パターン(PAMPs)のみならず,自己からのダメージ関連分子パターン(DAMPs)を直接認識する.一方,Toll は病原体関連分子パターンを直接認識することはなく,感染によってタンパク質分解カスケードが発動し,Toll リガンドであるproSpätzle(proSpz)を切断・成熟させる.このようなタンパク質分解カスケード依存的な仕組みは補体の活性化に類似している.Toll は感染によらない創傷や細胞壊死が生じる際にも活性化されるが,その場合もproSpz の切断・成熟が起こる.創傷や細胞壊死によって局所的に活性酸素種(ROS)が生じるが,このROS 産生がproSpz を切断・成熟させるタンパク質分解カスケードを発動させることが明らかになってきた.
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FORUM
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死を看取る ─ 死因究明の場にて 19
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医学のあゆみ 290巻3号, 265-268 (2024);
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死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する.
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数理で理解する発がん 13
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医学のあゆみ 290巻3号, 269-272 (2024);
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日本人の3 人に1 人はがんで亡くなると推計されている.治療法も増えてきたとはいえ,まだ克服するには至っていない.われわれの体内でがん細胞がどのように出現してくるのかを理解することは,がんに対する有効な治療法を見出すための最初の一歩と言える.発がんのプロセスを理解するのに,一見何の関係もなさそうな“ コイン投げ” を学ぶ必要があると言われると驚くかもしれない.本連載では確率過程の観点から,発がんに至るプロセスを紐解いていく.