Volume 290,
Issue 4,
2024
-
特集 量子生命科学の医学領域への展開
-
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 275-275 (2024);
View Description
Hide Description
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 276-279 (2024);
View Description
Hide Description
超偏極は,核磁気共鳴画像法(MRI/MRS)の最大の弱点である感度の低さを克服する量子計測技術として注目されている.核磁気共鳴(NMR)で観測可能な核種によって標識した分子プロ-ブを創製し,動的核偏極(DNP)によって高感度化後に生体内へ速やかに投与すると,生体内の酵素によって司られる代謝反応をリアルタイムで可視化することが可能である.これを応用し,がんや脳エネルギ-代謝に関する代謝反応をMR画像上へ描出,あるいはスペクトル上へ描出してその代謝比や反応速度定数などを算出することで,生体内における代謝を可視化あるいは定量化することが可能となってきた.本稿では,40 年以上前から開発が進められ,腫瘍や脳疾患で幅広く利用が進んでいるFDG-PET(fluorodeoxyglucose-positron emission tomography)に補完的な技術となる,高いポテンシャルを有する超偏極MRI/MRS の概要と精神神経疾患への応用の可能性について解説する.
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 280-284 (2024);
View Description
Hide Description
量子コンピュ-タの開発が急速に進展している昨今,その本格的な普及が見込まれる2030 年代以降のわれわれの生活や社会のあり方についての議論も活発化している.本稿では,量子コンピュ-タの理解に必要な基本事項に触れ,技術開発の現状や克服すべき課題について述べたうえで,今後の医学分野への応用可能性について論じる.ゲ-ト式量子コンピュ-タは,その汎用性のためにさまざまな場面での活用が期待されているが,現段階では誤り訂正機能を持つ論理量子ビットを多数搭載するための技術開発が課題で,具体的な問題解決場面で活用されるには至っていない.一方,組合せ最適化問題の解決に特化した量子アニ-リングマシンや,古典コンピュ-タ上で量子コンピュ-タに迫る効率で線形演算の近似解を得る量子インスパイアドアルゴリズムについては,実際の問題への適用が可能な段階に至っている.今後,こうした種々の量子コンピュ-ティング技術をその発展に応じて段階的に組み合わせることで,たとえば効率的な創薬の支援,人工知能や機械学習を介した医療画像解析の高度化,そして患者デ-タの高度なリアルタイム処理に基づく治療や支援の展開など,具体的な医学応用が視界に入ってくるものと思われる.
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 285-289 (2024);
View Description
Hide Description
慢性炎症は自己免疫疾患や精神神経疾患などの発症に関与し,生活の質の低下を招く.筆者らは,2012 年に重力が特異的な神経回路の活性化を介して特定の血管領域で微小炎症を引き起こし,血管透過性の亢進を通じて自己反応性免疫細胞の組織侵入を促進する“ゲ-トウェイ反射”を発見して以来,痛み,ストレスなど環境要因を起点とする5 つのゲ-トウェイ反射を報告してきた.さらに2022 年には,重症の全身性エリテマト-デス(SLE)である精神神経性SLE(NPSLE)がストレス依存的なIL-12/23 を介した神経回路の変容にて誘導されることを示し,神経-免疫連関研究を牽引してきた.現在,筆者らは日本医療研究開発機構(AMED)ム-ンショット目標7 の研究開発プロジェクトにおいて,微小炎症に依存する微量のバイオマ-カ-を指標に,未病状態から“病の芽”を超早期に発見する技術開発に取り組んでいる.この目標を達成するために,生体試料から超高感度・超高精度でバイオマ-カ-を検出可能な量子計測,イメ-ジング技術や,遺伝情報,生理・行動情報を統合的に解析できる人工知能(AI)を活用したプラットフォ-ムの構築を目指している.本稿では,特に最近明らかになったNPSLE の診断バイオマ-カ-候補や,それを活用した脳内炎症の予防診断に資する量子技術の開発について概説したい.
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 290-298 (2024);
View Description
Hide Description
再生医療の実用化には,幹細胞や再生細胞の品質担保,生体内動態,および生体内細胞診断などさまざまな課題を解決する必要がある.筆者らは,これらの課題解決の実現に向けて,量子効果に基づくさまざまな光学特性を示すナノ量子センサ-の開発,リアルタイムで定量的に生体内動態を解析可能な蛍光イメ-ジング技術,および単一細胞診断に有効な細胞内の物理化学的パラメ-タ計測技術を開発してきた.
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 299-302 (2024);
View Description
Hide Description
ヒストンメチル化酵素は,クロマチンの基本構造ユニットであるヌクレオソ-ムをメチル化することによって,エピジェネティク状態を変える.メチル化酵素であるNSD2 は,アミノ酸変異によってメチル化の異常をきたすことが知られている.筆者らは,がん細胞に特異的にみられるNSD2 のアミノ酸変異の影響を,分子動力学(MD)シミュレ-ションにより解析した.その結果,メチル化は自己阻害ル-プの開閉で制御されているが,がん細胞に特異的な変異ではそのル-プが高頻度で開くようになり,それが原因となってメチル化の亢進が起こることが示唆された.また,このル-プの開閉はル-プと相互作用している疎水性パッチの形成と破壊によって起こることがシミュレ-ションによって示された.がん細胞に特異的なアミノ酸変異ではいずれもこの疎水性パッチが破壊され,自己阻害ル-プが開いた状態となることでメチル化が異常亢進することが示された.
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 303-308 (2024);
View Description
Hide Description
近年,筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTDL)などの神経変性疾患を引き起こす原因タンパク質として,変異を持つTDP-43 やFUS などのRNA 結合タンパク質が同定されてきた.これらのタンパク質には,LCD というアミノ酸の組成が著しく偏った配列領域が存在し,病原性変異はこのLCD に多くみつかっている.LCD はその強い自己相互作用能力で液-液相分離を引き起こし,これらのRNA 結合タンパク質が取り込まれるストレス顆粒などの細胞内非膜性構造体形成の主要な駆動力として働いている.病原性変異は多くの場合,LCD の自己相互作用を強め,ストレス顆粒を足場に線維凝集体形成を促進すると考えられている.LCD の相分離機構や病原性変異がそれに及ぼす影響を解析することが,病原機構解明に向けて必須であるが,LCD が作る相分離液滴はやわらかく,研究することが難しい.そのため筆者らは,試料に直接触れる必要のない分光学的手法と単一液滴の物性を観測できる量子センサ-,および1 分子のLCD の動きをリアルタイム観測できる高速原子間力顕微鏡(HS-AFM)を組み合わせて,LCD の相分離メカニズムを解明しようと試みている.
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 309-314 (2024);
View Description
Hide Description
量子構造生物学では,水素原子や外殻電子の情報を含む生体分子の高精度の立体構造情報を取得することに加え,計算科学や分光学など他手法との連携を密接にすることにより,より深い分子機能の理解を目指している.量子構造生物学から得られる知見によって,従来の構造ベ-ス創薬を一歩進めたアプロ-チで新規医薬品の開発にも貢献できると考えている.筆者らの研究グル-プでは,水素原子を含むタンパク質の立体構造情報の取得を目的として,中性子結晶構造解析に取り組んでいる.地球上の窒素循環で鍵となる反応を触媒する銅亜硝酸還元酵素(CuNIR)においては,量子化学計算から予測される反応機構を支持する結果が得られている.また,光合成細菌の光合成電子伝達反応に関わる高電位鉄硫黄タンパク質(HiPIP)においては,水素原子位置を高い分解能の実験デ-タに基づき正確に決定することで,タンパク質の立体構造研究で従来用いられるペプチド結合の標準モデルを改訂する新たなモデルを提唱している.
-
TOPICS
-
-
医療行政
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 315-317 (2024);
View Description
Hide Description
-
麻酔科学
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 318-319 (2024);
View Description
Hide Description
-
連載
-
-
臨床医のための微生物学講座 19
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 320-323 (2024);
View Description
Hide Description
◎緑膿菌はヒトの日和見感染症の原因菌のひとつとして医療従事者であれば誰にでも知られている細菌のひとつである.自然環境中に普遍的に存在し,環境に限らずさまざまな臨床検体から分離される.菌名が示すとおりに緑色の色素を産生する細菌である.多彩なコロニ-形態を示すが,いずれのコロニ-形態も特徴的であることから検査室では培地に発育したコロニ-から緑膿菌を推定できることが多い細菌である.本稿では緑膿菌について臨床医に知っておいてほしい内容を簡潔に述べたい.
-
緩和医療のアップデ-ト 14
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 324-330 (2024);
View Description
Hide Description
◎15~39 歳の思春期・若年世代であるAYA 世代は国内で年間2 万人ががんに罹患する.AYA 世代がんは希少がんが多く,同世代のがん患者や自身のがんに関する情報が乏しく,ピアサポ-トや正しい情報へのアクセスが限られる.また,AYA 世代は就学,就労,結婚,出産等のライフイベントを経験する年代であり,がんの療養中に個々に異なる身体的問題,精神心理的問題および社会的問題を経験する.患者のライフステ-ジに応じた個別性の高いがん対策は標準化が難しく,また,施設での経験値が蓄積しづらい.◎2023 年に策定された第4 期がん対策推進基本計画では,AYA 世代がんに関する課題と施策が取りまとめられている.このなかで,AYA 世代の支援は,医療を超えた多職種連携が必要であり,連携の前提となる実態把握や議論がまだ未成熟であるとされる.◎国立がん研究センタ-中央病院では2015 年よりAYA 世代の支援を行う「AYA サポ-トチ-ム」が活動してきた.本稿ではAYA サポ-トチ-ムの活動を紹介し,AYA 世代がん患者の療養支援の課題について検討する.
-
自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪 6
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 331-336 (2024);
View Description
Hide Description
Mucosal-associated invariant T(MAIT)細胞は哺乳類に広く保存された自然T リンパ球のひとつで,ビタミンB2合成経路由来の代謝産物を認識する.ビタミンB2はわれわれの生体のエネルギ-代謝に重要であり,先天的な遺伝性障害のためビタミンB2を代謝吸収できない患者は致死的となる.ビタミンB2は,生体内では合成することができないため,われわれは食することで体内に取り入れる.またビタミンB2合成経路は多くの腸内細菌にも存在し,重要な供給源である.また同経路は,MAIT 細胞の活性化を介して免疫制御にも関わる.このように哺乳類は,エネルギ-代謝や免疫制御において細菌に依存する進化を遂げてきたと考えられる.そこで本稿では,共生細菌によるMAIT 細胞の免疫制御機構とその生体における役割について,最新の知見を紹介する.
-
FORUM
-
-
死を看取る ─ 死因究明の場にて 20
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 337-339 (2024);
View Description
Hide Description
死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する.
-
日本型セルフケアへのあゆみ 24
-
Source:
医学のあゆみ 290巻4号, 340-344 (2024);
View Description
Hide Description
人生において,元気でいることは誰にとっても大事なことである.自分の健康と病気に関わることは正確に知りたい.さまざまな薬や治療法があるなら,自分の希望で決めたい.そうした願いをもとに,大きな転換がはじまろうとしている.インタ-ネットの普及により,医薬品・健康食品・病院に関する情報に誰でも容易にアクセスできるようになったが,正確性に欠けた情報も溢れかえっている.本シリ-ズでは,地に足をつけた“日本型セルフケア” へのあゆみを提唱していく.