医学のあゆみ

Volume 290, Issue 8, 2024
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特集 糖尿病の個別化食事療法を考える─ 糖質制限 vs. カロリ-制限を超えて
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糖尿病における食事療法の個別化 ─ 理論,ツ-ル,そして技術
290巻8号(2024);View Description
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患者は個別化指導を求めている.しかし,それは単に1 人ずつ指導するという意味ではない.患者個人の生活習慣や食習慣を科学的・量的に把握し,それに対応した指導を行うことを意味する.本稿では,糖尿病における個別化食事療法に求められる要点を理論的に簡単にまとめたうえで,個別化食事療法を行うために必要なツ-ルとそれを扱うために求められる技術について,簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)を例として,概説することにした. -
カ-ボカウントからみた糖質制限法とカロリ-制限法
290巻8号(2024);View Description
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カ-ボカウントは,糖尿病診療における炭水化物量を計算する血糖管理方法であることは広く周知されている.本稿では,約20 年間,カ-ボカウントの普及に努めてきた筆者の経験から,カ-ボカウントの視点から糖質制限法とカロリ-制限法を考察する.カ-ボカウントは当初,食品交換表を重視する先生方からの批判を受けた.それは,糖質制限法が受けてきた批判と同じである.血糖管理のうえでは,カロリ-管理よりも摂取する糖質量の管理が簡便で有効であることは明確である.また糖質量を簡単に見積もることを目指してきたカ-ボカウントの運用は,糖質制限法を行ううえでも有用である.糖尿病の療養指導は個別化が重要とされている.血糖管理に有用なカ-ボカウントや糖質制限法と,体重管理や脂質異常,高血圧などを予防するための食事療法は,フォ-カスが異なるので個々の患者に合わせて併用するべきである. -
プレジション・ニュ-トリション ─ 糖尿病食事療法の個別化
290巻8号(2024);View Description
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糖尿病薬物療法に比べ,糖尿病食事療法のエビデンスは乏しい.そのため,糖尿病食事療法の内容は一般的で曖昧な内容になりがちである.糖質制限や低脂肪食によるカロリ-制限を比較した従来のランダム化比較試験は集団の平均値(食事療法に対する反応性)を示してはいるが,その反応性は幅広く,個別化はされていない.そこでプレシジョン・ニュ-トリション研究では,栄養遺伝学やバイオマ-カ-を用いて糖尿病食事療法の個別化を目指していたが,精度の低さや高価格であることが課題となっている.最近では,連続血糖モニタ-などデジタルバイオマ-カ-も糖尿病食事療法の個別化研究に用いられるようになってきた.筆者らは機序計算モデルを用いて,糖尿病食事療法の個別化に成功した.そこで,本稿では最新のデジタルツインを用いた糖尿病食事療法の個別化についても言及する. -
諸外国の食事摂取基準と栄養表示
290巻8号(2024);View Description
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食事摂取基準(dietary reference intakes)は,健康な人々を対象とした食事計画や栄養評価のために用いる栄養素の基準値の総称であり,諸外国ではその国の公衆栄養事情に合わせて策定されている.一般的に,エネルギ-については推定エネルギ-必要量が,栄養素については推定平均必要量(EAR),推奨量(RDA),目安量(AI),耐容上限量(UL)が設定される.一方,食品の栄養表示の基準となる栄養参照量は,食事摂取基準の推奨量から算出されることが多く,人々の適切な食品の選択に寄与している.また,最近では包装前面栄養表示(FOPNL)と健康との関連も報告されている.本稿では,諸外国の食事摂取基準と食品の栄養表示,ならびに国の健康施策や人々の健康との関連について解説し,わが国の課題についても考察した. -
日本糖尿病学会の食事療法
290巻8号(2024);View Description
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日本糖尿病学会は糖尿病患者が食事療法を継続できるように,1965 年に『糖尿病食事療法のための食品交換表』を発行した.初版での食事療法の原則は,適正なエネルギ-,糖質量の制限,糖質・たんぱく質・脂質のバランスとビタミンおよびミネラルの適正な補給であったが,日本人の食生活の変化と食事摂取基準の改定に伴い,その内容も改訂を繰り返し,第7 版では血糖コントロ-ルをよくする食事として,炭水化物量を把握することが大切であるとの記載がなされている.食事に含まれる炭水化物の適正な配分を摂取エネルギ-の50~60%とし,個別対応が求められている.この配分は病状や合併症の有無,年齢や食習慣などにも配慮して決めることが大切であり,2013 年の日本人の糖尿病の食事療法に関する日本糖尿病学会の提言では,「極端な糖質制限食は長期的には腎症や動脈硬化の進行などが懸念され勧められない」とされている. -
糖質制限と正常血糖ケトアシド-シス(euDKA)─ SGLT2阻害薬を使用する際の注意点
290巻8号(2024);View Description
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ナトリウム/グルコ-ス共役輸送体2(SGLT2)阻害薬は,血糖降下作用のほかにも体重減少や血圧低下などの作用を併せ持つ1).また心臓,腎臓などの臓器保護作用も期待できることから,近年,その処方量は増加傾向にある2-5).しかし,SGLT2 阻害薬を内服している患者がインスリンを自己中断したり,感染症を併発した場合だけではなく,極端な糖質制限を行ったりした場合にも,ケトン体産生がさらに促進され,正常血糖ケトアシド-シス(euDKA)をきたすリスクが上昇する6).糖尿病食事療法の“個別化”が重要である一方で,薬物療法において適切な炭水化物摂取が欠かせない場合がある.本稿では,極端な糖質制限によりeuDKA を発症した症例報告とともに,SGLT2 阻害薬を使用する際の注意点など文献学的考察を含めて紹介したい.
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TOPICS
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- 病理学
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- 神経内科学
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連載
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- 臨床医のための微生物学講座 21
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マイコプラズマ
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◎マイコプラズマは自己増殖能を有する最小の微生物で,ヒトを含むさまざまな動物や昆虫,植物などから検出されており,これまでに数百種類の菌種が報告されている.ヒトに病原性を示すマイコプラズマとして,肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae),マイコプラズマ ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium),マイコプラズマ・ホミニス(Mycoplasma hominis),ウレアプラズマ(Ureaplasma urealyticum,Ureaplasma parvum)があり,本稿では,臨床に役立つその微生物学的特徴を中心に,臨床におけるトピックも含め,概説する. - 緩和医療のアップデ-ト 16
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精神症状(不眠,抑うつ,不安)エビデンスアップデ-ト─ 変遷:今や,第一選択は“非薬物”治療の時代へ,そしてDX
290巻8号(2024);View Description
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◎かつてわれわれは,がん患者の不眠,不安,抑うつ(中等度まで)に対して,薬剤の力を信じ向精神薬を処方してきた.しかし,時代は変わった.非薬物治療(心理社会的介入)が薬物療法よりも優れていることが,米国臨床腫瘍学会(ASCO)ガイドラインで明らかとなった.“不眠”に対しては,「フリップ・フロップ・スイッチ(シ-ソ-モデル)」を意識したベンゾジアゼピン系睡眠薬ではない“非薬物治療”が求められる(「概日調節系」「恒常性調節系」「覚醒維持系」).そして,“不安,抑うつ”に対しては,新時代を思わせる出来事として,スマ-トフォンを介した心理療法「解決アプリ」「元気アプリ」の研究が,腫瘍学領域のトップジャ-ナルである『Journal of Clinical Oncology』に掲載された.今後は,固定観念にとらわれない,認知行動療法などをベ-スとした“非薬物治療”の開発が求められる.さらに,ヨガ,催眠,音楽療法も選択肢である(ASCO ガイドライン推奨の強さ:中). - 自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪 8
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RNA修飾破綻による自己指向性免疫応答
290巻8号(2024);View Description
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ウイルスなどに由来する外来のRNA は自然免疫系の活性化を誘導する主要な物質のひとつである.しかしながら,RNA は宿主にとっても必須の物質であり普遍的に存在することから,RNA の“自己”・“非自己”をどのように区別しているか理解することは免疫学的に重要な課題のひとつである.近年,内在性RNA の転写後にメチル化などのさまざまな修飾が付加されること,加えて,このような転写後修飾が自然免疫受容体による認識回避に重要な役割を果たすことが明らかになってきた.また,ヒトにおいて転写後修飾機構が破綻すると異常な自己指向性免疫応答につながることも報告されている.本稿では,代表的な転写後修飾機構であるキャップ構造,RNA 編集およびm6A メチル化修飾に焦点を当て,これらの機構が自己指向性免疫応答の回避に果たす役割について議論したい.
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FORUM
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- 死を看取る ─ 死因究明の場にて 22
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死因究明の実践⑤
290巻8号(2024);View Description
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死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する. - 数理で理解する発がん 14
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ライト・フィッシャ-モデル
290巻8号(2024);View Description
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日本人の3 人に1 人はがんで亡くなると推計されている.治療法も増えてきたとはいえ,まだ克服するには至っていない.われわれの体内でがん細胞がどのように出現してくるのかを理解することは,がんに対する有効な治療法を見出すための最初の一歩と言える.発がんのプロセスを理解するのに,一見何の関係もなさそうな“ コイン投げ” を学ぶ必要があると言われると驚くかもしれない.本連載では確率過程の観点から,発がんに至るプロセスを紐解いていく. - 書評
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