医学のあゆみ

Volume 290, Issue 9, 2024
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【8月第5土曜特集】 内分泌疾患の温故知新─日本内分泌学会創設100 周年を目前にして
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- 視床下部・下垂体
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クッシング病─診断と治療の現状と今後の展望
290巻9号(2024);View Description
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クッシング病は,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生下垂体腫瘍が原因である.歴史的には,Cushing が第1 例目の患者を1910 年に診療した.グルココルチコイドはグルココルチコイド受容体を介して作用するが,この受容体は全身に分布しており,グルココルチコイド過剰状態であるクッシング病は全身に影響を及ぼす.現在のクッシング病の診断は,特異的症候,非特異的症候のなかから1 つ以上の症候を認め,血中ACTH とコルチゾ-ルがともに高値~正常を示す場合にスクリ-ニング検査を行い,陽性の場合,異所性ACTH 症候群の鑑別を目的として確定診断検査を行う.治療は,ACTH またはコルチゾ-ル分泌過剰を改善するために,手術療法,薬物療法,放射線治療を行う.また新規クッシング症候群診断法であるTSH ratio は,既存クッシング症候群検査法に比べて特異度の点で優れており,うつ病患者やデキサメタゾン代謝に影響する薬剤を服用中の患者でも有用である. -
成人成長ホルモン分泌不全症と先端巨大症
290巻9号(2024);View Description
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成長ホルモン(GH)は,1921 年にEvans らのウシ下垂体前葉抽出物の成長促進効果の発見を経て,1956年にヒトGH が単離され,GH 補充療法の基礎が築かれた.GH は視床下部から主として成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)刺激により脈動的に分泌される.成人成長ホルモン分泌不全症(AGHD)の主な原因には腫瘍や外傷などがあり,症状にはQOL の低下や代謝異常,心血管リスクの増加が含まれる.診断にはGH 刺激試験が必須であり,GH 補充療法は死亡リスクの低下や代謝改善などに関連しているが,長期的な効果や有害事象については未解明な点もある.2021 年に承認されたソマプシタンは,週1 回の投与が可能であり,これまでの製剤よりも治療満足度が高いとされるが,その長期的な安全性と効果についてはさらなる研究が必要である.一方,先端巨大症はGH/インスリン様成長因子1(IGF-Ⅰ)の過剰により起こる疾患であり,古くは旧約聖書の時代の記録に遡る.GH 産生下垂体腫瘍によるものがほとんどであり,診断はGH 自律・過剰分泌の証明,IGF-Ⅰ高値,画像検査による下垂体腫瘍の確認が必須である.治療法は手術が第一選択であり,薬物療法はソマトスタチンアナログを中心にさまざまな薬剤選択が可能となっている. -
下垂体TSH産生腫瘍のこれまでとこれから
290巻9号(2024);View Description
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下垂体甲状腺刺激ホルモン(TSH)産生腫瘍は1960 年に最初の症例が報告され,その後,ホルモン値の測定方法や画像検査の進歩により,発見される頻度が徐々に増えてきている.また,研究手法の発展によりその分子機構も徐々に解明されはじめているが,その発症機構はいまだにわかっていない.検査所見では,下垂体TSH 産生腫瘍は血中甲状腺ホルモンが高値にもかかわらず血中TSH が基準値内~軽度高値であるTSH不適切分泌症候群(SITSH)を示す.甲状腺ホルモン不応症(RTH)との鑑別が重要であり,遺伝子検査が保険適用になるなど以前より診断は容易になってきているが,いまだに鑑別が困難な症例もあり,注意が必要である.治療の第一選択は手術であるが,臨床症状の改善にソマトスタチンアナログが有用であり,ランレオチドが保険適用となっている.今後,長期予後を見据えた治療法の選択方法の発展や,よりよい診断につながるような病因の解明が待たれる. -
腫瘍随伴自己免疫性下垂体炎─疾患概念の発展と今後の展望
290巻9号(2024);View Description
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リンパ球性下垂体炎や副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症は,自己免疫が主たる病態である.後天的に成長ホルモン(GH),プロラクチン(PRL),甲状腺刺激ホルモン(TSH)を特異的に欠損した症例の解析から,これらホルモンの発現に必須の転写因子PIT-1 を認識する自己抗体やPIT-1 発現細胞に対する細胞傷害性リンパ球が同定された.“抗PIT-1 下垂体炎”と命名された本疾患の重要な転換点は,PIT-1 に対する免疫寛容の破綻がPIT-1 タンパクを異所性に発現する胸腺腫・悪性腫瘍の合併に起因することが明らかになったことである.研究はさらに発展し,ACTH 単独欠損症の一部にプロオピオメラノコルチン(POMC)/ACTHを異所性に発現する腫瘍が合併すること,また,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)関連下垂体炎の一部の症例を説明しうることが明らかとなった.これらの解析から,腫瘍内異所性抗原に対する自己免疫反応が,腫瘍組織のみならず下垂体をも障害するという新たな疾患概念“腫瘍随伴自己免疫性下垂体炎”を提唱しえた.自己免疫が発症機序として想定される下垂体機能低下症症例では,潜在的な腫瘍合併に留意が必要である. -
下垂体腺腫/下垂体神経内分泌腫瘍(PitNET)の病理診断,今昔
290巻9号(2024);View Description
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下垂体神経内分泌腫瘍に対するWHO 分類は1980 年にはじまった.第1 版では簡単な病理学的特徴を記したものであったが,第2 版から免疫染色や電子顕微鏡を用いた超微構造も記された.2017 年の第4 版では,「電顕は病理診断に必ずしも必要でない」と書かれた.2022 年の第5 版で,下垂体腺腫(pituitary adenoma)はPitNET と名称が変更された.免疫染色で確認する発現タンパクは産生ホルモンからはじまり,転写因子へと重視される項目が変化し,遺伝子,分子病理学的検討も必要となりつつあるが,未来への貢献を考えると,真に必要な病理学的検索項目を絞り,世界中どこの病理診断科でも実施可能な病理分類を確立する必要があろう. -
GH治療の歴史と展開
290巻9号(2024);View Description
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世界ではじめて成長ホルモン分泌不全(GHD)性低身長症患者にヒト成長ホルモン(hGH)治療がなされてから,かなりの時間が経過した.その後,適応症が拡大されていったが,その多くは小児期に診断され,治療介入がなされている.近年では,長時間作用型成長ホルモン(LAGH)が使用できるようになり,新たな時代に入った.当初の目的であった身長を促進する作用のみではなく,成長ホルモン(GH)は生涯にわたって分泌され,代謝ホルモンとしての役割を担っていることも重要視されるようになってきた.ただし,それぞれの疾患や状態・重症度などによっても,その長期的な効果や気にするべき副作用にも違いがあることを念頭におく必要がある.LAGH の適応症も拡大していくことが予想されるが,効果や安全性のデ-タの蓄積は今後の課題である.また,小児から成人への移行期の医療についても未解決の課題があり,今後,小児科と成人科との共同での研究は不可欠である. -
バソプレシン分泌異常症─中枢性尿崩症,抗利尿ホルモン不適切分泌症候群
290巻9号(2024);View Description
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抗利尿ホルモンであるバソプレシン(AVP)の産生および分泌は,血漿浸透圧による厳密な調節を受けている.しかし,その調節機構が障害され,高浸透圧,高ナトリウム血症下にもかかわらずAVP 分泌が低下した病態が中枢性尿崩症であり,逆に低浸透圧,低ナトリウム血症下においてもAVP 分泌が抑制されない病態が抗利尿ホルモン不適切分泌症候群(SIADH)である.中枢性尿崩症は,同じく低張性多尿をきたす腎性尿崩症や心因性多飲症との鑑別が重要であり,水中毒による低ナトリウム血症に注意しながらデスモプレシンにより治療を行う.SIADH は除外診断であり,低ナトリウム血症を呈するすべての疾患が鑑別の対象となる.重篤な中枢神経症状を呈する高度の低ナトリウム血症では3%食塩水にて治療を開始するが,軽度で慢性経過の場合には水制限やAVP V2受容体拮抗薬であるトルバプタンが用いられる.いずれにおいても,血清ナトリウム濃度の急激な上昇は浸透圧性脱髄症候群を生じる危険性があるため,十分に注意が必要である. -
先天性腎性尿崩症の新しい治療戦略
290巻9号(2024);View Description
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先天性腎性尿崩症は,抗利尿ホルモンであるバソプレシンが正常に分泌されているにもかかわらず,腎臓における尿濃縮機構が破綻し,多尿をきたす難病である.脱水にもかかわらず尿量を適切に減らせないため,脱水がさらに進行し体内の水恒常性維持が破綻する.重症例においては尿量が1 日10 L 以上にも及び,昼夜を問わない排尿や脱水症を回避するための水分摂取が必要になる.生活の質が著しく低下し,社会活動が制限されるだけでなく,水腎症や慢性腎臓病,成長障害,神経発達症などの重篤な合併症を招くため,治療法の開発が求められている. - 甲状腺
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バセドウ病の成因・診断・治療
290巻9号(2024);View Description
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バセドウ病(GD)は,甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)に対する抗体(TRAb)による臓器特異的自己免疫疾患である.GD の発見以来およそ200 年弱の間,GD の成因,診断,治療についてさまざまな進歩を認めた.GD においてはTRAb が持続的に甲状腺を刺激するため甲状腺機能亢進症が発症し,過剰な甲状腺ホルモンによって全身臓器の機能が障害される.近年は,甲状腺ホルモンやTRAb 測定法の進歩に加え,甲状腺超音波検査や甲状腺シンチグラフィ検査などが普及したことにより,臨床現場におけるGD の診断レベルが向上している.一方で,GD の治療としてはこれまで抗甲状腺薬(ATD),131I 内用療法(アイソト-プ治療),甲状腺手術療法に加え,無機ヨウ素が用いられているが,それらの治療法は約80 年以上の間,大きな変化がみられない.近年では,TSHR に対するモノクロ-ナル抗体,小分子化合物,TSHR 関連ペプチドなどを用いたGD の新規治療が開発されつつあり,今後の研究発展が期待されている. -
甲状腺眼症の現状と展望
290巻9号(2024);View Description
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バセドウ病の合併症としてもよく知られる甲状腺眼症は,視機能障害,眼症状,整容的異常により患者のQOL を著しく低下させる.内科と眼科にまたがる境界領域にあり,比較的希少でもあることからマネジメントは容易ではない.本稿では現行の診断基準と治療指針について,確立するまでの経緯と内容のエッセンスを紹介する.加えて,次々と開発が進む以下の新薬について概説する.インスリン様成長因子1(IGF-1)受容体阻害薬が最も先行しており,阻害抗体であるteprotumumab はすでに国内第Ⅲ相試験が完了している.長年望まれてきた甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体阻害薬であるが,阻害抗体であるK1-70 が臨床応用に近づいている.IL-6 受容体阻害薬,胎児性Fc 受容体阻害薬は,国際共同第Ⅲ相試験が現在実施中である.従来治療に新薬が加わることで,甲状腺眼症の診療は間違いなく変革するであろう.現状をまとめた本稿が,今後の議論の一助になれば幸いである. -
慢性甲状腺炎と潜在性甲状腺機能低下症─妊娠関連含む
290巻9号(2024);View Description
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甲状腺機能低下症の原因で最も多いのは,橋本病(慢性甲状腺炎)である.橋本病は遺伝要因と環境要因が複数影響しあうことにより起こる甲状腺に特異的な自己免疫疾患であり,原因は複雑で不明な点が多い.甲状腺機能低下症の治療はT4 製剤内服で行う.T4 製剤でも症状改善のない症例にはT3 併用療法が検討されているが,より多くのエビデンスと予後の追跡調査が必要である.妊娠初期の潜在性甲状腺機能低下症(SCH)と流産・早産との関連が指摘されてきた.T4 製剤の補充療法の効果についてランダム化比較試験をメタ解析したところ,T4 製剤による介入時期が遅く流産率の改善は不明であるが,早産については甲状腺刺激ホルモン(TSH)>4μIU/mL で補充療法による改善傾向が認められた.流産や死産を繰り返すTSH>2.5μIU/mL の妊婦においても,補充療法により生産率や妊娠喪失率が改善する可能性が示唆された. -
先天性甲状腺機能障害と遺伝子異常
290巻9号(2024);View Description
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先天性甲状腺機能異常には,先天性甲状腺機能低下症(CH),先天性甲状腺機能亢進症,甲状腺ホルモン作用不全が含まれる.CH はさらに障害部位によって原発性CH と中枢性CH とに大別され,原発性CH は甲状腺腫性CH と非甲状腺腫性CH に細分類される.CH を生じる遺伝子異常は,1991 年のサイログロブリン(Tg)異常症初報告を皮切りに次々と解明が進み,現在,甲状腺腫性CH の90%以上で甲状腺ホルモン合成に関わる単一遺伝子変異が同定されている.非甲状腺腫性CH では,2024 年に入って非コ-ド領域に新しい疾患責任ゲノム異常が発見され,特に家族歴を有するCH の主因であることが明らかとなった.中枢性CH に含まれる先天性甲状腺刺激ホルモン(TSH)単独欠損症では,70~80%に遺伝子異常がみつかる.先天性甲状腺機能亢進症の大部分は新生児バセドウ病であるが,まれにTSHR 機能獲得型変異による非自己免疫性甲状腺機能亢進症が存在する. -
薬剤性甲状腺機能障害
290巻9号(2024);View Description
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甲状腺の疾患は頻度が高く,日常診療においてよく遭遇する疾患である.加えて,薬剤性の甲状腺機能障害も頻度が高く,かつ多くの薬剤が原因となりうる.特に近年では,チロシンキナ-ゼ阻害薬(TKI),免疫チェックポイント阻害薬(ICI)といった新たな機序のがん治療薬が広く使用されるようになってきており,それらの薬剤において甲状腺機能障害は頻度が高い有害事象である.そのため,がんに対する治療を継続するうえでも薬剤性の甲状腺機能障害は非常に重要となってきている.甲状腺機能障害は症状が非特異的であることも多く,甲状腺機能障害を引き起こす可能性のある薬剤およびその対応法について知っておくことが,適時の甲状腺機能障害の診断につながり,適切にマネジメントしていくうえでも重要である. -
ゲノムからみた甲状腺癌と分子標的薬
290巻9号(2024);View Description
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甲状腺癌の治療は長い間,外科手術と放射性ヨウ素内用療法が主体であった.1980 年代より,細胞・分子生物学の発展とともに甲状腺癌のドライバ-遺伝子変異が次々と解明され,さらに次世代シ-クエンシングの登場で,癌ゲノムの全体像が明らかになりつつある.甲状腺癌では,癌の発症・進展に関わるシグナル伝達経路を恒常的に活性化させるBRAF,RET,NTRK,RAS などの変異が発癌の初期よりみられ,さらにTERT プロモ-タ-やTP53 の変異が高度悪性化に関わっている.“分子”を標的とした治療法としては,約10 年前より血管新生を主な標的としたマルチキナ-ゼ阻害薬が登場し,成果をあげている.さらに個々の患者のドライバ-変異を遺伝子パネルで検出し,それに合った適切な特異的分子標的薬を投与する癌ゲノム医療がはじまっている.RET 阻害薬,NTRK 阻害薬はすでに使われており,まもなくBRAF 阻害薬やMEK 阻害薬も利用可能となる.甲状腺癌では治療につながる,いわゆるアクショナブル変異の割合が高く,分子標的治療の効果が期待されている. - 副甲状腺とカルシウムミネラル代謝
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原発性副甲状腺機能亢進症を考える
290巻9号(2024);View Description
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原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)は古くから知られている疾患で,典型的なものの診断は容易で,治療も副甲状腺腫瘍の外科的切除であることは論を待たない.しかし,最近ではいわゆる無症候性PHPT といわれるものが多くを占め,自覚症状を伴わないためにその外科的治療の適応が長年議論されてきた.その判断基準として,すでに標的臓器を巻き込んでいることを示唆する骨粗鬆症,腎機能障害や尿路結石などの合併の有無が用いられている.しかし,外科的治療によってこれらは改善するのか,そのエビデンスの強さはまちまちである.本稿では,主な標的臓器である骨と腎に絞り,外科的治療,内科的治療の効果と限界について述べる.そして,PHPT における未解決の問題,新たな課題についても触れたい. -
副甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症と類縁疾患
290巻9号(2024);View Description
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副甲状腺ホルモン(PTH)作用不全をきたす病態は,PTH 分泌不全とPTH 不応性に大別される.副甲状腺機能低下症は通常,PTH 分泌不全性副甲状腺機能低下症を指す.一方,ホルモン不応性によるPTH 作用不全の代表は,偽性副甲状腺機能低下症(PHP)である.ホルモン不応性はPTH 受容体のシグナル伝達経路の異常に起因するが,シグナル伝達経路の異常に起因する疾患は必ずしもホルモン抵抗性を惹起しないため,それらを類縁疾患という.遺伝学的検査の進歩により,従来の副甲状腺機能低下症およびPHP の診断と病因確定のための検査は現状に合わなくなってきた.また,従来の活性型ビタミンD 以外の治療の開発も進んでいる.本稿では,副甲状腺機能低下症およびPHP と類縁疾患について,先天性の要因,診断の現状と課題,治療の展望について概説する. -
FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とリン感知機構
290巻9号(2024);View Description
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リンは生体に必要不可欠なミネラルであり,主にハイドロキシアパタイトの構成成分として骨や歯といった硬組織の形成に寄与している.血中リン濃度は厳密に制御されており,低リン血症は骨石灰化障害からくる病・骨軟化症を引き起こす.線維芽細胞増殖因子23(FGF23)は血中リン濃度の調節に中心的な役割を担うホルモンであり,FGF23 の作用過剰は低リン血症性くる病・骨軟化症の原因となる.近年,FGF23 関連低リン血症性くる病・骨軟化症に対して,抗FGF23 抗体を用いた新規治療法が登場し,当該分野のトピックとなっている.一方,骨がどのように血中リン濃度を感知して血中FGF23 濃度を調節しているのかについては長らく不明であった.本稿では,FGF23 とリン代謝に関するこれまでの知見を整理し,FGF23 関連低リン血症性くる病・骨軟化症の診断と治療について概説した.骨におけるリン感知機構の解明に関する研究は重要であり,FGF23 関連低リン血症性くる病・骨軟化症の理解と治療に新たな道を開く可能性がある. -
内分泌・代謝疾患としての骨粗鬆症
290巻9号(2024);View Description
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超高齢社会の進行とともに,脆弱性骨折という臨床的イベントが無視しえない医療上の課題となってきた.原発性骨粗鬆症の発症・進展には,性ステロイド分泌の経年変化が深く関与し,また内分泌疾患ならびにグルココルチコイド長期投与などによる続発性骨粗鬆症は,骨代謝の破綻がその主たる原因となる.すなわち,骨粗鬆症は原発性・続発性を問わず,その多くが内分泌・代謝疾患であるといえる.西暦2000 年を境にして,数多くの骨粗鬆症治療薬が上市されたが,その多くは骨吸収抑制薬あるいは骨形成促進薬に分類され,治療においても骨代謝回転をどのように調節するかが焦点となっている.同時に骨折予防のためには薬物治療のみならず,食事療法,運動療法,転倒予防といった生活習慣への介入が必要であり,他の生活習慣病と同様に職種連携,施設間連携による療養支援(リエゾンサ-ビス)が重要となる. -
骨系統疾患と新規治療
290巻9号(2024);View Description
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骨系統疾患とは,骨や軟骨に系統的な異常をきたす疾患の総称であり,多くは単一遺伝子病である.従来,根本的治療のない疾患の代表格であったが,近年,いくつかの疾患については病態に即した新規治療法の開発が進んでいる.四肢短縮型低身長を呈する軟骨無形成症に対しては,責任分子である線維芽細胞成長因子受容体3(FGFR3)のシグナルを標的とした種々の新規薬剤が開発されており,C 型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)の類縁体であるボソリチドは2022 年に承認された.骨石灰化障害を呈する低ホスファタ-ゼ症(HPP)に対しては,アルカリホスファタ-ゼ酵素補充薬が2015 年から使用可能となっている.骨脆弱性を特徴とする骨形成不全症に対しては,ビスホスフォネ-ト製剤を用いた骨吸収抑制療法が広く行われ,さまざまな薬剤の開発や細胞移植,遺伝子治療などが試みられつつある.有効性の高い新規薬剤の登場により,骨系統疾患の診療は大きく変化している. -
ビタミンDと全身疾患
290巻9号(2024);View Description
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ビタミンD は抗くる病因子として同定され,当初,生体に必須の微量栄養元素と考えられていた.しかしその後,肝臓や腎臓での代謝により1α,25 水酸化ビタミンD(1,25(OH)2D)に変換され,各標的臓器のビタミンD 受容体(VDR)に結合して作用を発揮することがわかり,現在ではホルモンとみなされている.ビタミンD の主作用は,腸管からのカルシウム・リン吸収の促進と,副甲状腺ホルモン(PTH)との協調作用による腎遠位尿細管でのカルシウム再吸収の促進であり,これによりカルシウム・リン積や骨石灰化を維持している.重度のビタミンD 欠乏は骨軟化症やくる病の原因となるが,石灰化障害を起こすほどでない不足・欠乏も骨粗鬆症のリスクや薬物治療反応性の低下などをもたらす.また,ビタミンD 不足・欠乏は,悪性腫瘍や感染症,糖尿病など,さまざまな疾患との疫学的関連が知られている.しかし多くの場合,ビタミンD 補充による効果は認められず,真の因果関係が証明されている骨外疾患はほとんどない. - 副腎
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原発性アルドステロン症の温故知新
290巻9号(2024);View Description
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原発性アルドステロン症(PA)は,副腎皮質からミネラルコルチコイドであるアルドステロンの自律過剰分泌が起こることにより高血圧,低K 血症などの症状をきたす疾患である.1954 年にConn らによってはじめて報告されて以降,認識されてからまだ70 年しかたっていない疾患であるが,この70 年間でも本疾患に対する考え方は大きく変遷してきた.まれな疾患だと考えられていた時期から,内分泌疾患のなかでは比較的頻度が高いと考えられるようになり,画像診断や静脈サンプリングなどの技術の進歩により,診断も以前より正確に行えるようになってきた.また,病理組織的解析や遺伝子解析が進むことで,その病態に対する理解も進んできた.ミネラルコルチコイドによる心臓,血管,腎臓などの障害が明らかになってくるにつれ,アルドステロンというホルモン自体の役割も改めて注目されるようになってきた.しかし,特発性アルドステロン症(IHA)とよばれる両側性のアルドステロン症をどのように扱うべきかなど,まだ解決すべき課題も多い.本稿では,PA という疾患の歴史と現況,今後の臨床的課題について概説する. -
アルドステロン産生病変の病理学
290巻9号(2024);View Description
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原発性アルドステロン症(PA)は,二次的な原因によらずに副腎皮質におけるアルドステロン産生が生理的調節から外れて恒常的に活性化されることを原因とする疾患である.アルドステロン合成酵素(CYP11B2)の免疫組織化学染色は,アルドステロン産生病変の視覚化を可能にすることにより,PA の疾患概念そのものを変えてきた.本稿では,①2010 年以前のアルドステロン産生病変の“病理像”,②CYP11B2 免疫組織化学染色による成人正常副腎皮質の組織像,③アルドステロン産生腺腫(APA)の組織像,④アルドステロン産生細胞クラスタ-(APCC)はAPA とは異なる特徴を持つ,⑤ヒト副腎皮質のリモデリング,⑥成人正常副腎皮質に検出されるAPCC は病変か,⑦APCC はAPA に移行するのか,⑧APCC では本当に過剰なアルドステロン産生が行われるのか,⑨APCC のシングルセル解析,の9 項目について概説するとともに,今後の課題についても述べる. -
コルチゾ-ル産生副腎腫瘍の遺伝子異常
290巻9号(2024);View Description
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コルチゾ-ル産生副腎腺腫は,特異的なクッシング様徴候(満月様顔貌,中心性肥満,野牛肩,皮膚線条,皮膚の菲薄化,皮下出血)と非特異的症候(高血圧,多毛,骨粗鬆症,月経異常,耐糖能異常)を呈するクッシング症候群をきたす.コルチゾ-ル産生副腎腺腫の病因として,PRKACA,GNAS,CTNNB1 の体細胞変異が同定されている.クッシング症候群の治療薬として,2021 年にオシロドロスタットが承認され,使用可能になった.オシロドロスタットは,従来から使用されているメチラポンと比較して効果持続時間が長く,高コルチゾ-ル血症の是正が確実に得られる.一方で,オシロドロスタット投与中止後の長期の副腎不全をきたす症例が報告されている.軽度のコルチゾ-ル産生腺腫では,副腎摘出術あるいは合併症(高血圧症,耐糖能異常)のモニタリング/治療による経過観察の選択は,個々の症例に応じて行う必要がある. -
褐色細胞腫・パラガングリオ-マ
290巻9号(2024);View Description
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褐色細胞腫・パラガングリオ-マ(PPGL)の疾患概念は,疾患にまつわる学術用語と並行して発展し,WHO 内分泌腫瘍分類においてパラダイムシフトの軌跡を確認できる.わが国ではPHEO-J(Pheochromocytoma in Japan)研究活動を起点とした精力的な取り組みにより,『褐色細胞腫・パラガングリオ-マ診療ガイドライン2018』が発刊されている.その後も,臨床検査(血中遊離メタネフリン分画),薬物治療(カテコ-ルアミン合成酵素阻害薬),放射線治療(131I-MIBG 内照射療法)において,各分野の尽力によりPPGL の診療水準は着実に向上している.加えて,遺伝学的知見の集積は,ドライバ-遺伝子のクラスタ-分類と表現型連関など重要な発見をもたらしたが,転移性PPGL に対するクラスタ-特異的治療の確立には至っていない.PPGL が含有するさまざまな不均一性(heterogeneity)を乗り越えるための全国規模の包括的研究体制の再構築が望まれる. -
単一遺伝子疾患としての原発性副腎不全
290巻9号(2024);View Description
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原発性副腎不全(PAI)は,副腎皮質ホルモンの分泌が不足する致死的疾患である.小児期発症PAI の多くは単一遺伝子疾患であり,なかでも21 水酸化酵素欠損症に代表される先天性副腎過形成(CAH)の頻度が高い.わが国では生化学的特徴に基づいた21 水酸化酵素欠損症の新生児マススクリ-ニングが行われている.生化学的特徴が乏しい小児期発症PAI は,副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)不応症,副腎レドックス恒常性障害,副腎低形成症などに分類される.ACTH 不応症では副腎皮質束状層に限定された機能低下が起きる.副腎レドックス恒常性障害では,ニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナ-ゼ遺伝子(NNT)やAladin の異常が関与し,主に副腎皮質束状層の酸化還元バランスの乱れがPAI を招くと考えられている.先天性副腎低形成症は,DAX1 異常など副腎の器官形成過程の異常と考えられる.日本と英国で行われた遺伝学的研究では,小児期発症PAI 症例の過半数に遺伝的異常が同定されたが,責任遺伝子頻度には人種差が認められた. -
原発性両側大結節性副腎皮質過形成(PBMAH)と遺伝子異常
290巻9号(2024);View Description
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原発性両側大結節性副腎皮質過形成(PBMAH)は,(サブクリニカル)クッシング(Cushing)症候群に加え,両側副腎に1 cm 以上の多発結節を認める疾患群であるが,その原因遺伝子は不明であった.近年,次世代シ-クエンサ-の進歩に伴い,GIP 依存性PBMAH の原因遺伝子としてヒストン脱メチル化酵素KDM1A が,それ以外のPBMAH の原因遺伝子としてARMC5 が同定された.ARMC5 は機能未知因子であったが,2020年にCUL3 とユビキチンリガ-ゼ複合体を形成することが明らかとなり,2022 年にその標的タンパク質として,筆者らは全長型SREBF を,他のグル-プはRPB1 およびNRF1 を同定した.本稿では,これらPBMAH に伴う遺伝子変異に関する最新の知見を紹介する. - 糖尿病・脂質代謝
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1型糖尿病─劇症,急性発症,緩徐進行(3つのサブタイプ)
290巻9号(2024);View Description
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1974 年に1 型糖尿病患者の血清中にICA とよばれる自己抗体の存在が報告され,剖検での膵島炎の所見,HLA との関連などとあわせて“1 型糖尿病=自己免疫疾患(a chronic autoimmune disease)”という考え方が定着した.現在の典型的な1 型糖尿病は,日本では“急性発症1 型糖尿病”とよばれ,欧米の1 型糖尿病ともほぼ同義である.また,2 型糖尿病のように発症した糖尿病患者においてICA 陽性者が存在し,そのなかからインスリン分泌が進行性に低下する患者が見出され,SPIDDM(slowly progressive IDMM)と名づけられた.一方で筆者らは,自己抗体が陰性であるが,ウイルス感染などを契機に最短では数日間で膵β細胞のほぼすべてが破壊され,ケトアシド-シスにまで急速に進行する劇症1 型糖尿病の存在を明らかにした.最近では,免疫チェックポイント阻害薬投与に関連して発症する1 型糖尿病も報告されている.このように1型糖尿病は発症・進行の様式によって,3 つのサブタイプ(劇症,急性発症,緩徐進行)に分類され,病態の解明が進んでいる. -
肥満,2型糖尿病とアディポネクチン/アディポネクチン受容体シグナル
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肥満,糖尿病有病者数は世界的に激増の一途をたどっており,大きな社会問題となっている.こうした実態を受け,肥満,肥満関連疾患,インスリン抵抗性,糖尿病,さらには糖尿病合併症,生活習慣病の原因解明と,それに基づいた予防・治療法の確立が重要かつ急務である.肥満に伴って,脂肪細胞から分泌される生理活性物質であるアディポネクチンが低下し,全身でのアディポネクチンとアディポネクチン受容体(AdipoR)の作用が低下することが生活習慣病激増の主要な原因となっている.当研究室ではこれまでに,AdipoR経路の活性化はカロリ-制限や運動を模倣する効果があり,糖・脂質・エネルギ-代謝を改善し寿命延長効果を持つこと,肥満に伴う精子運動能低下を改善する作用を有することなど,その多彩な作用を報告してきた.また,AdipoR の立体構造を明らかにし,AdipoR 作動薬のシ-ズとなる低分子化合物の取得に成功し,AdipoR を標的にした構造ベ-ス創薬を進めている.AdipoR 経路を活性化する方略が,糖尿病治療のみならず健康長寿の実現につながる可能性を期待したい. -
糖代謝異常合併妊娠
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糖代謝異常と妊娠の関連は,200 年前に報告された尿糖の症例にはじまり,その後,多くの母児合併症が知られるようになった.約100 年前のインスリン発見により母児生存率は大きく向上したが,現在でも正常妊娠と同等の予後には達しておらず,糖代謝異常合併妊娠の頻度は高齢妊婦の増加に伴い増加している.妊娠中の糖代謝異常は,①妊娠糖尿病(GDM),②明らかな糖尿病,③糖尿病合併妊娠,の3 種類に分類される.妊娠前からの介入であるプレコンセプションケアについては,若年期からの啓発も含めて重要性が増している.妊娠中の糖代謝異常スクリ-ニングについては診断基準が整備されている.血糖コントロ-ルについては食事・運動療法,インスリン治療が行われ,指標としてHbA1c やグリコアルブミンのほか,近年,持続血糖モニタリング(CGM)も用いられる.GDM 既往女性および糖代謝異常合併妊婦から生まれた児は,長期フォロ-アップが必要であることが明らかにされ,ガイドラインも作成された. -
尿酸代謝異常症と内分泌疾患
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各種ホルモンは尿酸の産生や排泄に影響し,尿酸代謝異常症(dysuricemia)を引き起こす.甲状腺ホルモンの異常は尿酸の腎排泄を抑制し,骨格筋でのプリンヌクレオチド回路を活性化してATP 分解を促進することで高尿酸血症を引き起こす.副甲状腺ホルモン(PTH)の異常は,腎臓ならびに消化管においてcAMP-PI3 キナ-ゼ-Akt シグナルを介してABCG2 の細胞膜局在に影響を及ぼす.また,骨格筋でのプリンヌクレオチド回路を活性化し,ATP 分解を促進することで高尿酸血症を引き起こす.バ-タ-症候群は代謝性アルカロ-シスやNa 再吸収を介してURAT1 を活性化し,高尿酸血症を起こす.抗利尿ホルモン(ADH)の分泌異常は,V1 ならびにV2 受容体を活性化することでGLUT9 の発現低下とABCG2 ならびにNPT1 の発現抑制により尿酸排泄を促進し,低尿酸血症が生じる一方で,尿崩症ではV1 ならびにV2 受容体の機能不全により高尿酸血症が生じる.これらの原疾患を治療しても持続する内分泌疾患の二次性高尿酸血症は,尿酸降下薬による治療が必要である. -
脂質異常症の未来予想図
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脂質異常症は,動脈硬化などのcommon な病態からrare な遺伝性疾患まで,多様な病態に関わる.古くは動脈硬化巣へのコレステロ-ルの沈着の発見にはじまり,コレステロ-ル代謝の解明とその制御手段としてのスタチンの発見,大規模臨床研究からのthe lower,the better の確立は,動脈硬化予防の一次予防から二次予防まで,多くの人に福音となった.さらに,近年の遺伝疫学研究から,遺伝子を標的とした創薬が次々実現しているとともに,the lower,the earlier,the better も明らかとなり,早期診断・早期治療へとパラダイムシフトしてきている.一方で,多くの未解決課題が残されている.動脈硬化リスクとして高LDL-コレステロ-ル(LDL-C)血症に次いで主要でありながら治療法の確立されていない高トリグリセライド(TG)血症,期待されながらいまだに治療薬が実現していない善玉(HDL)経路,メタボ型脂質異常症(高TG 血症+低HDL-C 血症)の治療開発,組織に蓄積した脂質の直接的除去薬の開発,common な脂質異常症に比べて治療開発が遅れているrare な脂質難病の治療開発,個別医療のための遺伝的素因・環境要因の解明と診断法開発など.遺伝的素因と環境要因が脂質異常症を生み,疾患につながる.遺伝的素因と環境要因が解明され,豊かな個別化医療が可能となり,common な疾患からrare な難病まで,治療薬ラインアップが揃い,早期治療が可能となる―そのような次の100 年を期待したい. - 性腺
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性分化疾患の考え方─Update
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性分化は,広くは受精卵から生殖能を獲得するまでの過程を意味する.一般に臨床の場で“性分化”とよぶ場合,胎生期に解剖学的性差が形成される過程を指す.性分化疾患(DSD)は性腺,内外性器の分化形成が非典型的な状態と定義される(図1).DSD は以前には半陰陽やインタ-セックスといった言葉で表されたものを含むが,差別的なニュアンスのある言葉の使用を避けることが提言され,DSD が用いられるようになった1).DSD は幅広い疾患群の総称であり,さまざまな要因による.非典型的な内外性器を有するDSD は後述する社会的性決定などの医療的行為を必要とすること,さらには先天性副腎過形成(CAH)による副腎不全など生命予後に直結する病態が潜む可能性があることなどから,速やかな高度専門医療による対応が必要な疾患である.本稿では,DSD の病態を解説すると同時に,DSD の臨床上最も大切な点,すなわちセックスとジェンダ-の区別とその理解を深めることを中心に,解説を加える. -
多囊胞性卵巣症候群
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多囊胞性卵巣症候群(PCOS)は生殖年齢女性において最も頻度の高い内分泌疾患であり,その病態は極めて複雑である.これまでの多くの研究成果により,その病態の特徴と疾患概念が徐々に整理されてきた.そして表現型には大きな人種差があるものの,人種を超えた共通の疾患概念として捉えられ,診断や管理の議論が進んできている.このような流れのなかで,PCOS が生涯にわたり女性の健康に影響を与えることが明らかになってきており,幅広い健康課題に配慮した管理指針が提案されることが期待される.わが国においては診療実態に即した独自の診断基準を用いているが,国際的な基準と独自基準の相異,それぞれの長所・短所を念頭に置きながら,PCOS 女性への最適な管理指針の議論を進めていくことが必要である. -
男性性腺機能低下症の診断と治療─小児から加齢男性性腺機能低下症まで
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テストステロンは外陰部の発達などの男性化,精子形成および中高年以降の筋肉量や骨塩量の維持などに重要であり,その欠乏により男性性腺機能低下症(MH)を発症する.小児期の男性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(MHH)から男性不妊や加齢男性性腺機能低下症(LOH 症候群)までのすべての年齢層に関わっている.ゴナドトロピン(LH およびFSH)の測定により,精巣自体の機能不全による原発性(高ゴナドトロピン)および二次性(低ゴナドトロピン)の鑑別が基本であり,治療方針の決定にも重要である.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による精巣機能障害や,無精子症治療後の低テストステロンなどが新たな性腺機能障害の病態としてあげられる.精子形成が必要な場合には,ゴナドトロピン製剤の自己注射による管理が必須となるが,思春期前やLOH 症候群の治療においてはテストステロン製剤による治療が主体となる.多診療科による連携にて,小児から成人へ,不妊診療から中年および老年期への移行期医療が拡充されるべきである. - 内分泌疾患と診療科連携
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遺伝性腫瘍症候群としての内分泌腫瘍
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内分泌腫瘍の多くは遺伝的要因の影響が小さい,いわゆる散発性腫瘍であるが,一部は単一遺伝子を原因とする遺伝性腫瘍であることが知られている.内分泌腫瘍を発症する遺伝性腫瘍症候群を表1 にまとめた.本稿では誌面に限りがあるため,代表的な遺伝性内分泌腫瘍である多発性内分泌腫瘍症(MEN)と遺伝的多様性に富む遺伝性褐色細胞腫・パラガングリオ-マ(hPPGL)を取り上げ,歴史的背景や現状,今後の展望などについて述べる. -
免疫チェックポイント阻害薬による内分泌代謝障害
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免疫チェックポイント阻害薬(ICI)を用いたがん免疫療法では,免疫機序を介すると考えられる有害事象〔免疫関連有害事象(irAE)〕が発生する.irAE は全身で認められるが,なかでも内分泌障害の頻度は高く,下垂体障害や1 型糖尿病は適切に対処されなければ重大な転帰をたどることもある.一方,下垂体障害,甲状腺障害発症者は非発症者と比べ生命予後が延長する.irAE 発症者において種々の自己抗体の存在が報告されており,一部は高リスクマ-カ-となる可能性がある.また,irAE は各臓器における自己免疫疾患と類似する特徴を有することから,その発症機序の解明は原因不明の自己免疫性内分泌疾患の病因解明につながることが期待される.拡大するがん免疫療法において,内分泌irAE の特徴を理解して適切に対処することは,臨床的に極めて重要であり,高リスクマ-カ-の開発や発症機序の解明が今後期待される. -
内分泌代謝領域におけるDOHaD学説
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DOHaD 学説は,胎生期や乳児期のさまざまな環境が成人期の健康維持あるいは疾病の罹患に大きな影響を与えるという概念である.当初は多くの疫学研究および動物実験から,母体の妊娠期から授乳期にかけての低栄養および過剰な栄養摂取が,子の成長後における肥満や2 型糖尿病などの代謝異常の発症リスクを高める可能性が示されてきた.最近では,母体の妊娠糖尿病(GDM)などの高血糖状態,高血圧,さらには母体へのステロイドや甲状腺ホルモン,微量元素やビタミンD ひいては内分泌攪乱物質の影響により,子の将来の高血圧や認知行動異常の発症も規定されうることが明らかになってきた.またDOHaD 学説の分子機構として,エピジェネティクスを介した長期にわたる遺伝子発現の変化が想定されている.したがって,妊娠期および授乳期の母体の栄養状態やホルモン状態を適切に管理することで,子の将来の成人期の疾患リスクを低減することが期待される. -
内分泌疾患の移行期医療─小児科医師と成人診療科医師に必要な視点
290巻9号(2024);View Description
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“移行期医療”は,小児期医療から個々の患者に相応しい成人期医療への移り変わりを計画的に行う医療と定義される.この医療では“疾患教育”と“自立支援”が重要な要素であり,これらは小児科医師と成人診療科医師との協働により行われる.小児内分泌疾患の多くは移行期医療の対象となる.日本小児内分泌学会は日本内分泌学会などと連携を取りながら移行期医療を推進している.同学会のHP には,小児期発症内分泌疾患の成人への移行期医療に関する提言,成人期までの自立支援を中心とする診療ロ-ドマップ,疾患ごとの移行期医療支援ガイドが掲載されている.移行期医療の実務面では,移行期・若年成人期に対象疾患で知られる,たとえばタ-ナ-症候群での大動脈拡張のような重篤な合併症の確認が肝要である.移行期医療の推進のためには,小児科医がその必要性を認識し,小児科と成人診療科の相違点を理解したうえで,成人診療科医と顔の見える連携を図ることが重要である.
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