医学のあゆみ

Volume 290, Issue 12, 2024
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特集 SGLT2阻害薬を再考する─ 機序・効果・安全性の最新情報
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SGLT2阻害薬と交感神経活性
290巻12号(2024);View Description
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糖尿病では全身の交感神経活性化が生じている.交感神経活動の亢進は合併症の発症・進展に寄与しており,その制御は糖尿病治療において重要である.交感神経活性化には,糖尿病性自律神経障害,腎障害・腎ストレスで惹起された求心性腎神経活性化による交感神経中枢である吻側延髄腹外側野(RVLM)の活動亢進,レニン-アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系亢進によるRVLM 刺激,圧受容器反射異常,カテコ-ルアミン代謝に関わるマグネシウム(Mg)依存性酵素のCOMT 活性低下などが関与している.SGLT2 阻害薬は腎障害抑制や糸球体過剰濾過などの血行動態是正,心不全抑制などを介して求心性腎神経を抑制し,交感神経活動を低下させるほか,圧受容器反射感受性の改善により交感神経を抑制する.また,血中Mg 濃度上昇,肝臓のCOMT 活性上昇とカテコ-ルアミン代謝亢進による交感神経抑制作用も示唆している.交感神経制御による臓器保護の観点から,SGLT2 阻害薬の積極的な臨床使用と新たな可能性が期待される. -
SGLT2阻害薬と尿路への影響
290巻12号(2024);View Description
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2014 年からわが国でも使用が認められたSGLT2 阻害薬は,今や最も頻用される経口糖尿病薬のひとつとして一般化し,心および腎の保護作用によって適応も拡大している.その一方で,性器感染症の頻度が高まることが報告されており,尿路感染症においてもリスクが指摘されている.近年では,尿路結石の予防効果がわが国から報告され,新たな治療戦略のひとつとして期待される.本稿では,SGLT2 阻害薬のリスクと泌尿器科領域における今後の展開について概説する. -
SGLT2阻害薬と腎臓保護
290巻12号(2024);View Description
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血糖降下薬の種類が限られ,レニン・アンジオテンシン系(RAS)阻害薬もない時代,顕性蛋白尿を呈する糖尿病患者の推算糸球体濾過量(eGFR)低下速度は年間-10 mL/min/1.73 m2であった.その後,多くのエビデンスを背景に,厳格な血糖管理とRAS 阻害薬を用いた降圧療法を含む集学的治療の有効性が確立され,この20 年間でその低下速度は年間-5 mL/min/1.73 m2まで改善した.さらに近年,腎臓からのブドウ糖排泄を増加させ,血糖値を低下させることを目的に作られた糖尿病治療薬であるSGLT2 阻害薬には,その血糖降下作用を超えた臓器保護効果が示された.その臓器保護のひとつが腎保護効果である.同薬剤を用いることで,顕性蛋白尿を呈する糖尿病患者のeGFR 低下速度は,年間-2 mL/min/1.73 m2まで改善できることが示されており,SGLT2 阻害薬は今,糖尿病関連腎臓病診療のgame changer となりつつある. -
SGLT2阻害薬と心筋保護
290巻12号(2024);View Description
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SGLT2 は,腎臓近位尿細管細胞に発現し,原尿から90%のグルコ-スとナトリウムを再吸収している.この阻害作用を持つSGLT2 阻害薬は,尿中にグルコ-スを排泄させることで血中糖濃度を低下させ,当初,糖尿病治療薬として開発された.しかし,2 型糖尿病患者を対象にした大規模臨床試験において,これらの薬剤は一貫して心不全による入院リスクを低下させた.また,ダパグリフロジンおよびエンパグリフロジンは,糖尿病の有無にかかわらず心不全を中心とした心血管イベントを改善することも示された.これまでに,さまざまな臨床・基礎研究により,SGLT2 阻害薬の多面的な作用がその心不全抑制効果に寄与することが示されている.本稿では,それらをまとめてみた. -
SGLT2阻害薬と肝臓保護
290巻12号(2024);View Description
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代謝異常関連脂肪性肝疾患(MASLD)肝病理のなかでも,肝線維化は血糖低下と密接に関連しており,肝硬変,肝がん,死亡率といったMASLD 予後の強い規定因子である.そのため,糖尿病を有するMASLD の治療薬は肝線維化の進行を抑制する薬剤が求められている.近年,MASLD を対象としたRCT が,SGLT2 阻害薬の肝病理組織への有用性を示した.トホグリフロジン(20 mg)48 週間介入は,MASLD の肝線維化スコアを60%低下させており,既存に報告されたピオグリタゾン,ビタミンE,リラグルチド,セマグルチドに比べて高い改善率であった. -
SGLT2阻害薬とサルコペニア
290巻12号(2024);View Description
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SGLT2 阻害薬は,2 型糖尿病治療において重要な役割を果たしているが,その機序や効果,安全性については引き続き研究が進められている.特にサルコペニアとの関連について再考することが求められている.本稿では,SGLT2 阻害薬のサルコペニアに対する影響に焦点を当て,最新の研究結果をまとめた.SGLT2阻害薬は2 型糖尿病において体重減少に効果があり,特に脂肪量の減少に有効である.しかし,筋肉量への影響については評価が分かれており,さらなる研究が必要であった.サルコペニアとの関連を考慮する際には,SGLT2 阻害薬が筋肉の質や機能に与える影響を包括的に評価することが重要である.
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TOPICS
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- 社会医学
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- 腎臓内科学
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連載
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- 臨床医のための微生物学講座 23
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麻疹ウイルス ― 麻疹排除状態の維持と今後の課題
290巻12号(2024);View Description
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◎麻疹はパラミクソウイルス科モルビリウイルス属に属する麻疹ウイルスによる感染症で,発熱,発疹,カタル症状を3 主症状とする.合併症である肺炎と脳炎は麻疹の2 大死因であり,先進国でも約0.1%の致命率を示す.麻疹ウイルスの持続感染によって,麻疹治癒後数年~10 年程度経ってから発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の予後は不良である.◎日本は,2015 年3 月にWHO 西太平洋地域麻疹排除認証委員会から麻疹排除が認定されたが,この状態を維持するためには,2 回のMR ワクチンの接種率をそれぞれ95%以上に高め,その接種率を維持していくことが重要である.海外渡航前には1 歳以上で2 回の接種歴があるかどうかを記録で確認する.海外から麻疹ウイルスが持ち込まれても広がらないようにするためには,麻疹と臨床診断した場合にはただちに保健所に届出をするとともに,発疹出現後7 日以内の3 点セット(EDTA 血,咽頭ぬぐい液,尿)を用いて全例の検査診断をPCR 法で実施し,積極的疫学調査による感染拡大予防策を講じることが重要である. - 緩和医療のアップデ-ト 18
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便秘のエビデンスアップデ-ト― 医師・看護双方から発刊されたガイドラインを紐解く
290巻12号(2024);View Description
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◎医師側からは2023 年7 月23 日,日本消化管学会から「便通異常症診療ガイドライン2023(慢性便秘症)」が発刊された.特に便秘患者に対峙したときにどのように鑑別を進めたらよいか,治療に対する考え方が示されている.看護側からは2023 年9 月15 日に日本看護科学学会から「看護ケアのための便秘時の大腸便貯留アセスメントに関する診療ガイドライン」が発刊された.本ガイドラインで特筆すべきは,看護師がエコ-を用いて直腸の便貯留をアセスメントし,アセスメントに基づいた看護ケアや食事,薬剤調整を提案している.近年,高齢化が進み,問診や排便回数のみで便秘を判断していた時代が限界を迎えつつある.本稿では,2 つのガイドラインを紐解き最新の知見を学ぶことで,明日からの緩和領域の便秘診療が変わることを期待する. - 自己指向性免疫学の新展開―生体防御における自己認識の功罪 10
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CAR-T細胞機能における内在性リガンド反応性TCRの功罪
290巻12号(2024);View Description
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T 細胞の活性化には,T 細胞受容体(TCR)からの1st シグナルと,補助刺激受容体からの2nd シグナルが必須である.キメラ抗原受容体(CAR)を含め,抗原認識受容体のシグナル伝達を可視化する方法として,抗原提示可能な脂質二重支持膜を用いた1 細胞1 分子イメ-ジングがある.解析の結果,免疫チェックポイント分子によるT 細胞抑制,抗体療法と疲弊解除,CAR-T 細胞の腫瘍抗原認識と細胞傷害活性など,さまざまな場面で受容体とシグナル伝達分子からなる機能ドメイン“マイクロクラスタ-”が形成され,それらがシグナロソ-ムとして時空間的にT 細胞の活性化を制御していることがわかった.ここでは,CAR マイクロクラスタ-からの1st シグナルに対し,内在性ペプチドMHC と結合することで凝集し,CAR の補助刺激シグナルとして働くTCR に関して,イメ-ジングの視点から議論する.
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FORUM
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- 死を看取る―死因究明の場にて 24
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死因究明の実践⑦
290巻12号(2024);View Description
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死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する.