Volume 290,
Issue 13,
2024
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特集 プレコンセプションケアの現状と課題
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医学のあゆみ 290巻13号, 1095-1095 (2024);
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医学のあゆみ 290巻13号, 1097-1101 (2024);
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国立成育医療研究センタ-のプレコンセプションケアは,①今後,妊娠を考えている女性とカップルを対象としたプレコンセプション検診,②基礎疾患または産科合併症既往がある女性を対象としたプレコンセプション相談,③教育および啓蒙活動から成り立っている.基礎疾患の有無や既往歴にかかわらず,今まで健康であった女性が妊娠した場合でも,一定の割合で産科合併症は起こりえる.特に前児を亡くしたり,母体が生命の危機に瀕するほどの合併症を併発したりした方々は,次の妊娠・出産を思い悩むことが多いため,プレコンセプションケアをより慎重に行う必要がある.相談内容をしっかりと伺い,気持ちに寄り添いながら次回妊娠に向けてともに考えたうえでの結論が“次の妊娠に取り組む”または“今後の妊娠は見合わせる”のどちらであっても,女性やカップルが納得して選択したことであれば,プレコンセプションケアの目的は達成できたと思われる.
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医学のあゆみ 290巻13号, 1102-1106 (2024);
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妊娠を考えている女性の内科的慢性疾患を管理する場合,その原疾患をコントロ-ルすることで母児の周産期予後は大きく改善する.そのためにはまず原疾患を診ている主治医が,患者に対して妊娠・出産をどのように考えているかを情報共有していることが前提となる.プレコンセプションケア(PCC)および妊娠管理を考えるうえでの原則は3 つあり,原疾患の妊娠への影響,妊娠の原疾患への影響,薬の母児への影響である.これらのことが産科医・内科主治医・患者との間で情報共有されていることが理想である.本稿では,内科的慢性疾患のなかでも,高血圧,甲状腺疾患,関節リウマチ(RA),全身性エリテマト-デス(SLE),抗リン脂質抗体症候群(APS)を中心に,PCC のキ-ポイントを産科医の立場から解説する.妊婦の高齢化により内科的慢性疾患を有する妊婦の比率は増加していると予測される.妊娠のすべては“計画妊娠”であるべきであり,妊孕能を有する女性の内科的慢性疾患を管理する主治医は,その原疾患の治療のみならず,その先にある“妊娠・出産”のことに目を向けてPCC を実践してもらいたい.
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医学のあゆみ 290巻13号, 1107-1110 (2024);
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精神科におけるプレコンセプションケアでは,治療薬が妊娠・授乳にどのような影響を及ぼすかが話題になることが多い.抗精神病薬,抗うつ薬は,先天異常や児の発達に影響を与えないことが示されている.近年では,むしろ治療中断により精神症状が悪化することで児の早産や出生時低体重のリスクが上がることが知られており,やみくもに内服を中断しないよう伝えることは有意義である.気をつけるべき薬剤として,バルプロ酸と炭酸リチウムがある.バルプロ酸は先天異常のリスクを高め,児の発達にも影響を与えることから,妊娠可能性のある双極症患者には処方すべきでないと考えられる.炭酸リチウムも注意が必要であるが,600 mg/日未満ではリスクが高まらないことが知られてきている.これらの事柄を患者・家族と共有し,将来の妊娠について話し合うことにより,安心して妊娠に臨むことができるであろう.
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医学のあゆみ 290巻13号, 1111-1115 (2024);
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“より健康な”子どもを“産む”ための医療技術の開発が進む現代社会において,知的障害者が“子を産み育てる存在”としてプレコンセプションケアが享受されているのかとの問いを基に,かれらに対するプレコンセプションケアの現状と課題の整理を目的とした.学校教育では生殖に関する内容が積極的に教えられていないが,ある社会福祉法人では以前からプレコンセプションケアの内容を含む教育や支援がなされているなど,すでに実践の蓄積がある.スウェ-デンでは,知的障害者らが「べビ-シミュレ-タ-」を用いて子育ての疑似体験を行うなど,かれらが“親になることの現実を知ったうえで自己決定すること”を支援していた.今後,日本で知的障害者に対するプレコンセプションケアを推進していくならば,個に対するミクロの支援と医療現場での合理的配慮などのメゾの視点,制度面の充実といったマクロの視点をあわせて議論を進めていく必要がある.
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医学のあゆみ 290巻13号, 1116-1118 (2024);
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近年,プレコンセプションケアという言葉が浸透してきた.さらに妊娠年齢が高齢化していることや治療の進歩も伴い,妊娠に臨む慢性疾患を有する女性が増加している.これらの女性はまさにプレコンセプションケアが必要な集団である.主治医は妊娠計画において慢性疾患患者への投薬を整理し備える必要がある.まずは使用中の薬について,妊娠中にも使うことが可能であるかを検討したい.それが難しい場合,妊娠中の使用に関する安全性情報を有し,使用可能な薬への変更を考慮する.ここで注意を要するのは,妊娠を考えて薬を変更することが,本人の病状にとってもよい選択であるかを並行して検討することである.本稿では,妊娠と薬の領域の基本事項から,妊娠中の薬の安全性の評価,情報提供について取り上げたいと思う.
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医学のあゆみ 290巻13号, 1119-1124 (2024);
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昨今,女性のプレコンセプションケア(PCC)についての認知度は高まっているが,依然として男性PCC への意識は低い.しかし,実際には妊娠率・流産率だけでなく,次世代の肥満,糖尿病,自閉症や注意欠如・多動症(ADHD)などの精神疾患,悪性腫瘍のリスクを高めるなど,男性の健康状態や生活習慣が妊娠・出産や次世代に与える影響は大きい.本稿では,父親の年齢,肥満,喫煙,環境要因,メンタルヘルスの具体的な影響,および男性PCC に関する最新のエビデンス,男性PCC を実践するうえで気をつけたい点や有望な取り組みについて紹介する.本稿が自身の家族や友人などの身近な人々から,果ては行政機関内において男性PCC を話題にするきっかけとなれば幸いである.
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医学のあゆみ 290巻13号, 1125-1129 (2024);
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LGBTQ は一般人口と比べて医療のアンメットニ-ズが高いことが示されている.理由として,彼ら/彼女らが社会的・臨床的差別を経験してしまっていることが医療への受診を困難にしているという一面がある.なかでも,子宮がん検診や性感染症検査といった,性的なことに関わる健診,プレコンセプションケアは相談されにくい傾向にある.一方,性的指向や性自認と,挙児希望はまったく別のものであり,子どもを持つことを望んでいるLGBTQ の割合は一般人口と変わらない.2024 年現在,日本は法的にはLGTBQ の出産,子育てを後押しする形にはなっていないとはいえ,医療や健診はあらゆるすべての人に届けられる体制であることが望ましい.個々の医療者や医療機関がLGBTQ を含むすべての人に尊厳と敬意をもって望むことで,誰一人取り残さないプレコンセプションケアの実現を目指せればと考える.
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TOPICS
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医用工学・医療情報学
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医学のあゆみ 290巻13号, 1131-1132 (2024);
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救急・集中治療医学
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医学のあゆみ 290巻13号, 1133-1134 (2024);
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連載
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臨床医のための微生物学講座 24
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医学のあゆみ 290巻13号, 1135-1139 (2024);
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◎RS ウイルスは,小児,特に乳児期の急性気道感染症の原因として最も重要な病原体である.初感染の際に急性細気管支炎としての病態をとり,入院加療を要することが多い.特異的な治療薬はなく,必要に応じて輸液や酸素投与などの対症療法を行う.細菌感染症を合併しないかぎり,抗菌薬投与は有効ではなく,抗菌薬の適正使用に努める.低出生体重児,免疫不全者,慢性の心肺疾患を有する患者では,特に重症化のリスクが高く,RS ウイルスの流行期には,RS ウイルスに対するモノクロ-ナル抗体(パリビズマブ)が毎月予防投与される.以前は冬季に流行するウイルスであったが,ここ数年,日本では流行開始時期が徐々に早まり,最近は夏に流行することが多い.流行の開始時期は地域差も大きく,モノクロ-ナル抗体の適切な開始時期の予測は困難である.半減期の長くなったRS ウイルスに対するモノクロ-ナル抗体や母体へのワクチンの有効性が示され,RS ウイルス感染症に対する予防戦略が今後変わっていくとみられている.
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緩和医療のアップデ-ト 19
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医学のあゆみ 290巻13号, 1141-1146 (2024);
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◎救急・集中治療領域の緩和ケアと,がん領域の緩和ケアには大きな違いがある.急性期の緩和ケアでは時間がなく,患者との関係がないなかで不確実性も高いため,コミュニケ-ションが困難であり,コミュニケ-ションスキルの修練が最も重要である.特に3 つのスキル(SPIKES,NURSE,REMAP)を急性期医療者が使いこなせるように支援していくことが大切だ.急性期医療者が無意識に使う,よくないコミュニケ-ションには5 つのパタ-ンがある.実際に救急外来や集中治療室で緩和ケアを行っていくには,緩和ケアに興味がある医療者を仲間にし,それぞれのスピ-ド感や需要に合わせて緩和ケアを提供する必要がある.救急医療も緩和ケアも当たり前の医療であり,日本でもガイドラインや手引きが必要である.治療をし,症状緩和を行い,患者家族に安心してもらうことは,常に患者にとって必要な医療だ.
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自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪 11
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医学のあゆみ 290巻13号, 1147-1152 (2024);
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免疫系は,内因性および外因性の損傷に対する宿主の応答を調節する賦活回路と抑制回路の複雑なネットワ-クによって調整されている.細胞の最も外側を覆うグライコ-ムは,免疫応答のファインチュ-ナ-として機能し,免疫寛容や免疫活性化を制御する.免疫細胞のグライコ-ムは,これまでバルクでの解析手法しか存在せず,そのため1 細胞レベルでの理解が妨げられていた.筆者らは,複数のDNA バ-コ-ド標識レクチンを用いることで,糖鎖情報を遺伝情報に変換,ポリメラ-ゼ連鎖反応(PCR)で増幅し,個々の細胞の糖鎖と遺伝子の発現を同時解析する技術(scGR-seq)を開発した.scGR-seq を用いて末梢血単核細胞(PBMC)を解析すると,免疫細胞ごとのグライコ-ム情報を一斉取得,細胞系譜における糖鎖変化を明らかにし,免疫細胞グライコ-ムの新たな機能を解析した.本稿では,筆者らが世界に先がけて開発に成功した1 細胞グライコ-ム解析技術についてご紹介するとともに,今後の免疫糖鎖研究における展望について議論する.
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FORUM
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死を看取る ─ 死因究明の場にて 25(最終回)
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医学のあゆみ 290巻13号, 1153-1156 (2024);
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死とは生命の終焉であり,誰もが最後には必ず経験するものである.この過程で起こる身体上の変化と,死に関わる社会制度について,長年日常業務として人体解剖を行ってきた著者が法医学の立場から説明する.
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数理で理解する発がん 15
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医学のあゆみ 290巻13号, 1157-1161 (2024);
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日本人の3 人に1 人はがんで亡くなると推計されている.治療法も増えてきたとはいえ,まだ克服するには至っていない.われわれの体内でがん細胞がどのように出現してくるのかを理解することは,がんに対する有効な治療法を見出すための最初の一歩と言える.発がんのプロセスを理解するのに,一見何の関係もなさそうな“ コイン投げ” を学ぶ必要があると言われると驚くかもしれない.本連載では確率過程の観点から,発がんに至るプロセスを紐解いていく.