医学のあゆみ
Volume 291, Issue 1, 2024
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【10月第1土曜特集】 アトピ-性皮膚炎の治療を網羅する
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ステロイド外用剤
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionステロイド外用剤は1950 年代に開発され,その後,日本で5 段階の力価分類が確立された.しかし,1980年代から1990 年代にかけて副作用への懸念からステロイドバッシングが起こり,現在も忌避傾向が続いている.ステロイド外用剤の適切な使用法としてFTU(finger tip unit)やプロアクティブ療法があり,これらを実践することで確実な効果と安全性が期待できる.ステロイド外用剤の不適切な使用は,酒さ様皮膚炎を引き起こす可能性があり,長期連用による皮膚萎縮への注意も必要である.患者のアドヒアランスを高めるには,医師と患者の適切なコミュニケ-ションが必要である. -
意外と知らない“保湿”,基本の“キ”
291巻1号(2024);View Description Hide Description診療科を問わず患者から質問されることの多い“保湿”とは,単にワセリンなどの基剤を塗る行為を指すだけではない.保湿剤には水分保持力の高い物質(ヒュ-メクタント)を皮膚表面に塗布することにより水分を補う“モイスチャライザ-”と,皮膚表面に油膜を作ることにより経皮水分蒸散を抑える“エモリエント”の2 種類があり,季節,肌の状態,部位に合わせて保湿剤の基剤も含め,適切な薬剤を選択することが十分な保湿のためには必要である.現在では後発品や市販品を含む多種多様な保湿剤が存在するため,皮膚科以外の診療科でも,患者のみならず家族の適切なスキンケアの一助としていただきたい. -
アトピ-性皮膚炎に対する漢方治療
291巻1号(2024);View Description Hide Description遺伝的素因をベ-スに環境要因が複雑に関与して発症し,増悪と寛解を繰り返しながら慢性に経過する難治性炎症性皮膚疾患であるアトピ-性皮膚炎(AD)は,近年,病態解明が進み,治療薬の選択肢も拡大しつつある.そのなかで漢方薬は診療ガイドライン上,効果が得られないAD 患者に対して,漢方療法を併用することを考慮してもよいという推奨文とともに“推奨度2”で記載されている.漢方薬は保険収載されており,比較的安全,安価でかつ効果的である一方,難解な漢方理論を習得し,師匠の下で経験を積まないとうまく使いこなせないのではないかと敬遠されがちである.そこで本稿では,AD 治療で使われる代表的な漢方薬,消風散と補中益気湯を中心に,初学者でも気軽に使え,効果が実感できる方剤を選んで,できるだけ漢方理論は使用せずエビデンスに基づいた解説とともに,それらをうまく使えるような方法論を提案したい. -
抗ヒスタミン薬
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)は湿疹を主病変とする疾患であるため,治療の基本はステロイドをはじめとする抗炎症外用薬である.ただし,AD の病態形成に関与する瘙痒は,QOL の低下や掻破行動による皮膚症状の増悪をもたらし,病像の進行や皮膚感染症,また眼症状など合併症の誘因にもなりうるため,瘙痒のコントロ-ルは治療・管理上重要である.このため瘙痒に対しては,まずは抗炎症外用薬に非鎮静性第二世代ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)内服治療を追加してみる価値がある.アレルギ-性結膜炎やアレルギ-性鼻炎,蕁麻疹などの合併症を緩和する観点からも,抗ヒスタミン薬は外用治療の補助療法として推奨される.抗ヒスタミン薬は,製造された年代やヒスタミンH1受容体への親和性,脳内H1受容体占拠率などから第一世代と第二世代に分類されるが,眠気,インペア-ドパフォ-マンス,倦怠感などが少なく,抗コリン作用のない非鎮静性第二世代抗ヒスタミン薬を使用するのが望ましい. -
タクロリムス軟膏
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionタクロリムス軟膏はステロイド外用薬による皮膚萎縮などの副作用を認めることがないため,長期的に使用することができ,皮疹に対しても高い有効性を期待できる.臨床使用されてからすでに20 年以上が経過し,その有効性と安全性が明らかにされてきている.タクロリムス軟膏の作用機序としてはT 細胞活性化を抑制する免疫抑制剤として承認され,その他にもさまざまな薬理作用を持つことがわかってきており,炎症・痒みを抑制し,皮膚バリア機能の改善に役立ち,皮疹の慢性化を抑制しうるという特徴を持っている.タクロリムス軟膏使用時における刺激感が生じる可能性はあるため,前もっての説明をすることで副作用に対応することもできる.本稿ではタクロリムス軟膏の作用,性質,使用方法などを示し,今後のアトピ-性皮膚炎(AD)治療においても治療の選択肢のひとつになることを,文献的考察を含めて概説する. -
デルゴシチニブ軟膏
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)は免疫応答の破綻,バリア機能の異常,痒みなどが複雑に絡み合う疾患である.近年,ヤヌスキナ-ゼ(JAK)阻害薬が複数開発されているが,そのなかでもデルゴシチニブはわが国において開発されたJAK 阻害薬の外用剤である.デルゴシチニブは,JAK/STAT 経路を阻害することでAD の主要な3 要素を改善させることが基礎的研究より示唆された.また臨床試験では,成人および小児のAD 患者において皮疹や痒みの改善が示された.成人では0.5%製剤を,小児では0.25%製剤あるいは0.5%製剤を1 日2回外用する.副作用としては毛包炎やヘルペスなどに注意が必要である.デルゴシチニブは,AD の寛解導入や寛解維持療法において有用な外用薬と考えられる.ステロイド外用薬(TCS)との併用も可能で,皮膚の菲薄化などの副作用軽減にも期待できる. -
ジファミラスト軟膏
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionジファミラスト軟膏は,ホスホジエステラ-ゼ4(PDE4)という酵素の機能阻害をその作用機序とする,新しいタイプの非ステロイド系抗炎症外用剤である.わが国では2024 年現在,小児用(0.3%軟膏),成人用(1%軟膏)の2 種類が使用可能である.その抗炎症効果はステロイド外用剤に比べて必ずしも強いものではないものの,副作用についてはステロイド外用剤とはもちろん,その他の既存の非ステロイド系外用剤と比べても少ない可能性がある.慢性疾患であるアトピ-性皮膚炎(AD)の治療は長期にわたるため,長期使用でも副作用の少ない抗炎症外用剤のニ-ズは高く,新しい外用治療選択肢としてジファミラスト軟膏は大いに期待されている. -
アトピ-性皮膚炎に対する光線療法
291巻1号(2024);View Description Hide Description光線療法は古代エジプトにまで遡る歴史があり,古くは日光浴療法であったが,その後,紫外線A 波(UVA)や紫外線B 波(UVB)を利用した治療法が確立され,現代では多様な人工光源が用いられている.光線療法はアトピ-性皮膚炎(AD)のみならず乾癬,類乾癬,掌蹠膿疱症,尋常性白斑,菌状息肉症,円形脱毛症などのさまざまな皮膚疾患に保険適用となっている.治療の作用機序としては,表皮角化細胞やT 細胞への影響,免疫系への作用などがあげられる.治療方法には全身照射と限局照射があり,患者の状況に応じて照射範囲や期間を調整するが,長期的な使用における皮膚癌のリスクには注意が必要である.AD において紫外線療法は,抗炎症外用薬や抗ヒスタミン薬,保湿外用薬などによる治療で軽快しない例やコントロ-ルできない例,従来の治療で副作用を生じている例に考慮される.本稿では,AD に対する光線療法についてまとめる. -
分子標的薬時代のアトピ-性皮膚炎治療におけるシクロスポリンのポジショニング
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)の治療はステロイド外用剤および保湿剤の外用療法が中心であるが,近年,その治療は抗IL-4/13 受容体抗体のデュピルマブを含む生物学的製剤や,バリシチニブなどの内服JAK 阻害薬の登場により急速に進歩している.カルシニュ-リン阻害薬であるシクロスポリンは,臓器移植において拒絶反応を抑制することに用いられる経口免疫抑制剤であるが,2008 年から重症AD 患者に対しても保険適用である.シクロスポリンは重症AD のコントロ-ルに非常に効果的な薬剤である一方で,血圧上昇や腎機能障害などの長期内服に伴う副作用や,内服終了後の再燃のリスクなどがあり,内服はできるだけ短期に留め,生物学的製剤や内服JAK 阻害薬に切り替えていくべきと考える. -
デュピルマブ
291巻1号(2024);View Description Hide Description既存の治療に抵抗性の中等症・重症のアトピ-性皮膚炎(AD)の治療において,デュピルマブは優れた治療効果を示す.2018 年に上市されて以来,多数の患者に使用され,寛解導入から寛解維持に至るまで長期の有効性と安全性が報告されている.しかし,寛解維持後の投与中止や投与間隔の延長といった出口戦略については,これまで報告は少なく,主治医の経験に基づき行われているところが多かった.近年では最低1 年程度の継続投与を行い,寛解維持されていることを確認した後に判断するのがよいとの報告が相次いでいる. -
トラロキヌマブの有用性
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)は,乳幼児・小児期から発症し,成人でも2.5~10.2%と高い有病率を有する.皮膚バリア機能の障害,抗原特異的・非特異的に誘導される2 型免疫反応によるアレルギ-炎症,サイトカイン,ケモカインおよび化学伝達物質により引き起こされる痒みなど,炎症と皮膚バリア機能障害に関与する2 型サイトカインであるIL-4 およびIL-13 が重要な役割を担っている.抗IL-4/IL-13 抗体製剤,JAK 阻害薬,抗IL-31 抗体製剤など,AD の全身治療として治療選択肢が広がっている.トラロキヌマブは,2022 年12 月に承認されたAD 治療薬である.本剤はIL-13 に高い親和性で特異的に結合し,IL-13 を介したシグナル伝達を阻害する免疫グロブリンG4(IgG4)サブクラスの組換えヒトモノクロ-ナル抗体であり,IL-13 を介したシグナル伝達のみを阻害する初の抗体製剤である.従来の生物学的製剤と比較して,効果は同等である一方,眼合併症や顔面病変の悪化の頻度が低く,安全性にも期待ができる新規治療薬である. -
レブリキズマブ
291巻1号(2024);View Description Hide Description2024 年5 月に,アトピ-性皮膚炎(AD)治療薬としてレブリキズマブが上市された.レブリキズマブはヒト化抗IL-13 抗体であり,AD で最も重要なサイトカインのひとつであるIL-13 に結合し,IL-13Rα1 がIL-4Rαと結合することを阻害して薬効を発揮する.レブリキズマブ単剤とプラセボを比較した2 つの第Ⅲ相試験(ADvocate1 試験とADvocate2 試験)において,レブリキズマブ単剤のほうがIGA0/1(かつ2 ポイント以上減少)とEASI-75 の達成率が有意に高いことが報告された.また注目すべきことに,16 週以降で4 週おき投与群の有効性が2 週おき投与群と変わらなかった.ステロイド外用剤との併用試験(ADhere 試験)でも,同様の指標でレブリキズマブ群のプラセボ群に対する優越性が示された.今後,レブリキズマブがAD の全身療法の中心的存在になることが期待される. -
ネモリズマブ
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)は,皮膚バリア機能障害,免疫異常,痒みの3 つの要素が病態を形成する慢性炎症性皮膚疾患である.なかでも痒みは最も改善してほしい症状であり,外来受診動機の最重要症状とされている1).AD の痒みの特徴として,痒みの強度が強いことや痒み過敏の状態を呈していることなどが知られている.特にAD では,搔破すればするほど痒みが増強してしまうitch-scratch cycle という痒みの悪循環を呈し,病変の難治化の一因となっている.このような状況は睡眠障害をもたらし,生活の質(QOL)を著しく低下させる.このAD における難治性の痒みの原因として,IL-31 が重要な働きをしている.そのため,AD の痒みを改善させるためには,IL-31 が関与する痒みの経路を遮断することが重要である.近年,このIL-31のシグナルを抑制できるネモリズマブが開発された.本稿では,AD におけるIL-31 の役割とネモリズマブの効果について概説する. -
中等症~重症アトピ-性皮膚炎に対するウパダシチニブ治療のresponderを予測する
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)の病態形成には,2 型炎症,痒み,皮膚バリア障害の3 つの要素が関与しており,これらを制御することが治療の基本である.ウパダシチニブはヤヌスキナ-ゼ(JAK)1 を主に阻害し,JAK1依存性サイトカインの作用を抑制することにより高い治療効果を発揮するが,患者の治療反応性には個人差がある.筆者らは,中等症~重症AD 患者に対するウパダシチニブ治療のresponder を予測する患者背景因子を検討した.ウパダシチニブ治療12 週後のIGA 0/1 達成の予測因子は,15 mg 治療では治療前EASI 低値と高年齢であり,30 mg 治療では治療前血清IgE とLDH 低値であった.また,治療2 週後の痒みスコアであるPP-NRS≦1 の達成は,治療12 週および治療24 週後の皮疹の完全寛解(EASI-100)の予測因子であった.ウパダシチニブ治療responder の予測因子の解明は,AD の個別化医療の推進に貢献すると考えられる. -
アブロシチニブ
291巻1号(2024);View Description Hide Description本稿では,アトピ-性皮膚炎(AD)の治療として主力薬の一角を占めるJAK 阻害薬アブロシチニブを解説する.アブロシチニブはJAK1 を特に選択的かつ可逆的に阻害する.アブロシチニブの臨床試験シリ-ズは“JADE”というニックネ-ムがついており,主要な“JADE”臨床試験はJADE COMPARE 試験,JADE DARE 試験,JADE REGIMEN 試験,JADE EXTEND 試験である.JADE COMPARE 試験では,アブロシチニブに早期からの効果を期待でき,特に瘙痒が改善すること,アブロシチニブ200 mg が顔面皮疹に効果を発揮することが証明された.JADE DARE 試験では,アブロシチニブ200 mg がデュピルマブよりも有意な効果を認めた.JADE REGIMEN 試験では,アブロシチニブを休薬してAD が悪化・再燃しても,再投与で速やかに改善することが証明された.JADE EXTEND 試験では,デュピルマブノンレスポンダ-患者へのアブロシチニブの効果,特にアブロシチニブ200 mg 投与の効果が立証された.最後に,東北医科薬科大学皮膚科での使用経験を提示する. -
バリシチニブによるアトピ-性皮膚炎治療
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionバリシチニブ(オルミエント®)は,ヤヌスキナ-ゼ(JAK)1 とJAK2 を選択的に阻害する内服薬で,アトピ-性皮膚炎(AD)の全身治療として用いられている.炎症性サイトカインの産生を抑制し,皮膚バリア機能やタイプ2 炎症反応,痒みの改善が期待される.成人では4 mg を1 日1 回経口投与し,2 mg に減量可能である.2 歳以上の小児にも体重に応じた用量で使用できる.臨床試験で皮疹や痒みの改善効果が確認され,QOL 向上も示された.リアルワ-ルドデ-タでも治療効果が報告され,特にEASI が高くなくても,痒みが強くQOL が低下している人,いわゆる“itch dominant”の患者〔痒みのスコア(NRS)7 点以上,皮疹の面積の割合(BSA)10~40〕に有効とされる.有害事象として痤瘡,毛包炎,帯状疱疹などがあるが,バリシチニブは他のJAK 阻害薬よりも安全性が高く,副作用を懸念する患者や高齢者には特に適している.短期間の使用も可能で,注射を避けたい患者にも推奨される.バリシチニブは中等症から重症のAD 患者,特に痒みが強い患者に適しており,減量や再投与も可能である. -
アトピ-性皮膚炎の美容問題
291巻1号(2024);View Description Hide Descriptionアトピ-性皮膚炎(AD)患者は,炎症を伴った皮膚が乾燥して痒みとともに,苔癬化や色素沈着,赤みなどで大きな疾病負荷を受けている1).その見た目問題は人生や日常生活に大きな影響を与えているが,医師にそれを上手く伝えたり,解決できたりしている患者は少ない2).また,このような問題点をどのように解决していけばよいか,絶対的な正解はない.そして,悩んでいる患者が得られる情報源も限られており,正しい情報にアクセスするための努力も必要と思われる.本稿では,AD の見た目の悩みと,それを解決するための手段を概説したい.
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