医学のあゆみ
Volume 291, Issue 2, 2024
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特集 セラノスティクス─ PET画像診断から核医学治療へ
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具体例からみるセラノスティクスの原理と課題
291巻2号(2024);View Description Hide Description診断(diagnostics)と治療(therapy)を一体化させたアプロ-チであるセラノスティクス(theranostics)の分野が大きな注目を集めている.今回は,癌に対する核医学技術を用いたセラノスティクスに限定して議論し,前立腺癌に対する68 Ga/177 Lu‒PSMA による診断・治療の具体例を確認しながら,セラノスティクスの原理と利点を概説したうえで,セラノスティクスにおける“診断”が,古典的な診断とどのような点で異なるかを詳説する.最後に,セラノスティクスが持つ課題についても整理する. -
PET診断薬の院内製造の現状
291巻2号(2024);View Description Hide Description陽電子断層撮像(PET)診断に用いられる放射性医薬品(PET 診断薬)は,その物理学的半減期が短いため(18F:110 分,68Ga:68 分),病院内にサイクロトロン施設などを設置し,合成装置などを用いてPET 診断薬を院内で製造し,PET 検査に供されている.本稿では,現在国内においてPET 診断薬のなかで最も使われている18F 標識PET 診断薬,および近い将来に国内導入される見込みである68Ga 標識PET 診断薬の院内製造法について概説する. -
神経内分泌腫瘍に対するルタテラ治療
291巻2号(2024);View Description Hide Descriptionルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ静注®)はペプチド受容体放射線核種療法(PRRT)とよばれる治療の一種であり,神経内分泌腫瘍(NEN)などの細胞表面に発現するソマトスタチン受容体(SSTR)を標的とした核医学治療である.本治療の開始前に薬剤が腫瘍へ取り込まれることを確認するため,あらかじめ核医学検査にてSSTR の発現を確認して適応を判断する.2021 年より保険適用となっている治療であり,放射線管理が必要なため患者は放射線治療病室や特別な措置を用いた病室でも入院管理ができるようになった.しかし,放射線の規制や放射線に不慣れなスタッフに心理的負担がかかるため,施行できる施設は約80施設に限られている.本治療はこれまで二次治療以降に使用されていたが,近年は初回治療としてのエビデンスが集積しつつある.このため,今後も発展が見込まれる治療であるが,わが国での普及には放射線管理の規制緩和が課題となる. -
褐色細胞腫・パラガングリオ-マに対するライアット治療
291巻2号(2024);View Description Hide Description褐色細胞腫・パラガングリオ-マ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のカテコ-ルアミン産生クロム親和性細胞から発生する腫瘍で,ノルアドレナリン類似物質であるMIBG(metaiodobenzylguanidine)を取り込む.MIBG に123I や131I を結合させることによりPPGL の診断や治療に用いられる.治癒切除不能なPPGL の治療として,2022 年1 月より“ライアットMIBG-I131 静注”(以下,ライアット)が発売され,保険診療可能となった.国内での多施設共同治験の結果から,ライアット治療で完全奏効に達することは少ないが,腫瘍縮小効果やホルモン値の改善が示され,生命予後の改善が期待される.本稿では,ライアットによる核医学治療について概説する. -
前立腺癌に対するPSMA標的治療
291巻2号(2024);View Description Hide Description近年,前立腺特異膜抗原(PSMA)を標的としたPET 画像診断および核医学治療が注目されている.PSMAは前立腺癌細胞に発現する膜タンパク質であり,この特性を利用することで高感度かつ高特異度な画像診断が可能となる.PSMA PET は従来の診断法では検出が難しい微小転移や再発病変を検出できる.PSMA PET の診断精度は高く,多くのガイドラインで推奨されている.さらに,PSMA を標的とした核医学治療の研究と臨床応用が進んでおり,セラノスティクスとして診断と治療を一体化した新しいアプロ-チが前立腺癌診療に革命をもたらしている.ルテチウム(Lu)-177 で標識したPSMA 治療薬は,去勢抵抗性転移性前立腺癌(mCPRC)患者に対して有効性が確認されており,FDA に承認されている.今後,より早期の前立腺癌症例への適応拡大が期待されており,さまざまな併用療法や新しい放射性核種を用いた治療法が研究されている. -
FAP(線維芽細胞活性化タンパク質)標的PETからセラノスティクスへの挑戦
291巻2号(2024);View Description Hide Description近年,腫瘍微小環境は腫瘍学における診断および治療戦略の文脈で注目を集めている.腫瘍間質は数ミリを超える大きさの悪性細胞の周囲に発生することが報告されており,さまざまな悪性腫瘍に共通してみられる.特に乳がん,大腸がん,膵臓がん,肺がんなどは,殊に強い線維形成反応を伴うことから,腫瘍間質の形成も顕著であることが知られている1).線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)は,この腫瘍間質の主要な部分を構成するがん関連線維芽細胞に特異的に発現することが知られている.線維芽細胞活性化タンパク質阻害薬(FAPI)はFAP に選択的に結合することから,多くの悪性腫瘍に共通するこの腫瘍間質を可視化することができる2). -
核医学セラノスティクスにおけるdosimetry
291巻2号(2024);View Description Hide Descriptionわが国で従来使用されている131(I ヨウ素)を用いた甲状腺がんに対する治療に加え,α線放出核種である223Ra(ラジウム)や新しいβ線放出核種である177Lu(ルテチウム)を用いた治療薬などが臨床で使用され大きく変化している.これらの放射性薬剤は全身に分布するため腫瘍や正常臓器に対する線量評価の必要性が指摘されている.さらに,近年開発が進んでいるα線放出核種の225Ac(アクチニウム)や211A(t アスタチン)を 用いた治療薬などが加わると,dosimetry の重要性はますます高まることが予想される.そこで本稿では,dosimetry についての基礎から最新の動向を解説する. -
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TOPICS
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- 細胞生物学
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- 産科学・婦人科学
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連載
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- 臨床医のための微生物学講座 25
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ヒトプリオン
291巻2号(2024);View Description Hide Description◎クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)に代表されるプリオン病は,急速に進行する認知症を主体としており,アルツハイマ-病やパ-キンソン病と同様に神経変性疾患に分類される.その一方で,医療行為や食肉を介した感染によって医療現場や食生活に非常に大きな影響を与えた感染症でもある.病原体のプリオンはタンパク質を主体として核酸を持たないことから,細菌やウイルスとは大きく異なる特性を持っている.そのため,不活化方法も一般的な方法(ホルマリン,アルコ-ルなど)では十分ではない.医療現場においてプリオンの不活化が必要な場合,不活化方法の特性を理解して,状況に応じた方法を選択することが必要である. - 緩和医療のアップデ-ト 20
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アドバンス・ケア・プランニング─ わが国における望ましいACPとは?
291巻2号(2024);View Description Hide Description◎わが国では,2018 年に厚生労働省により「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」が改訂されてから,アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の普及が急速に進められてきた.「人生会議」という愛称がつけられ,ロゴもでき,各地方自治体で啓発活動が行われてきた.また,全国の病院や地域でACP の模索が進められ,諸学会でも提言の発表やガイドラインでの推奨,学術大会での討論など,いたるところで話題になっている.さらに,医療・介護・福祉の現場だけでなく,お金や法の専門家,一般市民の間でもACP が話題になってきている.本稿では緩和医療に関連してACP について概説し,論点を整理し,わが国で進めていくうえでの留意点について考察する. - 自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪 12
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細胞内核酸センサ-経路の異常活性化を起因とする自己炎症性疾患
291巻2号(2024);View Description Hide Description自己炎症性疾患は,主に自然免疫系が過剰に活性化されることにより,さまざまな組織や臓器に炎症が生じる遺伝性の疾患群である.近年,遺伝子解析技術の発展により,自己炎症性疾患の原因遺伝子変異(バリアント)が相次いで同定され,自然免疫を制御する新規の分子基盤がわかってきている.筆者らは,細胞内タンパク質の輸送を担う機能分子COPA の遺伝子バリアントによって生じる自己炎症性疾患(COPA 症候群)のモデルマウスを作製,解析することにより,細胞内核酸センサ-経路がCOPA により制御されていることを明らかにした.ここでは,疾患モデルマウスの知見を中心に,COPA の遺伝子バリアントによって生じる自己炎症性疾患の病態について概説する.
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FORUM
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- 戦争と医学・医療①
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イスラエルによるパレスチナ・ガザへの軍事侵攻と健康破壊の実態
291巻2号(2024);View Description Hide Description※ 本稿は2024 年5 月時点の情報に基づいて執筆された.