医学のあゆみ
Volume 291, Issue 4, 2024
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特集 生体信号を活用した医療AIの臨床応用に向けて
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てんかん発作予知AIの開発
291巻4号(2024);View Description Hide Description難治てんかん患者は,けいれんや転倒,意識消失を伴う発作を繰り返し,常に受傷や事故などの危険に曝されている.筆者らは,こうした問題の軽減のため,心拍変動(HRV)解析に基づくてんかん発作予知AI システムの開発に取り組んでいる.システムは発作予知AI アプリとウェアラブル心電計から構成される.発作予知AI アプリは機械学習アルゴリズムに基づき,発作前のHRV 異常を検出してアラ-トを発報するもので,ソフトウェア医療機器(SaMD)としての薬事申請を目指している.本稿では,本システムの概要と実用化に向けた取り組みを紹介し,その課題についても論じる. -
小児患者の全身麻酔中における喉頭痙攣の予知
291巻4号(2024);View Description Hide Description全身麻酔中の患者では,気道確保が必須である.声門上器具は気管挿管と比べて患者への侵襲が小さい気道確保法であるが,喉頭痙攣が生じた場合に気道が閉塞して換気ができなくなる.喉頭痙攣はまれであるが重大な気道合併症であり,不十分な麻酔の際に痛みや気道分泌物の刺激によって生じる気道防御反射である.声門上器具の使用中に喉頭痙攣が生じると,速やかに解除されない場合は低酸素血症から心停止を生じうる.誰にでも喉頭痙攣の発生を予知できれば,麻酔管理の安全性向上や患者の利益につながる.そこで筆者らは,全身麻酔中にモニタリングされる多変量の時系列デ-タから喉頭痙攣の発症を予知するAI を開発した.多変量の時系列デ-タに適用可能な異常検知アルゴリズムである,多変量統計的プロセス管理(MSPC)を用いて,約60%の感度と0.65 回/時間の偽陽性率の性能を達成した.今後は本AI を医療現場で実装し,麻酔管理の安全性向上などの有用性を検証したい. -
心拍変動と機械学習による熱中症検知
291巻4号(2024);View Description Hide Description熱中症は臓器不全や死を引き起こしてしまうことがあるため,予防や早期発見・早期治療により軽症にとどめることが重要である.そのような背景から,心拍変動(HRV)指標の異常な変化をモニタリングすることで,熱中症の兆候を検知する機械学習手法が提案された.その手法では,暑熱ストレスによる自律神経活動の変化を捉えるための特徴量としてHRV 指標を用いている.そして,その特徴量に対して異常検知手法の一種である多変量統計的プロセス管理(MSPC)を用いることで,自律神経の状態における異常なイベントとして熱中症を捉えようと試みている.本稿では,その手法の概略・性質,検証実験,およびその結果について紹介する.本研究分野における今後の展望として,より先進的な機械学習技術をウェアラブル計測装置や生理指標と組み合わせることにより,実用化に向けて研究が一層推進されていくことが望まれる. -
睡眠時無呼吸の検査・スクリ-ニング
291巻4号(2024);View Description Hide Description閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は睡眠時無呼吸の大部分を占め,さまざまな生活習慣病の危険因子である.その診断には終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)が必要であるが,成人OSA の有病率は14%程度と高く,検査が必要な対象者をスクリ-ニングすることが望ましい.スクリ-ニング機器として,現在はパルスオキシメ-タ-が頻用されているが,将来はウェアラブルデバイスや心拍計のデ-タを基に機械学習・AI を用いたシステムも有望であろう. -
小児脳波解析によるてんかん発作予後予測
291巻4号(2024);View Description Hide Descriptionてんかんは頻度の高い疾患であり,治療の基本は抗発作薬(抗てんかん発作薬)の内服であるが,抗発作薬の効果は内服を開始するまで明らかでない場合も少なくない.てんかん発作予後を予測することはてんかん患者における生活の質の向上に貢献するが,現時点で広く利用されているAI モデルはいまだない.小児の脳波は個人間,記録間,記録内で差が大きく,多様な特徴を有するため,AI を用いた解析では脳波から定量値を算出し,入力デ-タとして用いられる場合が多い.特に年齢が不揃いな場合には対処が必要である.深層学習を用いた汎化性能の高いモデルが期待される一方で,その利用には多数のデ-タが必要となる可能性が高い.定量値を用いた予後予測においてはさまざまな定量値が提唱されている.これらの定量値は臨床医の持つ“印象”を客観的に表出しうるものであり,AI モデルの利用も容易になりつつある. -
筋の健康を光でみる ─ 理学療法効果の定量評価への挑戦
291巻4号(2024);View Description Hide Description徒手的な施術や電気刺激に代表される理学療法は,組織血流の改善,疼痛緩和,運動機能の回復を目的として日常的に用いられている.これらの治療法は広く一般に認識されているにもかかわらず,その血流改善効果をベッドサイドで定量的に評価する手段の不足が,治療機序の解明や局所循環動態の診断,およびエビデンスに基づいた治療戦略の構築を妨げている.本稿では,体表面に光センサを装着するだけで生体深部組織の血流情報を検出する拡散相関分光法(DCS)の原理とその応用,特に手技療法や筋電気刺激による末梢筋血流の可視化について紹介し,末梢循環動態の情報をバイオマ-カ-とする医療AI への応用可能性について述べる. -
臨床現場での医療AIの利活用における倫理と責任
291巻4号(2024);View Description Hide Description臨床現場での医療AI の利活用における倫理に関しては,関連する法令(医師法,医療法,薬機法,個人情報保護法など)を守ることに加えて,研究としての倫理,医師などの専門職としての倫理,そして,先端技術としてのAI を活用するにあたっての倫理といったものが求められる.倫理的な規範に従わない場合,法的規範とは異なり法的な責任が生じるわけではないが,社会的な非難の対象となることや,社会的公正や正義といった観点から問題となる.強制力を強めるため,法律により罰則が定められることも多いが,法律による規制のみでは,社会や技術の変化にタイムリ-に対応できない.そこで,業界内での自主的なガイドラインや原則といったものを定め,倫理的な規範を明文で示すことがなされる.共同規制とよばれる,法的な規制と自主的な規制とを組み合わせる方法なども,先進的な領域では注目を集めている.本稿では,医療AI における法と倫理として,医療の面,AI の面から概説し,どのように対応すべきかに関して述べる.
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TOPICS
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- 生化学・分子生物学
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- 災害医学
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連載
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- 臨床医のための微生物学講座 27 (最終回)
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カンジダとカンジダ症のトピックス
291巻4号(2024);View Description Hide Description◎Candida 属は子囊菌に分類される酵母である.Candida 属による感染症は,表在性カンジダ症と深在性カンジダ症に大別される.カンジダ症の病原体は主にC. albicans であり,それ以外をnon-albicans Candidaと表現することがある.二重命名の廃止や分子生物学的手法を用いた新しい分類基準の導入などの影響を受けて,複数種のCandida 属菌種の学名が変更されている.主要な病原性Candida として,C. albicans,C.glabrata(現Nakaseomyces glabratus),C. parapsilosis,C. tropicalis,C. kruse(i 現 Pichia kudriavzevii)があり,かつてはこの5 種でカンジダ症の90%以上が引き起こされていた.近年,これら以外の菌種によるカンジダ症も増えてきており,そのなかでも特にC. auris(現Candidozyma auris)が海外で猛威をふるっている. - 緩和医療のアップデ-ト 22
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末期心不全が緩和ケア診療加算の対象となって以降の変化と今後の課題
291巻4号(2024);View Description Hide Description◎心不全が緩和ケアの対象であるという認知は進み,ガイドラインや診療報酬も徐々に充実してきている.本稿では,2018 年に末期心不全が診療加算対象となってから現在までのガイドライン上での扱い,診療報酬の変更点,診療報酬改定後の変化,今後の課題について取り上げる.課題には,循環器側,緩和ケア側,多職種チ-ム,在宅・施設,患者・家族,行政に関するものがあり,それぞれにおいて解決していく必要がある. - 自己指向性免疫学の新展開 ─ 生体防御における自己認識の功罪 14
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T細胞の自己認識の生理的意義とその理解
291巻4号(2024);View Description Hide DescriptionT 細胞サブセットには,病原体に対する獲得免疫応答を担うコンベンショナルなCD4+T 細胞やCD8+T 細胞と,免疫系を制御する働きをするアンコンベンショナルT 細胞が存在する.末梢を循環するコンベンショナルなナイ-ブCD4+T 細胞やCD8+T 細胞は,二次リンパ器官において自己抗原からのシグナルを受け取ることで生存・維持され,生体内における多様なT 細胞受容体(TCR)レパトアが維持される.一方,制御性T 細胞や多くの自然免疫型T 細胞を含むアンコンベンショナルT 細胞は,一般的には自己抗原を強く認識するアゴニスト選択を通して分化成熟し,末梢組織へと遊走・維持され,組織の恒常性維持機能を発揮すると考えられる.しかし,これらのアンコンベンショナルT 細胞が,自己抗原として何を認識しているのか,機能発揮に自己抗原認識が必要なのかなど,未解明な課題が山積みである.アンコンベンショナルT 細胞の認識自己抗原としては,共生細菌などの“疑似的な自己抗原”が含まれることも明らかとなってきている.その生物学的な意義の解明は重要な課題であり,近年精力的な研究が進められている.
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