医学のあゆみ
Volume 291, Issue 9, 2024
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【11月第5土曜特集】 細胞外小胞・エクソソ-ムの医療応用の未来
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- 基礎研究および最近の研究トピック
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細胞外小胞の生合成機構
291巻9号(2024);View Description Hide Descriptionホルモンのような古典的な分泌とは異なり,近年,小胞ごと分泌を行う新たな細胞間コミュニケ-ションの手段が脚光を浴びている.細胞外小胞(EVs)は細胞外に分泌された小胞の総称で,その由来,大きさ,内容物(タンパク質,脂質,核酸)などの違いにより,多様なものが存在すると考えられている.これらのEVsは,細胞膜に由来する比較的大型のもの(マイクロメ-トルオ-ダ-のマイクロベシクルなど)と,内膜系に由来する小型のもの(100 nm 前後のエクソソ-ム)に大別されている.前者は細胞膜(あるいは突起構造)が細胞の外側にくびり取られることで,後者は多胞体(エクソソ-ムの元となる内腔小胞を含む後期エンドソ-ム)が細胞膜と融合することで分泌が起こる.本稿では,これらのEVs の形成,輸送,分泌の機構を概説するとともに,エクソソ-ムを中心に鍵となる制御因子について最新の知見を紹介する. -
細胞外小胞の動態研究
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV),なかでも粒子径100 nm 前後のEV であるsEV(small EV,あるいはエクソソ-ム)は,含有するRNA やタンパク質の細胞間での輸送担体として機能することで,生体内で情報伝達を行っている.その特性から,EV が生体内において通常時ならびに疾患時に果たす機能の役割の解明を目的とした研究が盛んに行われるとともに,その特性を利用した治療法の開発が進められることとなっている.一方,その機能の解明ならびに治療への応用に際しては,EV の作用する対象の解明と,必要に応じて作用先の制御,すなわちEV の体内動態の解明と制御が重要となる.本稿では,これまでに明らかとなったEV の体内動態特性について概説するとともに,そこから想定される治療応用の可能性についても紹介したい. -
細胞老化と細胞外小胞
291巻9号(2024);View Description Hide Description老化細胞はさまざまなストレスにより誘導された不可逆的な増殖停止状態にあり,持続的なDNA 損傷応答やエピゲノム異常を示すことに加えて,細胞老化随伴分泌現象(SASP)として炎症性タンパク質やプロテア-ゼ,細胞外小胞(EVs)などの分泌が亢進している.老化細胞はSASP を通じてがんを含むさまざまな加齢性疾患の病態に寄与していると考えられており,そのメカニズムの一部はEVs により担われている.老化細胞は正常細胞と比較して多量のEVs を分泌し,その中にさまざまな核酸,脂質,タンパク質などの生理活性を持つ物質が含まれているため,EVs を取り込む受容細胞に与える影響も多岐にわたっている.特に老化細胞由来のEVs はがんにおいて,細胞増殖の制御,染色体不安定性の誘導などが報告されており,さまざまな役割を担っていることが明らかになりつつある. -
血管機能と細胞外小胞
291巻9号(2024);View Description Hide Description血管はヒトの生老病死に関わるため,その異常は多くの疾患の原因となる.血管内皮細胞由来の細胞外小胞(EVs)は,血管透過性の調節や血管新生,血栓形成に関与し,特に炎症や病態に応じて機能が変化する.また,血小板由来のEVs は止血や血栓症に寄与し,炎症状態では血管透過性を亢進させるメディエ-タ-を運搬する.一方で,赤血球からは老化や損傷に伴いEVs が放出され,免疫応答にも影響を与える.EVs はまた,腫瘍微小環境においても重要な役割を果たし,腫瘍細胞や血管内皮細胞に対して血管新生を促進する因子を運搬する.腫瘍細胞由来のEVs は,特定のmiRNA や成長因子を含み,血管内皮細胞の機能を変化させ,転移や薬剤耐性の獲得に関与することから,腫瘍血管の異常性が誘導される要因として示唆されている.さらに,EVs の濃度や組成の変化は,高血圧や糖尿病などの血管疾患においても観察され,疾患の進行や治療反応性のバイオマ-カ-としての可能性が示唆されている.これらの知見から,EVs は血管機能の調節,疾患のメカニズム理解,そして新しい治療法の開発において重要なタ-ゲットとなることが期待される. -
細胞外小胞による免疫制御
291巻9号(2024);View Description Hide Descriptionエクソソ-ムを含む小型細胞外小胞(sEVs)には,エンドソ-ム由来のタンパク質や細胞内輸送に関わるタンパク質,細胞膜由来のタンパク質などが含まれている.近年,sEVs が分泌細胞と標的細胞との間でさまざまなタンパク質や脂質を交換する重要な媒体であることが明らかになっている.特に免疫細胞由来のsEVsには,細菌由来の抗原やさまざまな免疫制御分子が含まれていることが示されているだけでなく,分泌細胞由来のmRNA やmiRNA が存在することが明らかとなっている.それらは免疫細胞間での抗原情報の交換や免疫細胞の活性化・不活性化など,さまざまな免疫応答を制御する可能性が示されている.そこで本稿では,免疫系におけるsEVs の役割やsEVs を用いた免疫制御について,これまでの知見と将来展望を説明する. -
細胞外小胞を用いた薬物送達とペプチド化学の活用
291巻9号(2024);View Description Hide Description生体細胞から分泌される細胞外小胞(EVs)に関して,体液から単離されたEVs を検出し,疾患診断につなげるリキッドバイオプシ-技術に加え,疾患治療を指向した薬の運搬体としてのEVs 技術の研究開発が世界規模で進められている.本稿では,筆者らが先駆的に研究展開してきた機能性ペプチド修飾型EVs に関する技術を紹介し,機能性ペプチドをEVs に修飾できる簡便で即応性のある化学技術について述べる.また,機能性ペプチドを用いたEVs の細胞内移行に重要なマクロピノサイト-シス経路誘導,および細胞内移行後にEVs 内包分子をサイトゾルに放出促進させる技術について,その各機序を含めた手法を示す.筆者の研究チ-ムがこの10 年程に取り組んできた“EVs の細胞内取り込み機序を理解し,そしてその機序をEVs 化学に応用する”技術構築を中心に紹介し,EVs を基盤としたドラッグデリバリ-システム(DDS)に貢献する方法論および技術を論説する. -
細胞外小胞を用いた核酸医薬送達
291巻9号(2024);View Description Hide Description核酸医薬品は新たな創薬モダリティとして注目を集めているが,易分解性や物理的特性により細胞内に取り込まれにくいため,実用化にはドラッグデリバリ-システム(DDS)が必要である.エクソソ-ムは細胞間の情報伝達ツ-ルであり,内包核酸をエクソソ-ム受容細胞に送達できるため,生体由来の核酸送達担体として期待が寄せられている.エクソソ-ムへの核酸搭載法は,エクソソ-ム分泌細胞そのものを改変し,エクソソ-ム内に目的の核酸を内包させるpre-loading 法と,細胞培養上清などから回収したエクソソ-ムに薬物を搭載するpost-loading 法に大別される.Post-loading 法には核酸をエクソソ-ムに内包する技術やエクソソ-ム膜表面に搭載する技術,さらにはエクソソ-ムの単離精製を必要とせず核酸をエクソソ-ムに搭載する技術など,さまざまな技術が開発されている.本稿では,エクソソ-ムを用いた核酸医薬品のDDS について,代表的な核酸搭載法や臨床応用例を示しながら概説する. -
細胞外小胞における糖鎖
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)は,由来する細胞の情報を細胞間で伝達し,免疫系,神経系などの生理現象やがんなどの疾患において重要な役割を果たしている.そのため,EV は疾患バイオマ-カ-や生体由来ナノキャリアとしてさまざまな臨床応用の可能性を秘めている.一方で,EV は形成過程によりサイズ,構成分子が異なる極めて多様性に富んだ小胞であり,この不均一な性質を分類するための指標は必ずしも明確にされていない.EV中のタンパク質,核酸,脂質の機能解析は進んでいるが,糖鎖については構造の複雑さゆえにあまりその機能は明らかになっていない.本稿では,EV の糖鎖に着目し,細胞との相互作用やEV の不均一性における役割について,筆者らの研究も含めた最新の知見について紹介する. - 疾患における細胞外小胞研究
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脳疾患・パ-キンソン病における細胞外小胞
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)は,エクソソ-ムやマイクロベシクル,アポト-シス小体などのサイズや起源が異なる小胞の総称である.特にエクソソ-ムは,細胞外物質を取り込む機構のひとつであるエンドサイト-シスにより形成される.まず初期エンドソ-ムが形成され,後期エンドソ-ムへと移行する過程で外膜が内側にくびれて腔内膜小胞(intraluminal vesicle:ILV)が形成される.成熟した後期エンドソ-ムはILV を多く含むため,多胞性エンドソ-ム(MVB)とよばれる.MVB はライソゾ-ムと結合すると内包するILV は分解されるが,細胞膜と融合するとILV が細胞外に放出されエクソソ-ムとなる.このようにエクソソ-ムは元来,細胞内小胞であるので細胞内のさまざまな物質を含んでいる.起源となる細胞により異なるタンパク質,核酸を運搬し,細胞間情報伝達系として機能する1).近年,さまざまな疾患の病態形成に関与していることが判明し,疾患バイオマ-カ-やDDS への応用から創薬の対象となっている.本稿では,EVs と脳疾患の関連,特にパ-キンソン病(PD)との関連について最新の知見を概説する. -
血液疾患領域における細胞外小胞
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)は,造血器悪性腫瘍において腫瘍支持性微小環境構築や薬剤耐性に寄与するなど,病態生理と密接な関係にあることで知られる.筆者らは,エプスタイン・バ-ルウイルス陽性びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(EBV-DLBCL)の解析を通じ,EBV-DLBCL はBART(BamHI-A rightward transcript)miRNA内包EV を介してマクロファ-ジを免疫抑制方向へ機能分化させることで抗腫瘍免疫応答から逃避すること,およびその細胞間コミュニケ-ションには分泌型ホスフォリパ-ゼA2(sPLA2)を介したEV 膜の加水分解による脂質組成変化が重要であることを見出し,sPLA2 阻害がEBV-DLBCL に対する有効な治療戦略であることを示した.今後,EV は造血器腫瘍において診断,治療,経過観察のすべてのフェ-ズにおいて臨床応用されるポテンシャルを秘めており,研究の動向を注視していく必要がある. -
肝疾患領域における細胞外小胞
291巻9号(2024);View Description Hide Description肝疾患は急性と慢性に大別されるが,細胞外小胞(EV)の報告が多いのは慢性肝疾患である.慢性肝疾患として,B 型・C 型肝炎,メタボリック症候群と関連するMASLD,過剰なアルコ-ル摂取によるアルコ-ル関連肝疾患(ALD),自己免疫性肝疾患などが知られている.これらの肝疾患では,種々の因子が実質細胞(肝細胞)と非実質細胞(肝星細胞など)間のコミュニケ-ションに関与して肝炎,肝線維化,肝硬変へと進展させるが,この因子のひとつとしてEV が同定されている.さらに,MASLD では脂肪組織の影響も大きく,脂肪細胞由来のEV が臓器間コミュニケ-タ-としてMASH への病態進展に関与する.また,EV は血中を安定して循環する特性があり,血中のEV 成分を検出することで肝内の状態を予見しうることから,バイオマ-カ-としての有用性も高い. -
膵臓がんにおける細胞外小胞
291巻9号(2024);View Description Hide Description膵臓がん(PDAC)は,自覚症状が少なく画像診断のみでは早期発見が難しい.PDAC を含む多くのがんにおいて初期段階の発見により,外科的治療を施すことが可能となる.そのため,早期発見に役立つバイオマ-カ-の発見が治癒の可能性を高める方法となる.現在使用されている血中バイオマ-カ-である血清糖鎖抗原19-9(CA19-9)やがん胎児性抗原(CEA)では,早期のPDAC 診断性能が十分ではない.そこで,PDACおよびその前がん病変である膵上皮内腫瘍(PanIN),管内乳頭状粘液性腫瘍(IPMN),粘液性囊胞性腫瘍(MCN)に注目し,細胞外小胞(EV)が輸送するmiRNA やタンパク質のなかで,これらの病変の早期発見のカギとなる新たなバイオマ-カ-について紹介する. -
産婦人科領域における最新細胞外小胞研究
291巻9号(2024);View Description Hide Description産婦人科学は,女性の生涯にわたる健康を総合的に扱う診療科である.細胞外小胞(EV)は,産婦人科領域において受精卵の形成や妊娠の成立・維持などの生命現象に重要な役割を果たすのみでなく,婦人科良悪性腫瘍や不妊症などといった特有の疾患において,発症・進展のメカニズムに関与することが次々と明らかになっている.また,バイオマ-カ-として非常に注目されていることは産婦人科学でも同様であり,羊水や卵胞液といった産婦人科学特有の体液に含まれるEV などについても,バイオマ-カ-の対象となり研究開発が進んでいる.本稿では,産婦人科学におけるEV の機能と,その臨床応用性に関して概説する.また最近,筆者らが報告した微量体液からEV の抽出を可能にする新しい手法についても,その応用法を紹介する.他の領域に劣らず,産婦人科学でも今後ますますEVトランスレ-ショナル研究が発展することが期待される. -
細胞外小胞のプロテオ-ム解析とがん診断
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)は細胞から分泌される脂質二重膜小胞であり,体液中に広く存在する.EV はタンパク質,脂質,RNA など多様な分子を含んでおり,非侵襲的な方法で検出可能であるため,がん診断において液体生検(リキッドバイオプシ-)の手段として注目されている.つまり,血液や尿などからEV を収集し,その内容物を解析することで,がんの早期発見や進行状況のモニタリングが非侵襲的に,かつ頻回に検査可能となる.本稿ではEV 内包物のなかでも特にタンパク質に着目し,最先端のプロテオ-ム解析技術を駆使したバイオマ-カ-探索研究の事例や,研究開発の際に注意すべき事項などを概説する.また,企業によるEV タンパク質バイオマ-カ-の診断実用化に対するアプロ-チも実例を基に紹介したい. - 細胞外小胞を用いた新規技術
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1粒子・超解像同時観察による細胞外小胞の動態解明
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)は,細胞間の情報交換の担い手として大変注目されている.しかし,EV は極めて不均一であることが明らかになり,EV のサブタイプを1 粒子ずつ観察する必要が出てきた.筆者らは,高い時空間分解能での1 粒子観察と超解像顕微鏡観察を同時に行うことで,EV のサブタイプを同定し,標的細胞へのEV の結合・取り込み機構を明らかにした.EV 中のラミニン受容体であるインテグリンヘテロダイマ-が受容細胞膜表面のラミニンに結合することにより,EV は受容細胞に結合すること,さらに,EV の受容細胞への接着が細胞内シグナルを誘起することを明らかにした.本稿では,このような1 粒子・超解像顕微鏡観察によってはじめて得られた知見と将来展望を概説する. -
細胞外微粒子の非増幅遺伝子検査法
291巻9号(2024);View Description Hide Descriptionウイルスやエクソソ-ムなどの細胞外微粒子は,さまざまな疾病・感染症と連関している.そのため,細胞外微粒子を詳細に解析し,診断に結びつける新技術の開発は,人々の健康状態の理解と予防医療の発展に貢献できるものと期待されている.特に近年では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックをきっかけに,ウイルス検出技術の開発ニ-ズが高まっており,この背景を受け,筆者らはウイルス由来の遺伝子を1 分子単位で検出できる新手法(SATORI 法)を開発し,世界最速の遺伝子検査法を実現した.加えて,本手法の実用化を目指し,臨床ニ-ズに対応したSATORI 法の全自動化装置や小型装置の開発にも成功している.本稿では,SATORI 法の開発経緯の概略を紹介するとともに,本手法の医療分野における将来展望について提示したい. -
ナノデバイスによる細胞外小胞回収法
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)はリキッドバイオプシ-の解析対象として,生理学的現象解明のツ-ルとして大きな注目を浴びている.EVs を解析する研究を行ううえでは,前処理操作として体液や細胞培養液といった各種溶液からEVs を分離回収する操作が必要となる.一般的に用いられている分離回収法として,超遠心分離法,イムノアフィニティ法,サイズ排除クロマトグラフィなどの方法があるが,スル-プットや必要なサンプル量,収率や純度に課題がある.近年,ナノテクノロジ-を利用したEVs の分離回収デバイスの開発が進められており,これらの技術は従来法の短所を補い,新たな研究領域を開拓する可能性がある.本稿では,代表的なEVs の分離回収ナノデバイスとして,決定論的横置換法(DLD 法),非対称流動場フロ-分画法(AF4法),ナノワイヤ法の原理や特徴を紹介する. -
涙液中の細胞外小胞を用いた診断
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)とがんの増殖・転移などとの関連性が報告されて以降,体液中のEV 検出によるリキッドバイオプシ-に関する研究開発が盛んに行われている.測定対象としては血液が主流であるが,夾雑物質が多く,侵襲的であるため,日常的なサンプリングが困難などの課題がある.涙液は血液と同様にがんマ-カ-タンパク質やmiRNA を含み,その一方で夾雑物質が少なく,低侵襲に採取可能であるといった点から,臨床検体として期待されている.2016 年にGrigor’eva らが報告した涙液中のEV に関する研究以降,涙液には眼科疾患をはじめ,神経変性疾患やがんといった眼以外の疾患に由来する成分を含んだEV の存在が報告されており,涙液中のEV による疾患の診断や薬物療法の効果判定への利用可能性が示唆されている.本稿では,近年の涙液中のEV 分析に関する報告から,現状とその展望について概説する. -
イムノクロマト法による細胞外小胞の検出と診断,検査への応用
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)は分泌元細胞の特性を反映するため,表面タンパク質をタ-ゲットにイムノクロマト法(IC 法)で検出可能である.筆者らが開発した“Exorapid-qIC®”はEVs を検出するための試薬キットであり,CD9,CD63,CD81 をタ-ゲットにすることでEVs を検出する.現在,EVs の分析手法として広く用いられている方法は装置が高価であったり,分析に時間を要したりする.IC 法は専用の装置を使用せずに短時間で結果が得られる一方,検出感度が低いため,筆者らはIC 法で広く用いられる1STEP 法を見直し,2STEP法とすることで検出感度を向上させた.EVs を検出対象とした検査・診断技術として,がんをタ-ゲットとした検査薬や,治療薬の有効性を確認するためのコンパニオン診断薬などの報告がある.今後,IC 法によるEVs 検出の発展により,疾病の早期発見や診断技術の向上が期待される. -
臨床検査への実用化を見越した全自動細胞外小胞回収および測定系の構築
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)はタンパク質や核酸などの機能性分子を内包し,生きた細胞から分泌されることから生体の状態を反映していると考えられている.EVs を対象とした臨床検査やEVs を用いる医療など,EVs は次世代の医療モダリティとしてさまざまな領域での活用が期待されている.EVs を臨床検査に応用するためには,さまざまな夾雑物が存在する生体試料を対象に,バイオマ-カ-の探索および評価,そしてバイオマ-カ-の正確な測定が必要となる.EVs の実用化のために,筆者らはオペレ-タ-の手技に依存しない,全自動機を用いたEVs の安定的かつ効率的な回収方法および回収したEVs 量の測定系を構築した.本稿では,その性能(再現性,感度,干渉物質による影響,抗凝固剤による影響)について紹介する.今後,本技術を用いたEVs の臨床有用性検証を進め,社会実装を目指す. -
細胞外小胞の表面抗原に対する抗体の利用
291巻9号(2024);View Description Hide Description小型細胞外小胞であるエクソソ-ムの表面には,その親細胞に由来する膜タンパク質の多くが発現している.近年,がんの治療薬としてがん細胞表面に発現している標的分子に対する抗体医薬が種々開発されているが,個々の症例におけるがん組織にその標的分子が存在しているかどうかは抗体医薬の薬効予測における重要な情報となる.がん細胞から分泌されるエクソソ-ムの表面抗原を調べることによる薬効予測の研究としては,免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の標的分子であるPD-L1 を発現するエクソソ-ムの解析が最も進んでいる.本稿ではこのPD-L1 陽性エクソソ-ムを例に取り,抗体を用いたエクソソ-ム解析によるコンパニオン診断薬の可能性について述べる.さらに,膜タンパク質を強制発現させたエクソソ-ムを抗体作製ツ-ルとしてスクリ-ニングに用いることにより,薬剤標的や病原微生物に対する高性能抗体を作製した例についても紹介する. - 細胞外小胞を用いた創薬開発
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肝硬変における細胞外小胞治療
291巻9号(2024);View Description Hide Description肝臓は元来,再生能力が高い臓器であるが,長期に肝障害が続くと,肝障害と引き続く線維化により肝硬変に至る.わが国には肝硬変患者は約40 万人いるといわれており,肝硬変の線維化改善や再生促進が図れる薬物はunmet medical need となっている.生体はもともと線維化を改善する機能を併せ持っているが,その中心的な役割をする細胞はマクロファ-ジと考えられている.筆者らは,投与後早期に“肝臓”の“マクロファ-ジ”に非常に蓄積しやすいことが知られている間葉系幹細胞(MSC)由来の細胞外小胞(EV)を用いた,肝硬変に対する治療法の開発を行っている.本稿では,筆者らのこれまで積み重ねてきた基礎的な検討,臨床を目指した課題などを合わせて紹介したい. -
肺疾患における細胞外小胞治療
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)は細胞間の情報伝達に重要な役割を果たし,近年,治療薬としての応用が注目されている.現在,難治性呼吸器疾患である特発性肺線維症(IPF)や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などに対するEVs 治療の研究が進められている.間葉系幹細胞(MSC)由来のEVs をはじめとしたさまざまな細胞種由来のEVsの治療効果が報告されており,IPF やCOPD といった現状,治療選択肢が乏しい呼吸器疾患の病態に対し,複合的な内包物の移送を介した新しい作用機序で治療できる可能性が示唆されている.EVs による治療には,製造や品質規格など課題が残存しているが,その治療効果と呼吸器疾患に対する特異的な治療デリバリ-としての吸入療法を用いることができる利点があるため,呼吸器疾患の新たな治療アプロ-チとしてEVs が用いられることが期待されている. -
間葉系幹細胞由来細胞外小胞の実用化に向けた研究開発
291巻9号(2024);View Description Hide Description間葉系幹細胞(MSC)が分泌する細胞外小胞(EVs)は,さまざまな薬効を示すことが数多く報告されている.筆者らは,MSC の作用機序探索を進めるなかで,MSC が分泌するEVs(MSC-EV)がMSC の作用の一端を担うことを確認した.MSC-EV を分析すると,miRNA やタンパク質などの生理活性物質を内包しており,それらがさまざまな細胞・組織に影響を及ぼすと考えられる.MSC-EV はMSC の作用メカニズムの一端を担うだけでなく,そのものが疾患治療のための新しいモダリティであると考えることもできる.このMSC-EV を実用化するにあたり,安全性および有効性を確保するための適切な品質管理基準の設定と製造工程の構築は重要である.本稿では,MSC を概説のうえ,MSC-EV の安全性および有効性に関する最近の知見,また均質なMSC-EV を提供するための,最近のトレンドを踏まえた製法および品質管理法について紹介する. -
植物由来小胞を担体とした新規DDS開発
291巻9号(2024);View Description Hide Description植物由来のエクソソ-ム・細胞外小胞(EVs)は,その安全性と天然ナノキャリアとしての特性から,新規ドラッグデリバリ-システム(DDS)のキャリアとして注目されている.特に食用植物由来の小胞は生理活性成分を含み,消化酵素にも耐性を示すことから,経口投与薬としても有望である.筆者らの研究グル-プは,アセロラ果汁由来のエクソソ-ム様小胞(AELN)が,siRNA(small interfering RNA)やmiRNA(microRNA)などの核酸薬と複合体を形成し,これらをマウスに経口投与すると,AELN が核酸薬を保護して肝臓を含む標的臓器まで効果的に送達することを見出した.現状の課題としては,植物由来EVs の規格化,標的指向性の向上,保存安定性の確保があげられる.これらの課題を克服し,植物由来EVs の特性を最大限に活用することで,医療に革新的な治療法が提供されることが期待される. -
アディポネクチンの細胞外小胞量調節を介した新たな作用機構
291巻9号(2024);View Description Hide Description肥満・内臓脂肪蓄積は,糖尿病,高血圧症,脂質異常症などを惹起し,動脈硬化性心血管疾患へとつながる.アディポネクチンは脂肪細胞から特異的に分泌され,血中に豊富に存在するが,肥満・内臓脂肪蓄積症例ではその濃度が低下する.低アディポネクチン血症が,心血管疾患を含むさまざまな疾患の発症に関連することが,これまでの臨床的知見により明らかとなっている.最近の研究で,アディポネクチンはT-カドヘリンと結合することにより各組織に蓄積することが明らかになった.アディポネクチン/T-カドヘリン複合体はエクソソ-ムの生合成と分泌を促進し,特に血管系における細胞恒常性維持と組織保護に寄与すると考えられる.本稿では,アディポネクチンのT-カドヘリンを介した作用機構と細胞外小胞(エクソソ-ム)産生調節について最新の知見を紹介する. -
特殊ハイドロゲルを用いた細胞外小胞精製法
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞・エクソソ-ム(EV)に関連する研究は,診断試薬,創薬,再生医療と幅広い分野で急速に拡大している.特に新規創薬モダリティとして,再生医療等製品に類似する治療薬として期待されている.現在,EV 製品の法規制について,再生医療等製品と同等の基準を適用するか議論されている.既存の精製法の問題点として,収量・純度の低さ,薬効の再現性が取れない,精製コストが高いなど産業化に向けて多くの課題がある.筆者らが開発したポリアクリル酸ナトリウムをベ-スとする親水性のハイドロゲルビ-ズによる精製技術は,樹脂表面の凹凸構造と表面荷電を特殊改良することでEV を短時間で高効率に吸着できる.樹脂に吸着したEV は,生体に害のない塩化物溶液で抽出でき高濃縮することを可能にした.また,夾雑物を効率的に除去することで,高純度のEV をインタクトな状態で得られる画期的技術について紹介したい. -
細胞外小胞を用いたワクチン開発
291巻9号(2024);View Description Hide Description近年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックに象徴されるように,新規ワクチンの開発は,現代社会において重要なテ-マとなっている.細胞外小胞(EVs)は,ワクチン抗原のデリバリ-システムとして活用できるのみならず,MHC(主要組織適合遺伝子複合体)分子などの抗原提示に関わる分子を発現することから,新規ワクチンモダリティとして期待されている.本稿では,EVs を用いたワクチンの可能性と現状について概説する. -
デザイナ-EVを活用したEVの理解と発展的利用
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)は細胞間コミュニケ-ションを媒介する重要な因子であるが,その高い生体適合性から,機能性分子のデリバリ-システムの基盤モダリティとしても注目を集めている.さらに,EV 産生細胞を改変することで機能を人為的に付与した“デザイナ-EV”を創製することが可能であり,将来的にさまざまな疾患の治療に応用されることが期待される.また,デザイナ-EV を作製して,その機能を計測することで,いまだ不明な点が多いEV のバイオロジ-の理解を深めるような合成生物学的研究も,近年,例が増えてきている.本稿では,EV 内に特定の積み荷分子(カ-ゴ)を封入する技術を起点として,EV の発展的利用や理解を可能とする最近の技術について紹介するとともに,将来的なデザイナ-EV の応用の課題についても議論する. - 実臨床を目指して
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細胞外小胞研究のあり方と臨床研究への応用
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)は,この10 年でひとつの研究分野を作り上げたといえる.その理由のひとつとして飛躍的な論文数の増加があげられ,多くの研究者がEV 研究に携わっていることがわかる.また,EV 研究は単に生物学の分野にとどまらず,工学,医学や食品などの農学分野にまで,多岐の分野にまたがって研究が行われていることが論文数の増加にもつながっている.しかし,“EVs”というものの定義づけですら一筋縄ではいかない状態である.そこで,国際細胞外小胞学会(ISEV)がEV 研究の旗振り役となり,MISEV などの手引き書のようなポジションペ-パ-を発行し,EV 研究の発展に貢献している.さらに近年では,医療応用を目指したEV 研究が盛んで,多くの企業もEV 研究に参入している.現在,各国でEVs を基盤とした治療薬開発に向けた臨床試験が行われているが,承認を得られた製剤はまだ存在していない.しかし,並行して各国でガイドラインの整備などが行われるなど,EV 治療用製剤の誕生に期待が寄せられている. -
非臨床安全性評価におけるNew approach methodsとしての細胞外小胞の活用
291巻9号(2024);View Description Hide Description医薬品開発における安全性評価は,新薬が安全で効果的であることを確認するための一連の試験と研究を含み,主要なステップとして,非臨床試験および臨床試験がある.非臨床試験における毒性試験は健康被害の防止には必須であるが,莫大な費用,時間,労力,および多くの実験動物が必要となることから,動物実験の3R(使用動物数の削減/苦痛の軽減/代替法の利用)の原則に従った,迅速化・高度化されたNAMs(new approach methodologies)による毒性評価法の確立が喫緊の課題となっている.近年,血液中に身体中のさまざまな細胞より分泌される細胞外小胞(EV)が,がんや各種疾患の高精度な早期診断のバイオマ-カ-として利用できることが謳われている.そこで本稿では,マウス血液中のEV に含まれるsmall RNA を毒性指標とした次世代型毒性評価法,および血液以外の体液である胎児羊水中のEV を毒性指標とした安全性評価の可能性について紹介する. -
PMDA専門部会における細胞外小胞治療用製剤の考え方
291巻9号(2024);View Description Hide Description近年,細胞から分泌されるエクソソ-ムに代表される細胞外小胞(EV)は医薬品としての実用化が期待され,国内外で研究開発が活発に進められている.しかし,EV 製剤に特化したガイドラインなどは国内外において公表されていないのが現状であった.この状況を踏まえて「エクソソ-ムを含む細胞外小胞(EV)を利用した治療用製剤に関する専門部会」が医薬品医療機器総合機構(PMDA)に設置され,最近,報告書が公表された.本報告書はEV 治療用製剤の考え方をレギュラトリ-サイエンスの観点から整理し,ウイルスなどの感染因子に対する安全性評価,活性成分の品質特性の理解,製造における恒常性の確保,生産工程管理,非臨床試験の評価戦略,臨床試験上の留意事項を論点としてまとめられており,わが国におけるEV 製剤の医薬品としての開発の一助となることが期待される. -
細胞外小胞産生用培地および培地最適化技術の開発
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EV)を用いた治療の社会実装のためには,これに用いる製剤の工業的な生産技術の確立が必要である.生産技術確立のうえで,培養細胞に由来するEV 製剤の場合,培地の検討が必要である.市販の培地は微粒子が大量に含まれており,これらが最終製剤に残留してしまうため,EV 製剤の製造には適していない.そこで筆者らは,微粒子の混入が少ない培地MSH-EV,AEC-J1 を開発した.これらにより,培地由来微粒子を含まない間葉系幹細胞(MSC)由来EV 製剤,気道上皮細胞(AEC)由来EV 製剤を製造することができる.また,EV などの目的生産物の収量や細胞の増殖を向上させるためには,培地成分の最適化が必要である.従来技術では,培地最適化には多大な時間が必要であったが,筆者らはトリプル四重極型質量分析計を用いた培地成分,分泌代謝物の多成分一斉分析技術,AI を用いた培地最適化支援技術を開発し,効率的な培地最適化を可能にした. -
細胞外小胞創薬が作り出す新しい市場
291巻9号(2024);View Description Hide Description細胞外小胞(EVs)を利用した創薬はmulti-functional な機能を有し,従来型の治療薬と異なる効果を期待できる新規モダリティである.その作用機序の詳細解明やEVs の持つ高いheterogeneity をどのように規格化するかなど,解決すべき課題は多いものの,欧米ではすでに臨床試験が実施されており,承認薬も近い将来,登場することが期待される.一方で,EV 治療薬に関しては大量製造技術および製造施設の整備が求められており,EVs の大量製造技術に加えて原料となる初代細胞の不死化処理や,当局対応可能な安全性試験,再現性のある品質試験など安定製造に適した条件を各工程に設定する必要がある.住商ファ-マインタ-ナショナルは,創薬支援の観点でEV 創薬の研究開発および製造に資する技術として先行する海外パ-トナ-企業の技術をわが国に紹介しており,一貫性のある支援体制を構築している.本稿ではEV 創薬における課題点について俯瞰するとともに,EV 創薬が作り出す新しい市場可能性について紹介する. -
アンチエイジングとエクソソ-ム
291巻9号(2024);View Description Hide Descriptionアンチエイジングに再生医療を導入する取り組みが活発化している.再生医療といってもそのプラットホ-ムはサイトカイン療法をはじめ,植物に由来するハ-バルエキスや哺乳類の幹細胞治療に至るまでさまざまであるが,最近,最も注目を集めているのがエクソソ-ムである.このエクソソ-ムのソ-スはさまざまであるが,アンチエイジングに効果が認められはじめているのは,間葉系幹細胞(MSC)を中心とするステム細胞の分泌する細胞外小胞(EV)である.このステム細胞由来のエクソソ-ムには,さまざまな有効成分が含まれており,かつ,そのエクソソ-ムはセラミドを含む脂質二重膜で覆われたナノサイズのカプセルであるため,有効成分が,肌などの体表面をはじめ,投与方法によっては体内の幅広い部位(臓器,組織)に作用することが期待できる.つまり,人々の健康や美容を保ち,病気にかからないように予防する,そのような新しい医療がエクソソ-ムによって実現する可能性が出てきた.本稿では,こうしたさまざまなソ-スからのエクソソ-ムを用いた画期的なエクソソ-ム・アンチエイジングについて概説する.
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