医学のあゆみ
Volume 291, Issue 10, 2024
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【12月第1土曜特集】 生殖医学─基礎研究と実地診療の進歩
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遺伝子改変マウスを通してみる精子・受精
291巻10号(2024);View Description Hide Description哺乳類の場合,精巣で作られた精子は完全ではなく,精巣上体を通過する間に運動したり受精できたりするようになる.また,射出された直後の精子は受精に適しておらず,雌性生殖路内あるいは適切な培地中で一定時間を過ごす必要がある.この間に,精子は受精能獲得(キャパシテ-ション)といわれる生理的変化を経て,超活性化といわれる鞭毛運動の変化を起こし,さらに先体反応とよばれる精子頭部先端の分泌小胞の開口分泌を経て,はじめて卵と融合できるようになる.ヒトやマウスでは,1,200 を超えるタンパク質をコ-ドする遺伝子が精巣特異的に発現しており,それらの遺伝子産物が精子形成のみならず,精子の運動や受精能力,さらには受精後の発生にも重要な機能を担っている.本稿では,主にノックアウト(KO)マウスを用いた研究により明らかにされてきた,精子形成の後半から精子成熟,さらに精子機能・受精のメカニズムを解説する. -
卵子の染色体数異常のメカニズム
291巻10号(2024);View Description Hide Description卵子の染色体数異常は,卵母細胞の減数分裂における染色体分配エラ-によって引き起こされる.卵母細胞の染色体分配エラ-のメカニズムは,卵母細胞が有する特徴と結びついている.まず,中心体を持たないという特徴が,紡錘体の二極性に不安定性を与えている.また,巨大な細胞質サイズが紡錘体の極の機能性と,紡錘体チェックポイントの厳密性を制限している.さらに,減数分裂特異的な染色体構造のため,染色体と紡錘体微小管の接続を修正する機構の1 つが働きにくい.これらに加え,卵母細胞は減数分裂の分裂期に進行する前に,特徴的な長期の細胞周期停止を経験する.この停止中には,加齢に伴ってコヒ-シンなど染色体分配に必須の因子が徐々に失われる.さらに,老化した卵母細胞では染色体の早期分離が起こり,染色体分配エラ-の主要な原因となる.マウス卵母細胞をモデルにした研究から,染色体分配エラ-を抑える戦略が見出されはじめている. -
臨床:体外受精における卵巣刺激法
291巻10号(2024);View Description Hide Description体外受精における卵巣刺激法の進化は,体外受精の妊娠率向上に大きく貢献してきた.ゴナドトロピン製剤を使用して卵巣を刺激し,複数の卵胞を同時に成熟させることで,1 回の採卵で多くの卵子を回収する方法が確立された.また,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アナログ製剤を用いた排卵抑制法の導入により,採卵の最適な時期を正確に管理できるようになった.これらの方法の基盤には,視床下部-下垂体-卵巣(HPO)軸を中心とした生殖内分泌学の知見があり,性ホルモン分泌,卵胞発育,排卵などの複雑な事象が精密に制御されている.現在,ロング法,ショ-ト法,アンタゴニスト法,PPOS 法などの各種卵巣刺激法が,患者の卵巣予備能や治療目標に応じて適切に選択されている. -
精子幹細胞研究アップデ-ト─不均一で動的な幹細胞プ-ル
291巻10号(2024);View Description Hide Description平均的なヒト男性は,数十年にわたり毎秒約1,000 個の精子を作る.この高い生産性を支える細胞が“精子幹細胞”である.“精子幹細胞”はどの細胞で,精巣組織内でどのようにふるまうことで持続する精子形成を支えるのか.歴史的には,固定標本の詳細な形態学的解析から同定された“未分化型精原細胞”と,機能的に定義される“精子幹細胞”の対応関係が焦点となり,シンプルな仮説が定着していた.筆者らは,ライブイメ-ジングやパルス標識実験という,精巣組織内で時間を越えた細胞挙動を直接解析できる手法を導入し,“精子幹細胞”の機能的理解を試みてきた.その結果,“精子幹細胞”は従来想定されていたような決定論的な存在ではなく,複数の状態を転換しながら確率論的に運命挙動を選択することが明らかになってきた.その結果,安定的に不均一な集団を形成することで幹細胞としての機能を果たすというダイナミックな姿が浮かび上がってきた. -
精子:micro-TESE
291巻10号(2024);View Description Hide Description精巣内精子採取術(TESE)は精子を精巣内から直接採取する手術である.このうちmicro-TESE は精巣内精子の存在が明らかではない,非閉塞性無精子症(NOA)患者に行われることが多い.本手術は精巣を大きく切開し,顕微鏡を用いて精細管を探索する.精子の存在する可能性が高い精細管は太く,白濁・屈曲しており,そのような精細管の採取を行う.Multiple TESE と比較し,無駄な血管損傷と精巣容量の低下を予防できるため,合併症発生率が低下するといわれる.諸家の精子採取率(SRR)は40~60%程度であり,わが国における2015 年度の成績集計では約35%であった.従来保険外診療であった本術式であるが,2022 年度より保険適用となり,その需要も増加している.一方で,術後の合併症である血清のテストステロン低下には注意が必要である. -
ここまで進んだ精子選択技術
291巻10号(2024);View Description Hide Description自然妊娠においては,射精された精子は卵管を通過する過程で選別され,受精能力や胚発育に優れたものだけが卵子と受精する機会を得ていると考えられている.生殖補助医療(ART)における精子選別の目的は,このような体内での自然な精子選別過程を再現することである.顕微授精(ICSI)を必要とするカップルに対して,質の高い精子をより正確に選別する技術の導入は,治療結果の向上に寄与する合理的なアプロ-チであると考えられ,さまざまな精子の特性を利用した選別法とART 成績は常に議論の対象となってきた.近年,ICSI において高い生殖能力を有する精子を選別するための方法として,強拡大顕微鏡を用いたIMSI(intracytoplasmic morphologically selected sperm injection)や,ヒアルロン酸を利用した PICS(I physiologic ICSI),ZyMōt® などのマイクロ流体技術を用いた方法などが報告されている.本稿では,これらの高度な精子選択技術の原理や有効性について概説する. -
受精と卵活性化
291巻10号(2024);View Description Hide Description卵母細胞が胚発生を開始するために必要な一連の反応は,“卵活性化”とよばれる.受精時の卵細胞質内カルシウムイオン(Ca2+)の上昇は,動物における卵活性化の普遍的なシグナルであるが,精子によって誘導されるCa2+シグナルは動物種により大きく異なる.哺乳動物では,Ca2+オシレ-ションとよばれる反復性のCa2+上昇が数時間展開し,卵活性化を引き起こす.この特徴的なCa2+シグナルを形成するために,卵母細胞は複雑な制御を行う必要があるが,その分子基盤はいまだに解明されていない.また,Ca2+応答のパタ-ンがその後の胚発生に影響を及ぼすことも知られている.受精によるCa2+上昇に最も大きく寄与するのは小胞体貯蔵からのイノシト-ル三リン酸受容体(IP3R)を介したCa2+放出であるが,細胞外からのCa2+流入もCa2+ソ-スとしてオシレ-ションの持続に必要である.また,Ca2+上昇に続いて細胞外へのCa2+流出や小胞体貯蔵へのCa2+補充が起こる.さらに,一部のCa2+はミトコンドリアなどのオルガネラへ取り込まれ,生理機能を発揮することが知られている.これらのCa2+ホメオスタシス制御に必要なCa2+チャネル,ポンプおよび交換体などの分子/機構はCa2+ツ-ルキットと総称され,細胞は細胞内外の環境変化に応じて一式のCa2+ツ-ルキットを使い分けている.ここでは,卵活性化におけるCa2+ツ-ルキットを用いたCa2+シグナルの制御機構について概説する. -
人為的卵子活性化の有効性・安全性検証と臨床上の位置づけ
291巻10号(2024);View Description Hide Description1992 年に導入された卵細胞質内精子注入法(ICSI)は男性不妊症の治療に革命をもたらしたものの,ICSI周期あたり1~3%の確率ですべての卵子が受精しない完全受精障害(TFF)が臨床上の課題となっている.受精障害の原因のひとつに卵子活性化障害(OAD)があげられ,人為的卵子活性化(AOA)はICSI 後の受精障害に対処する有効な手段となっている.しかし,AOA は受精の際に必須となる生理的なCa2+oscillations を完全には模倣できないことから,安全性への懸念が示されている.本稿では,OAD の病態生理,AOA の有効性・安全性に関する筆者らの多施設共同研究による調査結果も紹介しながら,AOA の現在の管理戦略と国際的な位置づけについて要約する. -
ヒト第一体細胞分裂(1st cleavage)に対する時空間的解析
291巻10号(2024);View Description Hide Descriptionヒト第一体細胞分裂(1st cleavage)は,ヒト胚盤胞を形作る最初の体細胞分裂であり,重要な過程である.しかし,ヒト胚を用いた第一体細胞分裂過程の研究には倫理的ハ-ドルがあり,マウス胚,ウシ胚などの非ヒト胚における同分野の知見の蓄積とは対照的に研究が不十分であった.不妊治療では,タイムラプスイメ-ジングなどの非侵襲的な動的解析を用いて,ヒト第一体細胞分裂の検討も進められている.しかし,ヒトとマウスにおける中心体,中心体小体,微小管形成中心(MTOCs)などの細胞骨格の種差を考慮すると,ヒト胚を用いた細胞生物学的検討は不可欠である.近年,提供ヒト卵子,ヒト接合子を用いたライブセルイメ-ジングによるヒト第一体細胞分裂過程の時間的・空間的な解析により,明視野画像による解析では得られなかった知見が多く報告されている.不妊治療の臨床にも重要である第一体細胞分裂における染色体分配機構の解析について,近年の新たな知見を紹介する. -
成育疾患からみた着床前期胚の重要性
291巻10号(2024);View Description Hide Descriptionヒト着床前期胚は,染色体異数性細胞が多いこと,ランダムX 染色体不活性化(XCI)が生じることによって特徴づけられる.また,ヒト初期胚では複雑ゲノム再構成が観察される場合がある.着床前期胚における染色体数的/構造異常は,児の死亡や成育疾患の原因となる.なお,初期胚ではまれに異数性レスキュ-が生じる.異数性レスキュ-は核型を正常化する現象であるが,染色体構造異常やインプリンティング疾患の原因となる.筆者らは健常女性の解析から,XCI の開始(不活性X 染色体の選択)が,胚に12 個程度の胎児性前駆細胞が含まれる段階に生じることを見出した.さらにインプリンティング疾患患者の解析から,出生につながるモノソミ-レスキュ-が4 細胞期前後に生じることを提唱した.この結果は,XCI 開始のタイミングが受精からの時間によって制御されていることを示唆する.ヒト初期胚における染色体動態とその異常の理解は,成育疾患の分子基盤解明に貢献する. -
わが国における着床前遺伝子検査の現状
291巻10号(2024);View Description Hide Description単一遺伝子疾患を対象とする着床前遺伝子検査(PGT-M)は,欧米では確立された医療とみなされている.わが国では長らく小児期発症の重篤な疾患に限定してきたが,欧米では成人期発症の疾患や遺伝性がんにも広く適応されており,大きな乖離がある.2022 年の「着床前診断に関する見解/細則」改定により,わが国でも対象拡大が検討されたが,審査の透明性や公平性の確保および迅速な実施などに課題を残している.体外受精(IVF)のアウトカム向上を目的とするPGT(PGT-A)は,わが国でも自費診療を中心として実施されている.一部の施設では先進医療としても実施されており,今後の保険給付の可否が注目されるが,技術自体の有効性を示すエビデンスが十分ではないという懸念が残る.保因者スクリ-ニング検査(CS)は,遺伝性疾患の罹患児を出産するリスクが高いカップルを明らかにする検査である.欧米ではその普及とともにPGTMの実施数も増加しており,わが国でも実施の可否をめぐる議論が求められる時期にきている. -
タイムラプス映像でみるヒト初期胚の挙動
291巻10号(2024);View Description Hide Description筆者らが独自に開発したhR-TLC(high-resolution time-lapse cinematography)のための体外培養装置を用いて,ヒト卵子の受精から着床前胚盤胞期までの動的解析を20 余年にわたり行った.筆者らの解析以前は,培養中の胚の定点観察による情報に限定されており,詳細解析は不可能であったが,タイムラプス映像による動的解析により,はじめてヒト初期胚の発生過程が可視化でき,体外培養中の胚での解析ではあるが,神秘的な生命誕生にまつわる営みを垣間見ることが可能となった.これらの解析結果は,初期胚発生に関する学術的意義を有するとともに,臨床現場における胚評価,ひいては人工知能(AI)併用によるアルゴリズム開発により着床可能胚の非侵襲的選択につながる可能性を有しており,その有用性は極めて高い. -
着床と子宮内膜のエピジェネティクス
291巻10号(2024);View Description Hide Description晩婚化・少子化が進むわが国において,生殖補助医療(ART)の重要性が非常に高まっているなか,胚移植を繰り返しても妊娠に至らない着床不全が問題となっている.着床不全の原因として,子宮側の要因はいまだ明らかになっていないことが多い.本稿では,着床期子宮内膜のエピジェネティクス,特にヒストン修飾の一種であるヒストンH3 の27 番目のリジン残基のトリメチル化(H3K27me3)と,その主要分子であるEZH2(enhancer of zeste homolog 2)と着床の関係性について解説する.子宮のEZH2 がヒト,マウスいずれの着床にも重要であること,特に子宮内膜間質細胞の脱落膜化に関与していることが示されており,そのメカニズムとしてTGF-βを介した創傷治癒反応の制御,細胞周期と分化の制御などがあげられる.また,間質細胞だけではなく,子宮内膜管腔上皮(LE)のトランスクリプト-ムリモデリングにも関わっていることが明らかとなった.今後もエピジェネティクスの観点から着床のメカニズムが解明され,不妊治療のブレイクスル-が生まれることを期待する. -
着床と着床不全:生殖免疫
291巻10号(2024);View Description Hide Description妊娠の成立・維持には女性ホルモンや黄体ホルモンなどの内分泌系の関与は非常に重要であるが,NK 細胞,T 細胞など免疫担当細胞も子宮内膜に存在し,着床期から妊娠初期にかけてその数を増やしていき,妊娠の成立・維持に働いている.複数回の良好胚移植でも妊娠が成立しない反復着床不全(RIF)にも免疫が関与していることには異論がないものと思われるが,適切な評価法や治療法が確立されていないため,各種ガイドラインをみても免疫学的な検査法や治療法は推奨されていない.免疫学的検査では,適切な評価法と正常値が存在しないことが問題である.免疫学的治療はその有効性は認められているものの,十分なデ-タがないため治療は推奨されていない.これからのデ-タ蓄積が肝要であり,筆者らはエビデンスを構築していく必要がある. -
着床後発生:ヒト受精卵から胎盤が発生する仕組み
291巻10号(2024);View Description Hide Description胎盤の主要な構成細胞である栄養膜細胞は,母児間の物質交換,ホルモンの産生,免疫寛容の成立などにおいて中心的な役割を担っている.栄養膜細胞は着床前の栄養外胚葉に由来し,①細胞性栄養膜細胞(CT 細胞),②合胞体栄養膜細胞(SynT 細胞),③絨毛外栄養膜(EVT 細胞)の3 種類に大別される.CT 細胞は高い増殖能力を持ち,SynT 細胞およびEVT 細胞へと分化する能力を有する.SynT 細胞はCT 細胞の融合によって作られる多核の細胞であり,栄養・ガス交換やホルモン産生を担う.EVT 細胞はCT 細胞の上皮間葉転換によって作られ,子宮内膜へと浸潤してらせん動脈の再構成を行うことで,母体の血流の調整に関与する.近年になって,SynT 細胞およびEVT 細胞への分化能を保持したまま長期培養可能なヒト栄養膜幹細胞(TS細胞)が樹立されたことで,栄養膜細胞の増殖・分化の制御機構に関する研究が加速している. -
生殖細胞におけるクロマチン動態とトランスポゾン制御
291巻10号(2024);View Description Hide Description哺乳類生殖細胞の発生段階では,DNA メチル化やヒストン修飾といったエピゲノムマ-クが再構築されるなど,大規模なクロマチン変化が起きることで生殖細胞の特異な形質が獲得される.初期発生過程で出現した始原生殖細胞(PGC)では,ゲノム上のDNA メチル化が消去されるなど,両親から受け継いだエピゲノム情報が失われる.その後,ゲノム上に再度DNA メチル化が導入される際には,転写,ヒストン修飾,クロマチンアクセシビリティといったゲノムの状態がDNA メチル化の程度に影響する.このようにして形成されたゲノム上のエピゲノムマ-クに加えて,主にエンハンサ-を介した転写因子による遺伝子発現の制御によって,生殖細胞におけるトランスクリプト-ムが規定されている.上記に加えて,生殖細胞では体細胞とは異なり,トランスポゾン(TE)上のエピゲノムがリプログラムされることで,一過的な発現上昇がみられる.さらに,このTE 活性化は配偶子形成と強く関連することが見出されている.このように,生殖細胞ではDNAメチル化,エンハンサ-,TE などの働きが相互に影響しあうことで,個体の生殖能が担保されていることがわかってきた. -
ヒトブラストイド:胚盤胞モデルの革新とその可能性
291巻10号(2024);View Description Hide Description生殖補助医療技術(ART)は,現代社会において不妊治療における重要な役割を果たしている.しかし,体外受精(IVF)の成功率は年齢とともに低下し,晩婚化が進む現代社会では成功率の向上が大きな課題となっている.IVF の成功率を向上させるためには,ヒト胚の初期発生に関する生物学的知見を得ることが重要である.しかし,ヒト胚を用いた基礎研究は倫理的な課題から限られた研究室でしか行われておらず,得られる知見は限定的である.ヒト胚の代替としてマウスなどの実験動物が使用されてきたが,ヒトとの種差が存在し,その知見がヒトにどの程度適用できるかは不透明である.このような背景から,近年ではヒト胚発生を模倣できる実験モデルの開発が進められている.本稿では,幹細胞を用いたモデルのなかでも,胚盤胞を模倣するヒトブラストイドについて,その特徴と応用の可能性に関してまとめる. -
子宮内膜症の成立に寄与する子宮内細菌:基礎研究の知見より
291巻10号(2024);View Description Hide Description子宮内膜症は性成熟期女性の約10%に認められるとされる,ありふれた疾患であり,かつ不妊症の原因となる.治療の主軸はホルモン療法であるが,排卵や月経を抑制し,不妊治療とは両立できないため,不妊治療中はさらに病状が進行するというジレンマに陥る.一方で子宮内膜症の成因は不明であり,病態解明とそれに基づく根本的な治療法開発が求められている.当教室では,子宮内膜症患者の子宮内膜ではどのような変化が起こっているのかを,遺伝子発現変動を糸口として解析した.その結果,細菌感染が微小環境変化を引き起こし,子宮内膜の細胞が増殖能や浸潤能を獲得し,月経時に卵管を通じて腹腔内へ逆流した際に子宮内膜症病変を形成するという知見を得た.さらに,子宮内膜症マウスモデルの検討により,抗菌薬投与による子宮内膜症病変の治療効果が示された.本稿では,以上の成果について概説する. -
不妊治療の保険適用:現時点までの振り返り
291巻10号(2024);View Description Hide Descriptionわが国における喫緊の課題のひとつである“少子化の進行”への対策として,具体的な道筋を示すため「少子化社会対策大綱」が閣議決定された.そのなかで示された方向性や,2020 年9 月に発足した菅内閣の基本方針において示された方針を踏まえ,2022 年度当初から不妊治療の保険適用を実施するという方針を政府として打ち出した.関係学会などの協力を得ながら,不妊治療の実態把握とエビデンスの整理を進め,中央社会保険医療協議会(中医協)における議論を踏まえ,令和4 年度診療報酬改定において原因不明の不妊や,原因疾患への治療が奏効しないものに対して実施される生殖補助医療などの不妊治療が保険適用されることとなった.不妊治療の保険適用については一定の評価がされているが,今後に向けた課題も指摘されており,引き続き,制度の運用状況をみながら,適切な運用に向けた見直しを順次行う必要があると考える. -
生殖医療と感染症
291巻10号(2024);View Description Hide Description産婦人科学は便宜上,周産期,腫瘍学,生殖・内分泌,女性医学に大別される.産婦人科感染症学は女性医学のカテゴリ-に“その他”として包括されることが多いが,実際にはヒトパピロ-マウイルス(HPV)発がん(腫瘍学),早産・切迫早産,母子感染(周産期),性感染症と不妊(生殖内分泌)と,すべての領域に関連する重要な学問分野である.本稿では,生殖医療に関わる感染症ならびに女性生殖器の常在菌と粘膜免疫について,筆者らの研究成果も含めて現状と今後の課題を概説したい.
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