Volume 292,
Issue 1,
2025
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【1月第1土曜特集】 ゲノム解析時代の血液腫瘍学
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医学のあゆみ 292巻1号, 1-1 (2025);
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医学のあゆみ 292巻1号, 3-6 (2025);
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がんドライバ-遺伝子を特定し,その遺伝子を標的とした最適な治療を提示する,がんゲノム医療が実臨床に導入されている.わが国では,2019 年6 月には2 つのがん遺伝子検査パネル検査が保険承認されたが,それ以降,がんゲノム医療を受ける患者数が急増し,現在までに8 万人に超える症例で,がん遺伝子パネル検査が実施されている(2024 年9 月現在).このがんゲノム医療のなかでも中心的な役割を果たしているのがエキスパ-トパネルである.がんゲノム遺伝子パネル検査の結果を,ゲノム生物学や医療に精通した専門家により詳細に検討し,治療戦略を導く会議体であり,がんゲノム医療の実施には不可欠である.しかし,がん遺伝子パネル検査の承認当初の体制や要件がそのまま継続されており,課題も多く存在する.また,現在のがんゲノム医療の適応は固形腫瘍であるが,今後は造血器腫瘍におけるがんゲノム医療もはじまり,エキスパ-トパネルの役割や進め方についても造血器腫瘍の特性に合わせた形が必要となる.
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医学のあゆみ 292巻1号, 7-11 (2025);
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造血器腫瘍に対するゲノムパネル検査の保険収載を見越して,結果デ-タの活用が期待される.造血器腫瘍パネル検査の持つ診断,予後予測,治療最適化の3 つの大きな機能のうち,前二者は臨床導入が容易であるが,治療最適化については国ごとに医療提供事情が異なるため,わが国の状況に合わせた対応が必要である.わが国では,治療薬アクセスの手段として保険診療,治験,先進医療,患者申出療養の4 つの方法がある.おおむねこの順番でアクセスが容易となるが,各制度の特性を正しく理解して利用する必要がある.また,治療の提供可能性が流動的かつ拡大的に変化するため,常に最新の情報を得るための手段を確立しておくことも重要である.ここでは,上記の4 つの治療薬アクセス手段の特徴を述べ,また情報へのアクセスについても説明する.
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医学のあゆみ 292巻1号, 12-20 (2025);
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造血器腫瘍領域では,疾患の予後予測により同種造血幹細胞移植の適応を判断する.現在,世界的に次世代シ-ケンサ-(NGS)検査情報をベ-スにした疾患予後予測分類が次々と登場している.急性骨髄性白血病(AML)では,NGS パネル検査に基づく新たな予後分類であるELN(European Leukemia Network)2022 分類が登場した.NGS パネル検査により,特に予後良好群の遺伝子変異としてCEBPA bZIP のインフレ-ム変異を,また予後不良群の遺伝子変異としてTP53 変異および骨髄異形成症候群(MDS)関連遺伝子を検出可能と考えられる.MDS ではNGS パネル検査に基づく予後分類IPSS-M が登場し,従来よりも正確な予後予測が可能となった.急性リンパ芽球性白血病(ALL)でも,IKZF1plus変異などハイリスク遺伝子変異の検出は,第一寛解期(CR1)での同種造血幹細胞移植実施の判断材料となる.骨髄線維症(MF)における診断に必要なドライバ-変異であるJAK2,CALR,MPL 変異は現在,PCR 法で検出可能である.さらに,NGS パネル検査によるASXL1 などの遺伝子変異の検出により,より詳細な疾患予後スコアおよび移植後の予後予測スコアが開発されている.初発時にNGS パネル検査を実施することで,わが国でもこれらの予後予測スコアの活用が可能となり,これまで以上に同種造血幹細胞移植が必要な患者の適切な選択と,最適な移植時期の決定が可能となると考えられる.
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医学のあゆみ 292巻1号, 21-29 (2025);
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加齢に伴って出現するクロ-ン性造血(CH)は,血液腫瘍の前駆病変としてのみならず,心血管疾患をはじめとするさまざまな疾患のリスク因子としても,近年注目が集まっている.CH を構成するゲノム異常として,遺伝子変異とモザイク染色体異常(mCA)が知られているが,両者の関係性や予後に与える影響については限定的な理解しか得られていなかった.筆者らは,CH における遺伝子変異とmCA の統合解析を実施することで,両者の特徴的な共存関係を明らかにした.特にDNMT3A,TET2,TP53,JAK2 などの遺伝子については,遺伝子変異とmCA が共存することでヘテロ接合性消失を起こしていた.さらに,両者の共存を認める症例では血液腫瘍,心血管疾患のリスクが著しく上昇しており,2 種類の病変の協調的な効果が示唆された.今後も,CH における遺伝子変異とmCA の統合的な解析を進めることで,さまざまな疾患のリスク層別化が可能となり,CH に関連する研究・臨床において重要な知見が得られると期待される.
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医学のあゆみ 292巻1号, 31-36 (2025);
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家族性造血器腫瘍の存在は19 世紀から報告されていたが,原因は長らく不明で非常にまれな病態と考えられていた.20 世紀末のRUNX1 胚細胞変異の発見以降,近年の遺伝子変異解析技術の発展などにより,胚細胞遺伝子変異を有する造血器腫瘍は以前想定されていたよりも高頻度かつ多彩であることが明らかとなり,2016 年のWHO 分類改訂第4 版では,生殖細胞系列素因を伴う骨髄系腫瘍のカテゴリ-が新たに設けられた.しかし,適切な診断方法や診療方針については依然として不明な点が多く,特に移植が検討される症例については適切な移植方法や血縁ドナ-の胚細胞変異の検索も含め課題も多い.本稿では,それぞれの胚細胞遺伝子変異による臨床的特徴の違いにも触れつつ,現状でわかっていることや今後の課題について概説する.
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医学のあゆみ 292巻1号, 37-42 (2025);
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急性骨髄性白血病(AML)では反復性の遺伝子変異によって規定される疾患名があり,診断段階から遺伝子検査が必須である.また,遺伝子変異プロファイルによる予後予測に基づいた治療選択により,個別化診療が可能となる.変異遺伝子は固形腫瘍とは異なり造血器腫瘍特異的なものが多く,造血器腫瘍遺伝子パネル検査の認可に伴い,国際的なガイドラインに基づいた診断,予後予測が可能となることが期待される.一方,これまで気づかれず診療されてきた家族性変異が同定された場合は,血縁ドナ-の選択や未発症保因者のフォロ-について配慮が必要である.また,FLT3-ITD 変異,NPM1 変異などの腫瘍特異的変異を測定可能病変(MRD)マ-カ-として用いることで予後を層別化できることが報告されており,MRD 解析が可能な検査開発も望まれる.TP53 変異を伴うAML は造血細胞移植を行ってもいまだ予後不良であり,新たな治療開発が望まれる.
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医学のあゆみ 292巻1号, 44-52 (2025);
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骨髄異形成症候群(MDS)は,時に診断に苦慮し,正確な予後予測が極めて重要な造血器腫瘍であり,染色体異常,芽球数,血球減少に基づきスコアを算出する国際予後判定システム(IPSS)がこれまで用いられていた.TP53 やSF3B1 を含むいくつかの遺伝子異常が予後に関わることが報告されていたが,多くの遺伝子変異が共存する特徴により,体系的なリスク層別化は困難であった.わが国において国内初の造血器腫瘍遺伝子パネル検査が保険承認されたことから,得られたゲノム異常をどのようにMDS 診療の臨床応用につなげるのか検討が必要である.①診断に苦慮する血球減少症例の高精度な診断,②3,000 人以上のMDS を対象に作成された高性能な新規予後予測モデルであるIPSS-M の適用,③今後の個別化医療確立のための治療法選択の支援などが,MDS に関連するゲノム異常の臨床的意義として期待されている.本稿では,臨床的意思決定を導くためのリスクスコアリングシステムの開発や,MDS 患者のリスク評価と治療戦略の改善における包括的なゲノム解析の潜在的利点について概説する.
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医学のあゆみ 292巻1号, 54-60 (2025);
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真性赤血球増加症(PV),本態性血小板血症(ET),原発性骨髄線維症(PMF)からなる骨髄増殖性腫瘍(MPNs)では,JAK2V617F,JAK2 exon12,MPLW515,CALR exon9 といった造血因子受容体のシグナルを活性化するドライバ-変異が疾患特異的にみられ,診断に必須である.JAK2V617F 変異は血栓症リスク因子,CALR 変異は予後良好因子としても活用されている.クロ-ン性造血(CH)のドライバ-変異として知られるTET2,DNMT3A,IDH1/2,ASXL1,EZH2 などのエピゲノム調節分子や,U2AF1,SRSF2,SF3B1などのRNA スプライシング制御分子の変異は,MPNs において動脈血栓症,病態進展,生存のリスク因子である.変異情報を臨床情報と統合した新たなリスク層別化モデルが作成されており,今後は次世代シ-ケンサ-(NGS)の臨床実装とともにその活用が進むであろう.
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医学のあゆみ 292巻1号, 62-66 (2025);
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造血器悪性腫瘍において,スプライシング因子(SF)遺伝子の変異は高頻度に認められる.SF3B1 変異のなかでも代表的なK700E 変異は,異常な3′スプライスサイト(3′ss)の使用を引き起こし,スプライシング異常を引き起こす.一方で,SRSF2 のホットスポット変異は,特定のRNA モチ-フへの結合選択性を変化させ,C リッチな配列を持つエクソンの包含を促進することでスプライシング異常を誘発する.これらSF 変異は本来正常に行われるべきスプライシングを無数に変調させ,ナンセンス媒介mRNA 分解(NMD)などの機序により腫瘍発生や特定の病態の原因となるタンパク質発現低下に関与すると考えられている.近年,スプライソソ-ム阻害薬やアンチセンスヌクレオチド(ASO)などの,SF 変異を有する腫瘍細胞に特異的に作用するような治療戦略の開発が進んでおり,今後の進展が期待されている.
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医学のあゆみ 292巻1号, 67-72 (2025);
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形質細胞様樹状細胞(pDC)に関連する腫瘍性の病態として,芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)と骨髄性腫瘍に伴う成熟形質細胞様樹状細胞増殖症(MPDCP)が知られている.BPDCN は皮膚病変を特徴とするまれで予後不良な造血器腫瘍である.BPDCN ではエピジェネティクス関連,スプライシング関連の遺伝子異常が高率に認められ,8q24(MYC),MYB の再構成が一部の症例にみられるなど,近年そのゲノム異常の全体像が明らかになりつつある.造血幹細胞からBPDCN 細胞に至る腫瘍化の過程についても解析が進んできた.実臨床で治療に直結するゲノム異常は明らかではないが,さまざまな新規治療法が検討されている.本稿では,それらの知見を概観するとともに,MPDCP,pDC 増生を伴う急性骨髄性白血病(pDC-AML)といったpDC 関連腫瘍でみられるゲノム異常についても紹介する.
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医学のあゆみ 292巻1号, 73-78 (2025);
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組織球腫瘍は,骨髄由来の未熟樹状細胞,単球,マクロファ-ジを起源とする腫瘍性疾患である.約半数にBRAFV600E遺伝子変異が認められ,残り半数に他のMAP キナ-ゼ(MAPK)経路の遺伝子変異や受容体チロシンキナ-ゼの活性化変異が認められることから,MAPK 経路の恒常的な活性化が腫瘍形成に関連している.近年,遺伝子変異に基づく病理組織学的分類や分子標的治療の進歩がみられる疾患群である.希少疾患のため,まだ実態が十分把握されておらず,今後,日本でも遺伝子解析を実施し,標準治療を確立していく必要がある.
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医学のあゆみ 292巻1号, 79-84 (2025);
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近年の網羅的な遺伝子解析研究により,ダウン症候群関連骨髄増殖症におけるゲノム異常の全貌が明らかになり,新生児期における一過性異常骨髄増殖症(TAM)が主にダウン症候群によるトリソミ-21 とGATA1遺伝子の変異によって発症し,一方でダウン症候群関連骨髄性白血病(ML-DS)の発症にはGATA1 変異に加えてコヒ-シン複合体,エピゲノム制御因子,シグナル伝達経路や転写因子など,さまざまな機能に関わる遺伝子に付加的なゲノム異常が獲得されていることが明らかになった.さらに,多数症例の遺伝子解析によりゲノム異常と臨床的な予後の関係が明らかになり,予後不良と相関するゲノム異常が同定された.将来的には遺伝子異常に基づいた治療層別化による個別化医療の実現により,ML-DS の予後改善につながることが期待される.
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医学のあゆみ 292巻1号, 85-90 (2025);
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B 細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)の治療では,患者ごとのリスクを評価し,最適な治療強度を設定する“層別化治療”が重要となる.B-ALL はヘテロな疾患であり,遺伝子変異や発現プロファイルをもとに分子病型を特定することが,リスク評価において有用である.最近発表された国際的な疾患分類であるICC2022 やWHO 分類第5 版では,最新の研究成果が反映されており,B-ALL の分子病型の数が大幅に増加している1,2).本稿では,特にAYA(思春期・若年成人)世代および成人に多くみられる病型に焦点を当て,それぞれの分子病態と臨床的意義について概説する.
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医学のあゆみ 292巻1号, 91-98 (2025);
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小児T 細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の治療成績は向上しているものの,非寛解や再発などの難治例は極めて予後不良である.近年の大規模ゲノム解析により,小児T-ALL において重複して変異が生じているがん関連経路や,遺伝子変異,ゲノムコピ-数異常,遺伝子発現に特徴づけられる遺伝学的サブタイプが同定され,臨床的意義の検討がなされている.一方,筆者らは次世代シ-ケンサ-を用いた全トランスクリプト-ム解析(WTS)により新規の悪性度に関連するSPI1 融合遺伝子を同定した.興味深いことに,SPI1 融合遺伝子陽性例は他のT-ALL とは異なるメチル化プロファイルを有することが見出された.これらの知見により,従来の免疫表現型や治療反応性に基づいた層別化よりも,さらに精度が高い予後予測が可能となる可能性があり,T-ALL の遺伝学的理解を深めることは,難治性小児T-ALL の治療成績向上に貢献するものと期待される.
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医学のあゆみ 292巻1号, 99-104 (2025);
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びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫(DLBCL)は,近年増加の一途をたどる悪性リンパ腫の最大病型であり,多様な病態・臨床像を有する.そもそもリンパ球は免疫多様性を獲得する代償として変異リスクを抱えており,その成熟過程の各段階で腫瘍化しうると考えられている.したがって,リンパ腫のゲノム異常の解明はリンパ腫の成り立ちや病態の理解に貢献してきた.近年,次世代シ-クエンシング(NGS)技術の発展により,DLBCL の遺伝子変異が急速に明らかになり,変異による新たな分類も提唱されている.そして,その波は臨床現場にも及んでおり,ゲノム変異情報が診断,予後予測,治療判断の各診療ステップに大きく影響を与えつつある.造血器腫瘍遺伝子パネル検査の導入,新規治療法の台頭など,DLBCL 診療を取り巻く環境は大きく変容しており,臨床現場もこれに対応する必要がある.
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医学のあゆみ 292巻1号, 105-109 (2025);
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t(14;18)転座は,濾胞性リンパ腫(FL)で高頻度に認められる特徴的な染色体異常であり,抗アポト-シス分子であるBCL2 過剰発現が発症に重要と考えられてきたが,近年の解析技術の進歩によって多くの付加的ゲノム異常の存在が明らかになった.なかでもクロマチン修飾遺伝子や免疫グロブリン重鎖(IGH)遺伝子可変領域糖鎖修飾関連変異などは,胚中心での腫瘍性B 細胞と周囲の免疫微小環境との相互作用を修飾することによって,FL の発生・病態形成に重要な役割を果たすことが示されている.また,ゲノム研究はFL の精緻な予後予測因子として活用される可能性が示されているだけでなく,EZH2 阻害薬タゾメトスタットの開発にも寄与してきた経緯があり,将来,ますますの基盤的研究の発展と臨床応用が期待される.
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医学のあゆみ 292巻1号, 111-115 (2025);
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ホジキンリンパ腫は,1832 年にThomas Hodgkin により報告されたcase series 以来,150 年以上にわたり研究されてきた1).組織学的に明瞭な核小体と,しばしば多核を伴う特徴的な巨細胞であるHRS 細胞の出現を特徴とする.長年“ホジキン病”とよばれ,炎症性疾患か腫瘍性疾患かの議論が続いていたが,2000 年前後にシングルセルPCR の技術が発達し,HRS 細胞がclonal なB 細胞の増殖であることが証明され,“ホジキンリンパ腫”の名称が定着した.通常,腫瘍性病変では腫瘍細胞自体がmain population を占めるが,ホジキンリンパ腫ではHRS 細胞が腫瘍全体の2~3%にしか存在しないことが,その分子生物学的解析におけるハ-ドルであり続けている.しかし近年,シングルセルマニピュレ-ション(マイクロダイセクション),マイクロアレイによる網羅的発現解析,次世代シ-クエンス,および近年の空間的トランスクリプト-ムなどの最新の分子生物学技術により,その全貌が明らかになろうとしている.
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医学のあゆみ 292巻1号, 116-121 (2025);
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T/NK 細胞リンパ腫は発生部位や臨床像,細胞形態,免疫学的形質,腫瘍細胞におけるウイルス感染の有無に基づいて分類される.結果として多数の病型が存在し,臨床的,病理学的,分子生物学的に極めて不均一である.近年のゲノム解析で,節性T 濾胞ヘルパ-細胞リンパ腫(nTFHL)におけるRHOA p.G17V,ALK 陽性未分化大細胞リンパ腫(ALK+ALCL)におけるALK 再構成など,各病型に特徴的な分子異常が明らかになり,これらは客観的な病型診断,精度の高い予後予測に貢献している.一方,STAT3,JAK1/3 などのJAK/STAT 経路,TET2,DNMT3A,KMT2D などのエピゲノム関連,TP53 の遺伝子異常は病型横断的に存在し,病型の鑑別には臨床病理学的アプロ-チが今なお必要である.また,得られたゲノム異常の知見から,いかに腫瘍細胞の脆弱性を予測し,T/NK 細胞リンパ腫患者の精密医療にどうつなげるかが,今後の課題である.
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医学のあゆみ 292巻1号, 122-127 (2025);
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近年の解析技術の進歩により,成人T 細胞白血病・リンパ腫(ATL)に関連する多彩なゲノム異常が明らかにされている.極めて予後不良なATL は,特にT 細胞受容体(TCR)経路/NF-κB 経路に高頻度に集積する遺伝子異常が特徴であり,シグナル伝達経路の複雑な活性化がヒトT 細胞白血病ウイルス1 型(HTLV-1)感染T 細胞の腫瘍化に重要である.また,腫瘍免疫の回避に関連する異常も明らかにされている.一方,感染細胞のクロ-ン性増殖の様式は症例ごとに異なると想定され,多様なメカニズムによってサブクロ-ン構造が形成され,個々の病態や治療抵抗性に関連すると考えられる.ゲノム異常は臨床病型に影響し,遺伝子異常を組み合わせた予後予測モデルも提案されている.一方,ATL は共通する多くの臨床的特徴を有しており,多様なゲノム異常の背景にある共通する分子病態が存在する.エピジェネティックな異常は遺伝子発現パタ-ンを形成する重要なプロセスであり,エピゲノムの可塑性を標的とした治療法の開発に結びついている.
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医学のあゆみ 292巻1号, 128-132 (2025);
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多発性骨髄腫(MM)は,その進展過程のなかで複数のクロ-ン(サブクロ-ン)が存在し,ゲノム的に非常に不均一(heterogeneity)な性質を有する集団である1).一個体の中での骨髄と髄外病変では,その遺伝学的プロファイルが異なるとされ2),このような性質がゲノム異常を基にした医療を実行する過程で障壁となると考えられる.現在でもR-ISS(Revised International Staging System)に代表されるような,MM 発症に関わる部分のマクロな異常(染色体異常やコピ-数変化)がいまだ予後に対して大きなインパクトを有し,ミクロな異常である塩基レベルのゲノム異常がどこまでMM の予後や治療選択に影響を与えるかについてはまだ確定的なものはなく,研究段階といえる.本稿では,MM の病態におけるゲノム異常・解析の現状と予後との関連性,今後の治療選択と臨床応用への展望について,基礎研究や臨床試験の結果を交えつつレビュ-する.