医学のあゆみ
Volume 294, Issue 9, 2025
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【8月第5土曜特集】 止血・血栓・凝固の最新知見─研究と臨床を繋ぐ
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止血と血栓の違い
294巻9号(2025);
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血液は,体内の血管内では固まらずに液体で循環しているが,血管の外に出ると瞬時に固まる,止血という非常に不思議で高度なメカニズムを持っている.近年問題となっている心筋梗塞,脳梗塞,肺血栓塞栓症(エコノミ-クラス症候群)などの血栓症は人間にとって有害なものであるが,生命維持に必要な止血と同じ因子が関与している.そのため血栓の形成機序を理解するためには,止血のメカニズムを理解しないといけない.歴史的に人間は,けがによる出血で命を落とす危険性が高かったため,止血機能が高い人間が現在生き残っていると考えられる.ただし,大きなけがをしなくなった現在,強い止血機能は高齢化や肥満などを持つ現代人にとって皮肉にも害となり,血栓症が問題となっている. - 血栓止血関連検査
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血小板の機能と検査法
294巻9号(2025);
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血小板は生理的止血および病的血栓形成において中心的役割を担い,血小板形成における分子機構の詳細は明確になりつつある.一方で,宿主防御や炎症,腫瘍増殖・転移などにおける役割も注目されている.血小板機能検査は現在においても光透過凝集法(LTA)を用いた血小板凝集能検査がゴ-ルドスタンダ-ドであるが,手術室や救急外来での大量出血あるいは止血困難例のPOC(point-of-care)モニタ-として使用できる機器も開発されてきている.それぞれの検査の特性を十分理解し,目的に応じた適切な検査を行うことと,その限界を理解することが,血小板機能検査を使用する際に重要である. -
フォン・ヴィレブランド因子の機能と検査法
294巻9号(2025);
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フォン・ヴィレブランド因子(VWF)は,血管損傷時に血小板を血管内皮下組織に粘着させることで一次止血に重要な役割を果たすほか,血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)のキャリアタンパク質としても機能する.VWF の質的または量的異常は,フォン・ヴィレブランド病(VWD)とよばれる先天性出血性疾患を引き起こし,また後天性にVWF 活性が低下する病態は,後天性フォン・ヴィレブランド症候群(AVWS)とよばれる.これらの疾患の診断および病型分類には,VWF の抗原量や活性,重合状態を評価するマルチマ-解析などの臨床検査が重要である.近年では,従来のリストセチンコファクタ-活性(VWF:RCo)検査に加え,新たなVWF 活性測定法が臨床研究の成果をもとに開発されており,マルチマ-解析を含めた各種検査法の標準化や,診断アルゴリズムに基づく臨床応用が期待されている. -
血液凝固因子と凝固制御因子の機能と検査
294巻9号(2025);
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生体内での止血機構は,血管の機能,血小板機能,血液凝固(凝固)および線維素溶解(線溶)機能の密接な相互作用により進行する.血小板は,リン脂質を反応の場として提供することにより凝固反応の活性化に寄与し,凝固反応は血液成分と内皮下組織との接触が起点となる.また,凝固反応は血管内皮細胞上に存在する複数の因子により緻密に制御されている.凝固検査に際しては,採血時の組織液混入やヘパリンなどの抗凝固薬の混入など,検体の取り扱いに注意する.プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)は,それぞれ外因系および内因系の凝固因子の活性を総合的に捉える機能検査である.ヘパリンや直接阻害型経口抗凝固薬(DOACs)などの薬剤は,凝固因子や凝固制御因子の活性値に影響を及ぼし,偽低値や偽高値をきたすことがある. -
線溶因子の機能と検査
294巻9号(2025);
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線溶反応はフィブリンの分解反応であり,プラスミンによるフィブリン分解がその中心的役割を果たしている.凝固反応に比較し,線溶反応に関与する因子は少ないが,巧妙に制御されている.生理的状態ではプラスミンはフィブリン血栓表面で効率よく産生され,フィブリン表面でのみ作用する.一方,流血中などでは速やかにプラスミンは不活化される.これらの線溶反応の制御に関与する因子としては,プラスミノゲンアクチベ-タインヒビタ-(PAI)-1,α2-アンチプラスミン(α2-AP)およびトロンビン活性化線溶阻害因子(TAFI)があり,それぞれ異なる部位,適切な速度で,空間的・時間的に制御されている.線溶系の検査では線溶活性化や線溶制御能の低下は評価できるが,線溶反応の抑制や線溶制御の過剰状態などの評価は困難である. -
補体疾患における補体系と血小板・凝固・線溶系のクロスト-クと補体検査法
294巻9号(2025);
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自然免疫系を担う補体系と凝固系は,ともにセリンプロテア-ゼがカスケ-ド状に活性化するシステムである.そのため互いに活性化し合い,クロスト-クすることや制御機構を共有していることが知られている.凝固系の因子が補体を活性することはよく知られているが,補体疾患それぞれにおいて,どのクロスト-クが重要であるかははっきりしない点が多い.本稿では,代表的な補体疾患である発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH),非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS),遺伝性血管性浮腫(HAE)における血小板・凝固系へのクロスト-クの分子メカニズムを概説する.また,これらの補体疾患に対してさまざまな抗補体薬が適応となり,これからも新しい抗補体薬が登場するだけでなく,適応となる疾患も増加すると考えられる.補体疾患の病態解明や抗補体薬の適切な使用のために,補体の関与や活性化状態を把握する補体検査の充実が,今後の課題である. -
血栓止血疾患における遺伝子検査
294巻9号(2025);
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血栓止血疾患における遺伝子異常は,凝固系,凝固制御系,線溶系,血小板機能,補体系にまたがり,多彩な表現型を示す.静脈血栓塞栓症(VTE)ではSERPINC1,PROC,PROS1 の異常が三大遺伝性素因であり,日本人特有の変異も存在する.出血性疾患ではF8,F9,VWF の異常が中心で,フォン・ヴィレブランド病(VWD)では量的・質的異常の分類に遺伝子検査の結果が寄与する.さらに,ADAMTS13,ITGA2B,F13A1,補体関連遺伝子を含む希少疾患の診断では,次世代シ-クエンス(NGS)や全エクソ-ム解析(WES)/全ゲノム解析(WGS)の活用が進む.保険適用は限定的であるが,近年,VTE や補体関連遺伝子などの検査が収載された.検査報告ではVUS(意義不明変異)への対応や,医師による臨床的解釈が求められる.妊娠・産褥期や若年性,家族歴のある症例では,遺伝カウンセリングを含めたプレコンセプションケアが特に重要である.ゲノム医療の進展に伴い,今後の実装には倫理的配慮と情報管理体制の整備が不可欠となる. -
血栓症の画像診断
294巻9号(2025);
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本稿では,血栓症の画像診断について概説する.前半部分では血栓による疾患の画像診断について,特に臨床的に頻度が高い肺動脈塞栓症を中心に説明する.後半部分ではMRI を用いた血栓の性状評価,腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)にて留置された後の腹部大動脈瘤(AAA)内にある血栓について,具体例に説明する. -
血栓症の病理診断
294巻9号(2025);
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血栓症は動脈性と静脈性,微小血栓症に大別され,血栓の部位や構成によって病態や治療法が異なる.病理診断では,血栓そのものを評価することで,血栓症の発症機序や病態,時相を考察することができる.冠動脈や脳動脈の吸引血栓では,プラ-ク破綻の種類や血栓の時相を組成から推定可能であり,疾患メカニズムの理解や予後予測に有用となる可能性がある.深部静脈血栓症(DVT)では,静脈壁との接着や器質化の程度を評価することで,慢性反復性の病態が明らかになってきている.肺血栓塞栓症(PTE),がん関連血栓症,羊水塞栓症(AFE)などの病理解剖は,全身的・組織的視点から血栓の分布や組成を評価することができ,個々の患者の病態解明が期待される. - 血栓止血疾患における新規治療
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輸血治療のイノベ-ションの達成に向けて─iPS血小板製剤の問題点
294巻9号(2025);
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筆者らは,血小板輸血不応症に対する新たな治療法として,自家および同種由来の人工血小板製剤の開発に取り組んでいる.世界初の人工血小板製剤によるヒト投与臨床試験“iPLAT1”では,ヒト血小板抗原HPA-1a に対する同種抗体を有し,適合するHPA-1b/1b 型ドナ-が存在しない再生不良性貧血患者を対象に,患者自身の末梢血由来iPS 細胞を用いて,第一世代のiPS 細胞由来血小板(iPS 血小板)を製造し,投与を実施した.本試験は用量漸増法に基づいて実施され,安全性の検証には成功したものの,iPS 血小板のいくつかの課題が明らかとなった.本稿では,第一世代iPS 血小板製剤の開発を支えた基盤技術とその限界を概観するとともに,これらの成果を踏まえ,現在始動している次世代型人工血小板製剤の開発戦略について紹介する. -
バイスペシフィック抗体医薬
294巻9号(2025);
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バイスペシフィック抗体医薬のエミシズマブは,血友病A の治療に革命をもたらした医薬品で,わが国では2018 年に上市された.エミシズマブは,活性化第Ⅸ因子(FⅨa)と第Ⅹ因子(FⅩ)に同時に結合し,血友病A で欠損している第Ⅷ因子(FⅧ)の補因子機能を代替するという独創的な作用機序を持つ.また,優れた出血予防効果が長期間持続する皮下投与製剤であり,さらにFⅧインヒビタ-の有無にかかわらず効果を発揮できる.本稿では,エミシズマブの作用特性を振り返った後,トピックスとして,①エミシズマブ治療下での臨床検査に関する干渉課題とその解決アプロ-チ,②エミシズマブ治療下でまれに発生する中和抗薬物抗体(ADA)の特性と臨床的影響,③エミシズマブおよび次世代FⅧ機能代替バイスペシフィック抗体医薬に適用されている抗体工学技術について概説する. -
血友病に対する遺伝子治療
294巻9号(2025);
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血友病は,血液凝固第Ⅷ因子(血友病A)あるいは第Ⅸ因子(血友病B)の欠乏により,出血を呈する先天性の出血性疾患である.これまでの治療法は血中に欠乏する凝固因子を投与する補充療法が中心であった.半減期延長因子製剤や抗体医薬の開発は,患者の負担を軽減させ,QOL(生活の質)を向上させた.しかし,現状の定期的薬剤投与による治療は生涯継続しなければならない.こうした背景から,1 回の投与で持続的に治療因子を産生させる遺伝子治療が大きな期待を集めてきた.近年,遺伝子治療研究の進展により,アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクタ-による遺伝子治療薬が欧米で承認され,血友病に対する1 回投与型の遺伝子治療が現実的選択肢となりつつある.さらに,造血幹細胞(HSC)移植を利用した遺伝子細胞治療の臨床試験での成功例も報告されている.本稿では,遺伝子治療の原理,現在の開発状況,課題について概説する. -
血栓症と核酸アプタマ-創薬
294巻9号(2025);
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核酸アプタマ-の特筆すべき特長は,相補鎖配列によって薬理作用を迅速かつ特異的に中和・調節できる点にある.抗凝固薬は血栓症治療に不可欠だが,出血リスクが常に伴うため,相補鎖によって予期せぬ出血時に薬剤効果を速やかに停止させることができる核酸アプタマ-は創薬モダリティとして魅力的である.本稿では,承認済みの核酸アプタマ-薬2 品目に加え,核酸アプタマ-の価値を最大限に引き出せる血栓止血疾患領域における核酸アプタマ-薬の開発の歴史をまとめた.過去に第Ⅱ~Ⅲ相臨床試験まで進んだ抗凝固/中和剤システムがあるが,化学修飾の免疫原性リスクと,莫大な開発費用を賄う資金調達の困難さが開発の障壁となっている.核酸アプタマ-は未だ若いモダリティであるという認識のもと,「シンプルな分子設計」や「適切な対象疾患の選択」が核酸アプタマ-薬の発展の鍵となる. - 出血性疾患─病態の解明と診断,治療の進歩
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免疫性血小板減少症(ITP)の病態,診断,治療の進歩
294巻9号(2025);
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免疫性血小板減少症(ITP)は,抗血小板自己抗体により血小板数が減少する疾患であり,重篤な出血リスクを回避することが重要である.自己免疫が病態の中心であり,最近では“免疫性血小板減少症”という病名も浸透しつつある.しかし,抗血小板自己抗体の測定が困難なため,その病態解明は十分に行われていない.ITP 診断では,「成人免疫性血小板減少症診断参照ガイド2023 年版」で新たに加わった,血漿トロンボポエチン(TPO)濃度と幼若血小板比率(RP%またはIPF%)の測定により血小板減少の鑑別が容易になったが,依然として除外診断がITP 診断で大きな割合を占め,積極的にITP を診断するための検査の開発が求められている.治療薬では,これまでのITP 治療薬と作用機序が大きく異なる薬剤の開発が行われており,特に難治性ITP 症例に対する治療改善が期待される.本稿では,ITP の病態,診断,治療の現状と進歩について概説する. -
先天性血小板機能異常症
294巻9号(2025);
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止血機構において,血小板は一次止血に必須であり,血管損傷部位に速やかに粘着・凝集し,止血へと至る.血小板の量的異常および質的異常(血小板機能異常症)はどちらも一次止血異常をきたし,出血症状を呈する.血小板機能異常症による出血症状は皮下出血,口腔内出血,鼻出血など皮膚粘膜出血であり,血尿,消化管出血,性器出血を認めることもある.血小板の粘着・凝集,信号伝達,放出機構,膜脂質代謝の先天性異常は先天性血小板機能異常症を引き起こす.先天性血小板機能異常症の診断では,出血症状の問診と観察,血小板機能検査が必要である. -
血友病─最近の治療の進歩
294巻9号(2025);
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血友病医療において,血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤の補充療法の進歩は,血友病性関節症の発症を抑制させ,血友病患者のQOL 向上に大きく貢献した.しかし,製剤の頻回の静脈投与やブラッドアクセス,同種抗体(インヒビタ-)出現は課題であった.これらの克服を目指し,わが国もインヒビタ-発生要因や免疫寛容導入療法などの臨床研究も実施されてきた.近年,製剤開発において半減期延長型製剤や非凝固因子製剤が相次いで登場してきた.特に,抗第Ⅸ因子/第Ⅹ因子バイスペシフィック抗体は皮下投与で長い半減期を有し,血友病A 患者に出血抑制を示す.“Rebalance coagulation”機序に基づく抗アンチトロンビン(AT)製剤と抗TFPI抗体製剤も開発された.さらに,ベクタ-改良やコドン最適化により止血治療域までのタンパク質発現が可能となった遺伝子治療は欧米ですでに承認されている.血友病治療の最近の進歩は,長年の課題を克服させ,さらなるQOL 向上が期待される. -
先天性凝固因子欠乏症(血友病以外)─rare bleeding disorders(RBD)
294巻9号(2025);
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血友病以外の先天性凝固因子障害症は,血友病類縁疾患あるいはRBD(rare bleeding disorders)やRICDs(rare inherited coagulation disorders)と総称される.RBD 患者数は血友病と比較すると少ないが,治療の進歩や世界血友病連盟(WFH)および欧州希少出血性疾患ネットワ-ク(EN-RBD)の調査によって少しずつ情報が集められ,徐々に疾患として認識されるようになってきた.わが国におけるRBD は第Ⅶ因子欠乏症が最も多く,フィブリノゲン欠乏症と第ⅩⅢ因子欠乏症が次いで多い1).RBD の診断は,病歴や家族歴,出血症状や部位,凝固スクリ-ニング検査と各種凝固因子の活性と抗原量を測定して行う.臨床症状は欠乏する凝固因子によってさまざまであり,関節内や筋肉内の深部出血が特徴的とされるが,鼻出血や皮膚の出血斑も多い.出血時や手術などの観血的処置を行う際には,不足した凝固因子を補正するため,血液凝固因子製剤や新鮮凍結血漿(FFP)による補充療法が行われる.フィブリノゲン欠乏症や第ⅩⅢ因子欠乏症では,妊娠を維持するために血液凝固因子製剤の定期的な補充療法が必要である. -
フォン・ヴィレブランド病
294巻9号(2025);
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フォン・ヴィレブランド病(VWD)は,フォン・ヴィレブランド因子(VWF)の量的・質的な異常により発症する遺伝性出血性疾患で,多くは常染色体顕性遺伝,一部は常染色体潜性遺伝により伝播する.症状は皮下・粘膜出血を特徴とする.VWF 抗原量(VWF:Ag)またはVWF リストセチンコファクタ-活性(VWF:RCo)が30%未満の場合をVWD と診断する.止血治療に使用される薬剤は,血管内皮細胞から内在性のVWF を放出させる酢酸デスモプレシン(DDAVP)と,経静脈的にVWF を補充するVWF 含有濃縮製剤の2 種類である.大出血,大手術など長期間の止血管理が必要な場合には,VWF 含有濃縮製剤が選択される. -
後天性血友病─診療ガイドライン(2017改訂版)以降の進歩と課題
294巻9号(2025);
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後天性血友病A(AHA)は,血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)に対する自己抗体(インヒビタ-)が自然発生し,皮下出血や筋肉内出血を特徴とするまれな自己免疫性疾患である.発症には免疫寛容の破綻やサイトカイン異常が関与し,先天性血友病に特徴的な関節出血はまれである.診断は活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長とFⅧ活性低下の確認に基づき,FⅧインヒビタ-測定が不可欠であるが,迅速にAPTT 延長の鑑別診断をするための補助的な検査として,APTT クロスミキシング試験がある.治療は止血療法と免疫抑制療法(IST)が基本であるが,エミシズマブや遺伝子組換えブタFⅧ製剤の登場で治療戦略が拡がった.特にIST が困難な高齢者において,IST-sparing(軽減・回避)の可能性が示されている.今後,診療ガイドラインの改訂や疾患登録の進展により,診療の質向上とエビデンス創出に資することが期待される. -
自己免疫性後天性凝固因子欠乏症─後天性血友病以外
294巻9号(2025);
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後天性凝固因子欠乏症には,インヒビタ-の出現により止血反応が阻害される自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(AiCFD)と,インヒビタ-の出現がない非自己免疫性後天性凝固因子欠乏症(nAiCFD)がある1).AiCFD とnAiCFD の比較では圧倒的にnAiCFD が多いが,原因不明の出血症状を認めた際にはAiCFD を常に念頭におくべきであり,適格な鑑別診断が必須である.クロスミキシングテスト(CMT)が欠乏パタ-ンを示す場合,先天性あるいは消費による凝固因子欠乏症とみなされる.しかし欠乏パタ-ンであっても,凝固因子活性を阻害することなく凝固因子に結合してそのクリアランスを亢進させる抗体の場合は,下に凸の曲線を描くことからAiCFD を鑑別疾患から外してはいけない.AiCFD 診断の際は活性/抗原量比,インヒビタ-の証明に努めるとともに,慎重にnAiCFD の可能性を除外すべきである.インヒビタ-の簡易検出法の開発はこれからの重要課題である. -
出血性線溶異常症─PAI-1欠乏症,α2-PI欠乏症,TM/TAFI異常症
294巻9号(2025);
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出血の原因検索として血小板・凝固機能などの凝血学的検査を行っても,明らかな異常が認められないことがしばしばある.その際,線維素溶解(線溶)機能異常はその妥当な評価法が確立されていないことから,十分に検討されていないと思われる.国際的にも当該病態に対する確立された診断基準はなく,出血時の線溶機能評価は試行錯誤されているのが現状である.筆者らは,原因不明の大出血症例の線溶機能を的確に評価することにより,先天性線溶抑制因子欠乏症を同定した.極めてまれな病態の発見契機となった検査法(フィブリンクロット溶解アッセイ)の有用性が改めて認識され,これは凝固が生じてはじめて作動する線溶系の制御能を評価する最適なツ-ルであると考える.最近,筆者らは線溶抑制機能不全による線溶促進病態の診断・治療を目的とした「出血性線溶異常症診断基準」を作成した.現在,これを用いて出血性疾患における線溶機能異常の実態解明と治療法の最適化を進めている. - 血栓性疾患─病態の解明と診断,治療の進歩
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敗血症に伴う播種性血管内凝固(敗血症性DIC)─好中球細胞外トラップ(NETs)の役割,血栓性微小血管症(TMA)との早期鑑別診断
294巻9号(2025);
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敗血症性の播種性血管内凝固(DIC)は,敗血症に起因する凝固異常であり,免疫血栓の形成と線溶抑制を特徴とする.血栓性(虚血性)臓器障害を合併する予後不良の病態であり,迅速な感染巣コントロ-ルと過剰な免疫・炎症・凝固の制御が必要となる.また,敗血症性DIC は血小板減少,臓器障害をきたす血栓性微小血管症(TMA)と類似の臨床症状や検査所見を呈する場合があり,両者の早期鑑別が重要となる.近年,生体反応としての免疫血栓における好中球細胞外トラップ(NETs)の関与が明らかになってきている.今後は,免疫・炎症・凝固のクロスト-クに着目した研究が進むことで,過剰な免疫反応の程度を評価する検査法の確立,炎症・凝固の相互作用を標的とした新たな治療戦略が期待される. -
播種性血管内凝固─造血器疾患
294巻9号(2025);
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造血器腫瘍,特に急性前骨髄球性白血病(APL)に合併する播種性血管内凝固(DIC)は,アネキシンⅡの関与によって線溶亢進型DIC を呈し,重篤な出血性合併症を引き起こす.そのため,DIC の早期診断と適切なタイミングでの治療介入が重要である.近年,日本血栓止血学会(JSTH)により「播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024」(以下,DIC 診療GL2024)が公表され,DIC の診断および治療アルゴニズムがはじめて体系化された.それによるとDIC の診断は,「JSTH DIC 診断基準2017 年版」または「旧厚生省DIC 診断基準」を用いることが推奨されている.治療に関しては,まず基礎疾患の治療が必須で,必要に応じた輸血療法も重要である.「DIC 診療GL2024」では,抗線溶療法と抗凝固療法における各薬剤のエビデンス評価と臨床的位置づけも示されている.抗凝固薬ではリコンビナントトロンボモジュリン製剤の使用が相対的に高い評価を得ている.本稿では,DIC の最新知見を整理し,「DIC 診療GL2024」を中心に,造血器腫瘍に伴うDIC の現状と課題を概説する. -
固形がんに伴う播種性血管内凝固の病態・診断・治療と今後求められるもの
294巻9号(2025);
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播種性血管内凝固(DIC)は,がんの腫瘍随伴症候群のひとつで,固形がんに伴うDIC は一般的に凝固活性による血小板減少と骨髄での産生が長時間均衡している,いわゆる慢性DIC の臨床形式を示す.ときに,ある種のがん腫の全身播種では急速進行性の臨床形式を示す.また,がん関連血栓症(CAT)のひとつで過凝固状態を基礎としており,しばしば病的血栓を併発する.DIC の早期かつ適切な診断・治療は,担がん患者の生命予後やQOL の向上に必須であり,固形がんの日常診療においては常にDIC の存在を念頭に置いて診療したい.固形がんに伴うDIC は,日本血栓止血学会(JSTH)の「播種性血管内凝固(DIC)診療ガイドライン2024」でも取り上げられ,今現在での望ましい診断・治療が提示された.“固形がんに伴うDIC”とひとくくりに分類されているが,基礎疾患となるがん腫,特に病理学的分類,病期,DIC の程度(慢性か,急速進行性か),生命予後など実に千差万別である.そのような背景のなかで,状況別にどのような治療を選択していくべきか,今後,われわれが明らかにしていかなければならない課題のひとつと考える.さらに限定された生命予後のなかで,どのように患者のQOL を向上させていくべきかを考慮することも重要である. -
先天性血栓性血小板減少性紫斑病
294巻9号(2025);
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血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は,血小板減少,溶血性貧血,微小血栓による虚血性臓器障害を特徴とし,ADAMTS13 活性著減が原因でフォン・ヴィレブランド因子(VWF)が過剰に血小板と結合し,異常な血栓を形成する.TTP の5%未満がADAMTS13 遺伝子変異による先天性TTP である.血小板減少と溶血性貧血を呈する患者において,ADAMTS13 活性低下かつインヒビタ-陰性の場合に,臨床的に先天性TTP が疑われる.確定診断にはADAMTS13 遺伝子解析が不可欠である.ADAMTS13 遺伝子変異は140 種類以上が報告され,個々の患者で異なる.治療の第一選択は,新鮮凍結血漿(FFP)輸注によるADAMTS13 補充であるが,定期的な輸注が必要で負担が大きい.遺伝子組み換えADAMTS13 製剤(アジンマ®)は2023 年にFDA,2024 年にPMDA・EMA で承認され,FFP 輸注よりTTP 発作が少なくアレルギ-反応も低減し,在宅自己注射の可能性も示唆されている. -
免疫性血栓性血小板減少性紫斑病の診断と治療の進歩
294巻9号(2025);
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ADAMTS13 に対する自己抗体産生により発症する免疫性血栓性血小板減少性紫斑病(iTTP)は,かつては致死率90%の不治の病であったが,30 年ほど前に血漿交換療法の有効性が見出され,約80%が救命できるまでにその予後は改善した.しかし,血漿交換療法を中心とした標準治療でも20%の患者が微小血管閉塞により臓器障害で急性期死亡をきたし,後遺障害を残す症例も存在するため,長らくさらなる治療法の進歩が期待されていた.2022 年に日本で,微小血栓形成阻害作用を有する抗フォン・ヴィレブランド因子(VWF)抗体製剤であるカプラシズマブが発売された.近年,多くのリアルワ-ルドデ-タの蓄積により,おおむね死亡率<10%とカプラシズマブの追加がiTTP 患者の予後改善に寄与している可能性が示されつつある.本稿では,ネクストステ-ジに到達したiTTP 診療に関して,疾患概念の歴史や診断法ならびに治療法の変遷と進歩,今後の展望などについて概説する. -
志賀毒素産生性腸管出血性大腸菌関連溶血性尿毒症症候群
294巻9号(2025);
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溶血性尿毒症症候群(HUS)は,微小血管症性溶血性貧血(MAHA),血小板減少,急性腎不全を3 主徴とする疾患で,その病因として,小児では志賀毒素産生性大腸菌(STEC)感染が最も多い.産生された志賀毒素(Stx)は消化管より体循環に入り,血管内皮細胞などに発現するGb3 をレセプタ-として細胞内に入り,タンパク合成を阻害することにより細胞死を誘導する.これにより生じる内皮細胞障害により血栓性微小血管症(TMA)を生じ,HUS を発症する.腎代替療法をはじめとする全身管理の進歩により疾患予後は改善しているが,急性期死亡率は3%程度であり,腎後遺症をはじめとする長期予後にも改善の余地はある.本稿では,STEC 感染症およびSTEC-HUS の病態,臨床症状と診断,治療と管理を中心に本症候群を概説する. -
非典型溶血性尿毒症症候群─抗補体治療時代の治療方針を考える
294巻9号(2025);
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非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は,補体制御異常に伴う血栓性微小血管症(TMA)であり,多くは妊娠・出産,感染症,ワクチン接種,臓器移植など,補体活性化が刺激されるトリガ-の後に発症し,溶血性貧血,血小板減少,急性腎障害(AKI)を引き起こす.近年,補体の終末経路を阻害する抗C5 抗体薬が使用可能となり,治療成績が劇的に改善した.一方で,疾患概念が時代とともに変遷しており,疾患名を含めて混乱を引き起こしている問題,また確定診断に至るまでのプロセスが明確でなく,抗C5 抗体薬治療に踏み切れないといった問題が存在する.本稿では,近年に報告された新しいエビデンスを踏まえ,抗補体治療時代におけるaHUS の治療戦略についてまとめる. -
抗リン脂質抗体症候群のアップデ-ト─新しい分類基準を中心に
294巻9号(2025);
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抗リン脂質抗体症候群(APS)は自己免疫が関与する後天性血栓性素因で,血栓症や妊娠合併症をきたす.APS の診断には抗リン脂質抗体(aPL)の正確な検出が重要である.固相化アッセイ(SPA)-aPL(抗カルジオリピン抗体,抗β2GPⅠ抗体)ではIgG/M クラスを,ル-プスアンチコアグラント(LA)ではdRVVT/APTTLA のすべてを測定する.APS 診断は2023 年に発表された米国リウマチ学会(ACR)/欧州リウマチ学会(EULAR)のAPS 分類基準に従い,6 領域のAPS 臨床所見および2 領域のaPL 検査所見のスコアがともに3 点以上でAPS と確定診断する.APS には治療開始基準はなく,aPL 陽性者でAPS 症状が確認されたなら治療を考慮する.ワルファリンによる抗凝固療法が主体であるが,動脈血栓症で発症したAPS では抗血小板薬の単独またはワルファリン併用が考慮される.産科APS に対しては,低用量アスピリンまたはヘパリン療法が推奨される. -
ヘパリン起因性血小板減少症
294巻9号(2025);
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ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)は血小板減少と血栓症を生じる疾患で,ヘパリンの副作用として知られている.近年,ヘパリン以外にも外傷や感染などでもHIT と同様の病態が生じ,血小板第Ⅳ因子(PF4)に対する自己抗体が共通していることから,HIT は抗PF4 抗体疾患のひとつの病型という考え方が広まってきた.HIT の診断にはHIT 抗体の検出が必要であり,感度が高く設定されているため除外診断には有用であるが,特異度が低いため偽陽性が問題となる.確定診断には機能的検査が有用であるものの,高い精度管理が必要なことから,臨床研究でしか実施されていない.HIT の治療はヘパリンの中止とともにヘパリン以外の抗凝固薬の投与が重要で,重症例には高用量免疫グロブリン静注療法(IVIg)が著効するという報告も増えている.今後,胎児性Fc 阻害薬やSyk 阻害薬,BTK 阻害薬も治療薬として期待されている. -
遺伝性血栓性素因─遺伝性アンチトロンビン欠乏症,プロテインC欠乏症,プロテインS欠乏症
294巻9号(2025);
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血液の流動性を維持するためには,アンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),プロテインS(PS)などの血液凝固制御系因子が重要であり,これらの欠損は遺伝性血栓性素因を引き起こす.ゼブラフィッシュを用いた研究によると,PC 欠損では心臓や大静脈に血栓が多発し,炎症制御にも影響する一方,PS 欠損では比較的血栓症は軽度であることが示された.AT 欠損では血流障害や血管発達の遅延が認められ,生存率も低下した.マウスモデルでは,iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を用いたAT 欠損の遺伝子修正や,活性型PC を導入するPC 欠損に対する新生仔ゲノム編集治療が試みられ,いずれも血栓症の改善に成功した.今後,これらの研究が重症遺伝性血栓症に対する新たな治療法として発展することが期待される. - 疾患・治療に伴う凝固異常
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がん関連血栓症─がん治療関連血栓症の一次予防
294巻9号(2025);
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静脈血栓塞栓症(VTE)はがん診療において最も重要な心血管合併症のひとつであり,がん患者の生命予後のみならず,がん治療戦略にも大きく影響する.また,がん治療の進歩により新しく開発された分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬などによるがん治療関連血栓症(CTAT)の頻度が急速に増加しており,其のコントロ-ルが重要となっている.血栓症の診断は臨床症状の有無で行うが,無症候性の症例も多く,診断が困難な場合がある.一方で,血栓症を発症するとがん治療が中断し,肺動脈血栓塞栓症を発症し,死亡に至る症例も少なくない.そこで,がん治療を開始する前に血栓症の発症リスクを層別化し,発症リスクが高い症例では予防的抗凝固療法を考慮する.新しく改訂されたわが国のガイドラインでも,活動性がん症例に対する血栓症の一次予防に関する記載が追加され,ハイリスク症例に対しては出血リスクを十分検討したうえで,限定的ではあるが,予防的抗凝固療法の必要性について言及されている.今後,新たな抗がん剤の開発に伴い,さらに増加するであろうがん関連血栓症からがん患者を守る立場で一次予防が正しく施行され,がん治療の継続と適正化がなされることが期待される. -
骨髄増殖性腫瘍に伴う血栓症と出血
294巻9号(2025);
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骨髄増殖性腫瘍(MPN)のなかでも,真性多血症(PV),本態性血小板血症(ET)は高頻度に動静脈血栓症を合併するとともに,一部の患者では出血が認められる.これらの疾患では血球増多による量的異常のみならず,血球および血管内皮細胞の機能的異常や炎症を促進する状態が相互に作用することで血栓症の発症につながる.また,後天性フォン・ヴィレブランド症候群(AVWS)はPV,ET の出血性合併症の主たる原因と考えられ,ET では血小板数が多いほど止血活性の高い高分子量フォン・ヴィレブランド因子マルチマ-(HMW-VWFMs)の欠損が強くみられる.治療は主に血栓症の予防を目的として,リスク分類に基づいて選択される.一部にAVWS を合併し出血リスクの高い患者が存在するため,特に血栓症の低リスク群に対して抗血小板薬を使用する際には注意を要する.細胞減少療法による血球数の制御はAVWS の改善にも寄与し,血栓症に加えて出血のリスク低減にも有効とされる. -
循環器疾患に伴う後天性フォン・ヴィレブランド症候群
294巻9号(2025);
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大動脈弁狭窄症(AS)患者は消化管出血を伴うことがあり,ハイド症候群とよばれる.狭窄弁部に生じた高ずり応力によってフォン・ヴィレブランド因子(VWF)高分子量多量体の切断が亢進し,VWF 高分子量多量体の減少による後天性フォン・ヴィレブランド症候群(AVWS)という止血異常が引き起こされる.また,AS 患者では消化管粘膜に易出血性異常血管である血管異形成が多く出現する.そのため,AS 症例では消化管出血が引き起こされる.また,AS 患者の多くは貧血を呈することが多いが,血管異形成からの小出血と止血の繰り返しがその原因である可能性がある.一方,体外式膜型人工肺(ECMO)やIMPELLA,植え込み型補助人工心臓(LVAD)などの機械的補助循環は,重症循環器疾患の治療に大きく貢献しているが,出血性合併症の頻度が高い.高速回転する回転式ポンプが血流の駆動力であり,同部における高ずり応力のため,AS と比べてはるかに高度のVWF 高分子量多量体の分解を伴う.このAVWS が,その出血に大きく寄与していると考えられる. -
発作性夜間ヘモグロビン尿症に伴う血栓症と抗補体薬
294巻9号(2025);
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発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は,PIGA 遺伝子変異を持つ造血幹細胞がクロ-ン性に増殖して発症する,後天性造血幹細胞疾患である.PNH 型赤血球は補体制御因子であるCD55,CD59 の欠失により,持続的補体活性化と血管内溶血を生じる.慢性的な溶血は貧血のみならず腎障害や肺高血圧症のほか,血栓症(TE)をきたす.TE はPNH 死因の最多項目であり,C5 阻害薬導入後,大幅にそのリスクが低下したが,溶血再燃時やBTH(breakthrough hemolysis)下でのTE や動脈系イベントが残存する.日本人を含むアジア人ではTE 既往率が低い一方,溶血症状が強くない患者でもTE が発生しており,一次予防に関するコンセンサスは得られていない.本稿ではPNH の病態,検査法,治療法の最新エビデンスを整理し,現状の課題と将来展望を概説する. -
慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナ-ゼ阻害薬と血栓性有害事象
294巻9号(2025);
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BCR::ABL1 融合遺伝子を標的とするチロシンキナ-ゼ阻害薬(TKI)は,慢性骨髄性白血病(CML)の治療に不可欠であるが,心血管系有害事象の発症は長期投与に伴う問題となり,患者予後に関連する.特にニロチニブやポナチニブなどの第二世代TKI および第三世代TKI は,血管内皮障害や酸化ストレス,血小板機能異常などにより動脈硬化や血栓症を引き起こす可能性が高いとされる.心血管障害リスクの高い患者では,心血管障害リスクの低い薬剤の使用,あるいは用量調整(減量)が重要となる.心血管イベント予防のためのABCDE ステップ〔A:心血管障害リスクの評価,アスピリン投与,AB(I 足関節上腕血圧比)測定,B:血圧管理,C:禁煙,コレステロ-ル管理,D:糖尿病管理,食事療法と体重管理,E:運動〕や定期的なモニタリングが推奨され,チ-ム医療による包括的な管理が求められる.今後は,より安全なTKI の開発や腫瘍循環器学の応用によって,CML 治療のさらなる最適化が期待される. -
移植関連血栓性微小血管症
294巻9号(2025);
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移植関連血栓性微小血管症(TA-TMA)は,主に同種造血幹細胞移植後22~100 日を発症の中央値とする,重症化すると極めて致死率の高い合併症である.機械的機序による溶血性貧血,消費性血小板減少と,循環不全に伴う臓器障害,特に腎障害を3 主徴とする.抗がん剤,放射線治療,免疫抑制剤,移植片対宿主病(GVHD)など,さまざまな要因で血管内皮細胞が障害を受けることが病態形成の根底にあるとされる.近年,TA-TMA 発症に補体経路の活性化の関与を示唆する報告が蓄積されている.2023 年に発表された国際統一診断基準には,評価項目のひとつに,終末補体経路の活性化マ-カ-である可溶性C5b-9 が取り入れられた.現時点でTA-TMA に適応のある有効な治療薬はなく,対症療法が中心となる.現在,補体阻害薬の効果と安全性を評価する臨床試験が行われている. -
CAR-T細胞療法に伴う凝固異常
294巻9号(2025);
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キメラ抗原受容体(CAR)-T 細胞療法は一部のB 細胞腫瘍に対して高い抗腫瘍効果を示すため,標準治療に位置づけられるようになった.一方で,本治療特有の有害事象として,サイトカイン放出症候群(CRS)などが頻繁に観察される.CRS の典型的な臨床症状として,高熱,血圧低下,低酸素血症,血管透過性亢進が知られているが,これらの典型的な症状に加えて“凝固異常”が合併することがある.これまでの検討で,CRSに伴うIL-6 の増加が血管内皮からのプラスミノ-ゲン活性化インヒビタ-1(PAI-1)の産生を促し,線溶抑制・凝固亢進状態となり,消耗性にフィブリノ-ゲンが低下することが示唆されている.CAR-T 細胞療法初期には凝固系の絶え間ないモニタリングを行うとともに,重症CRS が予想される症例に対しては,低フィブリノ-ゲン血症に備えて,新鮮凍結血漿(FFP)やその濃縮製剤であるクリオプレシピテ-トの十分な準備が必要である. -
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連凝固異常と血栓症
294巻9号(2025);
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今さら言うまでもないが,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は呼吸器疾患である.しかし,2020 年初頭のパンデミック当初からCOVID-19 患者における血栓症の発症リスクが著しく高いことが報告されていた.COVID-19 の原因ウイルスである新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,肺胞上皮細胞のみならず血管内皮細胞や免疫細胞に直接侵入し,これら細胞の活性化や調節障害を引き起こし,その結果,血管内皮細胞障害や免疫調節障害(サイトカインスト-ム)が生じる.これにより,血小板や凝固系が活性化して血小板血栓やフィブリン血栓が加速度的に形成される.検査所見では,COVID-19 患者の約45%でD-dimer の異常高値を認め,D-dimer の上昇は患者の予後不良と相関している.その他,フィブリノ-ゲン,凝固第Ⅷ因子(FⅧ),フォン・ヴィレブランド因子(VWF)が上昇する.一方,血小板数,プロトロンビン時間(PT)および活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT),アンチトロンビン活性値はおおむね正常範囲内にとどまることが多い.COVID-19 患者に対する血栓症予防は病態が重症化すればするほど重要であり,日本で公表された「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における血栓症予防および抗凝固療法の診療指針」(2023年2 月25 日版version 4.1)に準じて実施しなければならない. -
ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)と凝固線溶異常
294巻9号(2025);
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ワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するアデノウイルスベクタ-型ワクチン接種後に,血小板減少と血栓症が生じる病態として認知されるようになった.特に脳静脈洞や内臓静脈に血栓が形成されることが特徴的で,発症頻度は100 万人に数人と非常にまれである.当初,VITT の死亡率は50%に上ったが,疾患の啓発と治療法の普及により死亡率は現在5%程度に低下している.診断にはELISA 法による抗PF4(血小板第Ⅳ因子)抗体の検出が重要であるが,その検査体制の構築が課題である.VITT の治療は,免疫グロブリン大量静注療法とアルガトロバンによる血栓予防が重要であり,ヘパリンの使用には賛否がある.また,播種性血管内凝固(DIC)を合併したVITT は予後不良である.いずれのワクチンにおいても,接種後にVITT と同様に血小板減少を伴う血栓症を呈する可能性があり,ワクチン接種後の臨床症状や検査所見には注意を払う必要がある.
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