Therapeutic Research
Volume 32, Issue 1, 2011
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State of the Art:高血圧臨床研究の動向2011
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降圧薬治療に関する大規模介入試験の評価を検証する
32巻1号(2011);View Description Hide Description高血圧診療の根拠として,大規模介入試験および大規模(追跡)調査は臨床的な意義が大きい。高血圧関連の心血管疾患のリスクおよび降圧薬による抑制効果は,それらの成績やメタアナリシスを基礎に評価しており,これらの評価を科学的な実証の根拠として高血圧管理指針を作成し,日常診療を行っている。しかし,大規模臨床試験には技術的な制約があり,その臨床応用には不満や批判も多く,試験成績はきわめて重大な疑問に答えていないとする指摘もある(Mancia G, 2006)1)。多くの場合,試験期間は2–6 年であるが,実際の高血圧診療は数十年継続されることが多いため,とくに低リスク高血圧患者の評価には試験期間が不十分である。最近,わが国でも大規模臨床試験が相次いで発表されているが,試験方法は従来欧米諸国で多く用いられてきた二重盲検法ではなく,PROBE (Prospective Randomized OpenBlinded Endpoint design) 法が採用されている。また,評価項目にハードエンドポイントのみならずソフトエンドポイントを加えており,研究者のイベント報告にバイアスが入り試験成績へ影響することも危惧されている。また,新規糖尿病発症がエンドポイントとされることも増えているが,耐糖能低下など代替指標の心血管イベント予測能は必ずしも高くない。しかし,血圧管理に加え耐糖能低下,高脂血症管理などの総合評価が今後の検討課題になると考えられる。本稿では,降圧薬治療に関する大規模臨床試験成績の評価上の問題点を述べる。
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第58 回日本心臓病学会学術集会ランチョンセミナー
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私は心房細動のリズム治療をこう考える-ガイドラインに準じた薬物の効果的な使用-
32巻1号(2011);View Description Hide Description高血圧診療の根拠として,大規模介入試験および大規模(追跡)調査は臨床的な意義が大きい。高血圧関連の心血管疾患のリスクおよび降圧薬による抑制効果は,それらの成績やメタアナリシスを基礎に評価しており,これらの評価を科学的な実証の根拠として高血圧管理指針を作成し,日常診療を行っている。しかし,大規模臨床試験には技術的な制約があり,その臨床応用には不満や批判も多く,試験成績はきわめて重大な疑問に答えていないとする指摘もある(Mancia G, 2006)1)。多くの場合,試験期間は2–6 年であるが,実際の高血圧診療は数十年継続されることが多いため,とくに低リスク高血圧患者の評価には試験期間が不十分である。最近,わが国でも大規模臨床試験が相次いで発表されているが,試験方法は従来欧米諸国で多く用いられてきた二重盲検法ではなく,PROBE (Prospective Randomized OpenBlinded Endpoint design) 法が採用されている。また,評価項目にハードエンドポイントのみならずソフトエンドポイントを加えており,研究者のイベント報告にバイアスが入り試験成績へ影響することも危惧されている。また,新規糖尿病発症がエンドポイントとされることも増えているが,耐糖能低下など代替指標の心血管イベント予測能は必ずしも高くない。しかし,血圧管理に加え耐糖能低下,高脂血症管理などの総合評価が今後の検討課題になると考えられる。本稿では,降圧薬治療に関する大規模臨床試験成績の評価上の問題点を述べる。
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原著
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閉塞性動脈硬化症に対するベラプロストナトリウム長期投与の治療効果-心血管イベントに及ぼす影響-
32巻1号(2011);View Description Hide Description背景と目的:近年,高齢化や生活様式の変化に伴い,閉塞性動脈硬化症(ASO)が増加している。ASOは予後不良な疾患であり,早期の診断と治療を要する。そこで軽症ASO患者を対象として,ASO治療薬であるベラプロストナトリウムの長期治療効果を検討した。対象と方法:当院においてASOと診断し,ベラプロストナトリウムを1 年以上投与した連続188例を対象に,治療効果をレトロスペクティブに評価した。評価項目は,下肢虚血症状,心臓足首血管指数(CAVI),頸動脈内膜中膜複合体肥厚度(IMT),および心血管イベントとした。結果:ASO患者へのベラプロストナトリウム投与により,下肢虚血症状,CAVI およびIMTは1 年間で有意に改善した(CAVI 9.8 ± 0.6→ 9.3 ± 0.6, p < 0.001, IMT 1.09 ± 0.09 → 1.04 ±0.11mm, p<0.001)。平均観察期間4.6年における心血管イベント発生率は全体で9 例(4.8%)であり,イベント発生の抑制にはベラプロストナトリウム1 日120 μg投与が120 μg未満投与より有用であった(調整後のハザード比0.53,95%信頼区間0.19 ~ 0.96,p = 0.036)。結論:ベラプロストナトリウムはASO 患者の下肢虚血症状のみならず,動脈硬化指標(CAVI,IMT)を改善し,心血管イベントを抑制した。そして,その投与量はイベント抑制の重要な要因であることが示唆された。 -
敗血症に対しエンドトキシン吸着療法を行った92症例の検討
32巻1号(2011);View Description Hide Description脳神経外科・心臓血管外科疾患の急性期ならびに周術期には,重篤な原疾患や不安定な循環動態によって免疫不全の状態に陥りやすく,しばしば重症感染症や敗血症が発生する。この敗血症性ショック患者に対してエンドトキシン吸着療法を約9 年で92 例行った結果を検討し,PMXの治療効果を評価検討した。その結果,PMX施行後に平均動脈圧の上昇,カテコラミンの減量が認められ,PMXをより長時間使用することにより,PaO2/FIO2 比が改善する傾向が認められた。また, PMX 1 回目施行開始から24時間後のPaO2/FIO2 比が100mmHg以下の最重症例においては,2 回目のPMXを行うことで生存率の改善が認められた。これらのことからPMXは敗血症性ショックに対し強力な治療法の一つと考えられた。 -
医療機関における男性型脱毛症(AGA)診療に対する受診満足度調査
32巻1号(2011);View Description Hide Description男性型脱毛症(androgenetic alopecia: AGA)は遺伝的素因に基づき思春期以降に発症し,前額部および頭頂部に特徴的な脱毛パターンを示しながら進行する脱毛症である1)。われわれが報告したAGAに対する意識調査2) では,うす毛を気にしている男性は800 万人,うす毛に対処したことがある男性は650 万人と推計され,多くの男性がうす毛に悩み,対処していることが明らかとなった。フィナステリド(プロペシア®)の発売以前,うす毛に悩む男性の多くは,ドラッグストアで購入した育毛剤(OTC)により,患者本人がうす毛に対処していた。OTCの使用状況調査3)では,総合的な満足度は低く,少しでも満足している患者は20%に満たなかった。OTCの満足度が低い理由として,使用方法の理解不足や煩わしさによる使用遵守率の低さ,効果判定時期が6 ヵ月未満の患者割合が高かったこと,および使用により期待される毛髪状態の改善効果の情報不足が明らかとなった。この調査では,フィナステリド発売以前におけるOTC使用者の医師への相談意向についても確認した結果,50%以上の患者が医療機関への受診を希望していた。フィナステリドが2005 年12 月に発売され数年が経過し,医療機関でのAGA治療が一般的になった今日,実際に医療機関を受診している患者の満足度を検討する目的で,インターネットによるアンケート調査を実施した。 -
男性型脱毛症治療における服薬支援インターネットプログラム(PROPELプログラム)の有用性の検討
32巻1号(2011);View Description Hide Description目的:フィナステリドによるAGA治療におけるインターネットを利用したPROPELプログラムの有用性を検証する。方法:国内でフィナステリドによるAGA治療を実施し,本調査への協力を了承した医師が一定の観察期間,調査票を用いてAGA患者にヒアリングを実施した。また,一定期間AGAの治療を受けたAGA患者を対象に,アンケートを実施した。結果:19 名の医師からAGA患者123 名の調査票を回収した。また,AGA患者123 名のうち58 名からアンケートを回収した。治療開始2 ヵ月以上3 ヵ月未満,3 ヵ月以上4 ヵ月未満および5 ヵ月以上6 ヵ月未満の治療継続率は,PROPEL プログラム参加群で各93.5,93.5 および80.6%,非参加群で各73.9,70.7 および58.7%であり,非参加群と比べ参加群のほうが有意に高かった。また,治療開始6 ヵ月後では参加群67.7%および非参加群50.0%で,両群間に有意差はみられなかったが,参加群のほうが高い傾向がみられた。フィナステリドの治療効果に対する患者満足度で満足と回答した人は参加群のほうが多かった。結論:治療開始から6 ヵ月後の治療継続率は,参加群のほうが非参加群より高い傾向がみられた。また,PROPELプログラムは患者の服薬コンプライアンスを高め定期受診を支援する効果があるとともに,頭髪状態の変化を治療効果として実感することでAGA患者の満足度を高めることが示された。 -
2型糖尿病合併本態性高血圧患者に対するバルサルタン80mg+ハイドロクロロチアジド12.5mg投与の有効性についての検討
32巻1号(2011);View Description Hide Description糖尿病合併高血圧患者での降圧治療の第一選択薬としてアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)の投与が推奨されているが,ARB単剤だけでは十分な降圧効果が得られないことがしばしばみられる。今回われわれは,通常用量のARB投与中にもかかわらず降圧目標未達成な2型糖尿病合併本態性高血圧患者に対して,バルサルタン(Val) 80mg +ハイドロクロロチアジド(HCTZ) 12.5mg の併用投与に変更した際の効果について検討したので報告する。対象と方法:JSH2009 で示された降圧基準130/80mmHg を満たしていない,ARB投与中の2 型糖尿病合併本態性高血圧患者20 例 (男性15例・女性5例:平均年齢65.1歳)を対象とした。外来血圧,糖代謝マーカーや脂質,尿酸,腎機能,K値をVal 80mg+HCTZ 12.5mgの投与前,1,3,6 ヵ月後に測定し,検討した。結果:外来血圧は,投与前151.7 ±10.7/81.8 ±11.3mmHgであったものが6 ヵ月後には132.6 ±8.2/77.6 ± 11.4mmHg と収縮期血圧は有意に低下した(p < 0.01)。また,外来空腹時血糖,HbA1c,血中脂質,尿酸,K値も有意な変化はみられなかった。結論:Val 80mg+HCTZ 12.5mgの併用療法は,他のARBから変更後6 ヵ月の時点において,収縮期血圧最大で-19.1mmHgと良好な降圧が得られることが確認された。また,利尿薬の投与により高K血症や耐糖能低下,高尿酸血症などの代謝性疾患への影響が懸念されるが,今回の検討ではそれらの明らかな悪化は認められなかった。
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症例
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長期にわたり口腔内痛が持続した患者に対し亜鉛補充が奏功した1例
32巻1号(2011);View Description Hide Description症例は73 歳,女性。平成16 年4 月に抑うつ気分,不眠,不安感,意欲減退,および口腔内痛のため当院に来院した。平成20年5月において,抗うつ薬治療にてうつは寛解したが,口腔内痛は消失しなかった。患者の希望により,平成20年9月近隣の病院にて左側顎関節滑膜軟骨腫除切術を受けるが口腔内痛が持続した。平成21 年10 月より亜鉛補充を目的にポラプレジンク(プロマック®)投与を開始したところ,平成22 年1 月頃より,口腔内痛の症状の緩和を訴え始めたため,ポラプレジンク継続投与を実施し,平成22 年4 月には口腔内痛の症状は1/10 程度(患者の申し立て)となり,さらに平成22年5月には口腔内痛が消失した。
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