Therapeutic Research
Volume 32, Issue 5, 2011
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エビデンスから推奨を作成するために―GRADEシステムの発展に向けて
32巻5号(2011);View Description Hide Description近年,わが国の診療ガイドラインでもEvidence-based Medicine(EBM)の概念が導入され,推奨作成のプロセスにクリニカル・クエスチョンやシステマティックレビューなどのEBM的手法が用いられつつある。海外ではさらに,推奨作成の一連のプロセスを標準化し,その標準プロセスを多くのガイドライン作成グループで共有する,という取り組みが進んでいる。標準プロセス普及のために開発されたGRADE システムは,すでに50 組織に支持され利用されるに至った。ここでは,GRADE ワーキンググループの中心人物である,Gordon H. Guyatt氏にGRADEシステムの現状について聞いた。
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Symposium GERD研究会第15回学術集会
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- Session I
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1. 24時間pHインピーダンスモニタリングを用いた六君子湯の胃食道逆流に対する生理学的効果の検討
32巻5号(2011);View Description Hide Description六君子湯(TJ–43)の上部消化管に対する生理学的効果を検討するために,7 例の胃食道逆流症(GERD)患者(中央値年齢6 歳)にTJ –43 を0.3g/kg/day 投与し,投与前後の24時間食道pHインピーダンスモニタリング値を比較検討した。pH単独評価では1 回あたりの酸逆流時間と5 分以上の逆流は有意に低下した。インピーダンスによる評価では,acid refluxの回数と時間率が低下したが,weakly acidic refluxとweaklyalkaline reflux は変化せず,総逆流時間率の低下も有意でなかった。これらの結果から,六君子湯は主に酸性逆流を抑制すると考えられた。 -
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3. 逆流性食道炎は慢性進行性の疾患か?-逆流性食道炎200 例の10 年間における長期臨床経過からの検討-
32巻5号(2011);View Description Hide Description -
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8. 食道胃接合部の内視鏡診断に関する臨床解剖学的検討
32巻5号(2011);View Description Hide Description内視鏡的食道胃接合部は食道柵状血管下端と胃縦走ひだ上端の両者により定義されている。しかしながら,人体解剖学の食道胃接合部や横隔膜食道裂孔と内視鏡的食道胃接合部との相関を検討した報告はない。本研究の目的はヒト解剖標本を用いて①横隔膜食道裂孔,②下部食道と胃噴門部,③食道胃の筋層境界である胃内斜走筋(sling fiber)をマクロ解剖学的に検討し,さらにこれらの内視鏡像を明らかにすることである。 - Session II
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Review
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高尿酸血症と循環器疾患 Revisited
32巻5号(2011);View Description Hide Description1960 年以前の日本では痛風はまれな疾患であったが,食生活の欧米化,肥満,アルコール摂取量の増加などによりその状況は一変した1)。高尿酸血症は,1960 年代には約 5%だったが,1970 年代~1980 年代前半に約 15%,1980 年代後半から 1990 年代が約 20%と著明に増加している。わが国の職域集団において,痛風または高尿酸血症で治療中の症例は,2007年の時点で,男性 2.3%,女性 0.08%であったと冨田らは報告している2)。健康に対する意識の向上,積極的な介入の機会の増加などにより,ここ数年わが国の血清尿酸値は若干低下の傾向となっていると考えられるが2),健康維持のために尿酸をどのような方法で,どのレベルまでコントロールしていくのが最も適切であるのか,ということは依然として重要な問題であるといえる。尿酸が高い症例では,高血圧,虚血性心疾患,脳卒中などの心血管病のリスクが上昇していることについては多くの疫学的データが示すところである3~8)。一方で尿酸値が高い症例では,高血圧やインスリン抵抗性亢進を認めることが多いことから,尿酸が直接,循環器疾患のリスクを増加するのではなく,並存する高血圧や糖・脂質代謝障害が心血管疾患のリスクを増大しているのではないか,という意見もある。すなわち,尿酸高値はインスリン抵抗性や動脈硬化のハイリスク状態のマーカー,bystander に過ぎない,という見方である。尿酸が直接に心血管疾患のリスクを増大しているかどうかについては,多変量解析を用いた統計的な手法により,ある程度の結論をつけることも可能である。しかし,本当に知りたいことは,「尿酸値を適正化すれば,インスリン抵抗性や高血圧,糖・脂質代謝異常が改善するか」ということだろう。近年,よくデザインされた臨床スタディにより,尿酸降下療法によって,循環器疾患のリスクがどのように影響されるかについて,いくつかの興味深い知見が得られている。循環器疾患の予防,または予後改善という観点からみた場合,「尿酸の optimal control とは何なのか」という,以前からあった話題に再注目が集まってきているといえるだろう。本稿では,尿酸と循環器疾患の関連ついて,今までに得られた知見と現状について概説してみたい。
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原著
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L 型 Ca 拮抗薬投与中の高血圧患者の下肢浮腫に対する L/N 型 Ca 拮抗薬への変更の影響
32巻5号(2011);View Description Hide DescriptionCa 拮抗薬(CCB)は降圧薬として広く使用されているが,日常診療において副作用と思われる下肢浮腫をしばしば経験する。L/N 型 CCBシルニジピンは基礎実験において,N 型 Ca チャネルを阻害することで細静脈を拡張させると報告されていることから,臨床において下肢浮腫を起こしにくい可能性がある。今回,高血圧のため L 型 CCB(アムロジピン,ニフェジピンCR,アゼルニジピン)を含む降圧薬の投与中に下肢浮腫を呈した患者 26 例(年齢 74±12 歳,男性 8 例,女性 18 例,肥満,糖尿病および慢性腎臓病はそれぞれ 20 例,8 例および 14 例に合併)を対象に,L 型 CCB をシルニジピンに変更することで下肢浮腫が改善するかどうかを検討した。下肢浮腫の変化は視診・触診・患者自身の感想より評価し,「改善」,「不変」および「悪化」の 3 段階で判定した。シルニジピンへの変更前後(6.2±3.9 週,2~16 週間)で収縮期血圧,拡張期血圧,血清クレアチニン,推算糸球体濾過量および尿蛋白にはいずれも多少の変動がみられたが,それぞれの平均値には有意な差は認められなかった。一方,下肢浮腫においてはシルニジピンへの変更後 26 例中 18 例(69.2%)に改善がみられたが,不変および悪化例がそれぞれ 7 例および 1 例存在した。改善がみられた症例の内訳は,変更 2 週後で 1 例,3 週後 1 例,4 週後 12 例,8 週 1 例および 12 週後 3 例で,約 8 割(14 例)の患者で変更後 4 週間以内に改善がみられた。今回,下肢浮腫が改善した症例と改善しなかった症例の患者背景を比べたところ,改善しなかった群では変更前腎機能の低下例が多く,変更後血圧が上昇傾向にあった。以上の結果より,L 型 CCB 投与中に下肢浮腫を認めた患者において,L 型 CCB から L/N型 CCB の変更によって多くの症例で改善がみられたことから,L/N 型 CCB は下肢浮腫の少ない優れた降圧薬であることが示された。 -
炭酸ランタン内服方法の検討
32巻5号(2011);View Description Hide Description日本の 2009 年度の透析患者数は 29 万人を超え,年々増加傾向にある1)。透析患者の死亡率は 9.7%であり,心不全・脳血管障害をはじめとした心血管疾患がその死亡原因の 3 割以上を占めている1)。血清リン濃度は,主に尿中へのリン排泄によりコントロールされるが,腎機能が低下した慢性腎不全(CKD)患者や透析患者ではリンの排泄が不十分となり,高リン血症が起こりやすい。高リン血症が持続すると,腎臓におけるビタミン D の活性化が障害され,軟部組織および血管の石灰化の原因となる高カルシウム血症が惹起される。CKD に伴うリン・カルシウム代謝異常は血管の石灰化を介して心血管疾患を誘発し,患者の生命予後に大きな影響をもたらすことが臨床研究により明らかになっている2,3)。こうした背景から,CKD 患者の生命予後を良好に保つためには,血清リン濃度およびカルシウム濃度を管理し,血管石灰化の進展を抑制することが極めて重要である。また,人工透析によっても十分なリンの除去は難しく,リンの摂取制限が必須となる。しかし食事制限だけで血清リン濃度を十分に抑制することは困難であり,多くの患者でリン吸着薬が必要となる。2009 年 3 月,血清リン濃度を低下させる薬剤として非アルミニウム・非カルシウム性のリン吸着薬である炭酸ランタンの臨床応用が可能となった。炭酸ランタンは,炭酸カルシウムや塩酸セベラマーよりも高いリン吸着効果を有することが示されており4),国内で行われた臨床試験において,炭酸ランタンは炭酸カルシウムの約半分の用量で同等の血清リン濃度の低下効果を示すことが報告されている5)。チュアブル錠である炭酸ランタンは,水分の摂取制限が必要とされる透析患者において良好なコンプライアンスが期待できる薬剤であるが,十分な血清リン低下効果を得るためには,口内での噛み砕き方が重要となる。本試験では,炭酸ランタンの咀嚼の程度による血清リン濃度の低下効果の検討ならびに咀嚼回数別の腸管内炭酸ランタンの残像を検討したので報告する。
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症例
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64歳発症の遠位大腸炎型潰瘍性大腸炎に対してpH依存型メサラジン放出調節製剤が有効であった1例
32巻5号(2011);View Description Hide Description潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)は,若年から青年層が好発年齢であるが,高齢者にも発症がみられている。わが国で実施された調査によると,UCの有病率は,男性では30 歳代と70 歳代にピークを有する二峰性の分布を示すことが明らかにされている1)。このため今日では,高齢のUC患者に遭遇することはまれではなく,そのような機会は今後さらに増加することが予想される。高齢のUC患者に対しては,現在のところ特別な治療方針は示されてなく,基本的には若年者と同様な治療が行われる。しかし高齢者は,合併症の状況や肝・腎機能に個人差があるので,個々の症例に応じたきめ細かい対応が必要となる。さらに高齢者では,薬剤による副作用が発現しやすいことにも注意が必要である。今回われわれは,pH依存型メサラジン放出調節製剤メサラジン(商品名アサコール)が有効であった,64 歳発症の遠位大腸炎型UC患者を経験したので,その経過について報告する。本症例は,早期大腸癌を併発していたが,アサコールによって大腸粘膜の炎症が速やかに改善されたので,内視鏡治療が可能となった。
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