最新医学
Volume 62, Issue 7, 2007
Volumes & issues:
-
特集【パーキンソン病−最近の進歩−】
-
-
-
アプローチ:パーキンソン病の病因解明にどう取り組むか
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は多系統神経変性を特徴とする全身疾患であることが認識されつつある一方,分子レベルでの病因解明は家族性パーキンソン病研究の進歩によって飛躍的に進展した.発症機構に関して「異常タンパク質の蓄積」と「ミトコンドリア機能障害」の2つの有力な仮説が浮上してきた.これら分子レベルで得られた知見をシステムの理解に結び付ける統合的な視点に立ってパーキンソン病の病態を解明し,治療法開発に結びつけることが重要である. -
疫学:パーキンソン病患者数は増加している
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は社会の高齢化に伴い増加している.本邦の有病率は人口10 万当たり約150 人である.発症15 年までの生存率は一般人口と変わらず,17 年以降低下する.うつと認知症が併存症として特に重要である.発症危険因子には農薬,殺虫剤,金属(鉛,銅,鉄,マンガン)の暴露が挙げられる.防御因子として喫煙,コーヒー,食事中の不飽和脂肪酸,血清尿酸値などが注目されている. -
PDD と DLB の病理学的異同:同じ疾患か ?
62巻7号(2007);View Description Hide Description認知症を伴うパーキンソン病(PDD)とレビー小体型認知症(DLB)との異同について,筆者らのDLB の病理学的亜型の研究結果と最近の研究結果とを述べる.筆者らの研究では,DLB とPDD,パーキンソン病の間には,病理所見に関して量的な差異が見られ,同一とは言えない.しかし質的な差異はなく,互いに連続性が見られ,最近の研究の趨勢と同様に,これらを同じレビー小体病(LBD)のスペクトラムの中でとらえるのが妥当である. -
病態生理:パーキンソン病における大脳基底核機能障害
62巻7号(2007);View Description Hide Description大脳基底核の生理機能は十分に解明されていない.本稿では,現時点で広く支持されている大脳基底核回路仮説の概要を述べ,ドパミン欠乏状態における大脳基底核神経活動の変容によってパーキンソン病症状の背景病態を説明できる可能性について述べた.無動・寡動,振戦,固縮,姿勢反射障害,非運動症状について,それぞれの発生機序についての病態仮説について論じた. -
画像技術:神経画像によるパーキンソン病の早期診断
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionパーキンソン病の中核の病理である黒質線条体ドパミンニューロンの機能障害をとらえる方法としては,PET またはSPECT によるシナプス前機能の測定,特にドパミントランスポーターの測定が優れており,パーキンソン症状の発症前から診断することが可能である.しかし,黒質線条体ドパミンニューロンの機能障害は多系統萎縮症,進行性核上性麻痺でも見られるので,拡散強調MRI,voxel-based morphometry,PET による脳グルコース代謝の測定,脳血流SPECT などで鑑別診断を進める必要がある. -
薬物治療:我が国発の新規治療薬の開発に向けて—新規抗パーキンソン病薬ゾニサミドの開発—
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionゾニサミド(ZNS)は日本で開発された抗てんかん薬であるが,偶然の臨床経験から抗パーキンソン病効果が発見された.大規模二重盲検試験結果の報告により,国際的にも日本発の抗パーキンソン病薬として注目されている.共同研究により,ZNSはドパミン合成亢進作用,MAO-B 阻害作用,パーキンソン病で認める基底核の異常発火パターンの正常化作用,ドパミン系を介さない抗振戦作用,培養細胞,モデル動物での神経保護作用などが明らかになった. -
非運動症状と MIBG 心筋シンチグラフィーの意味するもの:早期診断の可能性
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionパーキンソン病では運動症状以外にも,嗅覚障害,レム睡眠行動障害,自律神経症状,精神症状,感覚障害などの非運動障害が見られるが,これらは運動症状出現以前に認められることが多い.また,パーキンソン病やレビー小体型認知症では病早期より心臓のMIBG 集積が低下し,これは他のパーキンソニズムやアルツハイマー病との鑑別に有用である.このように,非運動症状やMIBG 集積低下はパーキンソン病の早期診断におけるバイオマーカーになりうる. -
定位・機能神経外科的治療:脳深部刺激療法を中心に
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionパーキンソン病の定位・機能神経外科的治療は,脳深部刺激療法,特に視床下核刺激の出現によって急速に広まった.視床下核の刺激は,wearing-off の激しい症例に対してはoff の状態を「底上げ」し,副作用のためL-DOPA の内服が十分にできない症例に対してはL-DOPA の「肩代わり」をしてADL を向上させる.ただし,手術合併症として脳内出血が1〜6% に起こると言われている.刺激副作用として精神症状が出現することもあるが,多くは内服と刺激条件の調整でコントロール可能である. -
遺伝子治療と再生医療の可能性
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionパーキンソン病は進行性の神経変性疾患であり,現在まで症状の緩和を目的とした治療法が臨床応用されてきたが,病気の進行遅延・抑止が可能な治療法はいまだ確立されていない.近年,遺伝子治療法や細胞移植療法,あるいは内因的な神経再生を促すことによって進行の遅延・抑止を目指す研究が盛んに行われており,その一部は臨床的な試験段階に入っている.これら最新の治療法により,元来難治性と言われてきたパーキンソン病を根治できるようになる可能性が期待される.
-
-
遺伝性パーキンソン病の病態から
-
-
1.α-synuclein の機能—凝集タンパク質に毒性はあるのか—
62巻7号(2007);View Description Hide Descriptionα-synuclein は家族性パーキンソン病の原因遺伝子の1つであると同時に,レビー小体,レビー神経突起,グリア細胞封入体の主要構成成分でもあり,家族性,孤発性パーキンソン病や他のシヌクレイノパチーにおけるキー分子として注目されている.α-synuclein は特定の2次構造を持たない通常状態から線維化構造に変化する過程で,オリゴマーからなるプロトフィブリルと呼ばれる構造をとる.最近の研究から,線維化した凝集体よりもこのプロトフィブリルのほうが高い細胞毒性を持つことを示すデータが蓄積されてきている.プロトフィブリルは膜傷害性を持ち,細胞膜やオルガネラなどを傷害し,細胞死を引き起こすと考えられている.α-synuclein の構造変化メカニズムを解明し,プロトフィブリル化を防ぐことがパーキンソン病の予防や治療につながることと考えられる. -
2.parkin の機能—生理学的アプローチから—
62巻7号(2007);View Description Hide Description家族性パーキンソン病(AR-JP)の原因遺伝子の1つであるparkin 遺伝子は,さまざまな神経伝達物質の放出に関与しているATP の受容体(P2X 受容体)の機能を増大させることが明らかとなった.このことは,parkin がATP による神経伝達物質の放出を促進させる機能があることを示唆している.このようなparkin の生理学的機能の解明は,parkin の変異によるAR-JP の発症メカニズムの謎を解く鍵となるかもしれない. -
3.PINK1 の機能—ミトコンドリア機能との関連性から—
62巻7号(2007);View Description Hide DescriptionPINK1(PTEN-induced putative kinase 1)は,常染色体劣性遺伝性パーキンソン病の1つであるPARK6 の原因遺伝子である.PINK1 は中枢神経系に普遍的に発現し,ミトコンドリアに局在するセリン/トレオニンキナーゼであり,細胞ストレスに対して保護作用を示す.PINK1 はParkin とともにミトコンドリアの機能の維持に関して共通経路で機能し,Parkin よりも上流で機能すると考えられている. -
4.酸化ストレス防御因子としての DJ-1 の機能
62巻7号(2007);View Description Hide Description家族性パーキンソン病PARK7 の原因遺伝子DJ-1 の産物タンパク質DJ-1 は,酸化ストレスによって発現亢進し,自己酸化と抗酸化ストレス因子群の転写促進を行うことで抗酸化ストレス機能を発揮する. DJ-1 遺伝子の変異は現在まで13 と少ないが,孤発性パーキンソン病患者のDJ-1 は不活性と考えられる異常酸化型DJ-1 の蓄積が見られることから,孤発性パーキンソン病発症にDJ-1 が関与している可能性が高い. -
5.LRRK2 の機能—タンパク質凝集の上流に位置するのか ?—
62巻7号(2007);View Description Hide DescriptionLRRK2(leucine-rich repeat kinase 2)遺伝子変異による常染色体優性パーキンソン病は,L-DOPA が著効し孤発性パーキンソン病とよく似るが,認知機能障害や精神症状,運動ニューロン疾患の合併,さらに垂直性眼球運動障害を呈する症例も報告されている.病理学的には,典型的なパーキンソン病に矛盾しない黒質変性にレビー小体を伴うものから,びまん性レビー小体病様の広範なレビー小体の出現を認めるもの,レビー小体はなく黒質変性のみを認めるもの,脊髄前角細胞変性やタウオパチーを示唆するタウ陽性神経原線維変化を呈する症例,さらにアルツハイマー型病理も報告されている.この臨床病理学的多様性は,LRRK2 遺伝子変異がパーキンソン病のみならず,神経変性疾患と深くかかわっていることを示唆している可能性がある.
-
-
【エッセー】
-
- 白血病医の御礼奉公(19)
-
-
【対 談】
-
-
-
【トピックス】
-
-
-
【今月の略語】
-
-