最新医学

Volume 63, Issue 5, 2008
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特集【全身性エリテマトーデス(SLE)−病態解明と治療の新たな展開−】
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アプローチ
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SLE の難治性病態の克服へ向けて
63巻5号(2008);View Description
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SLE の生命予後は年代とともに向上しているが,その一方で依然として治療に抵抗して死亡率が高く,または重い障害を残すような難治性病態が残されている.このような難治性病態としては,重症ループス腎炎,CNS ループス,びまん性肺胞出血,肺高血圧症,難治性血液障害,劇症型抗リン脂質抗体症候群などが含まれる.生命予後をさらに改善しQOL を向上させるには,さらなる病因・病態の解明と,病態に即した新たな治療法の開発が望まれる.
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SLE の免疫異常の解明
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SLE の遺伝素因— 最近の研究の進歩—
63巻5号(2008);View Description
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SLE の遺伝子解析は急速な展開を見せている.候補遺伝子解析から,集団を越えたSLE 感受性遺伝子としてIRF5 が確立した.また, C4, FCGR3B のコピー数多型との関連が報告された.さらに2008 年,相次いでゲノムワイド関連研究が報告され,HLA 領域, STAT4, ITGAM, BLK などの関連が見いだされた.一方TREX1 変異との関連が報告されたが,これはゲノムワイド関連研究では検出しえないmultiplerare variant モデルに従うものであった.今後,診断・治療・予防医学への橋渡しを進めるために,多様なアプローチを駆使して遺伝子解析を継続するとともに,遺伝子間相互作用,遺伝子環境相互作用の解明を進める必要がある. -
SLE T細胞における TCRζ 鎖発現低下
63巻5号(2008);View Description
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SLE では,末梢血T細胞(PBT)におけるTCRζ 鎖発現が低下するためにT細胞シグナル伝達に異常を来すことがこれまで知られ,その原因としてエキソン7に相当する部位の欠損などオープンリーディングフレーム異常を伴ったり,選択的スプライシングによって生じた562bp 短い3'UTR を持つζ 鎖mRNA スプライスバリアントが優位に発現することが報告されてきた.さらに3'UTR 中に存在する2つの保存配列がζ 鎖mRNA の安定性を規定し,ζ 鎖発現を調整していることを我々は報告した. -
SLE における抗核抗体の病原性
63巻5号(2008);View Description
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抗核抗体の検出は,膠原病の診断,活動性および予後評価をするうえで極めて重要である.また動物モデルにより,一部の抗核抗体については病因的意義も示唆されている.本稿では代表的な抗核抗体である抗DNA 抗体と抗U1RNP 抗体に関し,その産生機序と病原性を示唆する最近の報告について概説する. -
膠原病の発症病因
63巻5号(2008);View Description
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組織傷害の主役であるCD8 T細胞は,抗原刺激を受けると活性化されてそのクローンが増大し,侵入抗原に対して細胞傷害活性を発揮して病原体などの抗原を殲滅する.しかしこれと同時に,一方で活性化CD8 T細胞はその強い活性化のゆえにアネルギーに陥る.アネルギーは,T細胞は生存しているが分裂せずIL-2 も産生しない状態と定義される.CD8 T細胞が陥るこのアネルギーは,AINR あるいはsplit anergy と呼ばれる.その理由は,抗原が殲滅されないで長く存在しかつCD4 T細胞から十分量のIL-2 などのヘルプが供給された場合には,このCD8 T細胞はAINRから回復し,再び強く増殖してエフェクター機能を獲得し,最終的に抗原が除去されるとメモリー細胞になるからである.これに対してCD4 T細胞の挙動は全く異なり,侵入抗原のシグナルを受けて強く増殖・活性化して所定の仕事をこなすと,その後アネルギーに陥ることなく大部分がアポトーシスすなわちAICD によって死滅する.このように,病原体が殲滅された後にCD4 T細胞が死滅するのは,CD8 T細胞がCD4 T細胞のヘルプがないとエフェクター機能を獲得・発揮できないことに鑑みると,自分の体からみれば侵入抗原に対する細胞傷害活性がいつまでも持続せず短期間で終息し,自身への余分な傷害が回避されるので安全弁となっている.しかしながら,もし何らかの理由でタイムリーに死すべきCD4 T細胞の一部が死なないでCD8 T細胞をヘルプし続けるならば,細胞傷害性CD8 T細胞は常に活性を保ったまま自身の組織を傷害することになる.他方,AICD を越えて生き残ったCD4 T細胞は自己抗体を産生し,このようにして膠原病が発症すると私たちは考えている.
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SLE の難治性病態の解明と治療の展開
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SLE の難治性呼吸器病変— 肺胞出血・肺高血圧症—
63巻5号(2008);View Description
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SLE に見られる難治性呼吸器病態に,肺胞出血,肺高血圧症がある.肺胞出血は肺毛細血管炎によるものと考えられ,高用量の副腎皮質ステロイド,副腎皮質ステロイドのパルス療法,免疫抑制薬などが用いられる.肺高血圧症は血管内皮障害などにより引き起こされると考えられ,副腎皮質ステロイド,免疫抑制薬,プロスタサイクリン製剤,エンドセリン受容体拮抗薬などによる治療が行われる.ともに予後不良であるため,早期診断,早期の治療開始が望まれる. -
難治性ループス腎炎
63巻5号(2008);View Description
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SLE の予後は著しく改善したが,ステロイドに抵抗し,再燃を繰り返しながら腎不全に進行していく難治性腎炎がいまだに問題となっている.WHO 分類IV型を中心に,シクロホスファミドパルス療法が実施されるようになり,より高い確率で腎機能や寛解の維持が可能となった.しかし,依然15〜20% の症例は腎不全に移行する実態があり,より特異的な免疫抑制効果を目指した新たな治療法が開発され,その臨床試験が進めらている. -
中枢神経ループス
63巻5号(2008);View Description
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ループス精神病では,血清中抗リボソームP抗体(抗P抗体)と髄液中の抗神経細胞抗体の上昇が見られる.抗P抗体はヒト末梢血単球からのTNFa などの産生を著明に増強することから,このTNFa を介して血液脳関門の透過性を亢進させ抗体の流入を促進する可能性がある.一方,神経細胞の表面のグルタミン酸受容体に対する抗体がループス精神病患者髄液中で増加している.また,抗P抗体が認識する高分子の神経細胞表面抗原のNSPA が最近報告された. -
抗リン脂質抗体症候群の病態と β2-グリコプロテインI
63巻5号(2008);View Description
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抗リン脂質抗体の病原性の研究は,対応抗原,特にβ2-グリコプロテインI(β2GPI)の機能と,抗体によるその修飾を中心に行われてきた.しかし最近の動向は,β2 GPI の機能そのものよりもβ2 GPI を介した自己抗体の向血栓細胞への作用であるとの仮説がよく論じられる.そして,向血栓細胞の活性化にかかわる分子が次々と明らかにされてきた.このパラダイムシフトは,将来抗リン脂質抗体症候群(APS)の特異的治療法を考案するうえで極めて重要である.また最近の報告から,APS の症状,特に妊娠合併症の成立に補体の活性化が重要であると認識されるようになった.まだ動物実験レベルの検討であるが,これまでAPS の病態とは直接かかわりがないと考えられていた補体系の役割が新たに注目されている. -
SLE の難治性血液障害
63巻5号(2008);View Description
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SLE に伴う難治性血液障害として,血小板減少,溶血性貧血,血栓性血小板減少性紫斑病,血球貪食症候群を挙げ,一般的な診断と最近の話題,使用される薬剤について解説した.SLE は代表的な全身性自己免疫疾患であり,いずれの病態もステロイド,免疫抑制薬が治療の中心となるが,血栓性血小板減少性紫斑病における血漿交換,血球貪食症候群における抗サイトカイン薬など,病態により使用される治療,あるいは期待されている治療もある.
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SLE の合併症とその制御
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ステロイド骨粗鬆症・無菌性骨壊死
63巻5号(2008);View Description
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SLE は,腎・中枢神経系・肺病変などの臓器病変のコントロールのため,しばしば大量かつ長期のステロイド治療を含めた免疫抑制療法を行う.このステロイド治療のために起きる合併症の中で重要なものとして,続発性骨粗鬆症と無菌性骨壊死の2つの骨合併症がある.これらの骨合併症は患者のQOL に大きく影響するため,SLE の診療を進めるうえでそのマネジメントに関してよく理解しておくことが重要である. -
日和見感染症
63巻5号(2008);View Description
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SLE の日和見感染症合併には,疾患の有する免疫異常と免疫抑制治療に依存する2つの要因がある.今日では後者の要因が大きく,その代表であるニューモシスチス肺炎への対策は重要である.早期診断と適切な治療においても,後遺症の多いこの合併症を制御するためには予防対策が重要である.本稿では,主要な日和見感染症の対策について解説した.
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SLE の新規治療薬
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SLE に対するミコフェノール酸モフェチルとタクロリムスの有用性
63巻5号(2008);View Description
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SLE は多様な症状を呈する病因不明の自己免疫疾患である.SLE の治療は現在でも大量ステロイド療法を中心に行われているが,免疫抑制薬の併用も種々試みられてきた.本稿では,海外を中心にエビデンスが集積しつつあるミコフェノール酸モフェチルと,2007 年に我が国でループス腎炎に対する適用が承認されたタクロリムスについて,臨床試験の成績を中心にまとめた. -
生物学的製剤による SLE の治療の新展開
63巻5号(2008);View Description
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SLE は多臓器障害を特徴とする代表的な自己免疫疾患であるが,その治療はステロイドや免疫抑制薬などの非特異的治療が中心であった. SLE の病態形成において,活性化されたB細胞は自己抗体を産生して中心的な役割を担う.B細胞やT細胞の表面抗原を標的としてB細胞やB-T 細胞間相互作用を制御する臨床試験が国内外で進行し,高い認容性と有効性が報告される.生物学的製剤の台頭により,SLEの治療目標が臓器障害制御や寛解導入へパラダイムシフトする可能性が期待される.
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【エッセー】
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- 代謝病の周辺(5)
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【対 談】
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【トピックス】
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【今月の略語】
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