最新医学

Volume 63, Issue 9, 2008
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特集【非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)研究をめぐる新展開】
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アプローチ
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NASH の発症機序— 代謝異常と肝病態進展の接点—
63巻9号(2008);View Description
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NASH は,インスリン抵抗性を基盤とした代謝異常による肝細胞への脂質蓄積から,肝組織の慢性炎症・線維化進展,さらには肝発癌にまで至る進行性の肝病変を呈する.その病態には,さまざまな体質・遺伝的素因と生活習慣や環境因子などが複雑に相互作用を及ぼしつつ関与している.NASH の管理や治療を考えるうえで,代謝異常と肝病態の連関をよく理解することが重要である.
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臨床
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NAFLD と NASH の疫学
63巻9号(2008);View Description
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飽食の時代を迎えた我が国では,運動不足と相まって肥満人口は増加の一途をたどり,メタボリックシンドロームの肝病変であるNAFLD は最も高頻度な肝疾患となり,その頻度は成人の10〜30% である.肝生検により診断されるNASH の頻度に関しては大規模な疫学調査はないが,成人の2〜3% と推測され,肥満や糖尿病が重要な発症危険因子である.なお,NAFLD,NASH の有病率は男性で高いが,女性でも閉経後に男性とほぼ同率となる.この性・年齢別の有病率は,肥満,メタボリックシンドローム,NAFLD,NASH はほぼ同じ傾向を示す. -
NAFLD/NASH の診断
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生活習慣病が深刻化している昨今,NASH を含むNAFLD はメタボリックシンドロームの肝における表現型として増加の一途をたどり,近年注目されている.NASHは病態が進むと肝硬変にも至り,その早期診断・治療が必要とされるが,現在その診断は肝生検による組織診断が必須であり,このことが数百万人にも及ぶと言われるNASH 患者の診断を困難にさせている.今後は,病歴や身体所見,血液・画像検査といった非侵襲的な検査を組み合わせ,的確に「肝生検を勧めるべき症例」を選択していくことが望まれる. -
NASH の治療
63巻9号(2008);View Description
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NASH は今後日本で増加することが予想されるが,NASH に対する薬物療法に関してはエビデンスレベルの高い報告は少なく,日本人を対象とした検討も少ない.NASH は内臓脂肪蓄積を基盤とするメタボリックシンドロームを背景に,インスリン抵抗性・耐糖能異常,糖尿病,脂質異常症,高血圧などを合併することが多く,その対策がNASH 治療の基本である.つまり,日常生活・生活習慣の是正や肥満の改善に加え,合併する疾患に対する治療がNASH の病態改善にも有効と考えられる. -
NASH の病理組織像
63巻9号(2008);View Description
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NASH の肝生検組織像の基本は,中等度以上の大滴性の脂肪化に線維染色(鍍銀像)でアルコール性肝線維症(ALF)の線維化パターンが加わったものである.HE染色では実質の軽度から中等度までの壊死・炎症所見を見るが概して弱く,門脈−実質境界域で限界板のpiecemeal necrosis の顕著な例は少ない.そのほかには,肝細胞の風船様膨化,核空胞化,脂肪肉芽腫,胞体内凝集傾向が種々の程度で重複して観察され,約30% にマロリー体が出現する. -
NASH と小児
63巻9号(2008);View Description
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小児の肥満が増加し,脂肪肝を診療する機会が小児科医にも増えている.小児においても成人と同様に,肝硬変へ進行する可能性があるNASH を呈する症例がある.現在のところ,NASH の診断は肝生検しかない.小児のNASH の疫学的特徴は不明である.筆者らの検討ではNASH の社会的予後は悪く,小児科医,肝臓専門医,精神科医,心理療法士,栄養士,理学療法士,教師などを含む多方面からの包括的な取り組みが必要と考えられる.
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病態
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NASH とC型肝炎
63巻9号(2008);View Description
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NASH とC型肝炎には,幾つかの共通点がある.肝脂肪化,インスリン抵抗性,TNFa 等の炎症性サイトカインなどに共通の現象が認められる.さらにそれらの現象の背後には,酸化ストレス過剰産生,ミトコンドリア機能障害などの共通点が見えてくる.一方,血清脂質異常,細胞内シグナル伝達,肝癌発生などの点では明確な相違点も存在する.これら2つの病態の対比によって,NASH の病因に迫ることが可能となるであろう. -
NASH とインスリン抵抗性
63巻9号(2008);View Description
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生体はエネルギーバランスを恒常的に維持する機構を有しており,その調節系が正常に作動する限り,生体の脂肪量はほぼ一定に保たれる.しかし過食や運動不足が持続すれば,過剰蓄積したエネルギーは脂肪として蓄積され,内臓脂肪型肥満が惹起される.NASH は内臓脂肪型肥満に伴う脂肪肝を背景として発症する生活習慣病であり,肝病変の発症と進展にはインスリン抵抗性が深く関与している. -
薬剤起因性 NASH
63巻9号(2008);View Description
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近年,NASH の疾患概念の普及とともに,薬剤起因性NASH が注目されている.1.分子レベルで発症機序が解明されているもの, 2.メタボリックシンドローム関連因子誘発作用によるもの, 3.原因不明のものなど,NASH 発症に至る薬剤の関与はさまざまである.今後,NASH 診療時は薬剤起因性の可能性も念頭に置きたい. -
肝細胞特異的ノックアウトマウス
63巻9号(2008);View Description
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肝細胞特異的Pten ノックアウト(Pten KO)マウスは,NASH の自然経過,組織所見を再現する動物モデルである.その肝病変である肝脂肪化は,SREBP1c とPPARγ の発現増加による.一方,脂肪肝から脂肪性肝炎への進展は,脂肪酸のβ酸化の亢進による酸化ストレスの増加と,腸内細菌叢由来のエンドトキシンに対する肝臓の感受性の亢進に起因する.抗酸化薬,プロバイオティクス,脂肪代謝改善薬はPten KO マウスの肝病変を改善させるが,各薬剤の効果には限界がある.これらの薬剤の併用が,肝病変の進展をより効果的に抑制すると思われる. -
レチノイン酸と NASH
63巻9号(2008);View Description
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慢性肝疾患の進展とともに肝星細胞が活性化されるが,その際に認められるレチノイン酸の機能喪失が,慢性肝疾患から肝発癌への進展の原因として重要である.すなわち,慢性肝疾患でのレチノイン酸シグナル低下が脂肪酸代謝異常,鉄代謝異常を惹起し,酸化ストレスを惹起し,肝発癌に寄与していると考えられる.NASH においてレチノイン酸代謝異常が生じ,これが肝硬変,肝発癌の一要因となっている可能性について概説する. -
アディポサイトカインと NASH
63巻9号(2008);View Description
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脂肪組織から分泌されるさまざまな生理活性物質をアディポサイトカインと呼ぶ.肥満に伴い肥大した脂肪組織の慢性炎症によってアディポサイトカインの分泌異常を来し,善玉アディポサイトカインであるアディポネクチンの低下,炎症性アディポサイトカインであるTNFα の増加などが起こる.このアディポサイトカイン分泌異常がNASH の病態進展に重要な役割を果たしていることが,近年の研究により明らかになりつつある. -
鉄代謝と NASH
63巻9号(2008);View Description
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NASH の発症・進展には,酸化ストレスの関与が示唆されている.この酸化ストレス増加の原因の1つとして,肝への鉄過剰蓄積が関与している可能性が示唆されている.本稿では,最近分かってきたNASH における鉄代謝異常に関して概説した.NASH においては肝臓に鉄が過剰に蓄積し,血清フェリチン値やトランスフェリン飽和度が上昇していることから,鉄がNASH の病態を修飾していると考えられる.また,肝内鉄過剰の原因として,消化管からの鉄吸収が亢進していることが明らかとなった.その機序は,十二指腸粘膜でのDMT1,Dcytb およびHephaestin の発現が上昇していることによると考えられた.また,Hepcidin は肝鉄過剰状態を反映し上昇していると推測された.NASH に対する除鉄療法(瀉血+低鉄栄養療法)は,血清ALT 値およびIV型コラーゲン値を改善させ,さらに酸化ストレスのマーカーである8-OHdG を正常化することから,有効な治療法の1つであると考えられた. -
炎症性サイトカインと NASH
63巻9号(2008);View Description
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NASH の発症や病態の進行において,TNFα やTGFβ などの炎症性サイトカインは重要な役割を果たしている.TNFα は炎症による肝障害やインスリン抵抗性の発現に重要であり,TGFβ は肝線維化に深く関与している.これらの炎症性サイトカインは,他のサイトカインとも複合的に関与して病態を進展させている.本稿では,NASH における炎症性サイトカインの役割およびインスリン抵抗性や酸化ストレスとの関連について述べる.
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【エッセー】
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- 代謝病の周辺(9)
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【対 談】
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【トピックス】
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【今月の略語】
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