最新医学

2011, 66巻3月増刊号
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特集【メタボリックシンドロームII(前編)─メタボリックシンドロームの臨床─】
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概念・病態・診断
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概念
66巻3月増刊号(2011);View Description
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我が国のメタボリックシンドロームの基本概念は,内臓脂肪蓄積を原因として発症する糖尿病,高血圧,脂質異常などの生活習慣病の集積症候群,言い換えれば内臓脂肪症候群で,最終的には動脈硬化性疾患の強いリスク状態のことを言う.したがって,個々の症候に対して薬物を投与する対策ではなくて,内臓脂肪の減量を目的とした生活習慣の改善を指導し,重なった症候を一網打尽に改善させる治療を優先的に行うものであり,この考え方が特定健診・特定保健指導の制度設定につながった. -
分子病態
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドロームの根幹をなす病態は肥満に伴うインスリン抵抗性の発症であり,その機序として脂肪組織における慢性炎症が考えられている.実際,脂肪組織には,マクロファージ,T細胞などの浸潤が認められ,その原因としてアディポカインの分泌,小胞体(ER)ストレス,酸化ストレス,インフラマソームの活性化,TLR4 の活性化など,幾つかの仮説が提唱されている.今後は,慢性炎症の“ひきがね”となる事象ならびに炎症拡大に必須なステップの同定が重要である. -
診断基準/国際比較
66巻3月増刊号(2011);View Description
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国心臓協会 / 米国立心・肺・血液研究所(AHA / NHLBI)の診断基準では,腹部肥満,高トリグリセリド(TG)血症,低HDL-C 血症,高血圧,高血糖から3項目以上で診断される.国際糖尿病連合(IDF)の基準では腹部肥満を必須項目,さらに高TG 血症,低HDL-C 血症,高血圧,高血糖から2項目以上と定義している.日本の診断基準は,内臓脂肪蓄積によって心血管系疾患の種々の危険因子が重積する内臓脂肪症候群でとらえるもので,基本的にはIDFの診断基準とほぼ一致している. -
腹囲・内臓脂肪の測定法と基準
66巻3月増刊号(2011);View Description
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我が国では,メタボリックシンドロームの診断において内臓脂肪蓄積(腹囲基準)を必須とする方針を堅持しており,特定健診・特定保健指導にも反映されている.内臓脂肪は,腹部CT を用いた臥位・臍レベルでの内臓脂肪面積をもって評価するのが一般的であるが,今後生体インピーダンス法を利用した,より簡便で安定した測定法の確立が期待される.我が国では原則として腹囲を立位・軽呼気時に臍レベルで測定するが,海外では異なる. -
疫学
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドロームの発症には,遺伝的要因に加えて,環境要因も大きく関与する.特に,アジア系の民族は,白人に比べて肥満の程度が軽度であってもメタボリックシンドロームを発症する.また,シフト勤務者のような不規則な生活をする者に,メタボリックシンドロームが多いことも報告されている.メタボリックシンドロームの頻度や心血管疾患発症リスクは,採用する診断基準によって異なることに留意する必要がある. -
久山町におけるメタボリックシンドローム関連心血管病の疫学
66巻3月増刊号(2011);View Description
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現在,世界には幾つかのメタボリックシンドローム(MetS)の診断基準があり,特に日本人に適した腹部肥満の定義には検討の余地がある.久山町における追跡調査では,男性90 cm 以上,女性80 cm 以上の腹囲基準で定義した腹部肥満が,心血管病の予後を予測するうえで最も有用である.MetS は虚血性心疾患,脳梗塞,慢性腎臓病の明らかな危険因子であり,特にMetS に糖尿病や高血圧が合併すると,心血管病の発症リスクが相乗的に高くなる. -
小児のメタボリックシンドローム
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドロームは,2型糖尿病やさらに動脈硬化性疾患の発症にかかわることから,生活習慣病の概念の中でも注目を集める病態である.小児期のメタボリックシンドロームの診断,病態,管理,そして基準値などは成人とは異なり,年齢とともに変動する傾向がある.これに加え,体格,体組成などには民族的な差異が存在し,各国独自のエビデンスに基づかなければならない.我が国における診断基準や疫学については,厚生労働省の事業や,日本肥満学会,日本糖尿病学会,そして小児に関連する各学会活動として検討が続けられてきた.
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構成病態
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腹腔内内臓脂肪/異所性脂肪
66巻3月増刊号(2011);View Description
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脂肪細胞は,余剰エネルギーをトリグリセリド(TG)として蓄積し,生体の必要に応じて再供給する.その細胞集団である脂肪組織は,皮下脂肪だけではなく,大網や腸間膜の周囲(腹腔内内臓脂肪),腎周囲,心膜内,血管周囲などさまざまな場所に生理的に存在する.しかし,近年の飽食・車社会では脂肪細胞(特に腹腔内内臓脂肪)が生理的な範囲を超えてエネルギーを過剰に蓄積すると,脂肪細胞機能異常やアディポサイトカイン分泌異常が起る.さらに,多量のTG を細胞内にためこむ性質を持たない細胞(筋肉,肝,膵β細胞など)にも脂肪(異所性脂肪)が蓄積し各細胞機能異常を起し,多くの生活習慣病と関連することが明らかになってきた. -
糖尿病
66巻3月増刊号(2011);View Description
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糖代謝異常は,メタボリックシンドロームの1つのコンポーネントであるが,2型糖尿病とメタボリックシンドロームは内臓脂肪肥満によるインスリン抵抗性という病態を共有している場合が多い.両者を合併すると,おのおの単独で存在するよりも,心血管リスクが有意に上昇する.さらには最近,がんやアルツハイマー病などのリスクも増加させると言われている.内臓肥満の解消が予防や治療の原則であるが,糖尿病においてはインスリン抵抗性や高インスリン血症を改善する薬物療法の選択も重要である. -
脂質異常
66巻3月増刊号(2011);View Description
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脂質異常はメタボリックシンドロームの主要コンポーネントの1つである.高トリグリセリド(TG)・低HDL コレステロール(HDL-C)血症,そしてレムナントリポタンパクやsmall dense LDL の増加を特徴とするdyslipidemia と呼ばれる病態であり,高LDL コレステロール(LDL-C)血症とは独立した粥状動脈硬化のリスクと考えられる.身体活動の増加を重視した生活習慣改善とそれによる内臓脂肪の減少が,TG,HDL-C の是正に有効である.不十分な場合には,個々の病態を把握し管理標的を適切に設定したうえで,スタチン・フィブラートなどを用いた薬物治療を考慮する. -
高血圧
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドローム(MetS)の昇圧機序には,本邦の基準の必須用件である肥満を介して血行動態,内分泌因子,そしてアディポサイトカインの異常が関与する.病態の中心には,これら諸因子の異常に起因するインスリン抵抗性が位置し,治療を考えるうえでも肥満の是正とともにインスリン抵抗性を改善する降圧薬を用いることになる.インスリン抵抗性を改善する降圧薬としては,アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB),アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬,α遮断薬,Ca 拮抗薬が挙げられるが,ARB,ACE 阻害薬を中心に薬剤が選択される.本邦においてもCASE-J において肥満高血圧におけるARB の有用性が示されている.
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合併疾患
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脳血管障害
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドローム(MetS)は,虚血性脳卒中を含む心血管イベントの危険因子であることが周知されつつある.MetS は,本邦独自の診断基準があるが,ウエスト周囲径を国際糖尿病連合(IDF)で推奨される男性90 cm,女性80 cm へ改訂したほうがイベントとの相関がより得られるとの報告がみられている.対処法としては,食事療法,運動療法が重要であるが,MetS の構成要素すべてに対する管理が必要になる. -
虚血性心疾患
66巻3月増刊号(2011);View Description
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近年,メタボリックシンドロームは拡大傾向にあり,今後虚血性心疾患を始めとする動脈硬化性疾患の増加が予想される.新たな冠危険因子でもあるメタボリックシンドロームでの動脈硬化進展の機序や2次予防を中心とした治療戦略,最近の知見について述べる. -
静脈血栓塞栓症
66巻3月増刊号(2011);View Description
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深部静脈血栓症(DVT)は,特に下肢の深部の静脈に血栓が生じる病態である.ここでできた血栓が肺に運ばれたものが肺血栓塞栓症(PE)であり,死亡リスクが高い重篤な疾患である.PE の主な原因はDVT であり,この両者を総称したものが静脈血栓塞栓症(VTE)である.従来,我が国にはVTE は少ないとされていたが,生活習慣の欧米化などにつれ,増加している.動脈性のアテローム血栓症と同様,メタボリックシンドロームがその発症に関与していると想定されている. -
腎障害
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドロームの腎障害は,糖尿病・高血圧・脂質代謝異常・肥満のそれぞれによって起される腎障害の総和である.肥満による腎障害の機序は,アディポネクチン欠乏により,糸球体上皮細胞においてアデノシン5'-一リン酸キナーゼ(AMPK)が不活性化されることが重要である.メタボリックシンドロームでは,運動とカロリー制限を基本として,メタボリックシンドロームの各構成要素を総合的に治療する必要がある. -
睡眠時無呼吸症候群
66巻3月増刊号(2011);View Description
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睡眠障害には100 種類以上の病態が存在するが,メタボリックシンドローム(MetS)の関連病態として注目されるのは,肥満が最大の発症要因となる閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)である.OSA による低酸素血症,呼吸再開による再酸素化(間欠的低酸素血症)は,生体にあたかも虚血・再灌流と同様な影響を与え,酸化ストレス,組織障害,交感神経活動亢進などを招くとの説が有力になり,睡眠分断,覚醒と併せて,インスリン抵抗性,高血圧,脳心血管障害の因子になると考えられている. -
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
66巻3月増刊号(2011);View Description
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非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は生活習慣病の肝病変と言える.予後良好とされていた中に,肝硬変・肝発がんに至る非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)が含まれることが明らかとなった.脂肪肝にインスリン抵抗性,酸化ストレスなどが加わり,炎症・線維化が病態を悪化させる.組織所見が診断に必要で早期拾い上げが容易でなく,標準治療も定まっていないため,対処に難渋する場合がある.今後の研究の進歩が期待される.
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治療
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総論
66巻3月増刊号(2011);View Description
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メタボリックシンドロームは,内臓脂肪の蓄積を基盤として,内臓脂肪細胞が産生・分泌するアディポサイトカインの異常により生じる病態であり,その結果,糖尿病,高血圧,脂質異常症を引き起し,心,脳血管疾患など動脈硬化性疾患を発症させる.したがって治療においては,内臓脂肪蓄積の減少あるいは予防,糖尿病,高血圧,脂質異常症の改善による心,脳血管疾患の予防が行われる.しかし,これらの疾患の上流には,生活習慣の乱れによる内臓脂肪の蓄積があるので,どの段階であっても減量させることが最も重要である. -
食事療法
66巻3月増刊号(2011);View Description
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インスリン抵抗性の改善となる摂取エネルギー量の適正化は,内臓脂肪の蓄積型肥満の是正,血圧,トリグリセリド(TG)値,血糖値をコントロールレベルへ改善する食事療法である.さらにそれぞれに対応して,飽和脂肪酸(SFA),炭水化物,単純糖質,食物繊維,ナトリウム,カリウム,アルコールなどの摂取の適正化を図ることが,メタボリックシンドロームの食事療法となる. -
運動療法
66巻3月増刊号(2011);View Description
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運動はメタボリックシンドローム改善のための重要な要素である.運動開始に先立って心血管系疾患や運動器疾患に関するメディカルチェックを行うとともに,内臓型肥満と心血管リスクを軽減する観点から,有酸素運動を基本に置いた運動処方を行う.近年,運動による糖・脂質・エネルギー代謝活性化を通じた抗メタボリックシンドローム作用において,骨格筋5'-AMP-activated protein kinase(AMP キナーゼ)の果たす役割が明らかにされてきた. -
肥満症への薬物療法
66巻3月増刊号(2011);View Description
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肥満症治療では主に食事・運動療法が用いられる.しかしその実行と継続は困難で,リバウンドすることも多い.その中で,肥満を助長する因子が過食や運動不足以外にも数多く存在することを理解しなければならない.すなわち,患者固有の問題点をそのライフスタイルの中から抽出し,治療に応用する行動療法的アプローチが必要である.合わせて,治療抵抗性の患者,リバウンドを繰り返す患者,合併症を有する患者などには,食欲抑制薬など薬物療法の併用も考慮しなければならない.そこで本稿では,行動療法とのコンビネーション治療としての薬物療法について,今後の展望を含めて述べる.
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【今号の略語】
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