最新医学
Volume 66, Issue 8, 2011
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特集【肝細胞がん診療の進歩:Up–To–Date】
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座談会
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基礎
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肝細胞がんの発がん機構
66巻8号(2011);View Description Hide DescriptionC型およびB型慢性肝炎においては,高頻度かつ多中心性の肝がんが発生する.ウイルス肝炎における肝発がんにかかわる因子として,炎症とウイルス自体が想定される.ウイルス肝炎の特徴ある肝発がんは,炎症のみでは説明しにくい.ウイルス因子としては,ウイルスゲノムの組み込み,ウイルスタンパク質の働きなどが想定される.肝炎ウイルスの存在は多段階発がんのステップを昇らせ,高頻度かつ多中心性の肝発がんをもたらすと考えられる.近年,年齢因子の重要性が増している.70 歳以上のC型慢性肝炎患者では,肝硬変の有無による肝がんリスク絞り込みは成立しがたい. -
肝細胞がんの分子病理
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝細胞がんは慢性障害肝から進行肝細胞がんに至る過程が比較的明らかとなっており,多段階発がん研究の良いモデルである.肝細胞がんの発生や悪性化の各段階ではさまざまなシグナル伝達系の異常が関与しており,慢性障害肝に発生する肝細胞がんのリスクアセスメントや早期肝細胞がんの診断,さらに進行肝細胞がんの悪性度診断などに有用な分子が明らかとなりつつある.本稿では肝細胞がんの多段階発がんにおける分子病理について,最近の知見を交えて紹介する. -
早期肝細胞がん(肝がん)の形態病理―国際基準を中心に―
66巻8号(2011);View Description Hide Description最近,早期肝がんの国際的診断基準が確立した.早期肝がんは肉眼的に被膜を有さず,境界不明瞭型を呈し,腫瘤内に種々の程度に門脈域を含み,均一な高分化型肝がんで構成される.腫瘍内にKupffer 細胞の介在を伴い,高頻度に脂肪化を伴う.異型結節との鑑別には間質浸潤の有無が参考となる.基本的には,乏血性腫瘤でその約90% が2cm 以下であり,脈管侵襲や肝内転移は見られず,治療で断端が確保されれば臨床的に予後が良い.
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診断と病態
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画像を用いた肝細胞性結節の悪性度推定および早期肝細胞がんの画像診断の進歩
66巻8号(2011);View Description Hide Description早期肝細胞がんは高度異型結節や乏血性高分化型肝細胞がんと画像所見上オーバーラップがあるため,境界病変の中から早期肝細胞がんのみを正確に画像で指摘することは困難である.本稿では,画像による肝細胞性結節の悪性度推定および早期肝細胞がんを含む境界病変の画像所見の紹介と,新しいMRI 機能性造影剤であるGd–EOB–DTPA の肝細胞性結節の悪性度推定における意義について述べる. -
肝細胞がんの診断・治療アルゴリズム
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝がんの診断において,典型的な肝細胞がんは動脈相における早期濃染および門脈平衡相におけるwash out が特徴である.このような所見が示されれば,肝細胞がんとして治療対象となる.ソナゾイド造影超音波の場合には,Kupffer 相における欠損像も重要な所見である.多血性の結節で門脈平衡相でのwash out がない場合には,機能的画像診断法を用いて肝細胞がんの確定診断を行う.機能診断では,現在ソナゾイド造影超音波のKupffer phase imaging とEOB–MRI が行われる.ダイナミックCT やダイナミックMRI にて乏血性結節として描出された結節については,次に行うべき検査はEOB–MRI もしくはソナゾイド造影超音波である.両検査での取り込み低下例は高分化型肝細胞がんの可能性が高く,治療対象である.両検査で取り込みを認める場合,EOB–MRI でのみ取り込み低下を示す場合に関しては,2010 年に改訂された「肝癌診療マニュアル」では,腫瘍径が1.5cm を境に腫瘍生検を行う場合と経過観察を行う場合に分類される.ソナゾイドでのみ取り込み低下を示す症例はまれであるが,高分化型肝がんの可能性が高く,治療対象である.肝がんの治療に関しては,「科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン作成に関する研究班」により『科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドライン』(2005 年発行,2009年改訂),日本肝臓学会(JSH)編集の『肝癌診療マニュアル』(2007 年発行,2010年改訂)にて,肝がん治療アルゴリズムが提案されている. -
本邦における肝細胞がんの病因・病態の変化と局所療法の現況
66巻8号(2011);View Description Hide Description我が国における肝細胞がんの急増は,C型慢性肝炎の増加に起因している.近年は,C型肝炎患者の減少と肥満の増加に伴う非B非C型肝がん患者の増加が顕著である.肝がんに対する局所療法は我が国で開発され,エタノール注入療法からラジオ波焼灼療法へのバトンタッチとともに,肝がんの主要な治療法の1つとして広く普及するに至った.その後は,周辺機器の進歩に伴って治療技術はさらに洗練され,より安全でより効果的な治療が提供されるようになってきている.
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治療
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肝細胞がんの外科治療
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝細胞がんの治療において,高い根治性が得られる外科治療の果たす役割は極めて大きい.外科治療には肝切除と肝移植があり,肝癌診療ガイドラインでは肝障害度,腫瘍数,腫瘍径によっておのおのの適応が推奨されている.実臨床においては,肝切除では腫瘍条件と肝機能条件を考慮して根治性と安全性のバランスで術式を決定し,肝移植ではミラノ基準を超えた各施設独自の拡大適応で決定している. -
高度進行肝がんに対する外科治療
66巻8号(2011);View Description Hide Description広範な肝内転移や門脈本幹などへの大血管に浸潤したいわゆる高度進行肝がんに対する既存の治療法の効果は限定的で,新たな治療法が模索されてきた.我々はこのような高度進行肝がんに対しても,経皮的肝灌流化学療法を開発し,さらに減量肝切除と組み合わせることで奏効率72% を実現し,高率に中・長期生存を可能にしてきた.本稿ではこれまでの自験例を振り返り,高度進行肝がんに対する外科的治療戦略の適応とその限界,および今後の課題について述べる. -
肝動脈化学塞栓療法の現状と課題
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝動脈化学塞栓療法は肝がんに対する標準的治療の1つであるが,実際に用いられる塞栓物質,抗がん剤,塞栓方法,治療間隔などは定まっておらず,標準化されていない.ビーズなど新しい塞栓物質の導入や分子標的治療薬との併用など,次の展開を進めるためには,少なくともreference arm を特定したうえでの臨床試験による検証が不可欠である.技術的要素は大きいが,臨床的疑問を単純化し,それを解決するためのシンプルなデザインの臨床試験を国際共同試験として行うことが,絡まった糸を解きほぐす鍵である.同時に,臨床試験結果をフェアに評価する姿勢も重要である. -
肝細胞がんに対する肝動注化学療法の位置づけ
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝細胞がんに対する肝動注化学療法は,既存の治療法の対象外または治療効果が期待できない進行肝細胞がん(肝内多発例,脈管侵襲例)に対する治療として,本邦では位置づけられている.しかしエビデンスレベルが低いため,海外ではその位置づけは低い.肝動注化学療法とソラフェニブによる全身療法との治療選択は,それぞれの治療法の特徴をよく理解し選択を行う必要がある.
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分子標的治療
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肝細胞がんに対する分子標的治療の現況
66巻8号(2011);View Description Hide Description進行肝細胞がんに対して,マルチキナーゼ阻害薬ソラフェニブにより初めて生存期間の延長が得られたことから,現在,ソラフェニブが肝機能良好かつ肝外転移,血管浸潤および血管塞栓術不応例に対する標準治療となっている.頻度の高い有害事象は手足皮膚反応,皮疹,下痢,高血圧,肝障害などであり,早期に発現することが多く,適切な対応が求められる.血管塞栓術との併用や肝切除などの補助療法としても臨床試験が行われている. -
肝細胞がんに対する分子標的治療のバイオマーカーの探索
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝細胞がんに対する分子標的治療のバイオマーカーとして,血管新生阻害薬としての見地とがん細胞側の見地の両方から,現在までに報告されているソラフェニブのバイオマーカーのレビューおよび我々の取り組みなどを示した.血管新生阻害薬の薬力学的バイオマーカーは検証が進んでいるものの,効果予測バイオマーカーは依然特定されていない.ソラフェニブのがん細胞側の効果規定遺伝子は,候補遺伝子を特定し検証を進めている. -
新規分子標的薬の開発状況と肝がん診療の今後の展望
66巻8号(2011);View Description Hide Description肝細胞がんに対する分子標的薬の現在の臨床試験の流れとして,ファーストラインやセカンドライン試験に加え,既存の治療との併用の臨床試験が行われている.具体的には,切除やラジオ波焼灼療法後のアジュバント治療としてソラフェニブとの併用(STORM 試験),あるいはブリバニブとTACE との併用試験(BRISK–TA 試験),ソラフェニブとTACE の併用試験(SPACE 試験,ECOG1208 試験,TACTICS 試験),および動注との併用試験(SILIUS 試験)などである.これらの臨床試験の理論的根拠は,病勢の増悪までの時間(TTP)を遅らせることによりTACE とTACEの間隔を延長させることを通じて肝予備能を温存し,かつ最終的に生存率を延長させることにある.これらのアジュバント試験,併用試験についてはまだその安全性や有効性が実証されていないが,もしこれらが証明されれば肝細胞がん患者の予後を現在の3ヵ月単位の予後延長効果から数年単位で予後を延長することが可能になると考える.したがって,現在進行中の試験の中でも,従来の治療法との併用試験は最も重要な臨床試験であると考える.
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【連 載】
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現代社会とうつ病(4)うつ状態の鑑別診断
66巻8号(2011);View Description Hide Descriptionうつ状態は,抑うつ気分や意欲の低下,悲観的思考,思考や行動の遅延,食欲・睡眠の障害などによって特徴づけられる.その鑑別診断に際しては,器質的な原因や薬剤の影響の除外が優先される.横断面の病像に関しては,メランコリー型ないし非定型の特徴を伴う/伴わない大うつ病,適応障害レベルのうつ状態,気分変調性障害などが区別される.治療に際しては,双極性障害のうつ病相である可能性を念頭に置いた対応が必要である. -
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【トピックス】
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進行卵巣がんに対する Dose–dense Chemotherapy
66巻8号(2011);View Description Hide Descriptiondose–dense chemotherapy の概念は,化学療法の投与量は増やさずに投与間隔を縮めることにより,抗腫瘍効果を高めようとするNorton–Simon 理論の背景に基づく.JGOG3016 は,3週間ごとのパクリタキセル+カルボプラチン(TC)療法(c–TC)と,パクリタキセルの投与間隔を3週間から1週間に狭めたdose–dense TC 療法(dd–TC)の有効性を検討するランダム化比較試験である.dd–TC 群は,無増悪生存期間,全生存期間が有意に延長した.現在,欧米でもJGOG3016 の確認試験が行われており,これらの試験で検証されれば,dose–dense chemotherapy が今後世界の標準治療となると思われる. -
リンパ脈管筋腫症の病態と治療
66巻8号(2011);View Description Hide Descriptionリンパ脈管筋腫症は,異常な平滑筋様細胞(LAM 細胞)が増殖し,病変内にリンパ管新生を伴う腫瘍性疾患である.1990年代に結節性硬化症の原因遺伝子が同定されたことをきっかけに,病態解明は飛躍的な発展を遂げた.2008 年のCAST 試験や2011 年のMILES 試験では,分子標的治療薬としてのラパマイシン(シロリムス)の有用性が示され,治療戦略の1つとして期待される.シロリムスの臨床応用は患者団体,研究者,そして製薬企業の協力の賜物であり,さらなる病態解明や治療法開発についての研究が望まれる.
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【総 説】
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高感度心筋トロポニンⅠで診る,新たな展開―心筋梗塞からその他の心疾患への応用―
66巻8号(2011);View Description Hide Description近年開発された高感度トロポニン測定系は低値部分までも正確であり,心筋梗塞の診断において,従来弱いとされていた超急性期でも感度,特異度高く診断可能である.その他,心不全のリスク評価,治療効果判定としての応用,薬剤心毒性のモニター,心筋炎の診断,検診,一般住民への応用など,今後期待できる点は多い.また,測定系は他の哺乳類とも交差するため,トロポニン測定系を用いた動物実験により,心筋障害の機序が解明されることを期待したい.
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【今月の略語】
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