最新医学
Volume 68, Issue 1, 2013
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特集【肥満症-病態・診断・治療-】
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座談会
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病態:基礎と臨床
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肥満症と慢性炎症
68巻1号(2013);View Description Hide Description肥満はさまざまな慢性疾患の重要なリスク要因である.肥満は内臓脂肪組織で炎症を惹起する.脂肪組織の炎症はアディポカインの産生変化や遊離脂肪酸の放出増加を介して,膵臓や血管などの遠隔組織へ影響を与える.例えば,遊離脂肪酸は膵島炎症を惹起し,β細胞の機能障害を引き起こす.このように,肥満内臓脂肪を起点とした炎症の波及・拡大が,生活習慣病の背景病態となっている可能性がある. -
アディポサイトカイン
68巻1号(2013);View Description Hide Description肥満して脂肪細胞肥大化が起こると,悪玉アディポサイトカインが多く分泌され,アディポネクチンが低下して肥満症が惹起される.アディポネクチンは,肝臓ではAdipoR1 を介してAMPK を活性化し,糖新生・脂肪合成抑制と脂肪酸燃焼促進を,AdipoR2 を介してPPARa を活性化し,脂肪酸燃焼・エネルギー消費促進,抗炎症作用,酸化ストレス低減作用を発揮し,骨格筋ではAdipoR1 を介してAMPK/SIRT1/PGC–1 を活性化し,ミトコンドリア生合成促進や酸化ストレスを低減するなどして,インスリン抵抗性を改善させる. -
エピジェネティクスと肥満・メタボリックシンドローム
68巻1号(2013);View Description Hide Descriptionメタボリックシンドロームや2型糖尿病,動脈硬化など,多因子の疾患の発症には環境因子が重要である.環境因子と遺伝素因の相互作用と生活習慣病発症への関与の解明は,21 世紀の生物医学の大きな課題となっている.近年,遺伝子発現や遺伝子配列情報に加え,ヒストン修飾によるクロマチンの変化と遺伝子発現(エピゲノム)への理解が病気の発症解明に重要となっている.エピゲノムは外来刺激・環境の変化によって変動し,さまざまな生命現象に関与する.我々は3T3–L1 脂肪細胞分化系で次世代シークエンサーを用いたエピゲノム解析から,PPARg がヒストンH3 の9番目のリシン(H3K9)やH4K20 のヒストン修飾酵素発現を制御することで脂肪細胞分化を制御すること,またH3K9 脱メチル化異常が肥満・インスリン抵抗性発症に重要な鍵を握ることを解明した. -
肥満症と臓器間ネットワーク
68巻1号(2013);View Description Hide Description肥満は摂取エネルギーと消費エネルギーの差の増加によって生じるが,日々の食事量や活動量の変動がそのまま直接に体重の変化に反映されるわけではない.近年,多くの臓器間相互作用が体重の恒常性維持機構に寄与していることが明らかとなり,また恒常性維持機構の破綻がもたらす肥満発症メカニズムの解明も進んできている.一方,非恒常性維持的に作用し肥満の形成の要因となっているシステムとして,「報酬系」が注目されている.本稿では,体重制御にかかわる臓器間ネットワークの最近の進歩を概説したい. -
褐色脂肪組織の基礎と臨床
68巻1号(2013);View Description Hide Description褐色脂肪は,熱産生機能によってエネルギーを消費する特殊な脂肪組織である.FDG–PET を利用してヒト褐色脂肪を同定・評価したところ,肥満者や中高年者では活性が低下しているが,高い活性を保持していれば加齢に伴う体脂肪蓄積が抑制されることが判明した.これを踏まえて,不活性になった褐色脂肪を再活性化して肥満を軽減・予防する試みを紹介する. -
肥満症と異所性脂肪
68巻1号(2013);View Description Hide Descriptionインスリン標的臓器に蓄積する肝細胞内脂質や骨格筋細胞内脂質は異所性脂肪の1つであり,インスリン抵抗性の原因の一部であると考えられている.現在までに行われた研究により,肥満があったとしても,異所性脂肪量が正常であれば代謝的に正常に近くなることが明らかになりつつある.東アジア人に多く見られるような,肥満の程度が軽くても代謝的に肥満している原因として,異所性脂肪蓄積の重要性が指摘されており,今後の検討が待たれる. -
脂肪萎縮症に関する最近の進歩
68巻1号(2013);View Description Hide Description脂肪萎縮症は,生体の恒常性維持における脂肪組織の役割を考えるうえで重要な疾患である.脂肪萎縮症では高頻度にインスリン抵抗性糖尿病や脂質異常症,脂肪肝などの代謝異常を合併する.最近の研究により,脂肪組織の欠損,中でも脂肪組織由来ホルモンであるレプチンの欠乏が,代謝異常発症に重要な役割を有していることが証明されている.これらの知見は,脂肪萎縮症に対する治療のみならず,肥満症において脂肪細胞機能の破綻による各種病態への新しい治療法の開発に結びつくものと期待される.
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診断・疫学・治療
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肥満症の診断基準
68巻1号(2013);View Description Hide Description脂肪組織が過剰に蓄積した状態である「肥満」に対し,肥満に起因ないしは関連する健康障害を合併するか,その合併が予測される場合で,医学的な見地から減量を必要とする病態を「肥満症」と称する.近年の研究から,健康障害の合併は内臓脂肪の蓄積と密接にかかわることが明らかにされ,「体重を減らすことにメリットがある,つまりやせるべき人」を的確に選び出すことの重要性が求められている.そのような視点から作成された日本肥満学会の肥満症診断基準について概説する. -
小児肥満の現状と今後の対策
68巻1号(2013);View Description Hide Description小児の肥満は,小児期のみならず成人期の健康,特に生活習慣病やそれに伴う動脈硬化性疾患の予防の視点から,ますます注目されるようになってきた.疫学的には世界的に小児肥満の増加が指摘されている.発症要因としての生活習慣について,成人期にも増して小児期ではより広範に生活全般についての視点が必要とされる.検査法の進歩により,すでに小児期においても,動脈硬化の初期と考えられる病変が確認されるようになってきた.小児の生活習慣に対する包括的な対策が必要である. -
メタボリックシンドローム―特定健診・特定保健指導―
68巻1号(2013);View Description Hide Description平成20 年度から,メタボリックシンドロームに着目した特定健診・特定保健指導が全国の医療保険者によって開始され,年間50 万人以上の対象者に保健指導を実施している.積極的支援実施群では,行動変容を促す生活習慣改善指導の結果,体重減量がもたらされ,3%程度の軽度な減量によって,血圧,脂質,糖代謝などの検査値改善に結びつくことが判明した.受診率の向上策,効果的な保健指導のあり方,長期的な評価について,検討と改革が進められているところである. -
沖縄クライシスの現状と新たなチャレンジ
68巻1号(2013);View Description Hide Descriptionかつて世界に冠たる長寿の島として知られた沖縄が,日本屈指の肥満県,糖尿病県に転じ,平均寿命の凋落が続いている(沖縄クライシス).子ども時代から米国型の高脂肪・大量消費型の食文化の洗礼を受けてきた壮年世代,還暦世代を中心に,特に成人男性におけるメタボリックシンドローム,2型糖尿病,高血圧症が急増し,人工透析の導入率や心血管・脳血管イベントの発生率は日本屈指のレベルに達している. -
DOHaD 仮説とメタボリックメモリー
68巻1号(2013);View Description Hide Description近年,種々の疫学研究から,胎生期や乳児期などの臓器やその制御機構が発達する期間における栄養環境が成人期・老年期に至るまで長期的な影響を及ぼして,肥満症やメタボリックシンドローム発症の危険因子形成に寄与する可能性が明らかになりつつある.本稿では,代表的な疫学研究を紹介するとともに,諸家により提唱されているメカニズムに関する仮説を紹介する. -
肥満症の治療―メタボリックサージェリーと腸管ホルモン―
68巻1号(2013);View Description Hide Description肥満症治療として減量は必須であるが,生活習慣の修正による内科的治療では十分な減量を得ることは困難である.肥満症に対し消化管を操作する外科手術,肥満外科手術が世界中で行われ良好な成績を収めている.さらに,手術後に減量効果に加え糖尿病や脂質異常症などの改善も伴うことが多く,「メタボリックサージェリー」とも称される.その機序は明らかではないが,腸管環境の変化が大きく影響していると考えられている. -
抗肥満症薬の現状と展望
68巻1号(2013);View Description Hide Description肥満症の治療は脂肪組織の減少,特に内臓脂肪の減少により,肥満に起因する健康障害(合併症)を予防,改善することが目的である.現在は主に食事,運動という生活習慣改善療法が行われているが,体重減少や減少した体重の維持は困難なので,抗肥満症薬には体重減少効果を高める働きが求められる.抗肥満症薬として適切な薬物はなかったが,新規抗肥満症薬が米国で最近承認され,日本でも開発が進行しているので,今後の肥満症診療への活用が期待されている.
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【連 載】
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現代社会とうつ病(21) うつ病の治療ガイドライン:中等症~重症
68巻1号(2013);View Description Hide Description日本うつ病学会による「うつ病治療ガイドライン」から,中等症から重症うつ病(精神病性の特徴は伴わないもの)の治療について,臨床状況に即して概説した.ガイドラインは標準的治療を行ううえで有用であるが,ガイドラインが依拠するエビデンスには限界もあり,実臨床で参考にする際には留意すべき点がある.すなわち,ガイドラインのみを金科玉条とするのではなく,臨床医の経験や工夫により治療方針を決定し,さらに患者のニーズと合致する治療を実践することが重要である. -
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【トピックス】
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ヒト ES/iPS 細胞から肝細胞への高効率分化誘導法の開発とその創薬応用
68巻1号(2013);View Description Hide Description薬物誘発性肝障害は,医薬品候補化合物の開発中止や医薬品の市場撤退の主要な原因であり,医薬品開発研究の初期に肝毒性を精度高く予測することができれば,医薬品開発の効率化やコスト削減に繋がる.ヒトES 細胞やヒトiPS 細胞からヒト初代培養肝細胞に類似した機能を有した肝細胞を作製できれば,in vitro での毒性評価において,ヒト初代培養肝細胞の代替ソースとなりうる.本稿では,ヒトES/iPS 細胞から肝細胞への分化誘導技術と,毒性評価系への応用に関する現状と課題について概説する. -
全身性エリテマトーデスにおける感受性遺伝子
68巻1号(2013);View Description Hide Description全身性エリテマトーデス(SLE)は多彩な病像をとる自己免疫疾患である.過去数年間に大規模ケースコントロール関連解析が実施され,数多くの感受性遺伝子が同定されてきている.その成果の多さは他の疾患に比べて目覚ましいものがある.本稿では,SLE の遺伝因子について説明し,最近の感受性遺伝子解析の成果を概説する.
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【今月の略語】
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