最新医学

2014, 69巻7月増刊号
Volumes & issues:
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再生医療の最新の進歩(後篇)組織工学とその臨床応用
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- 【座談会】
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- 【再生医療本格化のための基盤テクノロジー】
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再生医療を本格化するバイオマテリアル技術
69巻7月増刊号(2014);View Description
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再生医療とは自然治癒力を高め,病気を治す医療であると定義される.この再生医療には,細胞能力を活用した再生治療と,細胞能力を調べてそれを利用する再生研究(細胞研究と創薬研究)がある.自然治癒力のもとである細胞の増殖,分化能力を高めるためには,バイオマテリアル技術で細胞の周辺環境を作り与え,細胞を元気づけることが必要となる.本稿では,再生医療を本格化するためのバイオマテリアルの重要性を強調したい. -
虚血性疾患に対する血管再生治療
69巻7月増刊号(2014);View Description
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血管内皮前駆細胞(EPC)が成体の血液中に存在し,重症虚血部位の血管形成に関与することが判明した.このEPC の研究は医療応用に大きな可能性を秘めている.EPC の生物学的基礎研究の発展とともに,虚血部位の血管新生療法や動脈硬化部位の血管内皮再生療法や,増殖させたEPC を応用する前臨床研究が,トランスレーショナルリサーチとして展開されてきた.この成果を得て,現在では慢性重症虚血下肢に対する自家末梢血EPC 移植による血管再生治療,あるいは慢性心虚血性疾患の臨床研究も開始されている.本稿では,EPC を応用した血管再生治療への応用を紹介する. -
骨髄由来細胞を用いた肝再生療法の現状と展望
69巻7月増刊号(2014);View Description
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我々は,マウス基礎研究で自己骨髄細胞投与(ABMi )が肝線維化および肝機能を改善させることを報告し,2003 年11 月から開始した「肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与(ABMi )療法」の国内外での臨床研究により,その肝機能改善・修復効果を確認し論文報告してきた.本稿では,骨髄細胞を用いた肝再生治療の現状と展望について概説する. -
3次元培養法による軟骨再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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少量の関節軟骨から軟骨細胞を単離し,アテロコラーゲンを足場として培養することで軟骨様組織を形成させる3次元培養法を開発し,関節軟骨欠損に対する再生医療として臨床応用を行った.この治療法を広く普及させるために,株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)への技術移転を行い,多施設共同の治験によって有効性と安全性が確認され,2013年4月に自家培養軟骨ジャック® として保険収載されるに至った. -
スキャフォールドを用いた気管再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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近年,細胞培養技術やスキャフォールド(足場)としての生体吸収性材料の進歩のもとに,生体組織の再構築を目的とした組織工学(Tissue Engineering)は大きな注目を集めてきている.我々の教室は,組織工学分野のパイオニアであるチャールズ・バカンティ教授が1997 年にマウスの背中に人の耳を形どった軟骨細胞による再生を発表1)して以来,この分野を牽引してきた.また,2000年には組織工学的手法で,患者の失われた親指を再生した初めてのヒト臨床への応用も発表2)した.本稿では,組織工学を手法とした我々の教室の,これまでの研究をさらに発展させた気管の再生について述べる.気管がほかの組織と異なる最大の特徴は,常時外界と接していることである.それゆえ,生体適合性の高い代用気管を移植しても,移植直後から感染の危険に曝露される.自己細胞を用いることによって,生体本来の持つ再性能力を引き出せれば,自己組織が再構築され,感染防御機能を保持した生着可能なバイオ気管を作り出せる可能性が期待される.気管は主に気管軟骨,膜性壁,輪状靭帯,気管上皮から構成されるが,本稿では,管腔を維持するために最重要である,気管軟骨の組織工学の手法に基づいた再生について述べる. - 【次世代組織工学】
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細胞プリンティング
69巻7月増刊号(2014);View Description
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エポックメーキング技術と言えるiPS細胞の発明により,患者自身の望みの細胞が得られる時代の幕が開いた.この新時代では,移植臓器は“待つ”のではなく“作る”時代に進まねばならないが,細胞から移植用組織や臓器を作る組織工学技術にも革新的な進歩が必要である.細胞プリンティング(bioprinting)は,複雑な組織を工学的に作るために,必要な細胞や材料,因子を適材適所に立体配置する取り組みである.研究の背景,概念,動向を述べる. -
表面パターニング技術と細胞シート工学による組織再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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細胞と細胞外マトリックスのみで構成された“細胞シート”は,スキャホールドを必要としない組織工学技術として有用である.その特徴を活かしたヒト臨床研究に応用される一方,より複雑な構造を有する組織を対象とした組織再生への展開も期待されている.表面パターニング技術を利用した温度応答性基材の機能化は,生体組織を模倣したミクロ構造を再現する次世代型細胞シートの開発に有効な手段として期待されている. - 【セルシートエンジニアリング】
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角膜再生医療
69巻7月増刊号(2014);View Description
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角膜輪部の基底部には角膜上皮幹細胞が存在すると考えられており,これが消失する角膜上皮幹細胞疲弊症においては,角膜が混濁して視力低下を来す.本疾患は従来の角膜移植では極めて難治であったが,培養口腔粘膜上皮細胞シートを用いる眼表面再建術によって,治療成績が飛躍的に向上した.さらに,現在iPS 細胞を用いた角膜再生治療の開発について取り組んでいる. -
iPS 細胞を用いた網膜再生-ヒトiPS 細胞由来網膜色素上皮細胞の臨床応用-
69巻7月増刊号(2014);View Description
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iPS 細胞は多種類の細胞・組織に分化することが可能な細胞として注目され,基礎研究,また,ヒトへの臨床応用が取り組まれ始めている.我々はヒトiPS細胞由来の網膜色素上皮細胞(RPE)の分化誘導に成功し,加齢性黄斑変性患者への移植の計画がある.その臨床試験に向けた取り組みとして,iPS 細胞やRPE 細胞の製造方法の確立,品質規格試験,安全性試験,また,将来の標準治療に向けた他家移植の拒絶反応対策を現在行っている. -
心筋再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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温度感応性培養皿は,培養時(37 ℃)では細胞が接着可能な疎水表面を維持することができ,培養後に温度を室温程度(20 ~ 25 ℃)に下げることで細胞をシート状に回収することができる.細胞シート工学は,ES / iPS 細胞を含むすべての細胞ソースにて治療手段として応用が期待できる再生医療の基盤技術である.細胞シートは酵素処理を受けていないので細胞本来の機能も失われることなく保持しており,得られた細胞シートは生体組織へ速やかに生着する特徴を有しており,複数の細胞シートを積層させ,細胞シートどうしを接着させることができる.これらの成果をもとに,自己骨格筋芽細胞シート移植による心筋再生治療の臨床研究を開始し,筋芽細胞によるサイトカイン療法により,重症心不全患者に対する生命予後を改善した.今後,iPS 細胞を用いた心筋再生治療は,より重症末期心不全患者への心筋再生治療の可能性が期待されている. -
食道再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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細胞シート工学技術を応用した食道再生医療の臨床研究を推し進めてきた.温度応答性培養皿を用いて患者の口腔粘膜組織から口腔粘膜上皮細胞シートを作製し,早期食道がんの内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)後の人工潰瘍面へ経内視鏡的に移植することで,潰瘍の創傷治癒を促し食道狭窄を抑制させるという,再生医療的治療法である.現在,長崎大学,およびカロリンスカ研究所と共同研究を進めており,さらなる発展が期待されている. -
歯周組織再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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歯周病は多くの日本人が罹患している細菌感染による炎症性骨吸収であり,進行すると抜歯に至る.さまざまな再生療法が試されてきた本領域ではあるが,今世紀以降,大学を中心として細胞を用いた治療法が研究されてきた.筆者らは細胞シート工学を用いて効率良くかつ高い機能を保持した細胞移植法を開発し,自己歯根膜幹細胞を歯周病罹患部位へ移植する臨床研究を実施しており,次世代型の再生医療製品の開発を目指している. -
関節軟骨再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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軟骨細胞シートは,細胞成分が多くマトリックスは少なく,決して正常な軟骨組織に類似したものではないが,組織修復再生に優れた効果を発揮する.細胞シートは関節内にとどまり,損傷部からマトリックス流出を阻止し,関節液中のカタボリックファクターから損傷部を保護し,さらに液性因子を分泌供給し,修復に必要な細胞そのものも動員する.これら一連の組織の修復・再生に適した機能を,細胞シートは有している.現在は厚生労働省の承認のもと,自己細胞によるオーダーメイド的な治療開発のためのヒト幹細胞臨床研究を実施しているが,免疫抑制薬を必要としない同種移植が可能な軟骨では,同種軟骨細胞シートによる治療法を普及させたほうが,将来的には患者への侵襲の大きさや採算性からもメリットは大きいと考える. -
難治性中耳炎に対する中耳粘膜再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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中耳に発生する難治性の病気“中耳真珠腫”および“癒着性中耳炎”を対象とする,細胞シートの移植を検討した.比較的採取が容易な鼻粘膜から,粘膜上皮細胞シートを製作した.この再生シートが難治性中耳炎術後の中耳腔における粘膜再生において有効であり,正常な換気機能の保持,および病気の再発防止を目的とした新たな治療法として期待できる.間近に迫った臨床応用の展望について述べたい. -
気胸に対する細胞シートを用いた外科治療
69巻7月増刊号(2014);View Description
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自然気胸では,再発を繰り返す症例があり,続発性自然気胸の中には,病状が進行すると肺移植の適応となる症例がある.このような症例に対する外科治療は,再発を極力なくす対策が必要である.従来の方法とは異なる細胞シートによる肺気漏閉鎖では,シートが容易に胸膜面に接着し,貼付直後より呼吸に追従して伸縮し,術中の気漏閉鎖するのに加え,術後,シートは胸膜に生着し,胸膜を補強し,気胸再発を防止する可能性がある. -
膵島組織再生
69巻7月増刊号(2014);View Description
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1型糖尿病に対する外科的治療には,膵臓移植と膵島移植がある.いずれもドナー不足の問題を抱えており,その解決策として今後期待されている治療分野が再生医療である.膵b 細胞の分化再生に関しては,すでにいろいろな研究が行われているが,生体へのアプローチ方法については,まだ未解決の部分が多い.本稿では,膵島組織再生の臨床応用を目指し,細胞シート工学を利用した膵島細胞シートの作製と膵島組織再生について述べる. -
遺伝子改変自己細胞を用いた血友病治療
69巻7月増刊号(2014);View Description
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血友病は,血液凝固第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の欠損に起因する遺伝性出血性疾患である.凝固因子製剤による補充療法は一定の効果はあるが,製剤に依存しない根治治療の確立が望まれている.その1つとして,自己細胞の一部を採取し欠損因子遺伝子を体外で導入後に体内に戻すというex vivo 遺伝子細胞治療が検討されており,本稿では,移植細胞の長期生着が期待できる細胞シート工学を融合させた我々の研究を紹介する. - 【細胞治療普及に向けて】
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再生治療普及に向けた再生医療三法の成立
69巻7月増刊号(2014);View Description
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「再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関する法律」,「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」,「医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律」が2013 年に公布された.今後は政省令に対するパブリックコメントを受けつけた後に,政省令を公布し,2014 年11 月に法律が施行される.法の施行前においても,再生医療等委員会の認定や細胞培養加工施設の許可を受けられ,法施行後においても,経過措置として,現に再生医療等を提供している病院や診療所には,当該再生医療等の提供計画の提出についての規定は,施行日から1年間は適用されない.また,現に特定細胞加工物を製造している施設は,施行日から6ヵ月間は許可等を受けずに,特定細胞培養加工物を製造できる. -
再生医療普及の鍵となるインフラ整備
69巻7月増刊号(2014);View Description
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近年,幹細胞の目覚しい研究成果により,新たな再生医療の扉が開かれようとしている.そして,iPS 細胞の発見や臨床研究の承認などの報道で“再生医療”に対する関心が高まり,それに呼応するかたちで,再生医療推進に向けた法制度整備も着実に進んでいる.今回,細胞シート再生医療の実現と普及を目指した橋渡し研究として,主にインフラ整備への取り組みを紹介し,再生医療未来像の一考察としたい. -
組織工学製品の現状と展望
69巻7月増刊号(2014);View Description
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再生医療・細胞治療が普及するためには,医療に用いる細胞組み込み型の移植組織を誰がどこで作製するのかが課題となる.近年,これを事業モデルとして扱う企業が起っており,ヒト細胞を用いたこれら組織は組織工学製品として提供され始めた.組織工学製品は従来の医薬品・医療機器と同じように扱われてきたが,そうでない場面にも遭遇する.まさに,製品と医療技術の間に存在する特殊なものとしてとらえるべきであろう. - 【今号の略語】
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