最新医学
Volume 69, Issue 8, 2014
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特集【動脈硬化-病態・診断・治療のUpdate-】
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- 座談会
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- 病態解明のUpdate
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リポタンパク代謝と動脈硬化 ―動脈硬化惹起性リポタンパクの最新知見―
69巻8号(2014);View Description Hide Description疫学的研究により,動脈硬化性疾患の危険因子は数々明らかになっているが,とりわけ高LDL コレステロール(LDL–C)血症,高トリグリセリド(TG)血症,低HDL コレステロール(HDL–C)血症に代表される脂質異常症は,極めて重要な動脈硬化の危険因子である.脂質異常症に伴って動脈硬化性疾患の発症が増加し,脂質異常症の治療,特にスタチンを中心とした脂質異常症治療薬によるLDL–C 値の低下によって,虚血性心疾患の発症が有意に抑制されることがメタ解析で証明された.この場合の動脈硬化はプラーク形成を伴う粥状動脈硬化であり,剖検例の解析によりプラークの進展に伴う脂質蓄積の様子が病理学的に明らかにされてきた.Ross による傷害反応仮説が提唱され,その後の血管生物学や分子生物学の研究の進展によって,脂質異常症による粥状動脈硬化の進展の分子機構が解明されてきた.リポタンパク質代謝という側面から見れば,粥状動脈硬化の発症には動脈硬化惹起性リポタンパク質が関与する.これらの中には,酸化LDL・糖化LDL などの変性LDL,small denseLDL,レムナントリポタンパク質,Lp(a)などの動脈硬化惹起性リポタンパク質があるが,一方HDL を介した動脈硬化防御機構の異常(低HDL–C 血症,高HDL–C血症)によっても粥状動脈硬化が発症する.本稿では,動脈硬化惹起性リポタンパク質の最新知見を紹介する. -
AGE/RAGE と動脈硬化
69巻8号(2014);View Description Hide Description慢性的な高血糖状態では,還元糖によるタンパク質や脂質のアミノ基の非酵素的糖化反応が進み,循環血液中や組織で終末糖化産物(AGE)が促進的に形成・蓄積されてくる.AGE は,細胞表面受容体であるRAGE によって認識され,酸化ストレスや炎症反応を惹起させてさまざまなサイトカインや増殖因子の発現を誘導し,動脈硬化症を進展させる一方,骨髄からの内皮前駆細胞の動員を阻害することで血管修復系を破綻させる.AGE/RAGE 系を抑えることで,動脈硬化症進展のプロセスを制御できるかもしれない. -
血管石灰化のメカニズム
69巻8号(2014);View Description Hide Description血管石灰化は,心血管疾患の発症・進展にかかわる重要な病態であり,動脈硬化性石灰化とメンケベルグ型中膜石灰化に大別される.石灰化の発症機構には,基質小胞を介する経路と,血管平滑筋細胞が骨芽細胞様細胞に形質転換する経路が関与している.動脈硬化性石灰化の発症・進展には,炎症反応が重要な役割を果たしている.中膜石灰化には,弾性線維の主な構成成分であるエラスチンの断片化とその後の骨形成反応が寄与している. -
脂肪酸結合タンパクと動脈硬化
69巻8号(2014);View Description Hide DescriptionFABP4(A–FABP/aP2)は主に脂肪細胞とマクロファージに発現し,代謝・炎症反応を統合してメタボリックシンドロームの進展に重要な役割を果たすことから,糖尿病や動脈硬化に対する新規の薬物治療のターゲットとなる可能性が示唆されている.最近,FABP4 が脂肪細胞から分泌され,いわゆるアディポカインとして生理活性を有することが示された.血中FABP4 濃度は肥満,糖尿病,高血圧,動脈硬化などさまざまなメタボリックシンドロームの病態と関連し,さらには予後規定因子となる可能性が示されている. - 診断法のUpdate
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冠動脈CT の現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description冠動脈CT は,循環器病の日常診療に不可欠の診断法である.血管造影上の狭窄病変の検出については,特に高い陰性適中率を有している.さらに近年は,機能的評価法(FFR,心筋血流評価)を併用することにより,さらに診断能が高まることが期待されている.また,血管壁性状の観察から高リスクプラークの同定についても注目され,冠動脈CT を用いた臨床的なイベント発生予測の可能性についても期待が持たれている. -
血管内エコーの有用性と今後の展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description血管内エコー法(IVUS)の進歩により,冠動脈内腔の大きさのみならず血管壁の情報が得られ,それまで冠動脈造影によって映し出される血管内腔のシルエットだけで評価されていた虚血性心疾患の病態診断は,飛躍的に進歩を遂げることとなった.さらに,超音波信号を数学的手法で解析し冠動脈プラークの組織性状診断を可能とする新技術を用いれば,急性冠症候群を発症しやすいプラークの特徴を診断することが可能となった. -
血管内OCT の現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description光干渉断層法(OCT)は,近赤外線を用いた新しい血管内画像診断装置である.その優れた画像解像度(10~20 mm)により,急性冠症候群(ACS)の原因となる不安定プラークの微細構造を生体内で評価することが可能となった.現行のOCT は,血管内腔断面積の自動計測機能や三次元画像の構築機能,OCT による観察部位を冠動脈造影上で確認できる血管造影とのco–registration 機能,時相の異なる2つのプルバック画像を同期させ再生することにより,動脈硬化の経時的変化やステント留置後の血管反応を正確かつ簡便に評価することができるdual review mode 機能を有する.デバイスとしての実用性や利便性も向上し,研究用から臨床用ツールへと変貌を遂げつつある.本稿では,血管内OCT の現状と将来展望について述べる. -
血管内視鏡の現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description血管内視鏡はマクロ病理学の知見に基づいて生体内で診断可能な診断機器であり,急性冠症候群やステント留置後の血管反応などの病態生理を解明するのに有用なだけでなく,長期予後を予測するためのサロゲートエンドポイントとして有用な可能性がある.特に,薬剤溶出性ステント留置後の長期予後を,ステントを被覆する新生内膜や黄色プラーク,血栓の存在から予測できるかを,DESNOTE 試験によって検討しているところである. -
PWV/ABI の現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description我が国で,四肢にオシロメトリック血圧測定カフを装着するのみで,足関節上腕血圧比(ABI)および動脈スティフネス関連指標(脈波速度PWV)を測定する機器が臨床使用されている.ABI は末梢動脈疾患診断に有用であり,同時にABI 0.90 以下,1.40 以上は重症血管障害を示唆し,独立した予後予測指標となる.一方,PWV には上腕-足首間脈波速度と心臓足首血管指数を表示する機器がある.予後予測指標としての有用性の根拠は前者で多く報告されている. - 治療法のUpdate
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薬剤溶出性ステントの現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description第1世代の薬剤溶出性ステント(DES)の弱点を軽減したものが第2世代DES で,現在の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)の主流となっている.我が国で使用できるものにはXience,Promus,Nobori,Resolute があり,その特徴を概説する.また,次なる展開として生体吸収性スキャフォールドがある. -
LDL コレステロール低下療法の現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description動脈硬化性疾患の予防にスタチンは必須の薬剤であるが,家族性高コレステロール血症など難治性高コレステロール血症に対して併用療法が必要となる.しかしながら,現在使用可能な薬剤に十分なエビデンスはないのも現状で,幾つかの臨床試験が進行中である.また,MTP 阻害薬,CETP 阻害薬や抗体医薬や核酸医薬技術を応用したPCSK9 阻害薬,アポBアンチセンスなど,新しいLDL コレステロール低下薬が開発中である. -
抗血小板療法の現状と展望
69巻8号(2014);View Description Hide Description虚血性心疾患,末梢動脈疾患などの動脈硬化性疾患に対する抗血小板療法は,一次,二次予防を問わず,心血管イベント発症予防目的で頻用されている.抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)は,ステント血栓症などの血栓性イベント抑制のため一定期間必須とされている.抗血小板薬投与による出血・血栓塞栓症のリスクとベネフィットのバランスを考えることが,日常臨床では重要である. -
DPP―4 阻害薬の抗動脈硬化作用―現状と展望―
69巻8号(2014);View Description Hide DescriptionDPP–4 阻害薬は,糖代謝,脂質代謝,血圧や体重などの動脈硬化促進因子を改善させる作用と,血管構成細胞である血管内皮細胞,マクロファージや血管平滑筋細胞に基質分解の抑制を介して,あるいは直接作用することで抗動脈硬化的に働く可能性が報告されている.しかし,ヒトに対するDPP–4 阻害薬の心血管イベント抑制効果や抗動脈硬化作用は十分に解明されておらず,今後の検討課題と言える.
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【連 載】
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現代社会とうつ病(39) うつ病のBrain Stimulation 療法 ―経頭蓋磁気刺激(TMS)―
69巻8号(2014);View Description Hide Description経頭蓋磁気刺激(TMS)は,大脳皮質を刺激し皮質や皮質下の機能を変化させる方法である.TMS によるうつ病治療では,左前頭前野への高頻度刺激が標準的な刺激方法であり,通常の診療に近い非盲検下における寛解率は30~40% である.比較的頻度の高い副作用としては,刺激部位の疼痛,不快感,頭痛などがある.さらにTMS を応用した脳刺激療法も報告されている.今後,新規抗うつ療法として確立し普及することが期待される. -
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【トピックス】
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アディポネクチン受容体作動薬の開発
69巻8号(2014);View Description Hide Description肥満に伴ってアディポネクチンが低下することが,糖尿病,心血管疾患リスク増大の主因であることを見いだし,その受容体AdipoRを同定し,その活性化がAMPK やSIRT1,PPAR を活性化するなど,カロリー制限や運動と同様に,生活習慣病を改善するのみならず,寿命延長効果を発揮し,健康長寿に貢献できる可能性を見いだした.AdipoR 作動薬の開発を試み,AdipoRonを見いだした.AdipoRon は,肥満による糖尿病を改善させ,運動持久力を増加させ,肥満糖尿病マウスの短くなっている寿命を延伸させた. -
特発性肺線維症(IPF)におけるオートファジー,マイトファジーの役割
69巻8号(2014);View Description Hide Description特発性肺線維症(IPF)は,肺の線維化による広範な構造改変を特徴とする予後不良の呼吸器疾患である.病態解明のため精力的に研究がなされているが,その発症・進展の詳細なメカニズムはいまだ明らかになっていない.細胞内タンパク質/小器官の分解機構であるオートファジーは,重要な恒常性維持機構であり,その機能的な異常は全身さまざまな疾患の病態と関連する.IPF の病態にもオートファジーは関与しており,その役割は徐々に明らかになりつつある.本稿では,IPF の病理学的に特徴的な変化である化生上皮細胞と筋線維芽細胞の増生におけるオートファジー,マイトファジー(ミトコンドリア特異的オートファジー)の果たす役割について解説する.
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【今月の略語】
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