最新医学

Volume 72, Issue 5, 2017
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特集【エピジェネティクスと環境科学】
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- 座談会
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環境要因によるエピゲノム制御変化と発がん修飾作用
72巻5号(2017);View Description
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感染,炎症,食事,老化などによる細胞環境の変化は,エピゲノム制御状態に変化を及ぼす.一方で,DNA メチル化異常に代表されるエピゲノムの制御異常が発がんに深く関与することが示されている.環境要因によるエピゲノム変化が与える発がんへの影響の理解は,新たな発がん機構の解明,予防法や治療法の確立に寄与することが期待されている. -
エネルギー代謝のエピジェネティクス
72巻5号(2017);View Description
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エネルギー代謝は,細胞の個性と環境因子によって形作られる.このような細胞可塑性は,DNA メチル化やヒストン修飾等によるクロマチン構造変換を介したエピジェネティックな遺伝子発現制御に支えられている.本稿では,ヒストン修飾にかかわるタンパク質の機能に焦点を当て,環境に応じたエピジェネティックなエネルギー代謝調節のメカニズムと,その代謝恒常性やがんにおける役割を紹介する. -
代謝メモリーとDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)学説
72巻5号(2017);View Description
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胎児期や新生児期の栄養環境によって,代謝関連遺伝子のエピゲノム制御を介して代謝機能に個体差が生じ,その差が代謝メモリーとして長期に維持されることで,成人期の肥満症や2型糖尿病などの生活習慣病の発症に影響を与えるというDevelopmental Origins of Health and Disease(DOHaD)学説が提唱されている.代謝メモリーを調節し,将来の疾病罹患を防ぐ「先制医療」が模索されている. -
エピジェネティック代謝物の地産地消
72巻5号(2017);View Description
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ヒストンメチル化のメチル基供与体であるS ‒アデノシルメチオニン,アセチル化のアセチル基供与体であるアセチルCoA を合成する酵素が核内にも分布し,転写因子などと複合体を形成することで標的遺伝子の発現調節にかかわることが明らかになりつつある.これら代謝物が核内で合成され利用される地産地消機構により,エネルギー的に効率の良いエピジェネティック制御が可能になっていると考えられる.がん化では地産地消機構が変動することで,がん細胞の代謝系への依存性が変化する可能性がある. -
tRNA 修飾と環境応答
72巻5号(2017);View Description
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転移RNA(tRNA)は,タンパク質翻訳を担う小分子RNA である.tRNA を構成する塩基は多彩な化学修飾を受けており,近年これら修飾異常が疾患の発症につながることが示されている.例えば,細胞質tRNA およびミトコンドリアtRNA の37位のアデノシンに存在するチオメチル化修飾異常は,それぞれ2型糖尿病およびミトコンドリア病発症に関与する.また最近では,生体を取り巻く環境がtRNA 修飾に影響を及ぼすことを示唆することが報告され,外的環境に対するtRNA 修飾応答が注目されている. -
環境応答の転写制御シグナル―KEAP1‒NRF2 制御系―
72巻5号(2017);View Description
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KEAP 1 ‒NRF 2 制御系は,酸化ストレスに対する生体防御機構で中心的な役割を果たしている.NRF 2 の活性化は抗酸化酵素や解毒代謝酵素などの遺伝子発現を誘導し,発がん抑制や炎症抑制作用を発揮するが,その一方でがん細胞においては薬剤耐性や放射線治療への耐性獲得,増殖促進などの悪性化に寄与している.近年,さまざまな疾患においてこの制御機構を標的とした治療薬の開発が進められており,その臨床応用が期待されている. -
環境応答と生物学的メチル化
72巻5号(2017);View Description
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動物は移動機能を持ち,自らが好む場所に移動可能であるが,植物は種が着地した地域が生きる場所となる.自ら選んだ環境に,あるいは運命づけられた環境に適応しながら,生物は遺伝情報を活用して子孫を残していく.環境適応にはゲノムとエピゲノムの遺伝情報を利用し,さらには物質の合成と分解を繰り返す代謝情報が,細胞や個体機能に大きな影響を及ぼしていく.本稿では「生物学的メチル化」に焦点を当て,環境応答の仕組みの一部を概説したい. -
環境親電子物質による心血管リスク制御
72巻5号(2017);View Description
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胎児期以降の生涯にわたる環境との相互作用がヒトの健康に影響することが広く認識され,さまざまな環境要因への生涯にわたる曝露(エクスポゾーム)を定量評価する方法論やモデルの構築が求められている.環境中に含まれる親電子性の高い化学物質(親電子物質)や,温度・運動・感染・社会的ストレスなどにより生体内で生成される内因性の親電子物質は,タンパク質と化学的に反応し,その機能に修飾を与える.こうした親電子物質によるタンパク質の(不可逆的な)翻訳後修飾が「環境メモリー」としてコードされ,二次的な物理化学的ストレスに対する抵抗力や適応力を減弱させる(すなわち疾患発症リスクを高める)可能性が示されつつある.本稿では,親電子物質によるタンパク質の修飾の分子機構とその心血管病リスク制御について,我々の成果を含めて最近の知見を紹介する. -
環境中親電子物質に対する生体応答と捕獲・不活性化因子
72巻5号(2017);View Description
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環境中には多種多様な化学物質が存在する.環境中親電子物質は,タンパク質の求核置換基と共有結合することから,発がんや組織傷害を生じる「悪玉」としての認識であった.ところが最近の研究から,当該物質の低濃度曝露は細胞内レドックスシグナル伝達系を活性化させ,高濃度ではそれらを破綻させることが分かってきた.さらには,環境中親電子物質を捕獲・不活性化する活性イオウ分子の存在も明らかにされてきている. -
親電子性環境因子による小胞体機能への影響
72巻5号(2017);View Description
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私たちは日常,外来環境あるいは食餌などからメチル水銀やナフトキノン類を摂取している.これらは親電子性を有し,タンパク質システインチオール基に共有結合する.これまでに,メチル水銀や一酸化窒素の曝露は神経細胞において小胞体タンパク質成熟機構を破綻させることを見いだした.この結果,変性タンパク質の蓄積を介して小胞体ストレス応答が活性化され,細胞死が惹起されることが分かった.本稿では,その分子作用機構について紹介する. -
精神ストレスとエピゲノム応答
72巻5号(2017);View Description
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エピジェネティクスの分子基盤の1 つであるDNA メチル化は,精神疾患における遺伝環境相互作用のメカニズムを説明しうるとして注目されている.セロトニントランスポーターをコードするSLC6A4 遺伝子では,精神疾患で共通して高メチル化が報告されている.また,プロモーター領域において特定の多型を持つ場合,小児期のストレスによって成人期において高メチル化が認められ,SLC6A4 遺伝子発現量が低下することが報告されており,精神疾患における遺伝環境相互作用のメカニズムに関与している可能性が示唆される. -
エクスポゾーム(生涯曝露)―胎児期・幼少期の環境が生涯の健康に影響する―
72巻5号(2017);View Description
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胎児期や幼少期の環境はその後の健康に影響する.その環境は,単一の物質や現象ではなく,それらの複雑な組み合わせであり,かつ時間的に変化する.人が生涯に曝される環境要因の総体をエクスポゾームと呼ぶ.本稿では,病気の原因を理解する研究として,疫学研究でも応用され始めているエクスポゾームの概念について解説するとともに,胎児期の環境曝露とその健康影響について研究する出生コホートについて紹介する.
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【連 載】
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痛みのClinical Neuroscience(23) 遷延性術後痛
72巻5号(2017);View Description
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遷延性術後痛は,術後痛が3 ヵ月以上遷延し慢性化した痛みである.2 ~10 % の術後患者が中等度以上の遷延性術後痛に悩まされている.術式・手術部位により,遷延性術後痛の発症頻度やメカニズムは異なる.急性期術後痛から遷延性術後痛に移行するメカニズムは,他の慢性痛と同様に単一ではなく複合的と考えられている.遷延性術後痛を予防するためには,術後急性期から亜急性期にかけて切れ目のない鎮痛治療が必要である. -
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【トピックス】
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感染症の迅速診断の最新知見
72巻5号(2017);View Description
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技術の発展とともに感染症の検査も進化を続け,次の世代へと移り変わりつつある.全自動核酸増幅検査により簡便かつ正確に病原微生物や薬剤耐性遺伝子を検出することができ,質量分析機器は従来法に取って代わる細菌同定法となってきている.新たな検査法/機器の測定対象と特徴,限界を把握し,診療のみならず研究,感染制御に役立てることが期待される. -
腎臓を中心とした小胞体ストレスと臓器間ネットワーク
72巻5号(2017);View Description
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近年,慢性腎臓病(CKD)など多様な疾患で小胞体機能低下(小胞体ストレス)の病態生理学的意義が報告されている.さらに,腎臓は老廃物排泄機能を担い,全身の臓器の恒常性維持に重要な臓器で,新たな病因論として腎臓を中心とした臓器間ネットワークが注目されている.CKD,ひいては腎老化における小胞体ストレスと腎臓の臓器間ネットワークとの因果関係を解明することは,新たな視点からCKD を理解するために重要である.
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【今月の略語】
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