最新医学

Volume 73, Issue 3, 2018
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特集【NGS 時代における遺伝性腫瘍の診断とマネージメント】
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- 座談会
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- 総論
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遺伝性腫瘍におけるデータベースの活用と問題点
73巻3号(2018);View Description
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NGSの出現により,短時間で安価に網羅的ゲノム解析を行うことが可能となった.こうした技術革新により,現在でも遺伝性腫瘍を含む遺伝性疾患の原因遺伝子とそのバリアント情報が収集されている.その情報量は膨大となり,臨床応用するには,使いやすく信頼のおけるデータベースの構築がますます重要になってきた.本稿では遺伝性腫瘍の診断のために,現在利用できる代表的なデータベースの概要と活用法,現在の課題・問題点について紹介する. -
NGS 時代の遺伝性腫瘍診療における現状と課題 1.研究者・教育者の立場から
73巻3号(2018);View Description
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NGSで網羅的解析が行われる時代に突入し,遺伝性腫瘍領域の診療形態は「ピンポイント」に単一遺伝子疾患の診断を目標とした診療から,臨床診断は類縁疾患を含め「グループ」としてとらえ,確定診断はマルチ遺伝子パネル検査にゆだねる方向に変わることが予測される.本格稼働に至るまで,検査,検査後のバイオインフォマティクス解析,臨床サイドの向上,遺伝カウンセリング体制の整備,偶発的/二次的所見への対応,専門的人材の確保など,多くの課題解決を必要とする.これらの点をもとに,NGS 時代の遺伝性腫瘍診療を考える. -
NGS 時代の遺伝性腫瘍診療における現状と課題 2.医師の立場から ― 二次的所見を中心に―
73巻3号(2018);View Description
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NGS時代の遺伝性腫瘍診療が,それ以前のサンガーシークエンス時代と比べて大きく異なるのは,二次的・偶発的所見の圧倒的な増加である.そのため臨床現場では,① 一次的所見と二次的・偶発的所見の判別と,② 二次的所見等を患者・家族に報告するかどうかの判断についてのポリシーと標準的な作業手順の確定が必要となる.その一案を示した.NGS 時代には多くの夢と期待が集まるが,診断後の,家系のリスクに応じて個別化された生涯対応型のサーベイランスや,予防・先制医療などについての本邦のエビデンス不足や,保険診療導入が進んでいない等の重要課題が残されていることは銘記すべきである. -
NGS 時代の遺伝性腫瘍診療における現状と課題 3.遺伝カウンセラーの立場から
73巻3号(2018);View Description
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マルチ遺伝子検査やLynch 症候群のユニバーサル・スクリーニング,遺伝性腫瘍に特化した薬などが出てきて,従来型の遺伝性腫瘍診療の流れが大きく変わりつつある.がん診療においては,生殖細胞系列の遺伝子解析と体細胞レベルの解析,両者を併せて患者や血縁者の予防や治療を総合的に検討するようになってきた.従来型の遺伝性腫瘍診療も欧米に比して未整備である日本において,長期的視野に立った新たな体制構築が望まれる. - 各論
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家族性大腸腺腫症(FAP)
73巻3号(2018);View Description
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家族性大腸腺腫症(FAP)は,APC 遺伝子の生殖細胞系列変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患である.しかし,臨床的にFAP と診断されてもAPC 遺伝子に変異を認めないことがある.近年,多発大腸腺腫を認める疾患として,常染色体劣性遺伝性疾患のMUTYH 関連ポリポーシスと常染色体優性遺伝性疾患のポリメラーゼ校正関連ポリポーシスが同定された.今後のNGS 時代では,それぞれの疾患の診断とマネージメントについて理解しておく必要がある. -
Lynch 症候群
73巻3号(2018);View Description
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Lynch 症候群は,さまざまな関連腫瘍を発生する高頻度の遺伝性疾患である.全大腸がんを対象に腫瘍組織を検査するユニバーサル・スクリーニングは,本症候群のリスク評価のみならず,治療薬の効果予測の観点からも推奨されており,マルチ遺伝子パネル検査は迅速,安価,かつ総合的な診断を可能とした.免疫チェックポイント阻害薬は,本症候群の多くの関連腫瘍に効果が期待されている.Lynch 症候群に対する新しい診断や治療について概説する. -
遺伝性乳がん
73巻3号(2018);View Description
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遺伝性乳がんは,遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)として包括され,主にBRCA1/2 が原因遺伝子であるが,近年,マルチ遺伝子パネルにより多くの関連遺伝子が詳細に分かってきた.BRCA1/2 変異では高悪性度の乳がん,卵巣・卵管がんを高頻度で発症するため,サーベイランス,リスク低減手術など特別な対策を立てる必要がある.また,ポリ(ADP‒リボース)ポリメラーゼ(PARP)阻害薬がHBOC 関連がんの治療に有効であることが示されている. -
遺伝性婦人科腫瘍
73巻3号(2018);View Description
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遺伝性腫瘍は多岐にわたり,さらにその関連腫瘍は多臓器に起こりうる.婦人科関連の遺伝性腫瘍は,主に遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC),Lynch 症候群,Peutz‒Jeghers 症候群等が代表的である.婦人科関連腫瘍である卵巣がん・子宮体がんはそれぞれの疾患群と重複する腫瘍であり,遺伝性腫瘍診療において産婦人科が担う役割は大きい.そして産婦人科においては診断だけでなく,その後の治療戦略を提示・サーベイランスフォローする立場としても非常に重要であり,産婦人科医が今後の遺伝性腫瘍診療を担っていくニーズは高まっている.本稿では遺伝性腫瘍の詳細は他稿に譲り,遺伝性婦人科腫瘍としての卵巣がんおよび子宮体がんの概要を俯瞰したい. -
家族性副甲状腺機能亢進症
73巻3号(2018);View Description
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家族性副甲状腺機能亢進症は,原発性副甲状腺機能亢進症の約5 % を占めており,多発性内分泌腫瘍症1 型(MEN1),MEN2A,MEN4,副甲状腺機能亢進症顎腫瘍症候群,家族性孤発性副甲状腺機能亢進症などがある.遺伝学的検査としてはそれぞれMEN1 ,RET ,CDKN1B ,CDC73 ,GCM2 遺伝子などが対象となる.家族歴や臨床徴候などの情報をもとに,どの遺伝子をどのような順番で検索していくかを考慮し,基本的にサンガーシークエンスで解析している.しかし上記を臨床的に鑑別することが困難な場合は,これら副甲状腺関連の遺伝学的検査を一度に行って診断するNGSが強力な診断ツールになり得る. -
多発性内分泌腫瘍症2 型
73巻3号(2018);View Description
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多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)は甲状腺髄様がんと褐色細胞腫を主徴とする常染色体遺伝性疾患であり,遺伝性腫瘍の中では例外的にがん遺伝子が原因となっている.がん抑制遺伝子が機能喪失型変異によって発がんの原因になるのに対し,がん遺伝子は機能獲得型変異がその原因となるため,変異部位はある程度規定されており,かつ遺伝型と表現型の相関も明瞭である.したがって,NGS による網羅的な遺伝子解析によって二次的にRET 遺伝子にバリアントが同定された場合も,がん遺伝子に比較してその病的意義の判断は比較的容易と考えられる. -
網膜芽細胞腫
73巻3号(2018);View Description
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網膜芽細胞腫は小児の眼球内に生じる悪性腫瘍であり,RB1 遺伝子の単一遺伝子疾患である.生命予後は95%,約半数の眼球温存が可能であり,その約半数で有効な視機能を温存できる.遺伝子変異は腫瘍の診断には必須ではなく,遺伝性を同定するために検査される.欧米では遺伝学的診断に基づき眼科的検査や二次がんのサーベイランスを行うことが推奨されているが,我が国では保険制度を考慮した対応が必要である. -
遺伝性腎がん
73巻3号(2018);View Description
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遺伝性腎がんは腎がん全体の5 % 程度を占めるが,10種類以上が現在同定されている.いずれも特徴的な病理組織型と病態を示す腎がんを発症し,全身性の合併症を伴うことが多い.希少疾患であるため,オールジャパン体制で症例を集積し,遺伝子診断も含めた病態解明,欧米例との差異を明らかにし,それに基づいた生涯にわたる診療体制の構築が望まれる.さらに,これらを通して腎がんの発症機構の解明と新たな治療法の開発が期待される. -
Li‒Fraumeni 症候群
73巻3号(2018);View Description
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Li‒Fraumeni 症候群は遺伝性腫瘍症候群の1つで,原因遺伝子は生殖細胞系列のTP53 である.特徴は高い発がんリスクと早期発がんリスクで,高頻度に発症するコア腫瘍には軟部肉腫や骨肉腫,閉経前乳がん,脳腫瘍,副腎皮質がんが含まれる.現在までのところ確立した治療戦略はなく,二次がんの発症リスクを抑えるための検討が必要とされる.最近,カナダや米国からがんの早期発見を目指したサーベイランスプロトコルの有効性が報告され,注目されつつある. -
比較的まれな遺伝性消化器腫瘍
73巻3号(2018);View Description
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『遺伝性大腸癌診療ガイドライン』では,家族性大腸腺腫症およびLynch 症候群が取り上げられ,臨床医の診療向上に貢献した.それ以外にも,遺伝性の消化器腫瘍性疾患は存在する.特に,比較的診断が容易なポリポーシス以外の,Li‒Fraumeni 症候群やCowden 病は,その表現型が散発性がんと類似し診断が難しい.遺伝性腫瘍の特徴である「多発性」,「家族歴」,「若年性」に常に留意し,遺伝カウンセリングと連携しての診療が必要である.
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【連 載】
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痛みのClinical Neuroscience(33) 運動器の痛み 5.肩関節の痛みの病態メカニズムと対応
73巻3号(2018);View Description
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肩関節の疼痛は,要因別に侵害受容性,神経障害性,心因性に分類される.そこに脊髄反射による筋肉痛や関連痛による修飾が加わる.侵害受容性疼痛の原因には,物理的刺激と生化学的反応がある.さらに急性痛と慢性痛の鑑別も重要である.そうした肩関節の疼痛に対する治療的アプローチは,薬物療法,注射療法,物理療法,運動療法,manipulation,手術療法など多岐にわたる.個々の患者において,疼痛の原因を的確に診断し,その原因に見合った治療手段を選択することが肝要である.
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【トピックス】
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慢性血栓塞栓性肺高血圧症に対するカテーテル治療法
73巻3号(2018);View Description
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慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)は器質化血栓が肺動脈の広範囲を狭窄または閉塞させ,肺高血圧症を起こす難治性疾患である.治療法には,外科的肺動脈内膜摘除術(PEA),肺血管拡張薬,バルーン肺動脈形成術(BPA)がある.特にCTEPH に対するBPA は,世界から注目されている分野である.以下に,BPA のこれまでのエビデンスと実際の手技,本邦での治療成績を中心に,CTEPH の治療について概説する. -
プロリン水酸化酵素(PHD)阻害薬による新しい貧血治療
73巻3号(2018);View Description
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腎性貧血は,慢性腎臓病の主要な合併症である.エリスロポエチン(EPO)産生低下を主因とする本病態は腎症や心・血管合併症の進展増悪因子であり,組み換えヒトEPO 製剤による治療が行われてきた.一方で近年,EPO 転写を促進する低酸素誘導因子(HIF)が同定され,その調節機構が解明されたことから,HIF 活性化薬としてプロリン水酸化酵素(PHD)阻害薬が開発された.同薬剤は体内でのEPO 産生を高め,鉄利用効率を最適化して腎性貧血の改善をもたらす.
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【今月の略語】
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