最新医学

Volume 73, Issue 4, 2018
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特集【マイクロバイオームと感染症研究の進歩】
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- 鼎談
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- 基礎
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メタゲノム解析によるヒト腸内マイクロバイオームの国レベル多様性
73巻4号(2018);View Description
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ヒト腸内細菌叢と疾患の密接な関係が近年明らかとなり,多くのメタゲノムデータが世界的に蓄積されている.筆者らは日本を含む12ヵ国のヒト腸内細菌叢の細菌と遺伝子組成を比較した.その結果,① ヒト腸内細菌叢には国・集団レベルの多様性が存在する,② 異国間多様性は同一国における健常-疾患細菌叢間多様性よりも大きい,③ 異国間多様性は食事多様性と強い相関がない,④ 日本人に特徴的な機能が存在する,などが示唆された. -
メタゲノム解析による病原体検出
73巻4号(2018);View Description
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次世代シークエンシング/シークエンサー(NGS)を最大限に活用したメタゲノム解析法(メタゲノミクス metagenomics)により,臨床検体から病原体を包括的に検出する検査法が開発されている.NGS 検査法は「制限のないマルチプレックス定量PCR 検査」と同等の偏見のない網羅的病原体核酸検査法であることから,原因不明の重症例には際立って効果的な検査法であり,臨床現場への総合的な情報還元へ期待が集まっている. -
腸内細菌叢が代謝・免疫に与える基本的理解
73巻4号(2018);View Description
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腸管内に共生している細菌は,宿主の免疫システムの構築に寄与している.特に,CD4 陽性T 細胞やIgA 陽性B 細胞の分化誘導,ならびに3 型自然リンパ球の機能制御を通して腸管の恒常性維持に重要な役割を担っている.また,腸内細菌は肥満や糖尿病といった宿主の代謝疾患にも深く関係しており,これら免疫,代謝疾患に対して腸内細菌をターゲットとした治療法の開発が進められている. - 歯科領域
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口腔内における複合微生物感染症のホロゲノム動態を時空間的に理解する
73巻4号(2018);View Description
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口腔では,多種多様な微生物が相互作用しながら,安定状態を維持している.これがときに破綻し,ヒトに疾患を引き起こし,口腔だけでなく,全身の健康状態に影響を与える.微生物によって引き起こされる口腔疾患には,難治性の複合感染症が挙げられる.本稿では,このような複合感染症への取り組みの現状と,どのような研究が治療に向けて重要となるのかを解説する. -
口腔微生物叢と感染症リスク
73巻4号(2018);View Description
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近年,マイクロバイオーム全体のバランスの乱れ(dysbiosis)を病因とするマイクロバイオーム疾患の概念が提唱されており,口腔疾患も特定の病原細菌の増減によるリスクというより,むしろマイクロバイオーム疾患としてとらえられている.この考え方は,口腔疾患だけでなく高齢者の誤嚥性肺炎にも該当することが,最近の我々の研究から明らかになってきた.本稿では,その研究結果の紹介に加えて,高齢者の肺炎予防に対する口腔マイクロバイオームの制御の可能性について述べる. - 呼吸器領域
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呼吸器領域感染症を取り巻くマイクロバイオータの役割
73巻4号(2018);View Description
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無菌的とされてきた我々の下気道にも,多様な細菌叢が形成されていることが明らかになっている.常に微生物の曝露を受けながら恒常性を保つ下気道細菌叢は,上気道からの影響も受けつつ我々の呼吸器官の健康維持に貢献している.そこには微生物間の協力・競争関係,宿主との共存・排除関係などが複雑に絡み合い,呼吸器感染症の病態形成にも影響を及ぼすマイクロバイオータとしての機能が存在している. - 消化器領域
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腸内細菌による病原微生物に対する感染抵抗性
73巻4号(2018);View Description
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腸内細菌叢は宿主の代謝機能や免疫系の発達・維持に重要な役割を果たしているが,病原微生物の定着・侵入を阻止する作用(colonization resistance:CR)も有している.実際に,腸内細菌叢のバランスが崩れると腸管感染に対する感受性が高くなることが知られている.近年,腸内細菌によるCR のメカニズムが菌群・分子レベルで明らかになりつつある.そこで,本稿ではCR の最近の知見について紹介したい. -
感染症治療としての糞便微生物移植
73巻4号(2018);View Description
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強毒変異株の出現により,難治性の再発性Clostridium difficile 感染症(CDI)が欧米で猛威を振るっている.2013 年に再発性CDI を対象とした糞便微生物移植(FMT)の臨床試験で有効性が証明され,FMT は急速に注目を集めることとなった.再発性CDI 以外に,さまざまな消化管疾患だけでなく,敗血症を含む消化管外疾患においてもFMT が試みられている.本稿では,再発性CDI における成功を契機に拡大したFMT の可能性について,感染症治療を中心に概説する. - 皮膚領域
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アトピー性皮膚炎における皮膚細菌叢と黄色ブドウ球菌感染
73巻4号(2018);View Description
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正常細菌叢の獲得は,宿主の免疫構築に重要である.一方,アトピー性皮膚炎では正常細菌叢に見られない黄色ブドウ球菌の患部への定着が見られる.この正常細菌叢の変容をdysbiosis と呼び,近年,疾患との関係が盛んに研究されている.本稿では,皮膚における正常細菌叢と免疫について概説し,我々が取り組んできた黄色ブドウ球菌の病原因子解析の概要と,dysbiosis と皮膚炎発症のメカニズムについて解説する. - 婦人科領域
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マイクロバイオームと産婦人科領域感染症
73巻4号(2018);View Description
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正常女性の腟内ではLactobacillus が優位であるが,細菌性腟症ではGardnerella vaginalis を中心としたバイオフィルムが形成され,そこに多種類の菌が接着してきて1つのコミュニティを形成している.正常分娩した女性に比べ,早産した女性では腟内ではなく腸内のマイクロバイオームに変化が見られた.Dysbiosis からsymbiosis の状態へと変化させることができれば,これらの疾患が減っていく可能性がある. - 予防的見地
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マイクロバイオーム・感染症研究からのワクチン開発への展望
73巻4号(2018);View Description
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近年,腸内細菌が種々の免疫応答の制御にかかわっていることが明らかになってきた.ワクチン開発の観点からも,自然免疫受容体であるToll 様受容体(TLR)を介した腸内細菌からの刺激が「天然アジュバント」として働くことが報告され,ワクチンの効果も腸内細菌によって制御される可能性が示唆されている.また,病原細菌や共生細菌が有する組織標的指向性を利用したワクチンデリバリーについても研究が進められている.本稿では,感染防御を指向した腸内細菌とワクチンとの関係について,最近の知見も含めて詳述したい. -
プロバイオティクス・プレバイオティクスと感染症・全身性炎症反応の制御
73巻4号(2018);View Description
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敗血症や重症外傷などの侵襲により,全身性炎症反応が惹起され,しばしば多臓器不全に至る.腸管は侵襲時の重要な標的臓器の1 つであり,感染症合併の進展に重要な役割を果たす.プロバイオティクス・プレバイオティクス療法は,腸管内の腸内細菌叢,短鎖脂肪酸,pH を維持し,生体の免疫応答を制御することにより,重症患者の感染合併症を減少させる可能性があり注目されている.侵襲に伴う腸内細菌叢崩壊の予防や再構築,菌種によるプロバイオティクスの効果の違いなどは,今後の検討課題である.
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【連 載】
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痛みのClinical Neuroscience(34) 運動器の痛み 6.断端神経腫や絞扼性神経障害のメカニズムと治療
73巻4号(2018);View Description
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断端神経腫は,末梢神経の断裂に伴って生じる有痛性の偽神経腫であり,標準的な治療法がなく,治療に苦慮することもある.神経断端を適切に処理し,発生予防に努めることが重要である.絞扼性神経障害は体幹から四肢のさまざまな部位で生じ,絞扼神経によって知覚障害や運動障害を引き起こす.手根管症候群などは発生頻度も高く,絞扼部位の解剖学的構造や診断,治療法について理解しておくことが重要である.
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【トピックス】
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概日リズムと免疫応答
73巻4号(2018);View Description
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さまざまな生命現象に概日リズムが存在する.免疫もまた例外ではなく,免疫細胞に内在する時計遺伝子によって形成される免疫細胞機能の概日リズム,および免疫系の外部からの入力の概日リズムによって,免疫応答に日内変動が生まれることが最近明らかになった1~3).本稿では,交感神経活動の概日リズムによってもたらされる免疫細胞動態の日内変動を中心として,免疫応答に日内変動が生じるメカニズムとその意義について解説する. -
パーキンソン病リスク遺伝子としてのGBA
73巻4号(2018);View Description
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パーキンソン病(PD)は,運動障害を呈する神経変性疾患で最も頻度の高い疾患である.病態機序には不明な点が多く,病態の進行を抑制する治療法は存在しない.最近,ゴーシェ病の原因遺伝子であるGBAの変異が,PD 発症の最も強いリスクであることが報告された.GBA はPD の病態機序の解明と治療法開発に極めて重要な因子と考えられる.本稿では関連する最新の知見を概説し,我々が見いだした知見も併せて紹介する.
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【今月の略語】
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