最新医学

Volume 73, Issue 8, 2018
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特集【心不全の病態と治療 Update】
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- 鼎談
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レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の新展開
73巻8号(2018);View Description
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重症心血管疾患において賦活化されるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系は,末梢血管抵抗の上昇や体液中のナトリウム貯蓄を介し,循環動態維持に働く,いわば生体の代償機転と考えられる.しかし,その持続過剰活性は心臓や腎臓,血管において肥大や線維化を引き起こし,逆に病態を悪化させる.このように,元来,生命の維持に不可欠であるはずのRAA 系は,その生理学的意義に反し,心血管疾患の病態形成に寄与している. -
NO–cGMP 系心不全治療薬
73巻8号(2018);View Description
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左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)を呈する患者数が増加の一途をたどる一方で,HFpEF に対する従来の抗心不全療法の効果を検証した大規模臨床試験では,明らかな有効性を示すデータは得られていない.このような中,NO‒sGC‒cGMP 系を標的とした心不全治療が注目されている.sGC を活性化させるsGC 刺激薬は,左室収縮不全(HFrEF)患者やHFpEF 患者への投与で血行動態や症状改善を示すデータが得られており,今後の大規模臨床試験の結果に期待されている治療薬である.本稿では,生体内におけるNO‒sGC‒cGMP 系の役割と心不全症例における病態意義,治療効果を検証した最新のデータを踏まえて今後の展望を論じてみたい. -
酸化ストレスと心筋リモデリング
73巻8号(2018);View Description
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あらゆる心疾患の終末像である心不全の病態基盤は,心筋細胞肥大・細胞死,間質線維化からなる心筋リモデリングである.心筋リモデリングの発症・進展には交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系,慢性炎症に加え,心筋における酸化ストレスが深く関与している.近年,NADPH オキシダーゼ(Nox)と心筋リモデリングに関する新たな知見が明らかになってきた.本稿では,心筋リモデリングにおける酸化ストレスの役割について,Nox を中心に概説する. -
交感神経と心不全
73巻8号(2018);View Description
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交感神経活性亢進を抑制するβ遮断薬は,慢性心不全治療の第1選択薬である.最新版心不全ガイドラインでは,頻脈合併急性心不全における心房細動の心拍数コントロール目的での超短期型静注用β1遮断薬ランジオロールの投与はClassⅠとなった.少ない心抑制と優れた徐拍効果のある低用量ランジオロールは,不完全弛緩を改善し,筋小胞体からのCa 漏出を抑制するため,頻脈合併急性心不全や心室頻拍の治療に有用である. -
心不全における慢性炎症
73巻8号(2018);View Description
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心不全の病態基盤において,慢性炎症があることが知られている.心不全の患者およびモデル動物において,免疫異常が存在し,自己心筋抗体の産生や,炎症性サイトカインやケモカインのバランス異常により,さらなる心機能の悪化が生じると考えられる.これらの心不全の慢性炎症の発生機序はいまだ不明な点が多いが,NKT 細胞の活性化を代表とする慢性炎症の制御を見据えた新たな治療戦略の構築が期待される. -
臓器連関によって生じる心肥大の機序と心不全の発症への関与
73巻8号(2018);View Description
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心肥大は適応現象でもあり,心不全のリスク因子でもある.未解決の問題である心不全の原因解明のため,心肥大はその研究対象とされ,約40年にわたり分子生物学的アプローチがなされ,これまでレニン・アンジオテンシン系やカテコラミン系が多臓器の関与する左室肥大の原因とされ,その阻害薬は心不全の予後を段階的に改善してきた.今回新しい臓器間連携による左室肥大機序を明らかにしたため,このシステムに焦点を絞って解説する. -
細胞死と心筋リモデリング
73巻8号(2018);View Description
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種々の心疾患に伴う心臓リモデリングにかかわる現象に,心筋細胞死が挙げられる.細胞死は大きくregulated cell death(RCD)とaccidental cell death(ACD)に分類される.RCD としては,アポトーシスやオートファジーなどさまざまな細胞死にかかわる分子機構が明らかにされてきた.また,従来はACD と考えられてきたネクローシスにも制御機構の存在が解明されてきた. -
iPS 細胞を用いた心不全の疾患解析
73巻8号(2018);View Description
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人工多能性幹細胞(iPS 細胞)は,患者から簡単に樹立可能な幹細胞であり,さまざまな用途が期待されている.患者体細胞から樹立されたiPS 細胞は,患者のすべての遺伝情報を有している.すなわち自己の多能性幹細胞であり,患者iPS 細胞由来の分化細胞を移植した際に免疫拒絶されることはなく,再生医療に多くの期待が集められている.一方で,iPS 細胞が患者の遺伝情報を受け継いでいることより,遺伝性疾患の病態解明や創薬に向けた研究も活発になされている.すなわち,肥大型心筋症などの遺伝子変異が原因の疾患を有する患者からiPS 細胞を樹立し,培養皿上で心筋細胞を分化誘導することにより,病気の表現型を有する生きたヒト心筋細胞を容易に,無尽蔵に作ることができる.この病気のヒト心筋細胞を培養皿上で分子生物学的,細胞生物学的に解析することによって,未解決であった病因解明や創薬研究が行われている.本稿では,我々が行ってきたiPS 細胞を用いた心不全にかかわる疾患研究に関して概説する. -
糖尿病と心不全
73巻8号(2018);View Description
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糖尿病は心不全発症を増加させ,その予後を悪化させる.これまで糖尿病患者の心不全に対する特異的な予防法や治療薬はなかったが,SGLT2 阻害薬の有効性が最近報告されている.また,糖尿病以外に原因を特定できない心不全として糖尿病性心筋症の概念があり,その病態には高エネルギーリン酸の産生障害だけでなく,その分解経路の障害が関与することが明らかにされつつある. -
慢性腎臓病(CKD)と心不全
73巻8号(2018);View Description
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慢性腎臓病は新たな国民病と周知され,末期腎不全への進行と心血管疾患の発症を減少させることが喫緊の課題である.その心血管疾患の中で最たるは心不全であり,その病態の発症には血行動態的や神経内分泌的など多彩な機序が介される.このような一連の機序は,中長期的には不可逆的な心機能や腎機能の低下につながり,生命予後や透析導入などの転帰不良に密接に関連する.循環器内科医や腎臓内科医は,専門領域に縛られない視野の広い診療を心掛ける必要がある. -
心不全における骨格筋異常
73巻8号(2018);View Description
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心不全の臨床的特徴である運動耐容能低下の規定因子として,骨格筋異常が重要である.これは,骨格筋筋線維型の変化,代謝酵素の変化,エネルギー代謝の変化,骨格筋萎縮である.これらの骨格筋異常によって持久性有酸素運動能力や筋力が低下するが,いずれも心不全患者の予後と密接に関連する.このような骨格筋異常がどのような機序で起こるかは明確ではない.最近の我々の研究では,骨格筋異常とアンジオテンシンⅡの関連が明らかとなった. -
補助人工心臓(VAD)の最前線
73巻8号(2018);View Description
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新たに導入された経皮的VAD の適応疾患は,主として急性心筋梗塞や心筋炎などによる心原性ショックである.PCPS やIABP との使い分けは今後の議論.さらに補助を必要とする場合は体外設置型VAD によるbridge to decision.移植適応のある患者に対するbridge to transplant 治療として植込型LVAD があるが,今後,移植適応外のdestination therapy も治験中で,導入が期待される. -
心筋再生療法の現状と展望
73巻8号(2018);View Description
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日本人の最頻度のHLA のドナーから作出したiPS 細胞を用いて心室特異的心筋細胞を分化誘導し,心筋比率が99%以上の再生心筋細胞に純化精製した.特殊に開発した移植デバイスを用いて免疫不全マウス・ラットやサル・ブタ等の心筋に移植した.移植心筋は長期に心筋内に生着するとともに堅固な心筋組織を形成し,梗塞後心不全を軽快した.非臨床安全性試験の成果も良好であり,ヒト心筋内に移植をするfirst in human 試験の開始が待ち望まれる.
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【トピックス】
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ネフローゼ症候群の診断と治療の進歩
73巻8号(2018);View Description
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ネフローゼ症候群は,腎臓病の中でも浮腫をはじめとするさまざまな症状を呈する特に重篤な疾患群である.一次性膜性腎症は指定難病の1つであり,患者の予後改善と透析回避のために,確実な診断と適切な治療が求められている.近年,この分野で大きな進展があった.1つは膜性腎症の原因抗原としてPLA2R とTHSD7A が明らかになったこと,もう1つはB 細胞に対する抗体製剤であるリツキシマブを用いることにより膜性腎症や微小変化型ネフローゼ症候群の治療法に大きな変革がもたらされたことである.こうした発見により,世界的には膜性腎症や微小変化型ネフローゼ症候群に関する臨床的課題の多くが解決したと考えられている.しかし,本邦におけるこれらの疾患の診療実態は世界とは異なっており,未解決の課題が多く残されている. -
MIRAGE 症候群 ― 先天性副腎低形成症を主徴とする新たな遺伝子疾患―
73巻8号(2018);View Description
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我が国で発見された新規の単一遺伝子疾患MIRAGE 症候群について概説する.既知病因では説明のつかない先天性副腎皮質機能低下症患者を対象に,新規のゲノム解析手法を応用することにより発見されたこの疾患は,副腎のみならず全身に症状を起こす「症候群」であった.高率なモノソミー7 骨髄異形成症候群の合併,特徴的なリバージョン変異の獲得など,さまざまな研究領域への波及効果があり,今後の研究の動向にも注目が集まっている. -
我が国における肥満外科治療の現状と課題
73巻8号(2018);View Description
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肥満外科治療は,高度肥満症患者に対する強力な減量治療法であり,減量効果だけでなく,糖尿病をはじめとする代謝異常を劇的に改善し,生命予後を改善することも証明されている.最新の統計では,世界で年間57万例も行われている.日本では年間300例程度施行されているが,腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が2014年に保険収載され,施行する施設,手術件数ともに増加してきており,長期成績も報告されるようになった.
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【今月の略語】
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