癌と化学療法
Volume 31, Issue 2, 2004
Volumes & issues:
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総 説
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リンパ腫のWHO分類と問題点
31巻2号(2004);View Description Hide Description2001年5月に新たな悪性リンパ腫分類の規範として公刊されたWHO分類ではPathology& Geneticsという方向性が明確に示された。分類全体を貫くものとして“疾患単位”という考え方が強調され単に病理組織所見のみならず病態予後治療反応性分子病態を総合的に考察すべきとの立場が鮮明に打ちだされた。また疾患単位のリストとして呈示されており今後の改変の可能性を意識したものといえる。すなわち疾患の認識が時代とともに進化しまた常に新たな疾患そのものが認識される可能性を考慮したものである。主な疾患単位としてマントル細胞リンパ腫(本邦リンパ腫全体における頻度3% t(11;14)によるcyclin D 1発現が関与) 濾胞性リンパ腫(7% t(14;18)によるBCL 2) 粘膜関連リンパ組織型辺縁帯B 細胞リンパ腫(8% t(11;18)によるMALT 1) 成人T 細胞白血病/リンパ腫(7% 九州地区では20%human T-cell leukemia type 1[HTLV 1]) 鼻型NK/T 細胞リンパ腫(2% Epstein-Barr virus[EBV]) および未分化大細胞型リンパ腫(2% t(2;5)によるALK)などがあげられる。またび漫性B 大細胞型リンパ腫が最大の頻度(33%)を占めるが本態的には多様である。一方WHO分類の問題点として㈰ 病理診断を支える“信頼に足る”検索手技(免疫組織化学的分子生物学的手法など)の確立と体制の整備が必要㈪ 個々の疾患単位の定義が必ずしも十分ではなく鑑別診断に困難が感じられるなどがあげられる。
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特 集
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- 【がん治療のControversy—乳がん— 】
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乳癌検診に関する欧米の論争
31巻2号(2004);View Description Hide Description1990年代多くの無作為化比較試験(randomized controlled trial:RCT)の結果から乳癌検診には死亡率減少効果が認められるとして欧米諸国では乳癌検診受診率の飛躍的な上昇をみた。ところが2000年デンマークコクラングループの研究者Go/tzscheとOlsenは乳癌検診の有効性に疑問を投げ掛ける論文を発表した。これに対し多くの批判がなされたが彼らは2001年再び論文を発表し過去に行われたRCT の方法論を検討した結果「乳癌検診は有効」とする従来の見解は不適切に行われた研究を反映しているものでありある程度適切に行われた研究からは乳癌検診に効果がないとの結論になると主張した。一部の国では2002年に乳癌検診ガイドラインが改訂されこうしたガイドライン改訂に際しGo/tzscheとOlsenの主張が一部考慮されたと考えられているが多くの国では乳癌検診導入後乳癌死亡率が低下しており乳癌検診ガイドラインの変更などもみられなかった。 -
センチネルリンパ節生検をめぐるControversy
31巻2号(2004);View Description Hide Descriptionセンチネルリンパ節生検の問題点について検討した結果次のように考えられる。① 色素を乳輪下や腫瘍直上の皮下に注入しアイソトープを腫瘍周囲の乳腺組織に注入するのが妥当である。② リンフォシンチグラフィは腋窩以外にあるセンチネルリンパ節の同定に有用であるが胸骨傍のセンチネルリンパ節生検については依然研究段階にある。③ 迅速組織検査や捺印細胞診で術中にセンチネルリンパ節転移の有無を診断することは重要であるが微小転移の診断に関しては限界がある。④ 術後の組織検査で微小転移を診断するためには少なくとも0.2mm 間隔の連続組織切片を作製する必要がある。⑤ センチネルリンパ節生検はハイリスクのDCIS 症例に限って適応される。⑥ 術前化学療法後におけるセンチネルリンパ節生検の有効性は現時点で証明されていない。 -
乳房温存療法をめぐるControversy
31巻2号(2004);View Description Hide Description乳房温存療法の治療成績が乳房切除術と同等であることが明らかになり早期乳癌に対して標準的治療法として行われるようになった。一方乳房温存療法の適応でない腫瘍径の大きな乳癌に対する術前化学療法を用いた乳房温存療法非浸潤性乳管癌に対する乳房温存療法放射線照射の是非と放射線非照射症例の選別など解決すべき新たな問題が生じている。これらの問題の解決によりより多くの乳癌患者が乳房を温存できまた不要な放射線照射を回避できる可能性がある。 -
Adjuvant ChemotherapyをめぐるControversy
31巻2号(2004);View Description Hide DescriptionEBCTCG によるメタアナリシスによればadjuvant chemotherapyはリンパ節転移の有無ホルモンレセプターの状態にかかわらず予後を有意に改善することが報告されている。標準的レジメンとしてはCMF とanthracyclineを含んだレジメンがあるがanthracyclineを含んだレジメンのほうがさらに死亡のリスクを11%減少させていた。CMF の投与サイクル数としては6サイクルが適切である。乳房温存術後で再発リスクの高い場合は照射よりchemotherapyを先行させたほうがよいと思われる。dose-intensityに関しては上限が存在しCAF およびCA レジメンではdoxorubicin 60mg/,CEFレジメンでは100mg/m2が推奨される。dose-densityおよびtaxaneのadjuvant chemotherapyへの組み込みに関してはどちらも有望である可能性は高いがいまだcontroversialである。 -
乳癌ホルモン療法のControversy
31巻2号(2004);View Description Hide Descriptionホルモン感受性乳癌に対してtamoxifenは20年以上にわたり標準的な内分泌療法剤であった。しかし近年閉経後乳癌患者に対するaromatase inhibitor(AI)の臨床導入が活発となり内分泌療法の選択肢は多岐にわたるようになった。第三世代のAI は進行再発乳癌におけるfirst-line therapyとしてあるいは術後補助療法としての有用性が明らかとなってきている。一方でnon-steroidal AI による骨塩量の低下が報告されるなど長期にわたる強力なエストロゲンの抑制が骨代謝や脂質代謝に与える影響は解明されておらずAI をfirst choiceとするかは議論の多い重要な課題である。術後補助化学療法として使用されるアンスラサイクリンを含む多剤併用療法とtamoxifenは同時併用すべきではないことが示されたがタキサン系薬剤との併用はどうか術前内分泌療法の意義は何かホルモン補充療法の乳癌に対するリスク増加はどう評価されているかなどの乳癌内分泌療法に関するcontroversyにつき概説する。
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原 著
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TS/DPD活性の大腸癌に対するUFTの効果予測因子としての意義
31巻2号(2004);View Description Hide Description1997年5月から1998年4月までの1年間に当科で術前化学療法としてUFT 細粒450mg/body 2週間の投与を行った26例を含む進行大腸癌40例(Dukes A:9例B:15例C:13例D:3例)を対象に腫瘍内のTS/DPD 活性の効果予測因子としての意義について検討した。結果:臨床病理学的には組織型にTS の関与(p=0.0103)がみられTS 活性はstageの進行とともに高値になる傾向にあったがDPD 活性に関連はみられなかった。術前投与の組織学効果(≧grade2)は7.7%でapoptosis index(AI)はTS 活性に比べてDPD 活性で高い相関(p=0.0465)を示した。術後の再発は術前投与群の7例(肺:2 肝臓:4 局所:1)に認められ全例がTS の高活性を示し非再発例に比べて有意差(p=0.0034)を認めた。以上より腫瘍内のTS およびDPD 活性はUFT の抗腫瘍効果を左右する重要な因子であり特にUFT を使用した術後再発の抑制においてはTS 活性が重要な予測因子の一つであることが示唆された。
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原 著
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膵癌に対する肝動注療法
31巻2号(2004);View Description Hide Description膵癌を難治性にする因子の一つに肝転移がある。根治切除例においても肝再発が多くまた非切除症例では肝転移群が有意に予後不良である。今回われわれは膵癌に対する肝動注療法の有用性について検討した。対象は過去10年間に経験した膵癌根治切除例42例と非切除例75例である。肝動注はポートを皮下に埋め込み5-FU の持続注入で行った。根治切除例に対する予防的肝動注療法は病理学的脈管侵襲度のv因子が0と1の症例については生存期間延長と肝転移予防に有効であったがv因子が2と3の症例横関してはいずれも無効であった。非切除例に対する予防的肝動注療法は無効であったが肝転移症例に対する治療的肝動注療法は生存期間を延長させる因子の一つであった。 -
当院における手術不能膵癌に対するGemcitabine使用成績
31巻2号(2004);View Description Hide Description当院における手術不能進行膵癌症例をretrospectiveに調べgemcitabine(GEM)の有用性と問題点について検討した。1996年2月より2003年5月の間に当院において手術不能と診断された進行膵癌症例80例のうちGEM を投与した症例(GEM 群)は16例GEM 以外の治療を行った症例(非GEM 群)は20例対症療法のみを行った症例は44例であった。GEM の投与方法は初回1,000mg/m2を30分かけて点滴静注週1回で3週投与1週間休薬を原則とした。GEM 群における副作用として骨髄抑制が81.3%に認められたが休薬投与量の減量を行い可能な限りGEM の投与を続けた。レジメンどおりに投与可能であった症例は6.25%にすぎなかった。症状緩和効果はGEM 群では25.0% 非GEM 群では6.25%とGEM 群で高く認められた。抗腫瘍効果においては有意な差は認められなかった。在宅日数中央値はGEM 群98.5日非GEM 群34.0日とGEM 群で長かった。生存期間中央値はGEM 群200日非GEM 群121日経過観察群82.5日でGEM群において有意に延長していた。GEM 群のなかではGEM の総投与量が多くなるほど生存期間が延長する傾向が認められた。これらよりGEM は副作用が出現した場合でも休薬減量を行うことで外来での継続投与は可能でありなるべく長期に投与を続けることで症状緩和効果生存在宅期間の延長が得られる可能性が示された。 -
局所進行乳癌に対するEpirubicin Plus Paclitaxel RegimenによるNeoadjuvant Chemotherapyについて—2サイクルと4サイクルTreatmentの比較—
31巻2号(2004);View Description Hide DescriptionET regimen(epirubicin(EPI)60mg/m2 iv d 1,paclitaxel(TXL)150mg/m2 iv d 2 3週を1クールとする)neoadjuvant chemotherapy(NAC)を施行した75例の局所進行乳癌患者について抗腫瘍効果と副作用について検討した。全例が女性患者で本regimenが2サイクル投与された群では1例にCR 28例にPR 10例にNC が認められ4サイクル群では21例にCR 13例にPR 2例にNC が認められた。両群の直接奏効率はそれぞれ74%(29/39)と94%(34/36)であった。全例が乳房温存術の適応外と考えられたがNAC により4サイクル群の36例中12例(30%)が乳房温存術の適応となった。また副作用としては筋肉痛関節痛末梢神経のしびれ脱毛などが2サイクル群より4サイクル群によくみられたが骨髄抑制消化器症状は両群の差が認められなかった。
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原 著
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新潟市民病院における子宮肉腫の治療成績
31巻2号(2004);View Description Hide Description新潟市民病院において1986〜2001年の間に経験した子宮肉腫16症例について後方視的解析を行った。各進行期における5年生存率はstageⅠ(n=4)で68% stageⅡ(n=2)で50% stageⅢ(n=3)とstageⅣ(n=7)がともに0%であった。初回手術時で腫瘍が不完全摘出に終わった群(n=7)は完全摘出された群(n=8)と比較し有意に予後不良であった。初診時LDH 値が高値の群(n=8)は正常値の群(n=8)と比較し予後不良の傾向にあったが有意差は認められなかった。15例に術後化学療法が施行され評価可能な5症例のうちIAP 療法の2例のみで有効であった。second lineとしての化学療法は評価可能な11症例のうちIAP 療法の1例のみで有効であった。初回治療後臨床的無病状態となった10例のうち6例で再発が認められた。腫瘍再発残存の5例に対し2回目手術が行われ不完全摘出に終わった3例は術後1年以内に原病死した。子宮肉腫の進行再発例は予後不良であるが再発残存腫瘍に対する積極的な外科的切除は予後を改善する可能性があることが示唆された。
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症 例
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CDDP,TS-1併用放射線療法により組織学的に腫瘍細胞の消失が認められた進行上顎癌の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description頸部リンパ節転移を伴う右側上顎癌症例(T4N2cM0 StageⅣ)に対してCDDP およびTS-1を併用した術前化学放射線療法を行い組織学的に腫瘍細胞の消失を認めた症例を経験した。症例は76歳の女性でCDDP(5mg/m2/day) TS-1(80mg/day)の投与と合計40Gyの放射線照射を併用した。投与中にはgrade2の骨髄抑制血小板減少口内炎を認めた。触診および画像診断上腫瘍は縮小しPR と効果判定した。手術標本中には生細胞の残存を認めなかった。
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症 例
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UFT単独療法が奏効した巨大な顎下部悪性腫瘍の1例
31巻2号(2004);View Description Hide DescriptionUFT 単独療法によって明らかな腫瘍縮小効果をみた巨大な顎下部悪性腫瘍の1例を経験したので報告する。患者は76歳女性でオトガイ部から右側顎下部の腫瘤を主訴に当院に紹介された。腫瘤は辺縁不整CT 写真上で11×7cm 大であった。左側顎下リンパ節に軽度腫大も認めた。穿刺吸引細胞診で未分化型腫瘍の形態であった。精査結果より手術適応外と判断し放射線療法および化学療法を計画したが患者の同意は得られなかったため外来にてUFT 内服化学療法(600mg/day)にて経過観察することとした。内服開始より約4週後には劇的な腫瘍縮小を認め約6週後には触診上で腫瘍の消失を認めたが肝機能検査値の異常を認めたために一時内服加療を中止とした。経過観察を行い得た約10か月間では明らかな腫瘍増大は認めなかった。現在までの約5年間再発傾向は認められていない。 -
症状緩和と抗腫瘍効果にGefitinibが有効であったPS 3進行期肺癌症例の1例
31巻2号(2004);View Description Hide DescriptionPS 不良の進行期肺癌症例に対する有効な治療法はいまだ確立されていない。今回われわれはモルヒネや放射線照射にてもコントロールが困難であった癌性疼痛を伴うPS 3のⅣ期肺腺癌症例に対してgefitinib 250mg の連日内服投与を行い重篤な副作用やQOL の低下を招くことなく抗腫瘍効果と同時に癌性疼痛とPS の速やかな改善を得たので報告する。 -
TS-1/CDDP放射線併用化学療法により完治した進行食道癌の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description症例は71歳男性。胸部つかえ感を主訴に前医を受診し食道癌を疑われ当科に入院した。原発巣はMt 領域の進行食道癌であった。根治的手術は困難と判断し放射線併用化学療法を施行した。TS-1(80mg/m2)を14日間内服しCDDP(70mg/m2)をTS-1開始8日目に24時間持続点滴で投与した。放射線はTS-1開始と同時に2Gy/日1週5日間とし3週施行した。1クール終了後grade2の白血球血小板の減少を認めたため毒性の回復を待って第2クールを施行した。第2クール後の内視鏡検査では原発巣は瘢痕化しており生検では腫瘍は得られなかった。その後TS-1/CDDP 併用化学療法を2クール施行した。全経過中にgrade3以上の血液毒性grade2以上の非血液毒性はなかった。化学療法後の内視鏡およびCT 検査でも腫瘍は消失していた。治療開始2年後の現在も再発はなくTS-1/CDDP 放射線併用化学療法により完治したと判断した。 -
胃癌による癌性リンパ管症に対してTS-1が著効した1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description癌性リンパ管症に対しTS-1が著効した症例を報告する。症例は51歳男性。咳嗽を主訴に来院した。胸部X 線CT にて両側胸水小葉間隔壁の肥厚などの所見あり癌性リンパ管症と診断した。胃内視鏡にて胃体後壁に胃癌を認めたためこれを原発巣と考えた。入院時検査にて血小板数5×104/mm3と骨髄球後骨髄球の末梢血への出現を認め骨髄転移もあると思われた。TS-180mg/day28日間投与を4コース投与したところ胸部X 線所見末梢血液像とも著明に改善した。最終的には癌性リンパ管症が再度増悪し初診時より9か月で死亡されたが約6か月間はTS-1が有効であった。剖検が行われ肺のリンパ管内の癌細胞の浸潤が確認された。 -
TS-1隔日投与により長期生存中の腹膜播種を伴う4型胃癌の1例
31巻2号(2004);View Description Hide DescriptionTS-1隔日投与により2年間治療継続中の切除不能進行胃癌を経験したので報告する。症例は50歳女性。Schnitzler転移と胸水を伴う4型胃癌に対してTS-1を1日100mg/body 4週投与2週休薬の予定で開始したところgrade2の肝機能障害および白血球減少を認めた。同量のTS-1を隔日投与に変更したところ副作用は出現せず治療の継続が可能となった。1年5か月minor response(MR)〜no change(NC)を維持し2年経過した現在も無症状で外来通院中である。TS-1は現在胃癌化学療法の中心的役割を担う抗癌剤であるが通常の用法では副作用のため治療継続が困難な症例が存在する。TS-1隔日投与法は副作用を軽減しつつ長期の抗腫瘍効果が期待できる投与法として展望がある。 -
術後UFT+Lentinan併用療法を行い長期生存中の腹膜転移4型胃癌の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description症例は50歳女性。限局した腹膜転移を伴う4型胃癌に対して肉眼的腹膜転移の全切除を施行し根治度B を得た。術後補助療法として5-FU+CDDP および5′-DFUR を投与した。術後13か月目に腫瘍マーカーはCEA 8.9ng/ml AFP 85.8ng/ml と上昇し胃癌の再発転移を否定できないためUFT 300mg の連日内服とLentinan 2mg の週1回静注投与を開始した。しだいに腫瘍マーカーは低下し術後5年8か月無再発生存中である。 -
TS-1とLow-Dose Cis-platinumによる併用化学療法が奏効した胃癌臍転移(Sister Mary Joseph's Nodule)の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description胃癌の臍転移はSister Mary Joseph's noduleとして知られており腹膜播種を高頻度に伴うことより予後不良の徴候とされている。症例は55歳男性。上部消化管造影にて胃癌と診断され当科を紹介された。理学的検査にて臍部に1.5×2cm 大の弾性硬で不整形な腫瘤を認めた。体表超音波検査では臍部に15×10mm 大の低エコー腫瘤を認め針生検にて臍転移と診断した。診断的腹腔鏡にて腹膜播種性転移を認めたためTS-1を含む全身化学療法を施行した。上部消化管造影および体表超音波検査で経過観察し原発巣および臍転移巣の著明な縮小を認めた。治療開始後1年8か月で病勢の再進行が認められ2年7か月で死亡となったが予後不良といわれている転移性??腫瘍としては長期にわたる良好な反応が得られており若干の文献的考察を加えて報告する。 -
TS-1・CDDP併用放射線療法が奏効した肝硬変合併食道胃同時性重複癌の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description重篤な肝機能障害を合併した食道胃同時性重複癌に対しTS-1 CDDP 併用放射線療法が奏効した症例を経験した。症例は56歳男性。嚥下困難で近医を受診し食道癌と診断され当院へ紹介入院となった。内視鏡および上部消化管造影で食道胃同時性重複癌と診断した。術前画像診断では食道癌はT3N0M0 Stage㈼で胃癌はT1N0M0 Stage㈵A と診断し両癌とも切除可能であると判断したがICG 15分値が35%と重篤な肝機能障害のため手術は断念しTS-1 CDDP 併用放射線療法を行った。TS-1は80mg/dayでCDDP は3mg/dayで投薬し縦隔にT 字型で60Gyの照射を併用した。特に副作用なく経過し44日後の内視鏡検査では食道病変は縮小し瘢痕のみとなっていた。また219日後には低い隆起性病変のみ観察された。現在はTS-1投与を行い外来経過観察中であり肝転移などは認めていない。TS-1 CDDP 併用放射線療法は食道癌に対し有用な治療法となり得ると思われる。 -
5′-DFUR, Cisplatin療法,手術療法により術後10年以上無再発生存を得ている胃癌多発肝転移の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description症例は36歳女性。1992年3月多発性の肝転移を伴う3型進行胃癌(低分化型腺癌)と診断された。5′-DFURCDDP 併用療法を4クール施行し原発巣はpartial response(PR)肝転移はcomplete response(CR)となったため胃全摘術(脾摘膵体尾部切除R 3 R-Y 縫合)を行った。術後さらに同化学療法を2クール追加した。術後10年以上を経過した現在も肝および局所の再発なくcancer freeの状態で健全な社会生活を行っている。 -
大腸癌腹膜播種性転移に対しTS-1が奏効した1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description症例は55歳男性。イレウスで発症し腹膜播種(P 3)を伴う下行結腸癌に対し前医で人工肛門造設術のみ施行された後当院紹介された。術前CEA は917ng/ml で左下腹部に主病巣および下腹部正中やや右側に腹膜播種と思われる腫瘤を触知した。化学療法による予後の延長を期待してreduction surgeryとして主病巣を切除し術後第6病日よりTS-1 120mg/day経口投与を4週間投与2週間休薬で開始した。投与4週後に嘔気が出現し内服続行困難となったため2週間投与2週間休薬に変更した。以後副作用は認めず術後27週にはCEA は47ng/ml と著明に低下し下腹部の播種性腫瘤は触診およびCT 上も消失した。治療開始7か月後の現在再燃の兆候なく健存中である。TS-1は大腸癌腹膜播種性転移例に対する抗癌化学療法の選択肢の一つになり得るものと思われた。 -
肺転移巣切除術を併用した化学療法にて完全寛解となった難治性進行精巣絨毛癌の1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description症例は25歳男性。主訴は咳喀痰左陰嚢内容の腫脹。両肺野多発転移脳転移肝転移を認める精巣絨毛癌であった。VIP(cisplatin etoposide ifosfamide)療法を5コース施行した後に末梢血幹細胞移植併用大量化学療法(carboplatinetoposied cyclophosphamide)を1コース施行した。退院の約1年後にPVP(cisplatin etoposide)療法を1コース施行した後に両肺転移巣の切除術を施行した。病理診断では絨毛癌の残存を認めた。しかしながら術後約3年3か月経過した現在新たな転移を認める所見はない。 -
Rituximab療法により比較的安全に白血病細胞増多および血小板輸血依存をコントロールし得た多剤耐性B-CLLの1例
31巻2号(2004);View Description Hide Description症例は61歳男性。1992年検診で軽度白血球増多を指摘され1993年当科紹介受診骨髄穿刺で小型成熟リンパ球の増生を認めB-CLL と診断した。chlorambucil fludarabineなどが一時的に奏効したが2000年より大型化した腫瘍細胞が増加し2001年11月当科入院した。fludarabineを投与するも抵抗性であった。白血病細胞増加による死亡の危険を回避するため2002年1月にrituximabを少量から開始した。約11か月間に計32回計15,500mg 投与したが治療毒性はコントロール可能でfeasibilityに優れていた。白血病細胞数のコントロールと6か月間の血小板輸血依存を解消することができた。しかし全身のリンパ節肝腫大は不応性で同年11月死亡した。耐性B-CLL に対するrituximab療法の経験はわが国ではまれと思われるが比較的安全に施行可能な治療法と考えられるので報告する。 -
Bisphosphonate療法によって骨転移の痛みが軽減した3症例
31巻2号(2004);View Description Hide Description悪性腫瘍の骨転移は癌末期の患者に激しい疼痛高カルシウム血症病的骨折などを起こし患者のQOL を著しく障害する。bisphosphonateは悪性腫瘍の骨転移による高カルシウム血症の治療薬として使用されるが同時に鎮痛効果をもたらすという報告が増えている。今回われわれは骨転移による難治性疼痛患者にpamidronateを投与し鎮痛効果が得られた3症例を経験した。症例は甲状腺癌直腸癌肝細胞癌の骨転移による疼痛コントロール不良な症例であった。オピオイドや放射線治療を行ったが疼痛を軽減できないため鎮痛補助を目的としてpamidronateの点滴治療を開始したところ疼痛スコアの減少オピオイドの減量が可能となった。骨転移由来の痛みにbisphosphonate療法が効果的であるという報告は多いがまだ治療法としては確立していない。癌性疼痛の鎮痛法の一つとして今後のさらなる報告研究が期待される。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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センチネルリンパ節の研究の現況—方法論を中心に—
31巻2号(2004);View Description Hide Description乳癌malignant melanomaでsentinel nodeにより所属リンパ節の転移の有無が正確に診断できることが明らかにされた。以来様々な固形悪性腫瘍においてsentinel node biopsyが試みられてきた。しかしその至適同定法についてはコンセンサスが得られていない。乳癌においてはsentinel node biopsyには色素とradioisotopeを併用すべきであると考えられている。消化器癌では色素単独法および併用法ともに優れた成績が報告されている。今後わが国で胃癌において大規模な臨床試験が開始される予定でありその結果が待たれる。
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国際がん情報
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特別寄稿
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- 【MAB療法の動向と最近の考え方】
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—Bicalutamideを用いたMAB療法の最新評価を踏まえて—
31巻2号(2004);View Description Hide Description前立腺癌のMAB(maximal androgen blockade)療法に関しては進行前立腺癌に対する有用性を評価する目的で多くの臨床試験が実施されてきたが相反する成績が得られいまだ明確な結論は得られていない。しかしこれまでメタアナリシスなどで用いられてきたMAB 療法の無作為化比較試験には世界および本邦で最も広く使用されているbicalutamideを用いた試験は含まれていない。その理由はbicalutamide+去勢と去勢単独を比較した無作為化試験の成績が発表されていなかったためであるがSchell