癌と化学療法
Volume 31, Issue 4, 2004
Volumes & issues:
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総 説
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- 【IT化時代における癌医療の変化】
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—IC・経済効果・安全性・電子カルテの効用など—
31巻4号(2004);View Description Hide Description医療情報のIT 化により診療内容手順の標準化医療従事者間の情報共有患者へ情報開示さらには臨床研究への応用などがさらに進展すると思われる。また業務量の把握原価計算などにも応用が可能となりより妥当な医療資源の活用にも道が開けるものと思われる。しかし現時点では設備投資に要するコストも含めたハードの限界システム設計自体の未熟さによる課題さらには発生源入力による医師や看護師への負荷など未解決の問題が多い。しかし今後もIT 化の波は避け難く先行投資した施設からの情報を集積しより安価で高機能なシステムの確立に向けた協調が重要であると考える。
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特 集
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- 【抗がん剤探索のバーチャル研究所】—文科省がん特定領域研究における抗がん剤スクリーニング—
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がん細胞パネルによる化合物評価と その分子標的スクリーニングにおける役割
31巻4号(2004);View Description Hide Description抗がん剤創薬においてメカニズムベースあるいはターゲットベースの化合物評価は重要である。数十種一組のがん細胞株(がん細胞パネル)について様々な抗がん剤に対する感受性を包括的に調べた結果をデータベース化しデータマイニングを導入することによって化合物の薬理評価を“メカニズムオリエンテッドに行う”新しい物差が得られる(Paull KD,et al:J Natl Cancer Inst 81;1088-1092, 1989)。われわれはこの原理に基づき39種一組のヒトがん細胞株による独自の化合物評価システム(JFCR-39細胞パネル)を樹立した。JFCR-39細胞パネルはウェットな系(=感受性試験)とドライな系(=データベース構築+統計的解析)が一体化したシステムで「化合物の作用メカニズムを予測できる」という特徴をもつので抗がん剤探索においてたいへん有用である。現在JFCR-39細胞パネルはスクリーニング委員会で実施される分子標的スクリーニングのコアとなる評価系として重要な役割を担っている。本稿ではこのJFCR-39細胞パネルについて解説する。 -
プロテインキナーゼ阻害活性の検定
31巻4号(2004);View Description Hide Description4種類の細胞質型プロテインキナーゼ(PKA PKC PTK eEF2K)を同時に検出する系と2種類のレセプター型チロシンキナーゼ(EGFR とFlt-1)の測定系を用いて特異的阻害剤の検定を行った。ここではプロテインキナーゼ阻害薬開発の世界の現況を簡単に紹介するとともにわれわれのスクリーニングでこれまでにヒットした活性物質のなかからいくつかの新しい物質を紹介した。 -
DNAトポイソメラーゼ阻害活性の検定
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionこれまでに開発され世界的に使用されている有効な抗癌剤であるetoposide(ETP) adriamycin(doxorubicin:DOX) irinotecan(CPT-11)などはDNA トポイソメラーゼ(トポ)を細胞内標的としていることが明確となりトポは抗癌剤のよい分子標的であることが示された。本稿ではトポが抗癌剤のよい分子標的である理由すなわち本酵素があらゆるDNA 代謝において必須の役割をしていることを酵素化学の面細胞増殖サイクルの面から論述した。それゆえに現在新たな抗癌剤を求めて世界的にトポ阻害剤のスクリーニング前臨床試験臨床試験が行われ多くの抗癌剤候補物質が報告されている。わが国でも文部科学省の支援により抗癌剤のスクリーニングが行われそのなかでもトポを標的とする抗癌剤候補物質が多数発見されている現状を述べた。 -
チューブリン阻害活性の検定
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionチューブリンの重合/脱重合を阻害する化合物は固形がんに対しても高い治療効果を示す点で今後のがん化学療法において中心的な役割を果たす可能性が高い。われわれは最近神経細胞における神経突起の伸長が主にチューブリンの重合による微小管形成に依存していることに注目し神経成長因子(NGF)によって神経様細胞への分化が誘導されるPC 12細胞などを組み合わせてチューブリンの重合/脱重合に影響を与える化合物を簡便かつ高感度に探索する方法を開発した。本検定法の最大の特徴はNGF 刺激に応答して伸長したPC 12細胞の神経突起においては「安定化微小管」構造が形成されていることを利用しそれへの影響を調べることで臨床における各検体の末梢神経毒性の強弱をあらかじめ予測しようとする点である。本検定法を活用することで末梢神経毒性の少ない新規チューブリン阻害剤が開発されることを期待したい。 -
ヒストンデアセチラーゼ阻害活性の検定
31巻4号(2004);View Description Hide Description近年DNA 塩基配列には直接書き込まれていない遺伝情報の異常すなわちエピジェネティクスの異常が多くの疾病に深くかかわっていることが明らかにされつつある。ヒストンアセチル化はエピジェネティクス制御の重要なメカニズムの一つである。ヒストンアセチル化はコアヒストンのアミノ末端でクラスターとなって存在するリシン残基に起こりヌクレオソームの構造や転写活性に影響を与える。ヒストンアセチル化は可逆的でありそのレベルはアセチル化酵素(HAT)と脱アセチル化酵素(HDAC)によって調節される。特定のクロマチン領域のアセチル化の異常が腫瘍形成とかかわっていることが明らかにされHDAC を阻害すると遺伝子発現の変化を伴って細胞分化やアポトーシスを引き起こすことからHDAC 阻害剤が癌の治療薬として注目を集めている。すでに一部は臨床研究が行われており大きな期待が寄せられている。そこで文部科学省がん特定領域研究スクリーニング委員会では2001年度からHDAC を癌の分子標的の一つとしてとらえ検定サービスを行っている。 -
基底膜浸潤阻害物質の検定
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionがんの転移はがん細胞の原発巣からの離脱と周辺組織への浸潤から始まって遠隔部位(転移組織)での増殖による転移巣の形成に至るまでの複雑な反応カスケードから成り立っている。特にがん細胞の基底膜への浸潤はこの転移過程において極めて重要なステップの一つである。それゆえ浸潤を標的として抑制あるいは阻害する物質(抗転移浸潤物質)を探索することはがんの転移を予防あるいは治療する有効な物質の選別に寄与し得ると思われる。基底膜への浸潤過程が主として㈰ 基底膜への接着(adhesion) ㈪ 酵素による基底膜の分解破壊(enzymatic degradation) および㈫ 運動移動(motility/migration)のステップから成り立っていることを考慮すると従来のがん細胞に対する直接的な増殖抑制(cytotoxic)作用を有する物質に加えて接着阻害酵素阻害運動阻害作用を有する物質も候補の一つとなり得る。in vivo において転移浸潤を抑制する物質を探索検定するに先駆けin vitro における基底膜再構成基質(マトリジェル)へのがん細胞の浸潤実験はその抑制あるいは阻害物質の探索評価を速やかに検定でき得ると考えられる。 -
血管新生阻害活性の検定
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionがん細胞が生きるためには栄養と酸素の補給のために血管を必要とする。したがって細胞は酸素の拡散のためには血管の100〜200μm 以内に存在しなくてはならない。がんはある一定までは自立的に増殖するがそれ以上に増殖するためには血管新生が不可欠である。がんはそれほど単純ではなくがん細胞や間質の細胞が血管新生関連因子を産生しておりたとえば一つのがん種をとっても増殖因子の産生や血管新生関連因子の産生も異なるし各々の細胞が異なる増殖因子で生存している。このことががんの治療を非常に困難にしている。血管新生阻害剤単剤での薬効がみられないことより血管新生阻害剤と化学療法剤との併用を考える時期にきていることを痛感する。ここではわれわれの研究室で行っている実験結果を報告したい。 -
アポトーシス誘導剤の探索
31巻4号(2004);View Description Hide Description抗癌剤スクリーニング委員会ではヒト白血病細胞U937を使ってアポトーシス誘導活性のある化合物のスクリーニングを行ってきた。そのなかでニトロカフェイン(8-nitrocaffeine)が典型的なアポトーシスとは異なる細胞死を誘導することを見いだした。様々な解析の結果8-nitrocaffeineは活性酸素産生を介してネクローシス様の細胞死を誘導することが明らかになった。 -
構造活性相関の解析
31巻4号(2004);View Description Hide Description抗がん剤スクリーニングを実施したすべての化合物について構造分類を行い各種スクリーニング系において有効性を示した化合物に関して構造活性相関を解析した。JCI:11788やJCI:11786などのgymnastatinの合成類縁体は脂肪酸側鎖の鎖長変化によってプロテインキナーゼ阻害の選択性が大幅に変化するという興味深い特長を有していた。ヒトがん細胞パネルにおいてチューブリン作用薬と高い相関を示すJCI:11578には強いチューブリン脱重合阻害作用が認められJCI:11534 JCI:11675 JCI:11676は既存の抗チューブリン薬との相関値が小さいにもかかわらず強いチューブリン重合阻害作用を示した。既存のトポイソメラーゼ阻害剤と構造類似性をもたないJCI:11403とJCI:11407はトポイソメラーゼ㈵に対する選択的阻害活性を示した。これらの化合物は構造活性相関を解析する上で重要な鍵物質であるとともに新しい抗がん剤のリード化合物として注目される。
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原 著
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乳癌原発巣転移巣におけるThymidine Phosphorylase,Dihydropyrimidine Dehydrogenase,Thymidylate Synthase発現
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionfluoropyrimidine(FP)作用発現にはいくつかの活性代謝酵素が関与するが乳癌を対象として5-fluorouracil(5-FU)の分解酵素dihydropyrimidine dehydrogenase(DPD) doxifluridineを5-FU に転換するthymidine phosphorylase(TP)ならびにthymidylate synthase(TS)の発現状況を検討した。患者同意を得125例210標本についてTP はenzymelinkedimmunoabsorbant assay(ELISA)法でDPD はELISA 法と酵素反応(catalytic)法でTS はfluorodeoxyuridinemonophosphate(FdUMP)非結合体レベルを測定した。原発巣のTS レベルはT 1でT 2〜T 4に比べて有意(p<0.05)に高く同一標本ではTP とDPD の間に正の相関を認めた。同時原発転移間比原発再発間比は2倍以内にとどまり酵素レベルの変動はFP 使用の有無にかかわらず低下上昇例は無治療非FP FP 療法の順に少なかった。化学療法の選択や感受性推定には原発巣でのTS は優先してTP DPD ではどちらか一方を測定し再発時には原発巣の酵素レベルと介在治療から次の治療選択が薦められる。 -
進行・再発乳癌に対するS-1の後期臨床第 II 相試験
31巻4号(2004);View Description Hide Description進行再発乳癌患者を対象としたS-1の後期臨床第Ⅱ相試験を全国37施設で行った。用法用量は体表面積を規準に1回80 100または120mg/body(いずれもFT 換算量)を1日2回連日28日間投与した後に2週間休薬するスケジュールを1コースとした。本治験における登録症例数は83例でそのうち適格例は81例であった。適格例における奏効率は42.0%(34/81)(95%信頼区間:31.1〜53.5%)であり奏効例の内訳はCR 6例およびPR 28例であった。生存期間の中央値は910日(95%信頼区間:493〜1,083日)であった。主たるgrade2以上の副作用項目としては白血球減少21.0%(17/81) 好中球減少28.4%(23/81) 赤血球減少4.9%(4/81)などの骨髄機能抑制食欲不振9.9%(8/81) 悪心嘔吐12.3%(10/81) 下痢8.6%(7/81) 口内炎1.2%(1/81)などの消化器症状および全身倦怠感8.6%(7/81)などが認められた。grade3以上の副作用項目としては好中球減少8.6%(7/81) 食欲不振4.9%(4/81) 全身倦怠感3.7%(3/81) 悪心嘔吐下痢および口内炎が各1.2%(1/81)認められた。grade4の副作用としては好中球減少および全身倦怠感が各1件のみ認められた。また本治験においては外来のみで治験が実施できた症例は87.7%であった。以上の成績よりS-1の進行再発乳癌患者に対する有効性および安全性が確認された。S-1は強い抗腫瘍効果を有するとともに毒性が低いことから進行再発乳癌患者における生存期間の延長が期待された。 -
進行子宮体癌に対するPaclitaxel,Doxorubicin,Cisplatin併用化学療法の臨床的検討
31巻4号(2004);View Description Hide Description進行子宮体癌に対しpaclitaxel(PTX) doxorubicin(DXR) cisplatin(CDDP)併用化学療法(TAP 療法)を行った。2000年6月から2002年3月までの間に当科で診断治療した子宮体癌8症例を対象とした。組織型は類内膜腺癌5例未分化型腺癌1例漿液性腺癌1例腺平上皮癌1例である。投与法はPTX 135mg/m2(3時間) CDDP 50mg/m2DXR 30mg/m2をday 1に投与し4週ごとに3〜5コース施行した。有害事象では顆粒球減少はgrade 3以上が全コースでみられたが重篤な感染の合併はみられなかった。grade3の血小板減少がみられた1例は3コースで治療中止となったが残りの7症例については治療を完遂できた。またPTX 投与により生じる末梢神経障害はgrade2が5例にみられた。抗腫瘍効果は評価可能病変のある5例中4例でPR 漿液性腺癌の1例がNC であった。以上よりTAP 療法は進行子宮体癌に対しG-CSF 投与を必要とするが安全に行うことが可能でかつ効果も期待できる治療法と考えられた。今後さらに症例を重ね多数の症例での臨床比較試験が必要である。 -
卵巣癌に対するTJ療法—PaclitaxelのMonthly投与とWeekly投与での副作用の比較—
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionpaclitaxel(PTX)とcarboplatin(CBDCA)の併用療法(TJ 療法)をfirst-line chemotherapyとして施行した卵巣癌15例においてcisplatinによる前治療のないTJ 療法94コースを対象としNational Cancer Institute-CommonToxicity Criteria(NCI-CTC)に基づいた副作用を診療録よりレトロスペクティブに調査した。対象15例94コースをPTX(175mg/m2 3hrs)とCBDCA(目標AUC 6)のday1投与を3〜4週ごとに施行したMTJ療法(M 群)とPTX(80mg/m2 1hr)のday1 8 15投与とCBDCA(目標AUC 5)のday1投与を4週ごとに施行したW-TJ 療法(W 群)の2群に分け副作用gradeを比較検討した。M 群は7例45コースW 群は10例49コースあり1コース当たりの平均PTX 投与量はM 群175mg/m2 W 群203mg/m2であった。grade3以上の血液毒性の頻度(M 群W 群)は血色素低下(24.4 22.4%) 白血球減少(55.6 40.8%)好中球減少(84.4 61.2%) 血小板減少(17.8 8.2%)であった。grade3以上の非血液毒性はW 群には認められずM群のみに食欲不振(2.2%) 悪心(2.2%) 下痢(2.2%) 不整脈(2.2%)が認められた。副作用のgradeを両群で比較すると血液毒性では好中球減少の程度が非血液毒性では関節痛筋肉痛神経障害の程度がW 群において有意に低かった。W-TJ 療法は副作用の軽減の面からは従来のM-TJ 療法よりも優れた投与法であると考えられた。 -
進行性尿路上皮癌に対するTIN(Paclitaxel,Ifosfamide,Nedaplatin)療法
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptioncisplatin併用多剤化学療法に抵抗性または著効後再発を来した進行性尿路上皮癌12例に対してTIN(paclitaxelifosfamide nedaplatin)療法を施行した。TIN 療法は3〜6コース施行の後informed consentの得られた症例には維持療法として5′-DFUR を12週間内服の後TIN 療法1コース施行というサイクルをTIN 療法開始後2年間まで繰り返すこととした。12例中CR 3例PR 8例PD 1例で奏効率は91.6%であった。奏効した11例の全奏効期間は3〜20か月で中央値9か月12例の非増悪生存期間は0〜20か月で中央値8か月1年非増悪率45.8%であった。転帰は癌なし生存3例癌あり生存4例癌死5例で生存期間は2〜20か月で中央値10.5か月1年生存率53.5%であった。副作用は全例にgrade4の好中球減少を発熱性好中球減少を5例(41.6%)に認めた。grade3以上の血小板減少を4例(33.3%)にgrade3以上のヘモグロビン減少を2例(16%)に認めた。またgrade3の疲労を2例に認めた。しかしいずれも短期間のうちに改善し副作用による化学療法の延期中止例は認めなかった。TIN 療法は進行性尿路上皮癌に対し積極的に試みる価値のある化学療法である。 -
非小細胞肺癌患者に対するGefitinib IDEAL1試験の日本人サブセット解析
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionプラチナ製剤を含む1レジメン以上の化学療法の治療歴を有する非小細胞肺癌患者(日本人および日本人以外)を対象としたgefitinib単独療法の国際共同臨床第Ⅱ相試験(IDEAL 1)に組み入れられた日本人患者102例(250mg/日群:51例500mg/日群:51例)について生存期間の解析を行い対象患者の性別組織型と生存期間との関連性について検討した。102例における生存期間の中央値は12.0か月であり1年生存率は50%であった。250 500mg/日群の生存期間の中央値はそれぞれ13.8 11.2か月であり1年生存率は57 45%であった。腺癌の患者が腺癌以外の患者に比べてまた症状改善がみられた患者で生存期間が長くなる傾向がみられた。性別では女性の生存期間の中央値は男性に比べ大きかった。gefitinibは化学療法の治療歴を有する非小細胞肺癌患者の治療において奏効率と同様に生存期間の延長に関しても従来の抗癌剤を上回る効果が期待できると考えられた。特に腺癌患者に高い有用性が期待された。今後生存期間に及ぼす因子については延命効果を主目的とした臨床試験によって検討される必要があると考えられる。
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症 例
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高齢者Barrett食道癌に対しTS-1投与が奏効した1症例
31巻4号(2004);View Description Hide Description症例は92歳男性。リハビリ目的に入院。入院2週間後に嘔吐したため翌日上部内視鏡検査を施行しBarrett 食道癌と診断した。年齢PS を考慮し化学療法を選択TS-150mg/dayで開始した。すぐに通過障害は改善したがgrade3の食欲不振が出現したためTS-1を25mg/dayに減量した。減量後食欲不振は消失以後4週投与2週休薬を1コースとして投与した。7コース終了後に行った上部内視鏡検査および造影で病変は消失通過性も改善し化学療法の効果はCR と判定した。TS-1は胃癌のみでなくBarrett 食道癌に対しての治療法の選択肢になる可能性が示唆される症例と考えられた。 -
TS-1術前投与にてCRを得た噴門部進行胃癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide Description患者は69歳女性。嘔吐食欲不振咽頭閉塞感を主訴に来院。食道浸潤を来した3′型の噴門部進行胃癌で生検にて低分化型腺癌の診断であった。T3(SE)N2 StageⅢB で予後不良であることからインフォームドコンセントの後TS-1による術前化学療法を1クール施行し腫瘍は著明に縮小したため胃全摘術を施行した。病理組織学検査では腫瘍は原発巣リンパ節ともに瘢痕様の線維化になっており明らかな癌細胞は認められずGrade3(CR)の効果判定であった。今後TS-1は手術成績不良な進行胃癌症例に対する術前化学療法としての有用性が期待される。 -
Paclitaxel(TXL)/CDDP併用療法が奏効した進行胃癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide Description症例は73歳男性。左鎖骨上窩リンパ節転移と腹腔動脈リンパ節転移を伴う切除不能進行胃癌と診断しpaclitaxel(TXL)/CDDP 併用療法を行った。TXL 80mg/m2とCDDP 25mg/m2を3週連続投与し1週休薬し1クールとした。4クール施行後リンパ節転移や胃腫瘍の縮小が認められたため胃切除を行った。術後化学療法を4クール行い現在再発なく経過観察中である。この化学療法は外来での投与も可能で進行胃癌に対する有効な治療法と考えられた。 -
TS-1投与によりCRが得られた多発性肝転移を伴う胃癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide Description症例は65歳男性。市の胃癌検診で異常を指摘され受診。多発性肝転移を伴った2型stageⅣ胃癌であり手術不能と判断外来にてS-1(TS-1 )の120mg/body/day(4週連日2週休薬)の経口投与を開始した。投与開始約3か月後の上部消化管内視鏡検査で胃癌病巣は瘢痕化し同部の生検でも癌細胞は検出されなかった。投与開始約2か月後の腹部CT 検査で肝転移巣は著しく縮小し約15か月後の腹部CT 検査では肝転移巣は完全に消失しておりcomplete response(CR)と判断できた。約4か月後に血中CEA は正常範囲にまで低下し以後ほぼ正常範囲内を推移している。外来での治療開始後2年経過した現在までに重篤な合併症なしに再発は認められずperformance status(PS)も0を維持している。TS-1内服加療は外来で長期間継続可能であり患者のquality of life(QOL)の観点からも切除不能胃癌の化学療法の第一選択として有用性は高いと考えられる。 -
TS-1/CDDP併用療法にて原発巣CRが得られた肝転移を伴う胃小細胞癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide Description症例:75歳男性。上腹部不快感を主訴に近医受診し肝転移を伴う胃癌と診断され当院へ紹介入院となった。上部消化管造影検査および内視鏡検査で胃体中下部大弯に2型進行胃癌を認めた。生検により胃小細胞癌と診断された。CT で肝両葉に転移巣を認めた。根治的外科的切除は困難と判断しTS-1とCDDP との併用化学療法を施行した。1コースを28日としてTS-1は1日120mg を14日間連日投与14日間休薬としCDDP は8日目に108mg を24時間で点滴静注した。3コース終了後胃病変は瘢痕化し生検では癌細胞は得られなかった。CT 上肝左葉の転移巣は消失し肝右葉の転移巣も75%縮小した。原発巣CR 転移巣PR 総合PR と評価した。治療経過中grade 3以上の重篤な有害事象はみられなかった。TS-1/CDDP 併用療法は予後不良とされている胃小細胞癌に対しても有効な治療法になると考えられた。 -
Weekly Paclitaxel と 5′-DFURによる術前化学療法が奏効した進行胃癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionweekly paclitaxel(TXL)と5′-deoxy-5-fluorouridine(5′-DFUR)の併用化学療法が奏効した大動脈周囲リンパ節転移陽性胃癌の症例を経験した。症例は72歳男性。胃体部小弯を中心に腹部食道まで浸潤するMUE cType2 cT3 cN3cH0cP0cM0 stage㈿の進行胃癌に対しTS-1120mg による化学療法を開始した。しかし薬疹のため継続投与ができずweekly TXL 100〜130mg と5′-DFUR 800mg の併用化学療法を2〜3週ごとに4クール施行した。その後原発巣およびリンパ節の縮小(PR)が得られたため胃全摘術およびD 3郭清術を施行し根治度B の治癒切除が可能であった。有害事象はgrade 4の非発熱性好中球減少症以外には認めなかった。病理学的効果判定はGrade1bであり術前化学療法としてweekly TXL と5′-DFUR の併用化学療法の有効性が示唆された。 -
胃癌術後患者へのTS-1使用経験—Feasibilityの検討—
31巻4号(2004);View Description Hide Description目的:進行胃癌切除術後の補助化学療法として用いたTS-1の安全性の検討。対象:stage Ⅲ Ⅳで根治度B の切除胃癌20例。方法:背景因子の分析TS-1の投与方法と投与量有害反応の関連について検討。結果:年齢は平均62.8歳で組織型は分化型7例未分化型13例。stageはⅢA 4例ⅢB 10例Ⅳ 6例で胃切除範囲は胃切除術8例胃全摘術12例。投与開始日は平均術後57日で投与方法は4週投薬2週休薬10例その他10例。TS-1の投与量はrecommend dose9例reduced dose11例で投与クール数は平均2.8回。有害反応の発現は全体で14例。消化器毒性は5例血液毒性は12例に認められたが(重複あり) grade3 4の有害反応は認められず。18例が投与継続は可能。有害反応の発現はTS-1投与1ないし2クール目に集中する傾向であった。まとめ:TS-1を進行胃癌術後の補助化学療法として使用したが安全に施行できた。 -
Paclitaxel Weekly投与にてCRとなった大動静脈間リンパ節再発胃癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide DescriptionPaclitaxel (TXL)のweekly投与を行い大動静脈間リンパ節再発巣が消失した胃癌の1例を経験したので報告する。症例は55歳男性。胃上部の進行癌に対し胃全摘術を施行した。病理学的所見はtub 2 se n2 ly2 v2 stage㈽B であった。術後外来にてTS-1100mg/day内服を開始したが術後7か月目上腹部CT 検査にて大動静脈間リンパ節の腫張を認め胃癌のリンパ節再発と診断した。TXL weekly投与を開始したところCEA 値は徐々に減少し10サイクル終了時上腹部CT 検査にて再発巣が完全に消失した。有害反応はgrade1の脱毛を認めたのみであった。 -
TS-1不応進行再発胃癌に対するSecond-Line Chemotherapyとしての Paclitaxel Weekly投与
31巻4号(2004);View Description Hide Description近年TS-1を中心とした奏効率の高い長期投与可能なレジメが登場しfirst-line chemotherapyとなりつつある。さらにこれらの化学療法により長期生存例も多数認められるようになってきた。よってTS-1が無効となったあるいは有害事象などにより投与不可能となった症例に対しsecond-line chemotherapyとして何を用いるかが重要となってきた。今回TS-1治療が先行した進行再発胃癌7例に対しpaclitaxel weekly投与を外来にて行った。奏効率は20%であり全例外来での投与が可能であった。本投与法は外来投与の忍容性があり有用なsecond-line chemotherapyと思われる。 -
Thalidomide・Celecoxib・IrinotecanとCDDP胸・腹腔内投与が著効を呈した癌性胸水・腹水の2例
31巻4号(2004);View Description Hide Description癌性腹水胸水は予後不良兆候の一つでこれをコントロールすることは非常に困難である。さらには腹部膨満感呼吸困難食欲不振悪液質発熱などの著しい不快な癌症状を引き起こす。現在利尿剤塩分制限胸腹膜癒着術腹腔-静脈シャント術などが行われているが根治的な効果は得られていない。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管透過性因子(VPF)として1983年報告されて以来研究が進み両者は同一物質であり血管の新生ならびに血管透過性に大きな役割を担い胸水腹水中に高度に発現している。cyclooxygenase-2(COX-2)は癌組織の上皮ならびに間質細胞に多く発現しており癌発現増殖に関与している。それゆえ癌の予防と治療に役立つ酵素ではないかと予測されている。癌治療において分子標的阻害剤と従来の抗癌剤の組み合わせは腫瘍選択性を高くししかも腫瘍の薬剤耐性を少なくし抗癌剤の毒性を減弱し生存期間を延長するだろうと報告されている。thalidomide celecoxib連日経口投与に抗癌剤特にirinotecan 40mg/回を週に2回1か月間に320mg 以下の量を投与することにより効果的に胸水腹水をコントロールでき著明な全身状態の改善が得られる。抗VEGF 作用を有するthalidomideと選択的COX-2阻害剤であるcelecoxibに従来の抗癌剤を併用して胸水腹水を治療し良好な経過をとった2例を経験したので症例を呈示しながらこの治療を報告したい。 -
Paclitaxel/Carboplatin併用療法が奏効した卵巣癌 IV 期と進行直腸癌の重複癌の1例
31巻4号(2004);View Description Hide Description43歳女性。胸腹水を伴う卵巣癌Ⅳ期と2型直腸癌(Ra)の重複癌に対して試験開腹術を施行したが癌性腹膜炎のため根治手術は不可能と判断し両付属器切除のみ施行した。術後卵巣癌に対してpaclitaxel(PTX)/carboplatin(CBDCA)を用いたT-J 療法を3コース施行したところ胸腹水は消失し重複する直腸癌も著明に縮小した。interval debulkingsurgeryとして単純子宮全摘出術大網切除術低位前方切除術および骨盤内リンパ節郭清術を施行した。術後3コースのT-J 療法を追加した。現在初回治療より3年経過するも再発の兆候なく生存中である。 -
5-Fluorouracil / l -Leucovorin療法が奏効した大腸癌肝転移の2例
31巻4号(2004);View Description Hide Description大腸癌肝転移に5-fluorouracil (5-FU) l-Leucovorin(l-LV)療法を行い奏効した2例を経験した。症例1は40歳男性。直腸癌にて低位前方切除術を行った。術後腹膜播種の増大と肝転移を認め5-FU 600 mg/m??とl-LV 250 mg/m??の化学療法を7クール行った。3クール目に肝転移はPR となり30か月生存中である。症例2は60歳男性。直腸癌肝転移にて低位前方切除術を行った。術後5-FU/l-LV 療法を3クール行い2クール目にCR となり8か月経過した現在もCR である。副作用は外来管理可能の範囲であった。従来肝転移には肝動注化学療法が行われていたが5-FU/l-LV 療法も外来における治療が可能であり肝転移を含めた病巣の効果が認められたことは重要な意義があると思われた。 -
ホルモン低感受性乳癌術後リンパ節再発に対するPaclitaxel Weekly投与の経験
31巻4号(2004);View Description Hide Descriptionホルモン低感受性乳癌術後のリンパ節再発7例に対して初回治療としてpaclitaxel weekly投与を行った。shortpremedicationを行った後に80mg/m2を30分間で投与し3週投与1週休薬を1サイクルにして平均4.9サイクル(3〜6サイクル)行った。結果はCR 5例PR 1例PD 1例で奏効率84%と良好な成績を得た。しかしCR 5例中4例に治療終了後に新たな再発を生じた。副作用としてgrade2の白血球減少を3例にgrade1の末梢神経障害を1例に認めたが重篤な副作用は認めなかった。リンパ節再発乳癌に対してpaclitaxel weekly投与は有効かつ外来でも安全に実施できる治療法の一つであるがその後の再々発を抑えることが課題である。 -
TS-1が著効した下咽頭癌頸部リンパ節再発例
31巻4号(2004);View Description Hide Description症例は47歳男性。右下咽頭癌(T4N0M0)に対して術前40Gy照射後咽喉食摘両頸部郭清遊離空腸による再建を行い経過良好であったが術後6か月後右傍気管部に下咽頭癌頸部リンパ節再発を生じた。これに対して化学放射線療法を施行したが治療に抵抗性であったため60Gy照射後外来でTS-1による化学療法を行ったところ開始後3か月でCRとなり以後約1年間再発を認めていない。このように外来でも投与可能なTS-1は単剤でも有効な抗癌剤であり今後はさらに根治治療後の維持化学療法や再発後の化学療法として放射線治療などと組み合わせて利用されることが期待される。 -
頬粘膜から上顎歯肉,上顎洞へと進展した口腔扁平上皮癌に対しTS-1単独投与によりCRが得られた1例
31巻4号(2004);View Description Hide Description左側頬粘膜部から同側の上顎歯肉上顎洞下外側壁に進展した平上皮癌(T4N0M0)に対しTS-1 の内服治療を施行し完全寛解を得た症例を経験した。症例は89歳の女性重度の痴呆を認めていた。化学療法としてTS-1 50mg/dayの内服投与を4週間投与2週間休薬を1クールとして開始した。治療開始後約4か月で肉眼的に腫瘍は消失した。投与中には嘔吐白血球減少血小板減少などの副作用を認めた。休薬2か月後患者は老衰で死亡したが死亡時点で腫瘍の再発は認めなかった。
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連載講座
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- 【センチネルリンパ節の研究最前線 】
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口腔癌—舌癌のセンチネルリンパ節同定について—
31巻4号(2004);View Description Hide Description頭頸部外科におけるセンチネルリンパ節同定の試みについて当科における現状と関係する国内外の論文をレビューした。わが国における試みはまだ少数ながら頭頸部癌においてもセンチネルノードコンセプトが成り立つと考えられる。今後の研究の蓄積と実地臨床への応用が期待される。
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特別寄稿
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血管新生阻害治療
31巻4号(2004);View Description Hide Description血管新生阻害による癌治療へのアプローチの基礎概念および科学的根拠やその前立腺癌消化器癌肺癌乳癌領域における適用の可能性に関する知見から血管新生阻害を用いたアプローチを臨床治療へと発展させることは困難を極める取り組みであると容易に結論できる。癌の増殖が血管新生因子によって促進され血管新生の阻害により増殖および転移の可能性が抑えられることは今や十分に確立されている。血管新生阻害効果は種々の標的を干渉することによって得られるがこのような新規癌治療法の開発を進めるためにはトランスレーショナルリサーチの広範な発展が必要である。ただし新治療法を臨床の場に応用するには従来の治療法の場合と同様厳密な基準を適用する必要がある。血管新生は前立腺癌胃癌肺癌乳癌の増殖において決定的な要素であると考えられる。これらの癌では新たな血管新生阻害治療法の開発が今後非常に重要となるであろう。その臨床開発が成功するには血管機能への影響を評価する際に用いる画像診断技術の発展が絶対必要条件でありそのような血管新生阻害効果のsurrogate markerが化合物の分子構造や用量の最適化にとって必須と考えられる。 -
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Journal Club
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用語解説
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SRC遺伝子、シグナル伝達、In Silico Screening、アポトーシス、ミニ移植、腫瘍ワクチン療法
31巻4号(2004);View Description Hide Description
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